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……。
[少女はうつむき、嫌な未来を拒否するかのように、呟く]
……ヤだ。
[小さいながらも、しっかりとしたその響き]
ライヒアルトがいなくなるなんて、ヤだ。
[それは、はっきりとした拒絶の言葉]
失いたくないもん……ライヒアルトは、私の道しるべなんだもん……だから、絶対にヤだ!
[涙目になりながらも、最後には大きく叫んだ]
─宿屋─
だから。そうやって自分だけで何もかもしようとするな。
こんな時くらい、少しはこうやって…寄りかかれ。
[身体を支えていれば、小さな震えでも感じられてしまう。
暫し躊躇い、溜息をつくと寄りかからせるよに腕を回した]
嫌になったら振り払っていいから。
変わってやることはできないしな。
……探さなきゃ。
[叫んだ次の瞬間、少女はそこから踵を返し、走り出す]
ライヒアルトを、探さなきゃ!!
[さて、寝ぼけまなこで聞いていた頭で、ライヒアルトが何処に向かうかを覚えていただろうか?]
あたくしに、できること。
生きのびていく以外に、あるのかしら?
[鞄のなかからノートをとりだし、さきほどのことを書き記す]
にくきものは、ころす。
それが、ひと、というもの。
[翳りを帯びたこえが、静謐の森におちる。
それもまた、ひとつのものがたりをそらんじるもの]
きょうのあれで、にくしみがうまれていたなら。
疑わしいだけでころされちゃうのねぇ…きっと。
だから、その前にえらばなくちゃ。
[深い溜息をついたなら、立ち上がった]
他、ですか。
[相手の翳る表情を、碧の眸に映しながら、
少し考え込むように、顎に手を当て]
嗚呼、クロエさんが第一発見者で。
話を聴くと、どうも、霊能者のようですね。
ご気分が悪そうでしたので、フーゴーさんの所に運びました。
[云わないことで他に犠牲になったものは無いと示し、
やはり、過程を述べず結論だけを、相手に伝えた。
――まるでそれは重要なことではない、
ともとれるような、淡々とした口調で。]
クロエ、が?
[もう起きて大丈夫なのか、と聞こうとして、霊能者という耳慣れない言葉に瞬きを一つして。
ライが不必要なことは言わない性質なのは知っている為、殺されたのは団長だけだと察し、それでも人が死んでいる事実に、胸を痛めて。
元々この幼馴染は動植物以外にあまり興味を抱かない、のだが。]
………ライ?
[あまりに淡々とした様子に、ふと、名を呼んだ。]
─宿屋─
ふぇ?
寄りかかれ、て……。
[向けられた言葉の意を測りかね、伏していた目を上げるのと。
腕が回されたのは、どちらが先だったか]
……て、あ、え……と。
[思考が一瞬止まって、それから]
………………ずるい、よ。
[俯いて、ぽつり、と零したのはそれだけ聞くとなんの脈絡もない言葉。
それでも、拒絶するよな様子はなく。
……傍観者状態のぶち猫はと言えば、呆れたように明後日の方を向き、顔を洗う仕種をしていたりするのだが]
[どうやって、えらべばいいのか。
えらんだのなら、どうすべきか。
成すことはわかっても、成し方はわからないまま。
まずは、知ることが必要だろうかと、宿へと向かう。
そこになら、「容疑者」の誰かはいるだろうと]
―→宿屋―
[出入り口で、そのひとりをみつけ、足を留める]
……おじさま。
[死体の傍に立っていたひと。
そういえば、第一発見者だったのだろうかと首をかしげる]
─宿屋外・出入口傍─
[ぷかぷかとパイプから煙が上がる。不安定な雲行きを見上げる。暗雲はこの先を暗示するかのようにどんよりとしていた]
……おぅ、いらっしゃいルーミィ。
[かけられる声にその存在にようやく気付き、視線を前へと向けた。パイプを持たぬ手を上げ、挨拶とする]
……。
[必死に走っていると、また1度こけた。
だけど、そんなこと気にしない。気にも留めていない。
今はただ、ライヒアルトの元へ急がなくちゃ。
ライヒアルトが、先程の物体に変わっちゃう前に]
……。
[少女は走る。必死に走る。
どこだっけ?
ライヒアルトはどこに行くって言っていたっけ?
例え、記憶が無くたって、大事なものだけは忘れたくない。これは大事なものだ。だから……]
……そうだ!海!
[急な方向転換で、また1度こけたが、それでも、少女は走り続けた]
…――なんですか?
