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―回想・二階個室―
[差し出された手も振り切って、ただ部屋へと逃げた。
そう、逃げた。
逃げたら後悔するだけだと、分かっているはずなのに]
…俺は、殺せる。
一度選んでしまったから。
[床に座り込み、投げ出された右手を見る]
どうせ俺は。
必要の無くなった存在――。
[ゆるくまとわりつく狂気。
悲しみがいつしか変化してしまったもの]
―朝―
[全てを封じ込めるようにして、左手を動かす。
右手は添えるだけ。それ以上の力はこれには必要ない]
『 Zum Himmel der Hoffnung, flattern. 』
[蓋の裏に刻まれた言葉。
遠い日、自分に贈られたのと同じ――]
…俺のようにならないで。
[呟き、袋に仕舞うと、窓を開けた。
右手で小箱の中身を出そうとして、止める。
殺気立った自衛団員達が慌しく動いていた]
…どうしたんだ。
[ポケットに箱を仕舞い、窓を閉めた。
何が起きたのかを知るために、階下へと降りてゆく]
[階段を下りたところで、複数の団員が中へと入ってきた。
殺気を直接向けながら、広間へと促される]
ああ。
[追い立てられるように入った広間には消耗しているような同居人の姿。予想が一つ頭を過ぎる。
それは外れなかった。ただ該当者となったのが]
……大じい。
[呟いただけでも睨まれた。ゆるく首を振る。
そして宣告されたのは、それこそ予想通りのもの]
俺達で始末、ね。
確かに横暴なんだけど。
それが出来なければ原因全てを、とかいうんだろ?
[揶揄するような口調となった言葉に、父親となったばかりの団員が激昂して拳を振るってきた。
避ける間もなく、派手な音を立てて床に転がる。
慌てて周囲が止めてくれたため、続けての衝撃は無かったが]
確認しただけじゃないか。
覚悟くらい決めさせてくれてもいいだろ。
[起き上がり、唇の端を拭いながら淡々と答える。
口の中に広がる錆の味。
それ以上は余計なことを言わず、ただ翠を翳らせたまま彼らが出て行くまで*座っていた*]
[自警団員と集会場のメンバーの、殺気立ったやり取りが一段落した頃]
…私たち、殺されちゃうの?
[広間の誰に問うでもなく、ぽつりとこぼした。]
─今朝─
[いつ眠ったのかは分からないが]
[目覚めたのはまだ日が昇り始めた早朝だった]
[昨夜運んでもらった料理の後片付けのために食器を持ち階下に降りて]
[厨房に入り流しに食器を置いたところで異変に気付く]
…騒がしいな。
[複数の男の声]
[集会場の裏手から聞こえる]
[食器を流しに置いたまま、声のする方へと足を向けた]
─集会場・裏手─
[辿り着いた先には複数の自衛団員の姿]
[そして先客の黒い服を着た青年]
[彼らのやり取りから聞こえたのは]
…自衛団長が、死んだ──?
[ライヒアルトが自衛団員により集会場内へ戻されようとする傍をすり抜け]
[団長の遺体がある場所へと歩を進める]
[案の定、他の自衛団員に止められるのであるが]
どうやって死んだのか、それを見たい。
貴様らよりは検死の知識はある。
触りはしない。
警戒するなら見張っていれば良い。
[真紅の瞳で半ば睨みつけるように自衛団員達を見る]
[怯む自衛団員から視線を遺体へと向け]
[その傍にしゃがみ込んだ]
……氷柱……?
けど、事故にしては……。
[それは異様とも言える光景だった]
[自衛団長の身体を貫いていたのは氷の牙]
[しかも複数本、急所を的確に貫いているのである]
[集会場の屋根を見上げれば氷柱の折れた跡]
[偶然落ちてきたようにも見えるが、これは──]
…あり得ない。
ただ氷柱が落ちてきただけで、こうはならない。
何より、深く突き刺さりすぎてる──。
[人の為し得る手段でありながら、人の為し得る手腕ではない]
[人でありながら、人ではない力を持つ者]
[空気の冷えとは別に、背筋がゾッとするのを感じた]
[検死の結果は偽りなく自衛団員へと報告する]
[その報告の最中でも、彼らのゼルギウスを見る目は異様だった]
[疑われているな、そう胸中で呟く]
「報告内容を完全に信じるわけではないが、我々も貴様と同意見だ。
貴様はもう中に入れ。後は我々が行う」
[そう一方的に宣言され、強引に集会場の中へと連れ込まれた]
[抗いはしなかった]
[遺体を見たことで、半信半疑だったものが確信へと変わったのだから──]
─広間─
[集会場へと戻って足を向けたのは広間]
[そこではライヒアルトが既に暖炉に火を入れていて]
[何も言わず少し離れた場所のソファーに身を沈め、額に手をあてた]
[その後、自衛団からの通達が来るまで]
[ソファーで瞳を閉じたまま、静かに思考を*巡らせた*]
[早朝、目が覚め気分がうわだつ、
なんとなしに、自室をでて集会場の中を歩きまわる。
早朝らしからぬ慌ただしさが集会場内に満ちており、自然、腰に手がいき]
ああ、そうか…、
[呟き、どこかものたりなさとおちつかない感じを受け、足が向かった先は物置。
すでに周囲の慌ただしさは気にならなくなっており、中に入る]
これで、いいか。
[木刀を見つけるとそれを手にし、笑みをこぼし]
こんなものでも、ないよりはなぁ。
― 集会所二階・個室 ―
……中途半端だ。
[信じるのも、疑うのも、何もかも。
目覚めてすぐ吐き出されたのは、苛立ちを含んだ台詞。
神へと捧ぐ言葉は祈りというより、救いを、赦しを請うようだった。朱い花は絡め取らんとばかりに、徐々に、その手を伸ばしている。
包帯を幾重にも巻く。黒い袖を引く。手袋を嵌める。
じくじくと、急かすような痛みがあった。]
[外の喧騒に気付いたのは、日課を終えてから。
窓を開く。
飛び込んでくる音。
一人の名が、盛んに叫ばれていた]
…ギュンター、さん?
