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医師 オトフリート に 8人が投票した。
青年 アーベル に 1人が投票した。
医師 オトフリート は村人達の手により処刑された。
次の日の朝、青年 アーベル が無残な姿で発見された。
現在の生存者は、音楽家 エーリッヒ、少年 ティル、娼婦 イレーネ、召使い ユーディット、詩人 ハインリヒ、工房徒弟 ユリアン、小説家 ブリジット の 7 名。
…そうだよね。兄ちゃん、今辛いよね…けど、さっきまで話してて、急に居なくなっちゃうなんて、何か変な気がしたんだ。
[頭をがしがしなでられれば、少しだけ笑った]
おっちゃんってばー!
[大きな目をあけて、ハインリヒの方を向く]
いや、俺、もうちょっと出かけてくるよ。
[そういって、再び診療所へ向かって歩き始めた]
ええ、……イレーネさんも聞きましたか。
[あんな事、というイレーネの言葉に小さく返し]
どこに行っちゃったんでしょうね。
[首を傾げてみせた。
エーリッヒの囁きには、一瞥を返し。]
あ、そうだ。
私、オトフリート先生のところに行かないと。
ほら、これ。怪我しちゃったんですよ。
馬鹿でしょう?
[ちょっとわざとらしいかもしれないなぁ、なんて自分でも思いつつ、頬を指差してエーリッヒに言う。
昨日のことを二人に説明する気は、とりあえず無かった。]
……ほんとに、あいつも。
参ってたとしても、そうは言わんやつだからな。
[ユリアンの言葉に、軽く肩を竦める。
直後、左腕に微かな痛みが走ったように思えたのは、気のせいか否か]
……?
[掠める嫌な予感に、微かに眉をひそめつつ。
頬を示すユーディットの言葉に、表情はやや、険しさを増した]
怪我、って。
何をやったんだよ、それ?
……一人でやったようには、見えないんだけど?
…捻くれてるよね。
[エーリッヒの言葉にただ一言、分かりやすい評価をした]
[頬を指し、エーリッヒに見せるようにするユーディットを見て。
何やらかしたんだか、と思ったが口には出さないでおいた]
はい、昨日自衛団の人が来て…。
[ユーディットにそう答えながら。
怪我をしたという頬を眉を潜めて見る。]
痛そう…どうしたんですかそれ。
…ぶつけたんじゃないですよね?
[痣の形には見覚えがあった。人に殴られた跡。]
[立ち去ろうとするティルの後姿を見て]
あー、待てよ。俺もついてくわ。
もしかしたら、先生さんトイレにでも行ってたのかもしれねーしな。
[後ろ頭をポリポリと掻いて。「ま、しゃーねーわな」と呟いた]
ええ、と。
まぁちょっと、自衛団の方と。
[もう、そうじゃなくて、とりあえずオトフリート先生のところに行ければいいんですっ、と頭の中でエーリッヒに拳を握り締めて説明しつつ。
平静を装って(珍しく険しいエーリッヒの表情に少し身を引きながら、ではあったが)返す。]
ほら、だから先生のところで診て貰わないと。ね。
…殴られた痕って、下手すると残るから。
ちゃんと見てもらった方が良いんじゃね?
[ユーディットの怪我を眺めながら横からそんな事を言い。
胸の辺りを握るイレーネに気付くと、その肩をそっと抱いた。
おそらくはあの屋敷でのことを思い出しているのだろう、と考えて]
あっさりと言うなあ……。
[ユリアンの評価に、浮かべるのは、苦笑。
その間にも、痛みのようなものは感じられ]
……まあ、顔に痕が残るのはよくないし、早めに行った方がいいな。
とはいえ、一人歩きしてるとまた色々と言われそうだし、俺も行くよ。
[下がるユーディットに向け、軽く言いつつ。
内心に同意を示すように、小さく頷いて見せ]
ん?おっちゃんも一緒に行くの?うん、いこいこ。
[最後のつぶやきは聞こえずに、2人して診療所へ向かい歩く。
段々診療所へと近づけば、なにやら異臭が漂ってくる]
血の…臭い…?
[不安に耐え切れず、思わず駆け出していた]
[診療所にたどり着く。
その前に倒れているのは、2人の男性。
ひとりは、さっきまで一緒に居たひと。
あとひとりは、獣の毛に覆われた人間―その顔は、あまりに慣れ親しんだひとの顔]
…だって、自分でも言ってたし、アイツ。
[その時の話は笑い話になるようなものでは無かったが、アーベル自身そう称していたのは事実で]
診察所、行くんだ。
…俺らはどうする?
