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ヨウコ は村人の手により処刑された……
次の日の朝、 ウミ が無残な姿で発見された。
現在の生存者は、 マイコ、 マコト、 アズマ、 ヒサタカ、 フユ、 ヨウスケ、 ショウの7名。
桜の下のやり取りを、楽しげに見つめていた桜色の瞳。
それが、ゆる、と瞬いて。
「ひとつ、かえった、ちからある子」
零れ落ちたのは、小さな呟き。さわ、と流れた風が薄紅を揺らして。
「ゆれる、ゆれた、たまゆら、かわる。
ゆらゆら、ゆれて、ゆれて、われた」
歌うように呟いて。
瞳が向かうは、校舎の方か。
「ひびきは、かわる。
おもいは、かわる。
ゆらゆら、ゆらら。
ゆらゆら、ゆらら。
まよい、まどうは、ひとのさが。
まどい、まようは、よのならい。
ゆらぎ、ゆく子ら。
ゆくさき、いずこ?」
[不意に、仔犬の耳がピクンと立った。
ショウの腕をすり抜けて地に降り、一目散に校舎へと駆けていく]
リュウ?!
[名を呼ぶも、脚は止まらない。
懐中電灯を拾う間もなく、追って走り出した。
ちらと、顔だけを振り向けて、桜の方角を見やる。
いつの間にか、もう1人、人の姿が増えていた。
月光に照らされるその人物がヨウスケだと視認した瞬間、
あの瞳を思い出して、心臓が跳ね上がった。
追う事に専念しようと、前へと視線を戻す]
[小さな影を見失う事はなく、再び、校内の中へと入る。
覆う薄闇に惑わされず、走る仔犬についていく。
先程も通った職員室の廊下、その奥の階段へと続く付近で
立ち止まった仔犬は、きょろきょろと辺りを見回した後、
窓の外を見上げ、かなしげに、小さく鳴いた。]
………っ、
…リュウ、どうしたんだよ?
[問いかけながら、ショウも足を止めて周囲を見渡す。
微かに散る緋色の雫と、何かが斬りつけたような痕。
千切れ飛んだ青いリボンを見つけて、しゃがみ込んだ。
色からして、1年生の物だろう。
且つ、仔犬が反応を示す人物の心当たりは1つしかなく]
―――…九条?
[呟きに応じるように、仔犬が一声、吼える。
視線を走らせると、赤に濡れた小さな刃が落ちていた。
遠くには、カバーもあって。
躊躇いながらも、それを手にする]
[殺されそうだった、と言ったフユを思い出す。
桜の傍での、マイコやアズマとのやりとりも。
幾つかの出来事から導かれた答えに、唇を噛んだ。
彼女が憑魔だったのか、憑魔に狙われたのか、
或いはもっと別の、人同士の争いなのか。
それは、わからないけれども―――]
…やんなくちゃ、いけないんだ。
[右手にナイフを握ったまま、
左の人差指に貼られた絆創膏に、視線を落とす。
彼女が何を思い手当てをしたのか、*ショウが知る事はない*]
[緋の華に包まれているようだ、と、遠くで思ったかもしれない…綺麗だ、と…]
[しかし、血の匂いの中、人では無いモノと、相手を見定めた精神は、弓を引く手を、些かも迷わせず、迷わぬ心に応じて、鋼の矢が弦を離れる]
[緋の中で見つめる、少女の瞳を、*貫こうと…*]
―桜―
[鈴の音が空気を震わせ、やがてまた静寂が訪れる。
仔犬の後を追って駆け出した少年が、ちらりと振り返るのが見えた。彼の様子は先程から可笑しいけれど、何故だかは知らない。その原因が洋亮自身にあることも。
此方に笑いかけてきた少女に向けて、ゆっくりと歩み寄る。]
――日月さん。
聞けた?
[囁くように尋ねる刹那、感情のない瞳の奥で何かが揺れる。
教えてもらえなかったことを聞けば僅かに落胆の様子を見せ、それからその“モノ”について聞くだろうか。
傍らにもう一人居る少年には目を向けずに、真暗な校舎を*見上げた。*]
[階段を上がる。
感じるのは、焦燥。
時間をかけすぎた、と思う。
先ほどよりも静かになった二階に、嫌な予感は募って]
……?
今の……。
[二階までもう少し、と言う所で聞こえた声に戸惑い、更に足を早めて]
……っ!?
[二階に上がるなり目に入ったもの――決して見たくないと願っていたそれに。
*言葉をなくして、動きを止める*]
[両肘から指先へ向かって撫でるように、両手を滑らせる。手と手が合わさり離れて、今度は両腕を広げていくと
何処から抜き出したものか、ひとふりの白い刀。
大理石を刳り貫きでもして、柄から刃まで継ぎ目無く作られているようで、しかし大理石などよりももっと石灰質の乾いた質感を持った、もし人骨を見たことのある人間ならばそれを連想するような
そんな色をした刀。]
[瞳の中に映り込む矢影は針ほどの大きさから瞬きもしない間に大きくなるがその瞳は光を映さず、それ故揺らぎもせず
強弓より一念、飛来する鋼の矢を一閃。
弾いた矢が校舎の窓ガラスを割る。]
[ヒサタカの後ろから現れた姿に
あくまでゆるやかな動作で目を向ける。]
司、
……か。
[水月海の亡骸の横へ片膝をつき]
護りに、
来たか?
[刀を床に垂直に立て、
その上に片腕を乗せて杖のようにしながら
身を屈め、亡骸の首の下へ腕を差し入れる。]
奪いに来たか?
[片腕でそっと、遺骸を抱き上げた。]
…………それとも殺しに?
……う
[何度か、嗚咽する。
嗚咽も三度目には咳になり、四度目は血を吐いた。]
脳髄は
ものを思うに
[再び血液を吐く。
それは飲み込んだもの]
ものを思うにはあらず
ものを思う は
[咳き込む
掌で口を拭い、目元を拭った。]
ものを思うは、むしろこの身体 か。
[廊下に血痕と、何本かの矢だけを遺して
ふらりと
倒れるように、
窓の外へ首が落ち
大きく後ろに反り
するりと窓枠を超えて
校舎が黒々と影を落とす裏庭の闇の中へ落ちて*行った*。]
[リュウを追い、校舎へと駆けて行くショウの背中を見送って。
この場へと近寄ってくるセンパイの姿に気付きながら、
その場に残された、懐中電灯を無造作に拾い上げる。
一瞬、バチンとプラズマの弾く音と共に、青白い光を放って。
指先に残る僅かな痛みと、掌に収まった電灯を見詰めて
小さく溜息を零した。]
…だっから、痛ぇっつーの…、…
───、…。
[ふと、自らが行使したものに似た力を感覚が捕らえる。
「還された、」と。ポツリ呟いた、直後。
ふ、と。蠢いていた幾つかの気配が消えたのを感じ、
僅か見開いて闇夜に聳える校舎を*見上げた*]
―桜―
[ヨウスケに尋ねられて話したことは又聞きの又聞きに等しいことで、よくわからなかったかもしれなかった]
でもなんだか不思議なことするんですよ、かのうせんぱい
[その声はまるで囁くように小さく、おそらくは対象に届かなかっただろう。]
さすがに、何の力もない私にはむずかしいかなあって、対処を考えてるんですけど
[バトンを放り投げ、片手で受ける。
持ち手をかえて、笑う]
ごはんたべたいし、先、戻りますね
[体力温存。
そう言って、他は気にせず寮に戻る]
─校舎二階・廊下─
…………。
[声を出す事を忘れたような、そんな感覚に囚われていた。
目の前に、広がるいろ。
その源。
それは。
絶対に。
見たくはないと。
そう、思って。
だから。
そのために。
自分は。
思いはその場で空回る]
[矢が弾かれるのも、白い切っ先が自分に向くのも。
見えてはいたけれど。
言葉が投げかけられたのも、聞こえてはいたけれど。
どれもこれも。
とおく。
とおい。
それでも、ウミを抱えたフユが、闇の中に落ちる様子に。
意識は目覚めて]
……また……。
[小さな呟き。
追おうとするように前へと踏み出すものの、足がもつれてその場に膝を突く]
……まもれ……なかっ……た。
[とっさに突いた手で身体を支えつつ。
ぽつり、小さな声で呟く]
なん……で?
