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[窓辺に寄って、月を見上げる。
ふと、思い出したのは、幼い頃の事]
……お月様は、手に入らないもの、か。
結局、みんな。
何がほしかったんだろ、な……。
わかんないや。
[小さく呟く。一番わからないのは、自分だけれど]
まあ、わかったところで。
ボクには、遠い世界のこと、かな。
[くすり、と笑んで。
それからふわり、踵を返す。
不協和音を紡いでしまったところから、音を織り成し直し。
それから、最後の一音を紡いで。
そっと、鍵盤に蓋を]
-1階廊下-
[ふと止まったピアノの旋律に、音楽室の扉を見る。
時おり屋敷の中で聞こえるこの音は、そう言えば誰が紡いでいるのだろう?
生存者を確かめたくて、そっと覗けばそこには、死者の世界を見る少女。]
[如何して、彼のことを忘れていたのか。
あの怪我人への疑いが、かの青年への疑念を妨げていたとしか思えず]
――牧師様、は…
[金髪の少女の言葉に、確信を抱く。
人狼は、――
秘めた刃に、服の上から触れる]
[ 広い廊下を歩めば、階段を降りて来る赤髪の――昨晩、彼が喰い損ねた少女に気付く。其れを見留めれば警戒にか一瞬眉が顰められたが、彼女は此方には気付いていないらしく、音楽室の方へと歩みを進めていく。其れを見送って、]
……ん?
[ふ、と。
ピアノから視線を上げれば、そこには赤毛の少女の姿があり]
やあ。
どうしたの?
[小首を傾げて問う姿には、一見すると、異変らしきものは見られなくて]
[少女は、ネリーの声にすっと顔を上げて――]
こんばんは、ネリーさん…。
牧師様は――
[一瞬視線を床に落として――]
人狼の手によって…殺されました――
[淡々とした口調で。
しかし――瞼はかすかに震えて――]
[ぽたり――]
[『聖書』に落ちて――]
[変わらない少女の姿に、少しだけ安堵を覚える。]
あなたもまだ、生きていたのね。
[そう言えば、彼女と仲の良さそうだった青年はどうしているだろう。
彼もまだ、生きているのだろうか。
生者の数を頭の仲でゆびおり数える。]
そうだね、生きてる。
どうして生きてるのかは、わかんないけれど。
[赤毛の少女の内心を知ってか知らずか。
くすり、と楽しげに笑んで]
[ 観音開きの扉が軋んだ音を立てれば、其の先に広がるのは先日迄と殆ど変わらぬ光景。大きなテーブル、落ち着いた色合いの空間、古惚けた調度品。そして掛けられた絵画。吊りランプが世界を闇より浮き上がらせる。パチ、と薪の爆ぜる音。異なるのは、……鈍い緋色の染み込んだ床。]
今晩和。
[ 室内に居る二人の少女に軽く頭を下げ、顔を上げれば其処に在るのは普段通りの――此の場においては異質な程に、穏やかな少し困った様な笑顔。]
……やはり。
[目を伏せる。
牧師とあれ程親しくしていた少女。どんなにか辛いものだろうか、と。
けれどそれ以上、かける言葉は見当たらずに。
少女が人狼で、彼を殺した――その可能性もなくはなかったけれど]
こんばんは。
[青年に、何時もと変わらぬような微笑を浮かべて返す]
――お怪我は、ありませんでしたか?
[そうして。昨夜赤毛の少女に問うたものと、同じ問いを。
けれどそれは何処か冷ややかな、何かを確かめんとするかのようなもの]
[笑う少女に、微かな違和感。
死を見ることを、あれほど厭うていた彼女の印象からは、その笑いはそぐわない気がして。]
どうして……そうね。
神父さんも死んじゃったのに。
[束の間、何かを考えて眉を寄せるも、部屋に来た目的を思い出す。
彼女なら、この館で誰が死んだかを知っているはずだ。
それを、死者を見ることを恐れていた彼女に聞くのは残酷なことには思えたけど。]
ウェンディを知らない?
[今は死した恋人達の部屋に][もう一度戻る。]
[寝台の上に投げ出された、ナイフ]
[青年の血に塗れた其れを]
[取り上げ][青年の身体を探り鞘を]
[血糊はシーツで軽く拭うことしか出来なかったが]
[今は其れで十分だった。]
[未だ牙の生え揃わぬ彼にとっては。]
ええ、特には。
[ 左手の甲の傷の事は云わずに。どうせ明日には治るのだから。]
……俺に、ですか?
[ ウェンディの声に緩やかに首を傾げて見せれば、一歩中へと歩んで、卓上の花瓶を見遣る。白い花は現在も尚、見る者が居らずとも閑かに咲く。]
[ネリーから返ってきた言葉には――ただ頷くことしかできず…]
[少女は躊躇いがちに『聖書』を弄っていたが、ハーヴェイが入ってきたのに気付いて――]
他の方…解りませんわ…。
何方がご存命か…ハーヴェイさんはご存知で?
[『聖書』を胸に抱かかえながら――問い掛けたのはそんな事で――]
不思議な話だよね。
人でも異形でもない、異能。
……本当なら、もっと早く殺されてても不思議はないのに。
[呟く刹那、わずか瞳は陰り、伏せられたろうか。
しかし、次いで投げられた問いに。
陰りは失せ、変わらぬ表情に戻る]
昨日から、会ってはいないよ。
視てもいないから、どこかにいると思う。
[問いに答える様子は、ごく静かで。
淡々と]
[向けられる緩やかな視線に、少女はきゅっと唇を噛み――]
えぇ、あなたに…。少しお聞きしたいことがあって…。
[ふわりと微笑みながら少女は僅かにハーヴェイとの距離を置いた――]
……然う、ですね。
先程、旋律が聴こえましたから……メイが生きているのは、確かかと。
[ あくまでも、青年の彼が知っている以上の情報は口にしない。]
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