[後半の問いはイレーネへと向けられた]
ですよね。そうします。
[ユリアンに、こくこく、と頷いてみせて。
イレーネの肩を抱く彼に、ああやっぱり二人はそうなんだな、と思う。
この人狼騒ぎの中でもイレーネに変わりない態度を示すユリアンに、少しだけ微笑んだ。
二人が人狼とは関係のない人間なら良いのに、と願わずにはいられない。]
ありがとうございます。
じゃ、行きましょう、エーリッヒ様。
[視線をエーリッヒへと戻すと、診療所へと歩き出す。]
[ティルの呟きに顔が強張る。慌てて自分でも周囲の匂いを気にしてみるが、自分の身体に染み付いたアルコールと煙草の匂いしか感じられず]
ほんっと、つかえねーな俺は…。
[嘆いている間にティルは診療所へと走っていってしまい。嫌な予感が膨らみあがり、慌ててティルの後を追う]
待てよ。待ってたら。
[診療所の前まで来て。やっと自分の鼻にも血の匂いが届く。もっともその事に気づく前に惨状が網膜に焼き付けられるわけなのだが]
…ティル。こっちこい。
それ以上見ない方がいい。うん。
[ティルがそれ以上、その惨状を見ないで済むように手を伸ばして抱き寄せようとする]
[自分でも、というユリアンの言葉に浮かぶのは苦笑]
ああ。
俺も、薬出してもらった方がいいかも知れんし。
[ユーディットに軽い口調で返しつつ、診療所の方へ。
常と変わらぬ様子を装いつつも、内心には一抹の不安があるのは否めなかった]
――ああああ!!
[裏路地。陽が出ているうちも薄暗いそこから、辺り一帯に響くような叫び声が響き渡った。壁に身体を預け、半ば仰向ける体勢になっていた...が、上半身を跳ね起こす。見開かれた目、肌には汗を滲ませながら、左右を見回し]
[ユリアンに肩を抱かれれば、少しずつだが握っていた手の力は抜けていく。]
ん…どう、しよう。
[問われて少し言い澱むのは、手に力を込めすぎたせいか。]
あ、そうだ。『視た』事言わないと駄目なんだっけ…。
向こうにお医者先生いるなら、ついでに伝えにいこうかな。
[ユーディットに微笑まれた理由は理解しておらず。
僅か首を傾げた状態でユーディットとエーリッヒが診療所へ向かう姿を見やった]
…ああ。
そう言えば、俺以外には言ってないんだっけ?
二人も行くみたいだし、着いて行くか。
[頷いて、肩に手を回したまま、イレーネを支えるようにして歩き始める]
[惨状を目の前にして、しばらく、時がとまったように、立ち尽くしていた。
ハインリヒに抱き寄せられれば、やっと我に返る]
おっちゃん…
[そのままぎゅうっとしがみつく]
オト先生…アーベル兄ちゃん…
いやだ…やだ、よぅ。こんなのって、いやだ…やだ、やだ…
[嗚咽で言葉が詰まっていく。瞳からは、大粒の涙がぽろりぽろりと零れ落ちていった]
オト…せん…せい…アー…ベル…にい…ちゃん……
[後はもう言葉にならずに、ただ嗚咽を漏らすのみ]
[傍に落ちていたノートなどの束を拾いながら、ゆら、と立ち上がり裏路地を出る。その時「うるせえぞ!」という怒鳴り声と窓を乱暴に開ける音が聞こえて、虚ろな瞳はそちらを向いた。
家の窓から顔を覗かせた怒鳴り声の主は叫び声をあげた人物を確認すると、しまった、というような顔をして開けた窓を素早く閉め。再びの静寂]
……。
[暫くの間、ただ立ち尽くしていたが。そのうちに人通りの少ない村を歩き、そこへ、「変容」が起きた場所へと、向かい始め]
私の治療がそんなに不安ですか?
[冗談ぽくにらんでみせて、診療所に向かう。
近づけば、人影が見えた。
風に乗って流れてくるのは子供の泣き声と、
朱い匂い。]
いや、そういう訳じゃないんだけどね。
[返す言葉は、こちらも冗談めいて。
診療所に近づき、捉えた気配に、表情が変わる]
……これ……は。
[感じたそれは、数日前にも接したもの]
あれは……ティル?
それに、ハインリヒさん。
何やってるんでしょう、あんなところで。
[胸の奥が、ざわめく。
匂いが、確かに、告げている。
それを無視するように、
厭な予感が途端に沸き起こってくるのを抑えるように、
ゆっくりと、歩く。
しかしそれは、徐々に、人影の傍の地面に何かが確認できるにつれ、堪らなくなり、
駆け出す。]
[ユリアンに肩を抱かれたまま(途中で平気だと言っても放してはもらえなかった)先立った二人の後を少し離れてついて行く。
二人の様子がおかしいと、気づいたのは診療所少し手前あたり。
誰かの泣き声が耳に届いた。
微かに感じる匂いは、明方近くに感じたものに似ている様な気がした。]
[抱き寄せてはみたものの。いざ抱きつかれて泣かれるとどうしていいものかわからずに]
大丈夫…。大丈夫だ。
[そんな言葉を繰り返し頭を撫でてやるしか思いつかず。とりあえずここから離れた方が良いことだけは間違いなく]
う、うし。とにかく人を呼んでこようぜ。
二人をこのままにもしとけねーしな。な?