[無くしたくなかったのに]
俺は……そのため、に……。
[強くなろうとして]
なの……に。
[なにも護れず、失って、喪って。
なくなってしまう。なくなってしまった。
護りたいと思ったものは]
俺……は。
[身体が震えているのが、妙にはっきりとわかる]
う……あ……。
[震えが止まらない、止める方法がわからない]
くっ……う……わああああああああああっ!!!!!
[震えが導いたのは、絶叫。
迸るその勢いに合わせるように、両手で床を打ち据える。
声に、やり場のない怒りが込められているのは、はっきりと感じ取れるだろうか]
[それでも、やがて声は静まり。
しばし、荒い呼吸だけが周囲に響くか。
その合間に、床に滴り落ちる滴の存在には、気づいていたけれど。
止める術はなくて]
……もう……なんにも……ない。
俺の……まもりたかったもの、は……。
[やがて、紡がれたのは、小さな呟き。
俯くその表情は、他者の目に触れる事はなく]
なんにも……ない……あるのは……。
[『司』としての──異端の力、それだけ。
それだけしかないのなら。
自分は]
……無くすものがない、なら……何も……怖くなんか……ない。
[零れ落ちたのは、どこか軋んだ──でも、今の彼にとっては唯一の真理。
俯いた顔を、ゆっくりと上げる。
瞳にはやや冥い決意の色彩]
俺は……俺の、なすべき事を、やる……。
『司』としての……それが……。
[今、自分がここにいる意味、と。小さく呟いて。
やがて、ゆるりと立ち上がれば、寮へと向かうだろうか。
そこに置き去りにしたもの──身体に最もよく馴染む武具を*手にするために*]
[フユの手に突然現れた、白い刃に、一の矢が成す術も無く弾き飛ばされる。躊躇わず二の矢を番えようとした手が、背後に感じた気配に止まった]
………各務………
[彼を「司」と呼ぶ、フユの声が聞こえた。振り向いて見たマコトの姿は、凍り付いた彫像のようだった]
[ゆっくりと、マコトに語りかけながら、フユが動く。逃げようと…いや、場を移そうとしているのは確かだった。足を止めることなら、出来たかもしれない。だが、そうして、勝てる、とは思えなかった]
…………
[それでも、矢を番え、動かぬマコトの前に立ったまま、弓を引く…フユがマコトを狙うなら、それを止めるつもりで。それだけしか出来ぬと、判っていたから]
[やがて、心臓を喰らわれたウミの身体を抱えたまま、フユの姿が闇に堕ちる…マコトが、動き出しても、弓を引いたまま動かなかった…或いは、動けなかったのか?]
[そして、耳を撃つ絶叫……]
−朝/校内・調理実習室−
[朝日に覚醒を促され、薄らと、目を開く。
堅い床に転がって寝ていたせいで、身体が軋んだ。
保健室のベッドで休もうかとも思ったのだが、
窓が破壊され、内部も荒らされていたため、
言われた通りに絆創膏を取り替え、
(手伝ってくれる人はいなかったが)
2、3、物品を拝借するに留めて後にしたのだった。
その間、校内起きた“何か”に踏み入る事はせず。
誰かの悼みの声に、耳を塞いで―――
ここに逃げ込むようにして、夜を明かした。
内から鍵をしっかりと掛け、子犬を抱いて。]
[気怠さを覚える身体に命じて、流し台に向かう]
『…そういや、外に出られなくても、
電気や水道は通ってるんだな』
[止まってたら、餓死しかねないケド。
呑気な事を考えつつ、蛇口を捻り、熱を流し去って行く。
手を拭こうと荷を漁り、淡い色のハンカチに行き当たった。
飾り気のない、静まり返った水面を思わせる、透明な青。
それは先日、フユから借りたもの。
返す機会を逃したまま、そこにあった]
……。
[仕舞い直して、別のタオルで拭う]
[…室内には熱気が籠っていて、蒸し暑い。
冷房のある部屋にすればよかったと、少し後悔した。
窓を開いた。風が流れ込み、空気が入れ替わる]
『………腹、減った』
[普段と変わる事なく、空腹は訪れた。
流石に、こちらに食材と言えるものはほとんどない。
湯を沸かして、寮から持って来たインスタント食品に注ぐ。
子犬には、準備室から取って来た浅い器に水を入れ、ビスケット。
規定の時間が経過した後、付属の箸を割って食べ始める。
確かに不味くはなかったが、何処か、*味気無かった*]
[朝日が闇を払う頃。
まるで火力の足りない窯で行った火葬のあとのような、幾ばくかの骨を遺すばかりの亡骸は消え失せていた。桜の樹のもとへ誘われたのだろう。
朝露の降りた大地の上でまどろみから醒めたとき、隣に残されていたのは、風に散り忘れたかの如き桜の花びら。
身を起こす。あれほど体中に染み付いていた血も、剥がれ落ちるようにして薄紅となり、舞い落ちて、地面に辿り着く前に消えた。
泥と汗で汚れていた。シャワーを浴びたかった。
寮へ向かう。]
[浴室は利用時間外だったが、咎めるものも居ない。
汚れを洗い流した身体を眺めた。
手首から前腕を撫でる。硬い矢でつけられた傷は既に癒えていた。胸元を撫でる。滑らかな肌があるだけだった。]
[フユは自室に戻った。
生活のあとは残っていたが、当然のように誰も居なかった。
制服は破れていたので、予備のものに着替えた。]
―朝―
[自分のベッドの上で起き上がる。バトンを片手に、もう片手に握るものはなく。
洋服を脱ぎ捨てて、新しい服を選ぶ。
スカートも、パンツも、どちらもあるから悩み。]
ま、これでいっかー
[選んだのは白の、小さな花咲くチュニックワンピース。
腰のあたりをリボンで縛って、レギンスを履いて]
……ごはんどーしよ。あと洗濯も。
[真剣な顔で悩む]
[小さっぱりと身なりを整えて、フユは給湯室へ向かった。
冷蔵庫に誰かの作り置きの麦茶が入って居て、出過ぎのそれは少し苦そうだったがコップに注いで、それを持って食堂へ行った。
フユはひとり、テーブルについて麦茶を飲む。
苦いが、冷たかった。]
うー……
[恥ずかしそうにおなかをおさえて]
フユせんぱい笑うとかひどいですよーっ!
食べます
[でもしっかり頷く。とことこと、彼女の方へ]
だって。
あんまり凄い音したから。
[尚もくすくすと笑いながら、マイコを伴って調理場へ。
少し探すと素麺があった。
鍋に水を張ってコンロに乗せながら]
これで良い?
って言っても、あんまり色々作れないけど。
……その服どうしたの。
アンタがそんな格好してるの見たことない
ひっどい、そこまで笑わなくってもいいじゃないですかー!
[ぷんぷんと怒った顔をして]
うん。食べたいです。
作ってくれるんですかー?
