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[少し、口元をゆがめて][微笑みは象れず]
それでも、痛くしたくないんです
[そっと][頬に口付けて]
[指先が][鋭い爪が][ぷつり、と][青い色を][散らそうと]
……お前、どこまで行っても、お人好しだな……?
[軽口めいた口調で言いつつ。
蒼の花に爪が食い込む感触。
それが伴う衝撃に、苦しげな声が上がるのは避けられなくて。
それでも。
『解放される』。
その感覚はよろこびでもあって]
―二階・自室―
[寝顔を見つめながらぼんやりしていたようで]
[声が聞こえたようで、ブリジットに目を向ける]
[幸せそうな微笑に、そっと微笑を返して]
おはよう、ブリジット。
─二階・エルザの部屋─
[こくんと頷くようにして]
おはよ…う……
[掛け布団を口元まで持っていき、]
[もしかしたら、これは照れているのかもしれなかったが、詳しくは分からない]
[苦しそうな声][狼の本能が現れる][その状態では]
[自分の衝動を煽ることにしかならなくて]
[それも][わずか含まれる色が]
――ごめんなさい
[小さくささやいて]
[指先を][どかして]
[そこに口唇を押し当てる]
[舐めるように][舌を這わせて]
[鋭い犬歯で][皮を][肉を][裂いて]
―→集会場内・居間―
[厨房を抜け、居間に出る。
蟠る血臭はまだ其処にある筈だけど。
もう鼻が慣れたのか…麻痺したのか、感じなかった]
[壁にかけられたボードが目に入って。
何となく、足を向ける]
[貼られた身上書の、名前をなぞる]
[エーリッヒ、イレーネ、オトフリート、ハインリヒ、ブリジット、エルザ。彼らは昨日見た]
[ザムエルはさっき埋葬した]
[ベアトリーチェももう居ない]
…アーベルは?
[そういえば、シャツを貸して。
着替えると言って二階に上がってから…見ていない]
あや……まる……な、よ……。
[途切れ途切れ。
言葉を、綴る]
俺が……望んだ、こと……だ。
[蒼の花からの解放はずっと望んでいたこと。
だから。
そのためなら。
引き裂かれる痛みも受け入れられると。
切れ切れに告げながら。
左手が動いて、幼馴染の頭を撫でた]
[そっと顔を隠そうとする様子に、そっと髪をなでて微笑む]
どうしたの?
あ、もしかしたらお腹が空いているのかしら?
[優しくブリジットに問いかけて]
[頭を撫でられる][その声を聞く]
[それでも口を離さずに]
[彼に][痛みを与え続けているだろう][蒼い花を]
[食いちぎった]
[引き裂かれる、感触。
これまでとは質の異なる激痛。
叫びそうになった。
けれど。
それを聞きつけた誰かが来るのは嫌で。
声を、必死で押さえ込もうとする。
蒼があった場所から、紅が溢れる。
あかく、あかく。
白いシーツが紅に染まって、花弁を開く]
─二階・エルザの部屋─
[そういえばお腹は空いていたけれど]
[表情を隠すように鼻先まで引っ張りあげて]
[けれど]
エルザ…エルザ、ここ、出よう…?
[主語は、集会場…なのだろうか?]
[怯えていたように見えた、彼の様子を思い出す]
[部屋に篭って一人怯えているのだろうか?
それとも、すでに――]
[そういえば、あの日。
スノーマンの傍に誰かの影を見なかったか?
どうしてあの時、確認しなかった?]
[あれが、アーベルだったの、なら]
[ずる、と壁に手をついたままで蹲る]
[痛みなどない。
けれど。けれど]
[蒼い花を食らう][無理やりに喉に下して]
[零れる赤を、少しでも抑えようとか]
[獣のように][――否、獣なのか]
[零れるあまいあまいいのちを、舐める]
[やさしく]
[いとおしそうに]
[小さな声で告げられた言葉に、少し首を傾げる]
ここを?
[部屋を、では無いと思う]
[では、何処から?]
ここ、って、この集会場を?
それとも……
[どこか、遠くへ]
[ブリジットが、ここに居ては、危険]
[何故だかそう思って]
─二階・エルザの部屋─
わたし達……呼ばれた……
でも、もう…呼んだひとたちいない……
……エルザと一緒…
……一緒…
[遠い遠い場所で冷たい風を切り裂く鉄の音が聞こえたような気がしたけれど、もしかしたら風の声かもしれない]
[『あおが、きえた』
そんな考えが、ふと過ぎる。
解放。
望み。
叶えられた安堵]
……………。
[伝えようとした言葉は、音を結ばない。
病魔を抱え、衰弱を重ねていた身に、今の衝撃は余りにも大きすぎて。
声が、出せない、から。
まだ動く左手で、そっと、頭を撫でて]
[舐めても舐めてもあふれてくるあまい血]
[涙が頬を伝うだろうか]
[それでも][頭を撫でる弱い手に]
[微笑が浮かんで][消えて]
[そのあまい液体をあきらめて]
[そっと首筋に][顔をうずめて]
[やさしく、口付ける]
[甘く]
[別れを惜しむように]
エーリッヒ……ごめんなさい
[そして、口唇を、赤い、血の色の唇で、]
[そっと][ふさいだ]
…呼ばれた?
[誰に、なんと呼ばれていたのか想像はできたけれど]
[それでも手を離すことなど出来なくて]
えぇ、ずっと…ずっと一緒よ?
一緒に行きましょう…遠くへ…
[一緒に居れば守れるかも知れない]
[誰を? 誰から?]
[自分にはわからなかったけれど]
[なんで謝るんだよ、と。
声に出して問う事はできなかった。
声が出ないから。
そして、唇が塞がれたから。
伝わるのは、自分の血の味なのだと、ぼんやりした意識が認識する。
それでも。
それが不快かと言うとそんな事はなくて。
心地良さすら、今は、感じられた]
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