[ティルの手をひいて「歩けるか?」と顔を覗き込んだ]
あちらは、先生に用事がある、とか言ってたけど……。
[疑問の声への答え。
それはユーディットまで届いたか。
唐突に駆け出したその後を追い、自分も足を速める。
腕が痛むのは、傷のためか、それとも、他に理由があるのか。
そんな事を考えつつ]
[そのままエーリッヒ達の後を着いて行き。
前方の二人の異変に気付く]
……どうした?
[声をかけ、直後に漂う匂い。
思わず空いた手で口元を押さえ、眉根を寄せた。
嗚咽の声も聞こえてくる。
僅かにイレーネの肩に触れる手に力が籠り、微かに震えた]
[怖い。怖い。怖い。怖い。
心臓が早鐘のように鳴っている。
物も言わず、診療所の前に駆け込んでくる。
地面に転がった二つの体が見えて――
否応無い事実が頭に浮かぶ。
それを拒否したくて、膝をついてその顔を覗き込んだ。]
…………アー、ベル。
[しかし。
胸を貫かれた青年の顔は、昨夜から、ずっとずっと会いたかった彼のもので。
改めて、現実はユーディットに、非情な事実を告げた。]
[頭をなでられる感触にも気がついても、流れ落ちだした感情はとまらない。
手を引かれれば、ふらりと引き寄せられるように動き出す。
『歩けるか?』の問いには、まだ嗚咽がとまらずに言葉が紡げなくて。
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、顔を縦に振った]
[前を走る二人、奥に居る二人。
続いていこうかと思ったが、匂いと、その場を支配する雰囲気に呑まれ、足が竦んで動けない。]
…ユリアン、血の匂い…。
だれか、むこうで。
[肩から伝わる震えに、こちらも微か震える手を重ね置いた。]
[駆け出し、たどり着いた先。
そこに転がる、二つの体。
周囲を染める色彩は、容易に、状況を物語る]
……っ!
[しばし、言葉が失せ、それから]
この……馬鹿野郎が。
[零れ落ちたのは、掠れた声]
無理はするな、って……言ったろうが!
[苛立ちを込めたが向けられる先は明確か。
緑はしばし、青を見つめた後。
折り重なる姿へと向けられる]
アーベル。アーベル、何、やってるの。
[差し伸ばされた手は、アーベルの身体を掻き抱く。
膝をついて座り込んだまま、アーベルを横抱きにする。
深い傷が無数に付いた、血に塗れた身体。
中でも胸の傷は深く、大量の血がそこから流れ落ちていた。
それにも構わず、ユーディットは呼ぶ。]
アーベル。ねえ。
うそでしょ。
そんな、だって、そんな簡単に、探偵は、死んだりしない、でしょう?
ねえ。
[白いエプロンが、アーベルの血で朱に染まる。
くしゃ、と顔を歪ませた。]
ねえ、起きて、おねがい。
おねがいだから。
そうか。偉いな。お前は。
[ティルの頭を再び撫でて、診療所から離れようとする。その時になって初めて自分の脚も震えていることに気づく。]
…本当に偉いよ。お前は。
[空いた片手で膝を軽く叩き震える脚をごまかしならがらティルを連れて歩きそうとする。と、前方に数人こちらに向かってくる姿が見えて]
……ああ。
昨日も、嗅いだ。
[真っ直ぐ前を見た状態でイレーネに返しながら眉根が寄る。
重ねられる手に僅かハッとし]
イレーネは、行かない方が良い。
…今日の事だって、あるんだから。
[イレーネも自分同様手が震えている。
恐れを見せるその様子に、行かない方が良いと釘を刺した]
……、
[いつしか血の臭いのする場所――診療所の付近に辿り着き。ざわめくそこに近付いていく。こつり、こつりと、硬い、だがどこか浮いたような足音]
やあ、諸君。
ブリジット=フレーゲが……
[見えた数人の人影に挨拶をしかけ、途中で途切れさせる。立ち止まり、一度頭を押さえ俯いて]
ユーディ……。
[アーベルをかき抱いて呼びかけ続ける姿に、ふ、と目を伏せる。
彼女が抱く想いが何か。
それ位は察しがつくから。
けれど]
……もう、起きない、よ。
[それが現実なのも、わかっているから。
小さく、告げる]
[手を引かれるままに、ふらふらと歩き出す。
あとは、何を言われても反応を示さずに。他の人の姿が見えても、挨拶もせずに。
地面に、ぽとりぽとりと涙が落ちて、染みをつくった]
[足音に後ろを振り向くとブリジットの姿が見え。
いつもの名乗りを上げようとしたところで言葉が途切れる]
……先生?