[ものすごく嬉しそうだ。多分しっぽがあったらぶんぶんゆれている。]
あ、服。お義母さんがずっと前に送ってくれててー
なんとなくきてみよっかなーって。
かわいいですかー?
[にっこーっと笑って一度ターン]
[昨夜は、一度寮に戻って、食事を摂った。食べながら、その夕食がマコトの用意したものだったことを思い出し、苦い思いに囚われる。しかし、それも一瞬のこと、一度部屋に戻って仮眠を取ると、早朝に寮を抜け出し、フユに弾き飛ばされた矢を探した]
[マイコが回ると、ワンピースの裾がふわりと広がって小さな花が彼女の周りで踊った。]
うん。
[フユは涌いたお湯に素麺を入れ、暫くしてから水にあげる。
二つの小さな器に盛りつけ、盆に乗せた。
手際だけは良かったが、ただ盛られただけの素麺は見た目がどうも良くは無かった。]
何でいままでそういうの着なかったの?
[盆を持ち、食堂の方へ。]
[ぴたっと止まってポーズ。
そういうのはさすがに慣れたもので。
手際よい動作に、わぁっと感嘆の声をあげる]
え、なんでって。
なんでだったかなぁ
[ちょっと考えて]
オンナノコオンナノコしたくなかったのかもしれませんねー
─昨夜─
[どこかふらつく足取りで寮へと戻り、食堂に置き去りにした荷物を抱え上げる。
食事を取る気には、なれなかった。
喉の奥の方にまだ、血の感触が残っているような気がして。
一度部屋に戻り、着替えを持って、シャワーを浴びに行く。
紅に染まった胴着の下、受けた傷はほぼ癒えていた]
…………。
[僅かな傷跡をつい、と撫でて、絡みついた汗を洗い落として。
部屋に戻った後は、諸々の疲れからか、夢すら見ない眠りに落ちた]
[板についたポージングに頬笑んだ。]
……女の子らしくしてみる気になったんだ。
誰に見せんの。
[少し笑ってからフユは食堂の机に、素麺とつゆの器を並べて座った。一口食べたら茹で過ぎだった。]
―弓道場―
[戸に手をかけて、昨夜から鍵が開けっぱなしだったことに気付くと、苦笑が唇に浮かぶ。尤も、あの状況で鍵をきちんとかけて出ていたら、それはそれで自分に呆れたかもしれなかった]
………
[弓道場に入り、補修道具を引っ張り出す。夜明けの静寂の中、竹を削り矢羽根を付け替える僅かな作業の音が、やけに大きく響くように思えた]
見せる人はもういないですけどねー
我慢しなくていいかなーって思っただけです
[あはっと笑って、自分もその隣に]
いただきまーすっ
[少しゆですぎでやわらかくなりすぎた麺を口にする。
彼が死んでから、そう認識してから、味覚などとうにおかしくなっていた]
[翌朝。光を感じて目を覚まし、着替えようとして。
……選んだのは、何故か剣道着。
昨日のものは自分の血が染み付いて黒く変色していたから、まだ下ろしていない、新しい物に袖を通す]
……ん、よし。
[小さく、呟く。
恐らくは、自己暗示なのだろうが、気が引き締まるような気がした。
そうして、竹刀ではなく、木刀を肩に担いで、足早に寮を出る。
気配は感じていた、けれど。
それよりも、気にかかる事があったから、真っ直ぐに、桜の元へ]
見せたらおわっちゃうような気がしてまして。
ゆめってはかないじゃないですか
[にっこり笑って、素麺を食べる。
量はそこまで多くは無く、皿の上で白が減る]
−校内・2階廊下−
[食事を済ませ、最低限の身支度を整えて
部屋を出ると、2階の廊下へと向かった。
昨夜と打って変わり、校舎の中は静かだった。
床を彩る赤は、予想よりも少なかった。
逝った者のは桜に吸われ、憑魔のものは消え失せ、
残されたのは生ける者の血だけ故とは知らないが。
割れた窓ガラス。散らばる破片。
怪我をしないよう、仔犬を頭に乗せた。
誰の物か、弾き飛ばされた竹刀、数本の矢。
更に奥に行けば、弓が落ちているのも見えたろう。
存外、冷静に観察している自分がいて、厭になった]
[つるんと食べ終えると]
ごちそうさまでした。
[手をあわせて、笑いかける。]
うん、はかないですよね。
信じていて、本当になるものかなぁ?って思うけど。
フユせんぱいは、本当になったユメってあるんですか?
─桜の大樹─
…………。
[樹に、近づく。
見えた。
それは、異常に冷静な一部分が予測していた状況]
…………。
[唇をかみ締めつつ、上の枝へ視線をずらす。
桜色の小袖の少女は、まだ、そこにいた]
……還す……よ?
[静かな言葉への返事を待つ事無く。
辛うじて人であったものとわかるそれに、ゆっくりと近づいて。
風に乗せて、光へと]
私?
[空になった器を盆に乗せながら、手を止めた。
底抜けに無邪気な、マイコの笑顔を見てフユは少し考え込む。]
ん…………
私はあまり夢が無いからね。
でも、邪魔するものがあったら、取り除けようとはしてる。
ユメの邪魔?
[首を傾げる]
そんなことする人がいるんですかー?
取り除いちゃっていいと思いますよ
私もそうするつもりですしー
[にこにこと笑って]
そういや……結局、聞けなかったな……。
[光が散っていくのを、見送りつつ、小さく呟いて。
その全てが風に散れば、再び枝の上の少女を一度見やり、剣道場へと足を向ける]
うん。
[フユは、空になった器と、まだ中身の残る器を乗せた盆を片手に乗せて立ち、もう片方の手をマイコの頭の上へ乗せた。]
それで良いんだよ。
私はそういうの、好きだな。
[調理場へ。]
あ、皿洗いなら別に。
アンタにやらせたらどうなるか分かんないし。
でも、ここの学校におかしな事をしてる奴を
何とかしないことには何にもどうにもならないね。
[てきぱきと、残飯を処理して食器を片付ける。]
私も、マイコの
うーん……何て言ったら良いのかな。
味方? だから。
[少し言いよどんではにかみながら、タオルで濡れた手を拭く。]
[矢羽根を取り替え、削った表面の屑を拭き取ろうと、ポケットのハンカチを引っ張り出す、カサ、と軽い音がして、小さなメモが一枚床に落ちた]
…………
[メモを拾い上げ、そこに書かれた父親の文字をじっと見つめる]
『戻ってきなさい』
[と、一言だけ。それは恐らく、どう書くかを逡巡した挙げ句の、懸命な一言だったろう]
それはどーゆー意味ですかー!
[むぅっとして、食器を片付けるのに手伝うのはできなかった。
というより、任せてもらえなかった]
そうですねぇ。
せんぱい、心当たり、ありませんか?
[なんとなく首を傾げて尋ね]
私もフユせんぱいの味方ですよー
[はにかんだ顔は可愛らしく、わぁっと嬉しそうな声]
せんぱいかわいいー
うーん、
[言うか言わないかなど、考えない。
言ったところで相手がどうなろうと、知ったことではないのだから]
かのうせんぱいが、何かよくわからないことしてたんですよねー
なんだったんでしょう?