[口の中で、音を繰り返す。
身を翻し、窓は開け放しのまま、階下へと向かった]
― 集会所一階・広間 ―
[そこには既に幾人かがおり、間もなく通達が為された。
エーリッヒが殴られるのを見、止めさせようと、ウェンデルは声をあげた、はずだ。しかし、心は遠く、そこにはない]
………起きて、しまった。
いや、…既にわかっていたこと、か。
[自衛団員が出ていった後、窓辺に寄る。
所々地面が露になった雪景色は、無残だ]
…神よ。申し訳ありません。
この世を去りし魂に、永遠の安息を。
彷徨うことなく、主の御許にゆかれますよう。
そして。
[何かを疑わなければならないのなら。
何かを信じるべきなのであれば。
どうすれば善いかなど、決まっていた]
………その御心に、感謝致します。
[次いだ言葉は、この場においては異質だった。
*痛みは、ない*]
[後ろに感じた気配に振り向き]
おはよう、朝早くから仕事熱心だな。
自衛団っていうのも大変だな。
特に団長なんか一番の嫌われ役なんかして。
まぁ、一番なにか起きたときには危険な立場にたったのはこっちとしてはありがたいがな。
[声をかけられた人物達は驚いた様子を見せてから、
団長の話がでれば感情の入り交じった複雑な表情。
団員がの一人が声をかけてくる]
「そっちこそ、こんな時間になにをしている。
そんなもの持ち出して」
[肩をすくめて]
そっちが俺の商売道具持っていったからな、
代わりだよ代わり。
[こちらの様子に3人その場でひそひそと相談をしはじめる]
「おい、どうする?」
「…………凶器に………………間違いも…………」
「いっそ…………全員…………それで………………」
[断片的に聞こえる声
それだけでも大体の内容は察しがつき、唇の端にかすかな笑みがこぼれる。]
たいした自衛団だな…。
[呟いた声は相手に届くことなく、
結論がでたのか先ほど話しかけてきた一人が]
「わかった、好きに持っていけ。
護身の足しくらいにはなるだろう。
早まった真似はするなよ。
あんなことがあった後だしな」
あんなこと?
「なんだ、知らないのか?」
─ 一階・広間─
……家主殿。
[自衛団員に殴られた様子に、一つ、息を吐く]
わざわざ、殴られ損をせんでもよかろうに。
[口調は、呆れたような、疲れたような、そんな響きを帯びて。
それからふと、窓辺に寄るウェンデルに気づく。
唱えられる祈り。
それが、思い起こさせるものは]
……御丁寧に……と、言うべきか。
[小さな呟き。
猫がゆらり、と尻尾を振った]
ライヒアルトさんは、
[不意に『祈り』は止まり、名を呼んだ相手に視線が止まる]
…人狼に遭ったことが、おありなんですよね。
そのときは、――どうでしたか。
[無遠慮な問い。]
「団長が…死んだ……、いや、殺された。
人による手口とは思えない方法でな。」
そうか…、今朝から慌ただしいわけだな。
「たいして驚かないんだな。」
[不審そうにする団員に肩をすくめて]
言っただろう、何かあれば一番危険だって。
ことが起こる場所としては妥当なところだ。
「身近なところで人が殺されたんだぞ!
それにあんたこの村の出身者なんだろう?なにもおもうことはないのか?」
[食って掛かってきた団員に鬱陶しそうに]
落ち込んだり慌てたりすれば解決するわけでもあるまい。
俺はもういくぞ、詳しい話は他のやつにでも聞くさ。
[最後はおどけた素振りを見せながらも、言葉とまとう雰囲気には有無を言わせるつもりはない凄味をまぜる。
怯んだ団員達はおとなしくなり、
団員たちのさまざまな感情の混じった視線を受けながらその場を後にした]
……その時は、というのは。
[問いかけに、瞬き一つ]
結果から言うならば、人狼を退ける事に成功した。
……もっとも。
生き延びたのは、俺を含めて三人ほどだったがな。
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