[遠慮がちに声をかける。
声が聞こえないのか、ブリジットは頭を押え俯いている]
[答えはない。答えるはずもない。]
…………。
[泣きそうな表情でアーベルの顔を暫し見つめる。
エーリッヒの小さな声が、微かに耳に届き。形になって。
その意味がゆっくりと脳に染み込み。
――ユーディットは、アーベルの死を、受け容れた。
黙ったまま、ごしごしっと袖で目元を拭うと、その手でアーベルの目蓋を閉じさせる。
アーベルの身体を地面に寝かせると、ふら、と立ち上がった。]
[申し合わせたようにほぼ全員が診療所に集まっていることに気づき]
よ、よぅ。
[場に全く合っていない間の抜けた挨拶が口からこぼれた]
[ユリアンにはこくりと頷いて。それ以上は進まない。
青く震えたままでいたら、ティルを連れ立つハインリヒの姿が見えて、微かに頭を下げた。]
ハインリヒさん…。
[『一体向こうには何があったんですか』と口を開きかけたが、ティルの様子に問うていいのか躊躇う。]
[次いで診療所の方からかけられる声。
見れば泣くティルを連れたハインリヒの姿]
…どうも。
……その様子だと……。
[見たのかな、そう続けようとして言葉が切れた。
聞かずとも明白だろうと思ったのもあるが、何より傍らで泣くティルにまた思い出させることになりそうだったために]
……大丈夫、か?
[ふら、と立ち上がる様子に、静かに声をかけ。
それから、改めて、倒れたオトフリートを見る]
人、なのか、獣、なのか。
判断に迷う姿で逝ってくれたもんですね、っとに……。
[零れた呟きは、彼の事情を知らぬが故のもの。
いずれにせよ、人狼が倒れた事。
それは、理解できるのだが。
腕に微かに走る痛みは、何故か。
安堵を感じさせるには、至らずに]
[その視線が向かった先には、もうひとつ、地面に転がった体。
それが誰なのか。判る。
けれど、関係ない。
これは人狼だ。
それは、何より先に知れた。
首筋に突き立ったままのナイフに手をかけ、ぐっと力を込めて抜き取る。ゆら、と真っ直ぐ立ち上がると、オトフリートの体を見下ろした。]
そう。あなたが、アーベルを。
あなたが、人狼だった。
あなたがッ!!
[ナイフを振り上げる。]
…俺にはなんにもできなかったよ。
ひょっとしたら、もしかしたら、最初に診療所を尋ねた時に…止められたかもしれねーのにな。
とりあえず、俺は。
こいつを連れて宿に戻るわ…。
自警団の連中は気にイラねーが伝えないわけにもいかねーしな…。
[と、ブリジットの様子を見て]
なんなら、お前も宿に来るか?
随分調子が悪そうじゃねーか。
[少し躊躇した後で、空いている片手をブリジットへと差し出した]
ユーディ!?
[ナイフを抜き取り、振り上げる動き。
何をしようとしているのかはわかる、けれど]
……落ち着け!
もう、死んでる……終わってるんだから!
[口にした言葉には、やはり微かな違和感があるような気がするけれど。
今はそれに囚われている場合でも、ない、と思い、押し止めようと手を伸ばす]
[荷物を持った方の手は下に下ろされ、空いている方の手は頭から耳を押さえるように変えられる。ユリアンに話しかけられればゆらりとそちらを見るが、声が届いているかはわからないような風情で]
大丈夫だ。大丈夫。
大丈夫、……
[自分に言い聞かせるように繰り返し。出てきたハインリヒやティルの方も一瞥し]
大丈夫、だ。
[手を差し出してくるハインリヒにも同じ事を言う。その手を見つめるでもなく見つめるが、ふらつきながらも駆けるように、現場へ向かおうとして]
[その目には何も入らない。
その耳には何も聞こえない。
憎しみの記憶が螺旋のように立ち昇り、アーベルが殺された事実に絡みつく。
今まさにナイフが振り下ろされようとした時、エーリッヒの手がそれを止めた。]
いや……はなしてくださいっ。
[それを振り解こうと足掻く。]
だって、こいつが、アーベルを、殺したのにっ。
ゆるせないっ!!
[ハインリヒの様子に、やはり問いかけるのは止めて。
戻り自衛団に伝えると言うのに軽く頷いた。]
気をつけて…。
[口にしたが、自分でも何に気をつければいいのかは良く分からなかった。
嘆くティルには、かける言葉が見つからなかった。
ただ心配そうな視線だけを送る。]
いいから、落ち着け!
[振り解こうとするのを、押さえつつ。
何とか、ナイフを離させようと試みながら]
そんなの、俺だって同じだよ!
俺だって許せと言われたら、素直に頷けやしない!
……だけど、ここで屍に八つ当たりしたって、何にもならんだろうが!
だって、だって……でも!