─剣道場─
[中に入り、いつものように上座に向けて礼をする。
これだけは、しっかりと身についた習慣で、それは変わる事もなく]
…………。
[中央に立ち、木刀を構えて目を閉じ、精神統一。
開いた瞳は鋭く。
直後に、大気の断たれる音が鋭く、響いた]
[割れた窓から、外を見る。
真夏に咲き誇る桜以外、
景色はまるで変わらないように見えた。
世界はこんなにも、変わってしまったのに]
…違う、か。
[変わったのは、世界よりも自分を含む皆だろう]
―寮―
[何時もと同じ朝。何時もと同じ目覚め。
シャワーで軽く汗を流し、何時もと同じ行動を淡々とこなす中で、昨日少女から聞いた話を思い起こした。
ひとにつくモノ。]
…憑、魔。
[それが敵だと言う。数日前の洋亮なら一笑に伏していた。
軽く目を伏せて部屋を後にした。ポケットの中でかちゃりと何かが触れ合う音がした。]
[フユは伸ばした一旦手を止め、
頷いたマイコの頭をそっと撫でた。]
昨日、ヒサタカ……さんに
矢を向けられたんだ。
アンタも気をつけるんだよ。
―校舎・屋上―
[紺碧の空が白く染まって、それから
突き抜けるような蒼に色を変える。
それでも、コンクリートの上に仰向けに寝転がったまま
ぼんやりと空を見上げ続けた。真っ青な空が少し憎い。
日が高くなるにつれて、じっとりと重い空気が熱を孕み始める。
額に滲んだ汗が、顔の横を伝って、落ちた]
ヒサタカさん?
[首を傾げる。すぐには浮かばなかったらしい]
ええと、どの人?
どうしてフユせんぱいが?
[首をかしげて。手の下から見上げる]
[弓矢を手にして、弓道場を出る。以前に感じたのと似た…しかし僅かに違って思える気配が剣道場の方から感じられた。吸い寄せられるように、足がそちらに向かう]
……っ、あー…。
[溜息混じりに、音が口唇から零れる。…意味なんて無い。
ただ、何か言わないとやってられない気分だっただけで。
ゆるりと片腕を上げて。力尽きるように身体の反対側へ崩れる。
ぱたんと寝返りを打つと、コンクリートの持つ熱が胸部へと伝わった。]
俺がききてー…。
[誰か答えろ。20字以内で。
何処に投げる訳でも無い要望を、ぽつりと零した。
金に染まった髪から、ぱたりと滴った汗が、コンクリートに落ちる。
俺が人間か、なんて。
昨夜、投げられた質問がただぐるぐると頭を回る]
[ヴン、と。
鋭く大気を断ち割る動き。
それは剣道ではなく、剣術──実戦を想定した武芸の動き。
五年前の事件の後、密かに習い始めたそれは、固めた決意のための積み重ねの一つ……だったのだが。
その目的は、ここに来て、方向性を違える事となっていた]
……っと……。
[不意に、乱舞が止まる。気配と視線を感じた。
木刀を下ろしつつ、入り口に佇む人物へと視線を向けて]
……どう、しました?
[問いかける様子は、特に変わりなく思えるが。
以前はあった柔らかさは、影を潜めているだろうか]
いえ、そんな事は。
[額の汗を拭いつつ、短くこう返す。
以前であれば浮かんだであろう笑みは、今はなく。
……今はいない、幼馴染がその姿を見たならば。
五年前、心を閉ざした頃の姿を容易に思い浮かべるだろうか]
[短い返答に、僅かに目を細める]
そうか…邪魔にならないなら、暫く見学させてくれ。
[言って、開いていた扉を閉めると、その場に腰を降ろした]
見学って……構いません、けれど。
[見てても、面白くないですよ? と。
冗談めかして言うものの、特に拒む様子は見せず。
一つ、深呼吸をしてから木刀を構え直すと、始めはゆっくり、段々と動きを早めるように動き出す。
その後を、慕うように舞う、風]
[ゆるり、瞬く。視界の端の校内へと続く扉が
コンクリートから立ち上る陽炎に揺らめいて見えた。]
……、
[暫く黙り込んで、小さく溜息を零す。
ただ諦めるには、あまりにも難しかった。
コンクリートへと投げ出した掌を、ぐっと握る。]
[一番周囲を見渡せるのは、屋上。
そんな、単純な考え。
他に人がいないだろうと思ったのもあった。
進入禁止の鎖を越えて、更に先へ。
ノブに手をかける。
以前と変わらず、鍵は壊れているようだった。
地上よりも幾許か近い太陽の光が僅か、差し込む。
内の籠もった空気と、外の熱気。
異なるけれど、どちらも暑いと思った]
[食堂を出ていったフユを見送る。
再びかんがえるために椅子を引いた。]
……背のたかい、ヒサタカ、さん
誰だっ………………あ、もしかしてあのひとの名前がそうだったかな
[思い出して首をかしげる。となりにおいてあったバトンを、無意識につかんだ]
[静と、動。
その合間の鋭。
ひたり、前を見据える瞳は、そこに何を映してか、険しく。
振り切る木刀、その切っ先にも、鋭い緊張感が満ち満ちて]
…………。
[やがて、乱舞はぴたりと止まり、静かに切っ先が降りて]
……何とも……思わないんですか?
[零れ落ちたのは、やや、唐突な問いかけ]
[フードの端から覗く視界の端、陽炎に揺らめく扉が僅かに開いて。
コンクリートへと伏せたまま、ゆるりと目を見開いた。
誰も来ないだろうと考えていたのは、当人も一緒だったらしい
余りにも驚いたのか、動く気も無かったのか。
ピクリとも動かずに横たわったままで]
枝の上には、変わらぬ桜色の小袖の少女。
花の内、そこだけは桜の季節そのままなのか。
悠然と、悠然と、花は微風に揺れて。
[ギィ、と軋んだ音を上げて、扉が開く]
っはー…
[声をあげようとして。
寝転ぶ人物に気づき、呼吸までも止める。
派手な色のフードに見覚えが無い訳はなかった]
………あずまん。
[一瞬の躊躇い。
けれどいつも通りの呼び方で、逃げる事もせずに、
扉の傍に佇んだまま、声を投げかけた]
[一言も発さないまま、桜の下まで来た。
ふと思い出して携帯を取り出し、開く。挟まれたままだった萎びた桜の花弁がはらり、落ちた。]
……
[小袖の少女を見留めれば、僅かに目を細める。]
[問い返しに、微か、苦笑を過ぎらせて]
だって。
聞いていたんですよ……ね?
