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………この寮には、料理上手の男が多いのかな?
[マコトの手際の良さに妙な具合に感心しつつ、隅に置かれた防具と、竹刀とは思えない長物に視線を走らせる]
[靴を下駄箱に放り込んで、明かりのついた食堂へ歩み寄る。
顔だけで中の様子見、とばかりに覗き込んで。
中に揃う人物の組み合わせに、再び瞬いた。]
……各務に、天野じゃん。
[各務に至っては胴着のまま何してんの、と
パーカーのポケットに手を突っ込んで、食堂へ踏み入れる。
ポケットの中に突っ込んだラップゴミに気付いて、
取り出し、投げ遊ぶように上へと放り投げながら]
[階段を上る。
屋上の扉の鍵は壊れていた。
屋上に出る。月が照らしていた。
端まで歩き、手すりに肘を乗せ上半身を預けて笑顔を作った。]
……ちゃんと見ててあげる。
さて、どうしよう。
[軽く首を傾げて呟いて]
寮には……
[何となく歩き出したその視線の先で寮に向かっている姿。
それは桜の樹の下で見かけたもう一人の司]
……他に、いないかな。
[寮とは逆の方へと踵を返す]
……なんというか……すごい。
[ぽつり、感想を漏らしつつ、てきぱき動き回る。
炊飯器は一度切って、探し出した蒸し器を使って蒸し上げる方向で米の起死回生?をはかり。
人参、牛蒡、油揚げをごま油で炒め、砂糖と醤油で甘辛く味付けしたものと合わせて即興混ぜご飯に。
汁物の方は、備蓄と相談して澄まし汁に仕上げておいた。
あとは、見つけた青菜が傷む前に、とお浸しにして]
……とりあえず、こんなとこ、か。
さて、と……。
出られないことは確定。
じゃぁ、出る方法はあるのかしらね?
[校舎に背を預け、腕組みをしたまま空を見やれば、茜から闇へと色を変えていく最中で。ふいに、何時だか図書館で借りた本に記されていた言葉を思い出す。]
"夕暮れの薄闇が下りてくる黄昏の頃には、災いや魔物がこの世に現れる"、だったっけ……。
……戻ろうか。
一人よりも、複数でいる方がまだ安全よね……きっと。
[とっさに思いついた範囲のものを仕上げた所で、聞こえた声にそちらを振り返る。
見やった先には、クラスメートの姿があり]
や、アズマくん……。
[声をかけた瞬間。
何か、感じた気がして一つ、瞬いた]
[ベランダの手すりに肘をつき、手すりの上に垂直に立てた腕、手のうえに細い顎を乗せ、たとえば牧原モモだとか日月マイコに対してごく稀に見せた事しかないような優しげな頬笑み。]
[落ちてきたラップを片手で受け止めようとして。
返って来る相手の声に、予期せぬ感覚。]
…、…わ。っと。
[僅かに驚いて、瞬いた瞬間に受け損ね。
掌に弾かれたラップの塊は床を転がった。
何時もなら難無く受け取れるはずだろう事と
さっき感じたソレに、緩く首を傾げながら拾い上げる]
…よーす。飯作ってるの?
だったらせめて、着替えてこりゃいーのに。
[まさか急を要する状況だったとは思わない。
何で胴着なの、と相手の格好へ視線を向けて問い]
[じっとりと纏わりつく粘性の空気の中で呟く。]
しかし、司どもは仕掛けて来もしない。
まあいきなり向かって来られないのは
こちらとしては
楽が出来るだけ有り難いところだが
全く
緩い奴らだ。
だが
一体いつまでそうしていられるものかなァ……?
それともまさか黙って喰われてくれる
つもりかい。
[暫くの間、そのまま立ち尽くしていたが
仔犬が吼える声で我に返り、頭に乗せると、
放置したままだったビニール袋を拾い上げ建物を出た。
わざと桜の見え辛い裏庭の方へと迂回して、寮を目指す。
たとえ他に向かう人影があったとしても、目にも留めずに。
辿り着くと、聊か乱暴に、玄関の扉を開ける。
風の影響もあったか、やけに大きな音がした。
以前なら、寮母に叱られていたことだろう。
それも気にせず、大股に歩いて給湯室にまで踏み入った]
−体育館→寮−
[それから適当に人気のない校舎内を回るうち、気付けば外は既に暗く。]
……戻るか…
飯は、食わないと。
[呟いた刹那、其処は1年生の教室の前。
友梨の亡骸を抱き抱え、かけた自分の言葉が思い出された。灰色に濁り、何も映さない瞳。
あれから心の何処かが凍り付いてしまったことに、洋亮は未だ気付いて居ない。昨日も今日も、笑顔だけは何時もと同じつもりだった。]
[今、感じた感覚はなんだったのかと。
戸惑いながらも、少なくとも、それは違和や不快を伴うものではなく。
逆に、それが戸惑いを呼んだ]
ああ、うん。
稽古して、そのまま来ちゃったからねー。
……や、なんかこう……虫の知らせ? みたいなものがあって。
急いだ方がいいかな……とか。
[大概酷い物言いかも知れない]
無謀はしない。
そうすればいつか司も食べられる。
そうしたら音色にも追いつけるかな。
音色といっしょになれるかな。
[そんなことを呟きながら。
人の気配を探して動く]
…………虫の知らせ?
[マコトの言葉が、自分の料理への危機感を差しているとは、まるで気付かず。眉を寄せる]
……今夜も何か起こる、とか?
……、まーいっか。
稽古って、剣道だっけ?
[数秒、相手をじぃ、と見眺めるものの考えても判りそうに無く。
気のせいかと、当人は早々に気にしないことに決めたらしい。
一言脈絡無く呟いて、早々に話題を切り替える。
ラップの塊を、壁際に置いてあるゴミ箱へシュートを真似て放り投げる。
淵に一回当たって、ゴミ箱へ収まるラップに、小さく握り拳を作って]
……虫の知らせって、飯に?
[初めて聞いた、と思わず眉を寄せながら首を傾げる。
つーか飯作れたんだな、とちらり思いながらそこは黙っておく。
全く作れない自分がいう事では無いし、作って貰えるだけでも有難い]
[ぐるり、校舎伝いを足早に歩いていけばやがて薄紅の下へと辿り着く。]
[ここからなら、寮からも見えるし、走ればすぐに戻れる。そんな安心感からだろうか、足を止め、幹に背を預けるように座り込んだ。]
あぁ……そういえば。
この桜が植えられた経緯とか調べられないのかな?
[図書館で調べれば何かヒントが見つかるかも知れない、明日行こう、なんて考えながら見上げれば、視界はすべて薄紅に覆われて]
あの子……おうかだったっけ。桜の花と書くのかな?
―→桜の樹の下―
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