[足掻く力が急に無くなり、ナイフが乾いた音をたてて地面に落ちる。ユーディットはエーリッヒを見上げた。
目から涙の筋が幾つも伝っている。]
でも、私、何もできなかった……!
アーベルを、死なせないように、何か、できたはずなのに。
なんにも。
[顔が歪む。]
なんにも……。
[大丈夫、と告げるブリジットの様子は言葉とは逆のモノではあったが。差し出した手のやり場に困って、いつものように頭をポリポリと掻く]
そっかよ。まあ、でもあんまり無理すんじゃねーぞ。…これ以上なんかあるのは御免だぜ。ほんとに。
ユリアン、イレーネ。
診療所で何があったかは…自分の目で確かめとけ。
おまえらは、もうガキじゃねーし…。見ない方がいいもんだけどよ…。でも見とかなきゃなんねーもんでもある…と俺は思うんだな。うん。
[うし、と一言気合を入れてティルを背中に負うと]
結構、おもてーな。運動不足の年寄りにゃきついかね、こりゃ。
[そう言いながら診療所を後にした]
[ハインリヒの後悔を聞き、ティルを連れて戻ると言う言葉には頷きを返す。
ブリジットはこちらに視線を寄越したが、どこか自分に言い聞かせるように「大丈夫」と繰り返すばかり]
…そうは、見えないんだけど。
[診療所の方へ向かおうとするブリジットに、一言そう向けた]
[からり、と落ちたナイフ、その軌跡を辿りつつ。
泣き顔で見上げるユーディットに、静かな目を向けて]
……それは、むしろ俺がいう事だよ。
あいつの性格を考えるなら……手の届く場所にいるべきだったんだ。
そうすれば、こうなる前に。
阻めたかも、知れないのに。
[掠れた呟きは、悔しさを帯び]
……ユーディが、そんな風に思いつめる事は、ない。
そんな風に思われても、あいつの事だから……多分、喜びはしないよ。
自分で考えて、自分で決めて、やった事だから、って。
だから、そんな風に自分を責めずに。
[な? と言いつつ。宥めるように、ぽふぽふ、と背を叩く]
[肩で息をしながらやっとの思いで宿へとたどり着く。自警団が数人まとわりついて来たが診療所での出来事を伝えると慌てたように「報告に行かねば!」と走り去って行った]
やれやれ…こいつの事とか気にならねーのかね。
此の村の自警団もじーさんが居なくなった時が終わりだったかねえ…どーにも。
[自分が泊っていた部屋のベッドへとティルを寝かせると、自分も力尽きたようにその横へと倒れこむ]
色んな事が起きすぎなんだよ…ったく。
[ここ数日で起きた様々な事が頭を巡り、そのまま眠りへと落ちて*いった*]
[びくりと、ハインリヒの言葉に身を竦ませる。
見たくなかった。だが見た方がいいとハインリヒは告げる。
足は竦んで動かないが、どうした方がいいんだろうかと。
二人を見送ったあと、ユリアンを見上げた。困惑したような顔で。]
[自分の目で確かめろ。
ハインリヒの言葉に顔を顰めた]
……簡単に、言うなよな。
[昨日アーベルが紅く染まった姿を見ただけでも足が竦んだと言うのに。
本来の現場すら見に行けなかったと言うのに。
直ぐには足が動かなかった]
ブリジットさん、無理は…。
[ふらふら奥へ行こうとする人を心配そうに見る。
だがそんなになりながらも奥に行く人をみて、やはり自分も行くべきだろうかとはどこか思った。]
[イレーネに見上げられ、深呼吸]
…見たく無いなら、見ない方が良い。
──代わりに、俺が見てくる。
[深呼吸の後に決意したことを、はきと言葉にした]
あ、や。
…一緒に行く。
[ふるふる首を振ったあと呟いて、意を決して診療所の奥へと足を一歩踏み出した。
ゆっくりと、歩く毎に覚悟は出来てくる。]
それでも、でも、私は。
っ………。
[肩を叩かれれば、再びじわりと涙がこみ上げる。
こく、と頷いて、俯いた。
手で顔をもう一度拭って。]
……ごめん、なさい。
取り乱して、しまって。
[顔をあげた。
そこにはもう憎しみの色は鳴りを潜めていて、その陰さえ見ることはできなかった。]
自衛団の人が来るまで、ここにいて、いいですか。
[その声はまだ弱々しかったが、エーリッヒの目を見てそう言った。
許可が貰えれば、その場でアーベルの横に座って、人が来るのを*待つことだろう。*]
[辿り着いた現場。ユーディットにエーリッヒ、落ちたナイフを順に見るともなく見ながら、残骸の傍へと真っ直ぐに――傍から見れば揺れていたが、真っ直ぐに歩み]
……。
[赤い残骸らを、見下ろす]
いいから。
今は、無理に何か言わなくても、いいから。
[向ける言葉は、どこまでも静かで。
謝罪の言葉には、気にしない、と返す]
……ああ、構いはしない。
落ち着くまで、いていいから。
[穏やかに笑みつつ、言って。
座り込むユーディットから少しだけ離れるのとブリジットが来るのとは、どちらが先だったか]
……ブリジット。
何か……聞こえる、のか?