憑魔の、言葉。
俺が……。
[人を喰らった事を、と。続く言葉は辛うじて聞こえるかどうか、というところだろうか]
ああ…
[そのことか、と、少し意外そうに呟いて]
……もう、そういうものだと聞いていたからな。
そもそも話させたのも、俺だ。
今更、気味悪がるのも、あんまりだろう。
[淡々と言う]
──……、あー。
…、ちわッス。
[名を呼ばれて、黙りこくるわけにもいかずに
短く返事を返して。もぞりと僅かに身じろいだ。
何時もの呼び方に、何処か安堵する。
昨夜の様に「オマエ」とか呼ばれたら、
多分、もっと凹むだろうから。
……何か精神弱くなってるな、と内心苦笑しながら
ゆるりと起き上がって、軽く頭を振ると
フードがぱさりと落ちた。]
どしたんスか。こんなとこに。
ヨウスケ君はどうするつもりなの。
[ぱちん、と携帯を開く音に
フユは樹上の少女には興味が無いというように
目を逸らして、ヨウスケを振り返った。]
いまと。
これからと。
確かに、そうかも知れないですけど。
[淡々とした言葉に、小さく息を吐く。
瞳には、やや、冥い陰り。
それは、浄めた憑魔の最期の言葉を思い出しての事だろうか]
それにしたって、普通はもっと、気味悪がりそうなものなのに。
……冷静、ですよね。
………、よす。
[軽く手を上げる。
少しぎこちないのは、仕方ないだろうか。
扉から離れて、1歩、2歩と足を進め、
寝ているアズマを通り過ぎてフェンスまで向かう]
んー。
ジンセイについて。
悩んでた。
[ガシャン、揺れる音。
視線を上げた先、青空が広がる。
頭に乗ったままの仔犬も、同じように見上げた]
[似たようなことを、フユにも言われたな、と思い出す。僅かに笑みが浮かんだか]
………目に見える恐怖の方が、相手にしやすいから、な。
[ぽつりと、言葉が零れたのは、ポケットのメモを見たばかりだったからかもしれない]
何か、良くは分かんねーけど。
あいつを殺したのは、ヒトじゃないんだって聞いた。
[桜を見上げたまま、淡とした声で。]
そいつが今残ってる奴の中に居るんだったら。
[目の前の少女を疑うことはしないのか。]
――殺す。
[僅かとはいえ浮かんだ笑みに、ほんの一瞬、戸惑うか。
それでも、刹那覗いた柔らかさは掻き消えて]
目に見える恐怖……確かに、そうかも知れないですね。
見えないものは、必要以上に怖いもの、だから。
[ぽつり、と呟かれた言葉に、小さく呟いて]
見えないから……道に、迷うんだろうし。
[続いたそれは、どこか独り言めいていたか]
[よ、と小さな声を上げて立ち上がる。
一晩中寝転がっていた所為か、背中が小さく音を立てた。]
おや、奇遇ッスね。ちょーど俺も悩んでました。
[何処か棒読みにも近い発音でけら、と薄い笑みを浮かべ。
自らもフェンスまで歩み寄った。
ショウからは、少し離れた位置まで移動して
ゆるりと眼下に広がる景色を眺める。
桜の木の下に佇む2つの人影を見つけて、僅かに目を見開き]
……、あれは
視線を向けられた少女は、くすり、と笑んだように見えたかも知れない。
その笑みが何を意味するかは、はっきりとは読み取れぬだろうけれど。
人は、迷うものだ。
迷わなければ、辿り着けない場所もある…と、
これは、親父の受け売りだが。
[マコトの顔をじっと見つめる]
………迷っているのか?
これの……。
[言いつつ、手にした木刀を見やり]
剣の師も、そんな事を言ってましたね。
[小さな声で答え、それから、投げられた問いに表情を引き締める]
迷いは……捨てた、つもりです。
今の俺には、なすべき事は、一つだけ、ですから。
[静かな、答え。
瞳は静かで、でも、どこか冥く]
………そっか。
[返す言葉は、短い]
なんで。
こーなっちゃったんだろーな。
誰がどうかなんて、
わかんなくて。
みんな信じたいし、
みんな信じらんねえ。
[ぽそり、呟きを落とした。
小さな声に反応して、視線をゆるりと動かす。
人影が見えた。]
本当は、
もう誰でも良いから
もしかして、妹さんを殺したかも知れない奴が
居るかも知れないんだったら、
手当り次第に殺して
しまいたいと
そう思うんじゃないの?
[フユはヨウスケの笑みを、目を見つめた。]
[そうか、という言葉に、一つ、頷いて。
唐突に変わった語調に、僅かに首を傾げる]
悪趣味なこと……ですか?
まあ……答えられる、事なら。
ああ、答えたくなければいいんだが…
[少し、言い淀みはしたが、結局再び口を開いて]
憑魔は、人の心臓を喰うと回復するようだが…お前は…司の方はどうなんだ?
憑魔以外の人間の心臓が力の足しになったり、するのか?
……なんで、でしょーね。
[落とされる呟きに、思わず苦笑にも似た響きが籠もる]
俺は、もう自分も信じられないッスよ。
17年間、無条件に信じてた事が突然覆っちゃって。
[遠く動く人影に、ゆるりと瞬きながら
何の事はない様にぽつりと呟いて。
ふと、相手へと視線を向ける。 すこし開いた、距離。]
……あ、そーだ。センパイ、
[言うの忘れてた、と短く声を上げて]
おにぎりありがとーございました。遅くなったけど。
[あれセンパイっすよね。と緩く首を傾げ]
……さあね。そこまでは考えなかった。
俺はただ、
[顔はわらったまま。瞳の奥でまた何かが動くのは少女に見えただろうか。]
あいつを殺した奴が死んでしまえば良い。
それだけ。
[同じことかも知れないなと、またわらう。]
確かに、あんまり趣味のいい質問じゃないですね。
[投げられた問いに、浮かぶのは苦笑か]
……浄化の際に、憑魔の力は、取り込めたようです。
実際……昨日よりも、風の制御が楽になってますから。
[でも、と。ここで一度、言葉を切って]
恐らく、憑魔の拠り代になっていない心臓を喰らっても、意味はないでしょう、ね……。
はっきり言っちゃいますけど……まだ……吐き気が残ってる、くらいです……。
食べたいと思えないものが、益になるとは……ちょっと、思えないかな。
[階段をのぼる足音は軽い。
左手にはバトン。
洋服はかわいらしいワンピース。
顔はえがおで]
わからないから、殺してしまお
[言葉は、おかしい]
同じ事だよ。
[フユはまた苦笑した。]
でも、
私はそれで良いと思う。
あなたがそう思うことを否定するのは、
あなたの悲しみを否定することだから。
[ヨウスケの瞳の奥に潜むものを捉えようと
フユはただ、自分の瞳の中に彼を映し、彼の瞳の中に自分を映す。]
たしかに殺して。
私からもお願い。
………すまん。
[少し首を竦めるようにして謝る]
しかし、そうか…残念だな。
憑魔の餌になるよりは、お前に喰われたほうがいいかと思ったんだが。
そううまくは運ばないか。
[呟いて、脇に置いた弓矢を取り、立ち上がる]
日常ってさ。
いきなり壊れるんだよな。
幸せは、長くは続かない。
[眼下を眺めたまま紡いだ声には、感情がない。
視線も、何処か遠くを見ているようだった]
そんなの、わかってたはずだったのに。
[ふっと、異常から―――桜から目を逸らす。
くるりと向きを変えたところに、礼の言葉。
きょとり、瞬いた]
………んぁ。
別にいーよ、大したモンじゃないし。
いえ、構いませんけど。
[首を小さく左右に振って、短く返す]
そんな事で、残念がらないでください。
……それに、例えそれで力を得られても、俺は、それを望みませんから。
[どこか冗談めいた口調で言いつつ。
立ち上がる様子に、僅かに目を細め]
……どちらへ?
──そッスね。
[相手の言葉に、緩く瞬いて、短く言葉を返す。
儚く、脆く。日常があっさりと。
……予期しないほど、あまりにも簡単に。
と、扉の開く音に目を見開いて。
ゆるりとそちらへ視線を向ける。]
……あ、ぁ。
…おはよ。
[現れた少女の姿に挨拶を返すものの、
昨夜の言葉を思い出して、口篭る]
…そっか。同じか。
[呟いて、手をポケットの中へ。指先に当たる硬い物。]
ありがと。
[続くのは感謝の言葉。]
ん。殺すよ。
………きっと。
[わらった表情の瞳に浮かぶは喪失の悲哀か、失わせたモノへの憎悪か。]
一ノ瀬先輩が?