[名を呼ばれて、ハタハタと揺れる瞼。
そして相手の表情から、おそらく何を思ったのか伺い知れて、
2mmほど、唇の端が上がる。
――そこに自虐的な笑みが浮かぶ。]
こういう時、私はどう反応していいのか、
…――良く、分かりません。
[大学時代、息子に会いに来るついでに行商をしていた両親が、
物取りに襲われて死んだ時も、涙ひとつ流せずにいて。
随分奇異の目で見られたと、幼馴染には話したことがあっただろうか。]
けれど、それが私です…――。
───港───
……!!
[そして、少女は見つけた。
少女にとって、今、此処にいるべき意味を]
───ライヒアルト!!
[はあはあと息を荒げながらも、少女はライヒアルトとヴィリーが話しているそばへと駆け寄った]
……良かった。
まだ、いなくなっていないんだね。
[体が息を欲して苦しいけど、それでも、少女は笑った]
―詰所近く―
[少女が現れ、また去っていったのは、学者が来る以前だったか、それより後だったか。
その言葉は聞こえていたかいなかったか、男はただ黙って見遣るのみだった]
……猶予は一日、だったか。
[呟き、煙草を地面に落とす。
弔い代わりの灯を揉み消してから、踵を返して歩き出した。
途中一度、懐に手を触れ]
―宿屋―
何がだよ。
[ずるいと言われ首を傾げる。
ぶち猫から更に呆れたよな鳴き声が上がったかもしれない]
お袋も俺も、好き放題しかしてこなかったからな。
まあ、使える時は使っとけ。
[暫くそうしていてから再び歩き出し、部屋の扉を開けた]
………あぁ。
お前は、お前だったな。
[幼馴染が、珍しく無理に表情を作るのをみて。
自分の言葉がそれをさせてしまったことを後悔しながらも、ここで謝るのは、余計に重荷になると思い、ただ、彼を肯定することで謝罪の代わりとして。]
[そこに、小さな少女の声が飛んできて]
…リディ。
[どことなくほっとしたのは、幼馴染を慕う様子が嬉しかったからか。]
[どこに行くとも決めずに歩く。
考えることは山ほどあっても、明確な答えなど出せるはずもなかった。]
――頭いたい……
[はぁ、と吐息を零し。
広場の中ほどで足を止める。
遺体が発見された現場に向かうことはせず、かといって直にクロエのところに向かった所で、告げる言葉などなにもないのだ。]
……誰かを疑わなきゃいけないなんて……
[幼馴染みの肯定の言葉に、無理に上げていた唇の端は落ちる。
無表情の中に、どこか安堵の色を見せ、
自身を呼ぶ声の方角に視線を向けた。]
リディさん、どうしましたか?
そんなに息を荒げて。
[常に戻った学者は、淡々と少女に問いかけた。]
―宿屋前―
[上げられた手に、わずかにうなずくのがあいさつの代わり]
ねぇ…、きいてもいいかしらぁ?
[さきほどまでとは逆の方向に首をかしげて]
今日、団長さんをさいしょにみつけたのって、おじさま?
――……、団長さんがいなくなったからって、あの話が立ちきえるかはわからないから…。
いろいろ、知りたいと思うのよぅ。
[疑いもするが、それとどうじに信頼もしている。
そんな態度をあらわした]
……ライヒアルト。
私は、ライヒアルトが憎い。とっても、憎い。
だけど。
ライヒアルトは、私の大事な道しるべ。そして多分、すごく大事な人。
記憶が戻らなくても、それだけは覚えているんだ。
だから。
絶対に、勝手にいなくならないで。
その為のおまじないを……私がするから。
[そう言った少女が、目を閉じて、その手を胸の前で合わせる]
[───そこに現れるのは、白い光]
[それは、少女が此処にいることが出来る奇跡の証なのだろうか]
[儚く綺麗に輝くその光は、その手に移り]
[それを、ライヒアルトに差し出すと、光はライヒアルトの体に吸い込まれるように消えた]
───ライヒアルトは、私が、守るんだ。
─宿屋─
……教えない。
[首を傾げながらの言葉に、返したのはこんな呟き。
教えない、というよりは、説明できない、という方が正しいのだけれど。
ぶち猫はと言えば、呆れたように鳴いた後、くぁ、と欠伸と毛づくろい。
使える時は、という言葉には、何も返さず。
言葉の代わりか、少し強くしがみつくよにしていたけれど]
あ、そだ。
かあさん……どうして、た?
[部屋に戻ったところで、ふと思い出して問うのは、母のこと。
気が静まってきた事で、やはりそちらは気にかかってしまって]
[一度教会へ戻り。
子供たちを呼び集め、彼らだけで留守を守るように告げた]
困ったコトがあったら、近所の人を呼びに行け。
お前らだってもうでけぇんだ、それくらいできるよな?
[キャル以外の子供はまだ何処か不安そうな顔も見せたものの、言葉にはそれぞれに頷いてみせた。
それを確かめ、一人一人頭を撫でてから、男は教会を後にする]
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