[亡骸を見つめる彼女に、そう、と声をかけ]
[突然ぐるりと視界が変われば、ハインリヒの背中に背負われていた。
そのまま、背負われて宿屋に向かう。
大きな背中は温かくて、やさしくて。少しずつ落ち着きを取り戻してきた]
おっちゃん…ありがとう…
[小さな小さな声で、搾り出すように言葉を紡いで。
泣きつかれたのか、そのまま眠りに*落ちていった*]
[一緒に行くと言うイレーネ。
本当ならば止めたかったが、足を踏み出す様子に付き添うような形で隣を歩く。
ゆっくりとした歩みで進み、やがて見えてくる。
──紅に染まりし二つの姿]
……っ!
[片方は胸から、片方は首から赤き雫が流れ落ちていて。
オトフリートと思しき身体は、まるで獣のような姿だった]
…これって…。
そう言うこと、なのか?
[治まりかけていた震えが再び強まる。
オトフリートが人狼であったと言う現実。
俄かには信じられないものであった]
[一人では決して見えてこなかったろうそれを、ユリアンと共に見た。]
――――――っ、ぅ。
[アーベルの血に染まった亡骸も当然ショックだったが、それよりは、明らかに異形と化したもう一人の―ミリィの傍に居た人の姿を見て、顔が引きつり、口元を押さえた。]
おいしゃ、先生…。
[それ以上は言葉も出なかった。]
……聞こえる。
[エーリッヒの問いに少し間を置いてから答える。耳を押さえたまま、どこか彼の声を聞き取り辛そうに]
赤いモザイク。
黒き影。
交じり合い、
――怒れよ!
怒れし影は――欠けたるか!
[ノートなどを持った手を腕ごと掲げるようにして。僅かに掠れた叫びを重ねてから、ぽつりと]
……異形。
異形に殺されしと、殺されし異形……
赤き賽は……
[イレーネの様子にこれ以上は、と考え。
紅き惨劇から視界を遮るように立ち、少女を腕の中へと収める]
[自然、紅く染まった二人に背を向けるような形となり。
自分の視界からも惨劇を遠ざけた]
[後からやって来た二人には、軽く視線を向けるに止め。
ブリジットの言葉に耳を傾ける]
異形に殺されしと、殺されし異形。
[小さな声で繰り返す。
力あるもの、それもまた異形、異端と言えるのかと。
ほんの一瞬、自嘲的な笑みを掠めさせ]
……これで……終わる、のか?
[問いはブリジットへ向いたか、それとも、独り言は定かではなく]
[ブリジットが叫ぶ。
叫びの内容は理解出来なかったが、続き落とされた呟きは先程見た二人のことを示していると理解し]
…やっぱり、そうなんだ…。
[人狼が誰なのか、真実を突きつけられた。
信じがたいが、それが事実で。
不意に漏らされたエーリッヒの問いが聞こえたが、自分には知る術はなく。
何も言えずただ押し黙ったまま]
終わる。
終わるか、否か。
塔は崩れた。崩れた塔は一つか。
一つだとして。二つだとして。
黒き影は……
[エーリッヒの問いとも呟きともとれる言葉に対してか、ぼそぼそと。一歩、二歩と後ろに下がり]
留まらないのなら。
どうしたらいい。
変容が続くのなら。
[最後は独りごちるように]
[ユリアンの腕の中で、嗚咽をもらす。
辛うじて泣いてはいないようだったが、酷く怯えたように震えていた。
ブリジットの声も耳に届く。
異形、そうだこれが――人狼。
エーリッヒが言うように、これで終わるのだろうか。
これからの事を思い、震えは止まらなかった。]
[腕の中で震えるイレーネの身体を抱き締め。
首だけをエーリッヒ達へと向ける]
……ここ、任せても良いか?
イレーネを、休ませてくる。
[これ以上長居してはイレーネの負担が大きいと判じ。
この後来るであろう自衛団の対応などを頼む]
[ぼそぼそと、途切れた言葉は相変わらず抽象的で。
下がる様子を見つめつつ、一つ、瞬く]
変容が、続くのであれば……。
[それは、終わらない、という事か、と。
口に出しはせずに]
……ああ。
ユーディの事もあるし、ここは引き受ける。
[ユリアンの方を見て、一つ、頷いた]
[頼む、とエーリッヒに返し。
腕から解放したイレーネを促し、診療所から離れていく]
[未だイレーネが嗚咽を漏らすようなら、宥めるように、慰めるように、その背中を擦りながら歩を進める]
…すみません。
[エーリッヒとユーディットに聞こえるかどうか、掠れた声でそう告げて。先に診療所を出て工房へと戻る。
人狼が死んだなら、明日は娼館に戻れるのだろうか。
そんな事をぼんやりと考えながら。
ユリアンの腕の中は、やけに温かく*感じられた。*]
……大丈夫、か?