[一つ、瞬く。
昨日、桜の側にいるのは見かけたけれど、またどこかへ行ってしまったのだろうか、と。
ふと、そんな事を考えて]
……確かに、一人でいるのは危険ですからね……。
でも、ヒサタカさんも、お気をつけて。
……あなたも、憑魔には、狙われやすい立場ですから……。
うん。
[フユはヨウスケの瞳の奥に動く色彩をみとめて漸く、彼から目を離した。]
[けれど、本当は彼の思いが殺意と同質であるか否かなどは、重要なことでは無かった。]
……少し、暑い。
寮に戻るね。
[ヨウスケに、桜の樹に背を向けて]
[気をつけてという言葉に振り返り、軽く手を振る]
ありがとう。じゃあな…
[浮かんだのは、一瞬の、けれど、はっきりとした微笑。それは、先夜以前にマコト自身が浮かべていた笑みと、いくらか似ていたかもしれない]
……や、別に。
[なんでもない、と呟くように言葉を返して
相手へと向き直り、フェンスを背に持たれかかる。
カシャン、と小さく音が鳴った。]
[浮かんだ笑みに、返したのは静かな表情。
忘れたのか捨てたのか、定かではないが、つい昨日までは自然と浮かべていた柔らかな笑みは、今はなくて]
……ええ。また、後で。
[短く言って、軽く、手を振り返す]
[不思議そうに首を傾げたままではあるものの。
小さなフェンスの金具の音。
聞いて、まぁいっかと呟いた。]
せんぱいがそういうなら、そういうことにしておきましょうか
下から、なんか色が見えたからきたんですよー
かのうせんぱいだったんですね
[ショウの言葉に笑って]
ちょうどよかったんで、嬉しいですけど。
[フユは、背越しに小さく片手を上げて、炎天下の中を寮へと歩いた。]
(あの子は消されてしまった。
いまは亡き、”アレ”の代わりに
狂気を。
憎悪を。
悲哀を。
殺戮を。
そして苦難を。
齎すことの出来ぬものは
ただただ喰われて死ぬが良い…………。)
[一部始終を観察していた樹上の少女が
そのとき一体どのような表情を浮かべていたかは
小袖と花弁の薄紅が隠してしまった。]
…おう、そーいう事にしといて。
あぁ、下から見えてたんだ? まぁ、当たり前か…
[けら、と口先だけで笑いながら短く言葉を返して。
続く言葉に、僅かに目を見開いて。すぅ、と。目を細める]
丁度良かった、って。
…なんか用でもあった?
[ヒサタカを見送り、その気配が遠のいた所で、息を吐く]
迷い……迷いなんか、ない。
[ぽつり、零れ落ちるのは小さな呟き]
俺はただ、俺のなすべき事を。
『憑魔』を、浄めて還すだけ。
[その呟きは、自身に言い聞かせるかのようにも聞こえるか]
そりゃ、日が昇ったばかりだし。
[上見上げりゃ眩しいだろ、と小さく言葉を返して。
返る答えに、あぁやっぱりか、と苦笑を漏らす。
…どこか、自嘲にも似た]
──で?
かわいー服着て、可愛い顔して、笑顔で、
──…パスタ下さい、だったら喜んであげれたんだケド?
[薄ら笑みを浮かべて、言葉を返す。
カシャと小さな音を立てて、フェンスから身体を起こし]
…それは、いくら可愛い後輩のお願いでも聞いてあげれねーわ。
えー、せんぱいったらケチー
[にこにこと笑って]
パスタは嬉しいですけどー
今は、フユせんぱいが素麺作ってくれましたしー
やっぱり何がほしいかって言われたら、そうなっちゃうんですよねー
[あまり近づいては、大きい体相手には厳しかろうか。
考えながらバトンを一度回して、しっかりと持ち直し]
まあ、せんぱいが聞いてくれないなら、こっちもセイシンセイイをこめて?お願いしますけどー
はかなくなっちゃえばゆめですもん。
[一度、ショウへと視線をやって、笑いかけ]
本当に、亘を殺したのかなんてわかんないですし。
本当のことを言うとも思いませんしー。
だったら見て、おかしい人がいなくなっちゃえば、いいんじゃないかなって思ったんですよ
可愛い後輩の為だし? …沢山持ってたら、
一つぐらいは分けてやってもいーかもだけどさ。
俺も一つしか持ってないから、ケチでもあげらんねーの。
[回されるバトンに、右足を一歩引いて。
ザリ、とコンクリートをの上を滑った足が音を立てる。
と、ショウへと返すマイコの言葉に、一つの確証を得た。
目の前の少女の目的が、俺自身だけならば]
──、センパイ
[ちょっと失礼します、と少し離れた相手の
背負ったリュックの後ろをいきなり鷲掴む。
文句を言われても、手を離す様子は無い]
暫くここ危ないんで、出ててもらっていーッスか。
[玄関先の日除けの下に入ると、刺すような日差しからは逃れることが出来たものの、やはり暑かった。
そこから、校舎を振り返る。]
(いずれ、順序の問題で
全員死んで貰うことになるがな……。)
[ふるり、と首を振る。
再び、上座を見た瞳は、冥く、静かなもの]
……迷う必要なんて、ない。
[小さく呟き、再び、構えを取ろうとして。
感じた強い眩暈に、その場に膝を突く]
くっ……!?
まだ……力が、馴染んでない……のか……。
[苛立たしげな呟きが零れ落ちる。
昨夜取り込んだ異なる力、それが未だ、自身のものになりきっていないのだと。改めて、感じた]
……こんな部分が……迷い……か。
[かすれた声で呟きつつ。
床についた木刀にすがるようにして、倒れ込むのを押さえ込みながら、*内なる力の波を正そうと試みる*]
っ、
[声をあげようとした矢先、
予想外の方向から掴まれて、動きが止まる]
ちょっ、何すんだっ!
出てって、
[体勢的な不利は否めず、抵抗及ばず、
あっさり持ち上げられるだろうが]
[ショウを掴んだりする様子をまったく止める事はなく]
えー、私ワガママなんでー。
一つしかなくってもほしいですよー
まあほしいっていうか、なくなってほしい、なんですけどねー?
[にっこり笑って、ショウを下ろすのを待つだろうか]
や、ほら。タチモリの用が有るのは俺らしーですしー?
デートの邪魔をするってのも野暮ですって、センパイ。
[返す言葉は冗談に溢れるばかりだが、
マイコが止めないのを幸いにと大股に扉まで歩を進める。
ばったん、と勢い良く扉を開け放ってから
ようやく、扉の外にショウの身体を下ろした。]
ムチャ言って、すんません。
[また、借りは何かで返すんで。
けらりと笑って、相手が言葉を言う前にドアを閉めた。
そのまま、相手へと向き直りながら後ろ手にノブへと手を掛けて。
パチン、と小さなプラズマ音が走る。
──これで、放電しきるまでは、簡単に触れられないだろうから]
デートってレベルじゃねぇだろっ!
[文句は聞き入れられない。
仔犬が頭から落ちかけて、慌てて受け止めたものだから、
暴れる事すら出来ずにあっさりと扉の外まで持って行かれた。
途中、リュックのポケットに入っていた小さなナイフが、
かしゃんと落ちる。
しかし言葉を返す暇もなく扉は閉められて、
開けようと手を伸ばすも静電気のような物に遮られた]
………っかやろー!!