[工房へ戻ると整えたイレーネの部屋へと連れて行き。
イレーネが落ち着くまで、その傍に*ついていてやった*]
[そのまま残骸からある程度離れた。壁際の方に、それでも残骸は目に映る程度のところに膝を抱えて座り込み]
……。
[俯きがちに、一人ぶつぶつと呟き始める。絶えず、やがて自衛団員が来て問いかけてきたなら、「異形に殺されし」「殺されし異形」「塔は崩れた」などと、とりとめのない言葉を繰り返し。
団員から開放されれば、またどこかへと消えていった*だろう*]
[立ち去る二人と入れ代わるように、先にハインリヒから連絡を受けた自衛団がやって来る。
後から来たため詳細な状況はわからぬものの、二人が争い、相打ちになったらしい事など、可能な範囲で説明して]
……取りあえず、亡骸の安置は頼んでいいんだろ?
ああ、それと。
伝承によると、人狼の血は長く触れたり体内に取り込むと色々と危険らしいから。
くれぐれも、亡骸におかしな事はしない事をお勧めする。
[人狼の屍にやや興奮気味の自衛団員たちに軽く、釘を刺し。
場が片付くのを見届けたなら、はあ、と一つ息を吐く]
……さて。
俺たちも帰ろう、ユーディ。
[団員達が去り、ブリジットもどこかに消えると、静かな声で促す。
その歩みがふらつくならば、支えつつ。
先の事への暗い考えは、*ひとまず押さえ込んで*]
[アーベルの横に座り、彼の頭を膝に乗せる。
俯いて、さらさらとした髪を撫でながら、周りの音を聞いていた。
アーベルのことをどう想っていたのか。
まだ、自分の中でも曖昧だった。
惹かれていたのは確かだけれど――
――それをはっきりさせたくて、彼に近づいていたのかもしれない。
今、失ってわかるのは。
胸の中に、ぽっかりと穴が空いたような感覚。
これを、喪失感、っていうのかな、と、うつろな頭が呟いた。
到着した団員たちに、アーベルの遺体を引き渡す。]
……お願いします。
[ゆっくりとお辞儀をして、運ばれてゆくのを見守った。
ふ、と気付いて足元を見れば、そこには青い丸石のピアス。
アーベルの瞳の色に似ている。
拾い上げて、そう思いながら眺めていると、背中にエーリッヒの声がかかった。]
はい。わかりました。
[エプロンのポケットにピアスを入れて、エーリッヒへと振り返る。
足元が妙にふわふわとして、道中、幾度か転びかけたが、エーリッヒに支えて貰ってなんとか家まで辿り着いた。]
[水場に行って、血塗れになったエプロンを洗う。
そのポケットから取り出されたのは、ピアスと。
あの、刃。]
ねえ、アーベル。
[放置されたエプロンを流水が揺らす。
朱色が透明な水に交じる。
銀に光る刃を翳して、ユーディットは宙に問う。]
これで、終わったのかな。
[静かな声。]
それとも、まだ、終わらせないと、いけない――?
[*水音が、響いていた。*]
[コツリと額に何かあたる感覚がして目を覚ます。なんだろうと手を伸ばしてみれば、ティルの腕が額に当たっていたらしく]
…あぁ、そっか。あのまま寝ちまったんだなあ。
[ティルの手を毛布の中へと入れてやり階下に降りると宿の台所から適当に果物と飲み物を見繕ってカウンターに紙幣を一枚置いた]
もう…ほんとは意味ねーんだけどな。
でも、まあ…いいよな。これで。
[果物と飲み物を部屋へと持ち込むとメモを一枚破って共にテーブルの上へと置く]
『ティルへ。おっさんはちょっと出かけてくる。すまねえな。これでも喰ったり飲んだりして元気だしとけ。おっさんの奢りだ。』
[独りにするのは少し心配ではあったが、自警団の独りに事情を説明し「ティルに何かあったら元居た新聞社にタレコミしてテメーの人生めちゃめちゃにしてやるぞ」と脅しておいた]
[宿から出てみれば、これまではそれなりにあった人の姿がほぼ見えず。おそらくは数度の被害が出た事で他の村人達は自宅に閉じこもっているのだろう]
まるでゴーストタウンだな。これじゃ…。
見た目だけはいつもとかわらねーのに、静かってのはなんともいえねー不思議な感じだよなあ。
[外に出てみたはいいが、特に目的地があるわけでもなく容疑者と言われた者達の家でも回ってみるかと考えた]
[どれだけ時間が経っただろう。
新しい服とエプロンを身に着けて、いつものように家事をこなしながら(そう、何があっても、例え大切な人が死んだとしても、やらなければいけないことは毎日山のようにある)、ふう、と溜息をつく。
今日だけで何度溜息をついたのだろう。
どんどん沈んでゆく気持ちに、ずるずると引き込まれそうになる。]
でも、エーリッヒ様も、同じ気持ちだったはず。
[掃除をしながら、モップの柄をゆるく握る。]
私だけ、こんな風になってたら。
申し訳ないじゃない。
しっかりしなさい、ユーディット。
[気合を入れなおして、モップをかける。
しかし放っておけばまた心は沈んでゆき。]
……駄目だ。これ。
[気分転換が必要だ、と判断し。掃除が終われば書置きを残して外に出た。]
[エーリッヒとユーディットの二人はどうしてるだろう?診療所で会うことは会ったがろくに会話もせず仕舞いだった]
…もう戻ってる頃かねえ?