[仔犬を下ろして思い切り蹴りつける。痛みが走った。
けれど扉はびくともしない。]
[扉の外に追い出した、それを見るとふわり、楽しげに笑って]
せんぱい、たのしみましょー。デエト
[両手で握ったバトンを、軽い体で走って、両手でその胴にうちつけようと]
…そりゃー楽しみだ。
[ふわりと、柔らかに笑う相手に。短く言葉を返す。
後ろから、扉を蹴る音が聞えたが、気にしている場合じゃなかった。
横から繰り出される一撃を、咄嗟に僅か屈んで左腕で受け止める。
じんとした痺れが走るものの、意に介さずに
相手から一先ず距離を空けようと、横へ飛ぶ。
途中、ショウが落としたのか──ナイフを滑る様に拾い上げて
しびれる左腕をそのままに、右手へ握る。
出来る限り傷つけないように、ナイフの背を表にして]
[自分の力では開けられない。
そう判断すると、仔犬を抱え直して立ち上がり、
階段を一足飛びに駆け下り始めた。
助けを呼ぶ―――と言ったって、誰が来るというのか。
そんな考えも過ぎったが、じっとしてはいられずに。
登った時の数倍の速さで1階まで辿り着き、外へと飛び出る。
夏の陽射しが、眩しい。
昇降口からは、桜の大樹が見えた]
[俊敏ではあるも、重さは加えられず。
腕に当たったはずなのに、あまりダメージは強くはないだろう。
軽く手を地に付いて、しかし目は彼の姿を追い]
嬉しいですよ、楽しみにしてくれてー
[笑いながら、立ち上がってぴょんと跳ねる。しゃがみ、クッションをきかせて、――足が床を蹴った]
[両手でもあまり強さに変わりがないのならと、今は右手でしかバトンは持たず]
だから受け取ってくださいよー?
[再び右から、腰の辺りを狙う。首を狙うには背が足りないらしい。]
[耳が音を捉えた。
桜の大樹の下、見上げていた視線をゆるりと下ろす。
其処には校舎の昇降口があって、そこから良く見知った小柄な影が飛び出して来るのを見た。]
…
こんなスリリングなデートじゃなかったら、
もっと嬉しいんだけど、ね…っ!
[素早い動きに、小さく舌打ちする。
再び繰り出される一撃に、キュ、と僅かに身体を反転させて。
背中で受ける。そのまま腰や腹部にダメージが掛かるより
何倍もダメージが軽減される。]
…、それは残念だけど、願い下げってヤツだ!
[その体勢のまま、左手に拳を作ったまま
相手の首下を狙って、腕を振り払う。]
[桜の大樹の下。
そう言えば人影があったと思い出して、
そちらへ向かおうと足を向け――― ]
…っ、………スケさん。
[返すのも、いつもの呼び方。
けれど、声にはやや、警戒の色が含まれる]
スリリングだから、たのしいんですよー!
[背中に打ち据えたバトンは反発して微か戻り、
それを引き寄せようとしたとき、視界に腕が動くのが映った]
っ!
[左手が反射的に、手を止めようと持ち上がる。
しかし細い腕では男の力にはかなわずに]
ったぁ……せんぱい、いじわるですよ!
[腕の一本でだいぶ楽にはなっているのだろう。急所に直撃よりは。
ぶつかった腕はずきずきとしているも、まだ右の手は使える。
そう、上から土に落ちたときよりはまだ軽い。
弾かれるように離れていたバトンを持つ腕を、振り上げて、その胸の方へ叩きつけるように]
…どうもしない。
ヘンなのは、スケさんだろっ。
[表情と不釣合いな眼差し。
ぞくりと、背筋に悪寒が走った。
仔犬を抱く腕に力が籠もる]
それより、あずまんが―――
[マイコとの間に交わされた会話を、ショウは知らない]
…俺は、スリリングなの、苦手なんだよっ!
[ぎり、と。僅かに奥歯を噛締める。
左脚で横から腹部への蹴り出しで、相手の身体を弾こうとするも
それより前に、右胸部に振り下ろされたバトンが直撃して]
…っつ、…!
[当たった胸元を服の上からギリ、と握り締めながら
蹴りが入ったならば、その勢いで数歩、
更に後ろへと相手との間合いをあけて]
だって何か、ヘンじゃんか、
なんていうか、………こえぇ。
[また、下がる。
眉を顰めた。]
…そう。
マイマイ―――日月が急に来て、っ、
[下がる足がもつれかけて、あわや踏み留まった。
距離は、近くなる。]
きゃぁ……!
[右手の攻撃に専念したからか、腹を狙うその動きには気付かず。
軽く弾かれてしまう。
ただ右手には手ごたえは伝わっていて、痛みにゆがみながらもどこか笑みが浮かび]
いたいじゃないですかぁ……
本当に、苦手なんですかー?
[バトンを掌と床の間に。すぐに起き上がり、それを真ん中で握る。
左の腕は動かない事も無いが、まだ痺れが残り]
あの不思議な力、つかわないんですか?
[痛みをこらえてか、にこりと笑って尋ねる。いつでも動けるように、気は張っているが]
あー苦手ですよ?
専ら、走って逃げるの専門なんで。
[逃げ足だけは自信ある、と小さく笑う。
と、続く問いに、僅かに眉を寄せた。]
……、あんま使いたくないの。
──それに使ったら、危険なのはそっちだよ、っと!
[下手に操ろうとしたら、暴走するのは目に見えた。
金属の多いこの場所では、尚更危険が付きまとう。
無理矢理に話題を切り上げるように、床を蹴って
一気に間合いを詰める。
僅かに姿勢を低くしながら、相手の腹部に拳を入れ込もうと]
俺は、何時もと同じだよ。
[主観と客観は違うもので、]
……日月さんか。言ってたな。
何か、不思議な力を使ったとか。
――イチ君は、彼の側なのかな。
[踏み留まるのを見ても歩みは止めず。
更に近付いて、]
走って逃げるのって、ウサギみたいー
[くすくすと笑って、次いだ言葉に首を小さく傾けて]
そうなのかなぁ?
[と、間合いが詰められて。
一歩さがると同時、右手で握ったバトンごと、こぶしでその拳をたたきつけようと。
――たとえ金属を握っていても、勢いは殺せないだろうが]
遷ろいて、希い
[磨りガラスで出来た、寮の入り口に背を預けた。
ガラスの帯びた熱が背に広がる。]
戻らぬ命を探せよ。
[首を後ろに倒して、扉に頭を預けた。
日除けの向こうの空を仰ぎ、目を閉じる。]
絶望し
[あちこちで繰り広げられる出来事。
戦いのその音を、心の軋む音を
聴き取り、身を浸すかのように、瞑目する。]
儚き命を散らせよ。
同じじゃ、ねぇって!
[そう返すショウもまた、普段とは違うのだろう。
変わった日常の中で、2人も以前のままではない。
この場から走って逃げたい衝動に駆られるのに、
身体は上手く言う事を聞いてくれなかった。
続く言葉に、自分の失言を悟るけれど、]
側とか、そういうんじゃねぇ。
ただ、…違うって、思うだけだ。
[近づくヨウスケを、見返す]
ウサギ、可愛いじゃん。
[捨てたモンじゃない。ケラと笑いながら、
しかし繰り出されるこぶしに、僅か軌道がズレる。
腹部を掠めて横へと通り抜けた拳に、小さく舌打ちする]
……っ、
[そのまま、腕を引き戻す。
動きを封じて、膝で腹部に一撃を叩き込むつもりで
抜きざまに、相手の服を掴もうと拳を開いた。]
かわいくっても……!
[ぎりぎりでよけられた拳は、開かれ。
ぐっと掴まれる。
その瞬間、――無我夢中で繰り出した。
足を、股間に向けて。]
………ん、なん、
わかんねぇよ、
[いつもと同じようで、違う仕草]
ただ、今のスケさんは、
…おかしい。
[無意識に、仔犬から手を離す。
地に降り立った彼は、鳴き声をあげた]
[ぐ、と。相手の服を捕らえた。その感覚を確かめると、
相手の身体を引き寄せようとして。]
…っ、な、
[ちょ、待て。
無我夢中とは言え、繰り出される攻撃に。
思わず、ギリと掴んでいた拳に力が入る。
パリ、と。僅かにプラズマが指先から放たれて]
ふーん。
[鳴き声をあげる仔犬を一瞥し、]
変わらないって言ってんのに。
…まあ。
如何でも良いか。
[ポケットに、携帯を持ったままだった手を突っ込んだ。
かさりと、何か擦れる音。]
[小さい女が攻撃するなら、確かにそこが一番だが。
なんともえげつない攻撃に、バチっと、嫌がっていたはずの彼の力が。
かすかに痛みを覚えるものの、それよりまずはそこにめがけて思い切り足を振り上げて――あたった。
どれだけ痛いかなんて知らないったら知らない。]
変な力使う奴の、味方して。
[携帯の代わりに握られたモノは、薄く。
腕を延ばしたまま横に滑らせ、丸い釦に指を置いた。
――刃が飛び出す。]
……もしかして、イチ君なのかな?
[……だがしかし!
そんなことを考えるはずもなく。
本気の力で振り上げた足のおかげで、悶絶している彼の頭にめがけ、
ぐっと右手を振り上げた。
言葉はない。]
………は?
[問いかけの意味が、わからなかった。
ただ。
視界の端で、刃が、煌めくのが見えた]
―――リュウ、逃げろっ!
[反射的に、声を飛ばす。
その分、相手への反応は遅れた]
[人間の中で鍛えられない急所への攻撃で動けないところへ、そうするなど。
えげつないに決まっているのだが。
それは少女には関係なく。
幾度も幾度も、叩きつける。
口元に笑みが浮かぶ。
どこかでばりっと音がした。]
[それは彼の最後の抵抗だったのだろうか。
だけれど身にうけていたとて、そんなことも気にならなかっただろう。
いくどもいくどもいくどもいくども、繰り返して叩きつけるバトンは、銀に赤がこびりついて。
ふりあげるたびに跳ね上がった赤が、白のワンピースに新しい花を咲かす。]
あはっ……
おわ、った
[やがて最後の一撃を加えると、口元に満足げな笑みが浮かんだ]
[バトンの攻撃を何度も何度も受け続けた頭は、既にその形をとどめてはおらず。
色の薄かった髪はどこか黒くも見えるか。
日のひかりが彼だったものを照らす。
ふと痛みを覚えたけれど、それはすぐにまぎれた。]
[元より、返事を待つ気など無く。
仔犬には目もくれず、刃を握った手を相手の胴へと突き出した。
その目は既に、親しい友人を見るものではない。]
あは、せんぱいが、そうだったんですかねぇ?
だったら、カタキウチにも、なるのかなぁ?
マァ、どっちでもいっかぁ
[くすくすと
口唇はあかく
頬も赤く
白の服も、その手も、使い慣らそうとしていたバトンも。]
体洗わないとなぁ……せっかくの服だったのに、もったいない
あ、せんぱい。
[しゃがみこんでその顔――と思われる場所を覗き込んで]
パスタ、本当においしかったんですよ。
それじゃぁ、ありがとうございました
[*真っ赤に染まった足跡が、扉へ、階段へと向かった*]
[避けきる事は出来ない。
それでも半身を捻り直撃を避け、刃は脇腹を掠める。
痛みが走った。]
………シャレ、なんね…っ
[構わず、横に転がった。
荷は邪魔だと判断して、肩から外す。
取りやすい位置に入れてあった獲物―――
幾らか刃の長い鋏を抜き去り、
後の荷物はヨウスケ目掛け投げつけた。
牽制にしかならないが、そのうちに体勢を立て直そうと]
[飛来する荷を避けようとし、けれど移動は間に合わないと判断したか。
刃を持たぬ腕でそれを受け止めた。]
……ッ…
[堅い物がぶつかる音。鈍い痛みに眉を顰める。
荷はそのまま落ちて足許に転がった。]
[逃げる、という考えは思いつかなかった。
低い体勢から地を蹴り、自ら、相手に向かう]
………んなトコで、死ねねぇっ!
[鋏の持ち方は、本来の用途ではなく。
横から握り、切っ先を相手に向けて突き出す。
それでも狙ったのが胴体ではなく腕だったのは、
躊躇いがあったか]
[声に大きな鋏が迫るのを視認した。
荷に気を取られていた先程の今で隙は大きく、咄嗟に荷を受け止めた腕をそのまま鋏の前に。]
―――ぐ、
[先程よりも鋭い痛みに、喉の奥から微かに悲鳴が洩れ、それでも無事な片手には刃が握られたまま。
肩口目掛け、小さな刃を振り下ろす。]
[溢れる赤に、手が止まりそうになる。
直ぐに手を離して下がればよかったのに、
生じた躊躇い故にそれは叶わず、
気付いた時には刃が迫っていた]
『―――やば、』
[膝を曲げてしゃがみ、
身体をバネにして相手の懐に潜り込むようにして、
体当たりを仕掛ける。
自ら一撃を受けに行く形にはなったが、
刃は肩口を浅く切るに留まった]
…!
[あかい血が見え、自らのそれに妹を重ねたか。瞳の色が翳り。
体当たりをまともに食らい、衝撃に少し下がった。何とか倒れずに踏み止まりはしたものの、刃は相手の肩口を掠めるに止まり、握る手が僅かに緩む。]
[跳ね上げられた手が狙う先を察知してか、後方に下げる。何とか取り落とさずに済んだ。
相手が鋏を取り出そうとしている隙に体勢を立て直し、首筋を狙い刃をもう一度振るう。]
[手は目的を達する事なく、空振りに終わる]
―――オレだって、
護らなきゃいけないモノがあるんだっ!
[先程の相手を真似るように、身を屈め、
引き戻した左腕を振われる刃に向けて翳す。
訪れるであろう痛みに歯を食いしばりながら、
遅れて取り出した鋏を、
切っ先を相手の腹部目掛けて繰り出した]
[刃が相手の首筋に触れるか否かで、
迫る鋏の存在に気付き、避けようとして、]
――ッ
[叫ばれた声に反応は遅れ、
――ずぶり。
鈍い音。
目を見開いた。]
[ほんの一瞬、動きを止めた刃。
左腕を首との合間に滑り込ませて、それを受ける。
そこだけが、熱を持ったような気がした。
思い切り力を籠めた鋏は、予想外に簡単に収まった。
肉を貫く感覚。眉を顰めて、…目を見開いた]
………ぁ、
[小さく、声が零れた。
手を離して、1歩、後ずさろうと]
[刃が手から離れ、落ちる。軽い音を何処か遠く聞きながら、]
――ッぁ…
[灼けつくような熱と、鋏の刃の冷たい感触。
血を流す腕は震えながら刺さった鋏に伸び、引き抜こうとしてかそれを掴み。
けれどぐらり、前方に身体が傾ぐ。]
[下がり切れずに、傾ぐ身体を受け止める。
けれど支える力は足りず、半ば覆い被される形で、
その場に膝を突いた]
…スケ、さ………っ、
[ソレをやったのは、自分なのに。
それでも、身体が、震えた。
奥底が、冷えていた]
……、
[鋏を伝うあかに手が滑り、それを抜くことは叶わない。
体重をかけたまま、浅く弱くなって行く呼吸の合間に咳込む。細かいあかが舞った。]
………ごめ、ん……
[謝罪は誰に向けたものか。]
なんで、謝―――…
[今直ぐに処置すれば、助かるかもしれない。
そう思うのに。
手に、力が入らない。
視界の端で、赤が舞うのが見えた。
言葉はもう紡がれる事はなく、
辺りには静寂が戻る。
動く事も出来ぬまま、
痛みすらも感じられずに、
*命の灯火が消えるのを感じていた*]
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