[ブラブラとエーリッヒの家に向かっていると、丁度家から出てくるユーディットの姿が見えた]
よぉ。もう戻ってたんだな。
[軽く手を挙げて挨拶をする]
[どこに行こう。どうしよう。
何もアイデアはない。
玄関に鍵をかけ、家を出て暫く行ったところで、向こうから人影が来るのが見えた。]
ああ……、ハインリッヒさん。
[挨拶されればぺこりとお辞儀をして返し。]
どうしましたか。お散歩……ですか。
[笑ってみせるが、まだその表情はいつも通りには戻れていない。]
-工房-
[気がついたら疲れのためか、眠ってしまっていた。
目を覚ますと隣にはユリアンが同じように眠っていて。
一晩中見てくれた事を申し訳なく思いながら、腕を潜って体を起こした。
崩れた服を調え、脇に置いておいた薬瓶を胸にしまうと、顔を洗いに水場へと向かった。
顔色は少し、悪い。]
お散歩ってほど暢気な状況でもねーけどな。
まあ…実際んとこは散歩してるだけなんだけどよ。
[そう言って苦笑い。ユーディットの表情がやや硬い事に気がついて]
そっちはあんまり元気がねーみたいだな。
いつも坊ちゃんを怒鳴り散らしてる元気は何処いったんだ?
[ん?と顔を覗き込みニカと笑ってみせる]
そういえば、そうですね。
いえ、でも……よく、わからないです。
[暢気な状況、という言葉に、ゆっくり首を横に振る。]
もしかしたら、もう終わったのかもしれませんし。
自衛団の人は、相変わらず……警戒はしてるみたいですけど。
[視線が遠くなる。
その先には、こちらを観察するように見ている自衛団員が一人。
ふっと目をハインリヒに戻した。]
ええ、まぁ、あんまり元気がある、とは言えませんね。
殺された人のことを……考えると。
[少し俯く。]
まぁ…な。
[殺された人という言葉に少しだけ表情を曇らせて]
どーなんだろうな。
人狼は結局…先生さんだったわけだろう?
ならもう騒ぎは終わったんだと思うんだがな。
自警団の連中も他に仕事はねーのかね。
給料くれるんなら俺が変わってやりてえよ。
[後半はわざと聞こえよがしに大声でいい、舌をぺろりと出す]
元気でねえ時はな。『空元気』ってのを出すんだよ。
[そういってユーディットの頭をポフポフと撫でる。その手は少しだけ震えてはいたが]
[顔を洗ってから、暫くユリアンが起きるのを待っていたがその気配は見えず。仕方なく手紙を書いた。
文字はあまり上手くないが、
『外に出てきます
エーリッヒさんが『視れた』よ』
と書かれたそれをユリアンの目に付く所に置いて、外へと向かう。
それだけ書いて、その場を離れれば察してくれるだろうと思いながら。]
…まだ、終わりじゃない。
[ぽつりと呟く。
良くない顔色のまま、向かう先は宿の方。
そこに皆あつまってればいいなと、限りなく薄い期待をしながら。]
[俯いた顔を上げる。]
人狼が一匹だけなら、お仕舞いでしょうね。これで。
でも、一応、他にも居る可能性はありますから。
[考えるのはイレーネのこと。
彼女が真に力を使う者ならば良い。
けれど、もし人狼の声が聞こえる人間だったなら。
もし、オトフリートの仲間だったなら。
まだ、オトフリートに仲間がいるのなら。]
[舌を出すハインリヒの様子には、自然な笑みが零れた。]
空元気ですか。
そうか……。病は気から、ってやつですか? ちょっと違うかな。
[頭を撫でる手の震えには、気付いたものの、黙っておく。
この人も辛いんだ。と、それだけはわかった。]
ハインリヒさん、そういえば昨日はティルと一緒だったみたいですけど……あの子は?
―朝―
[目を開ければ、どこかわからない場所]
ここはどこだろ…
[眠い目を擦りながら、あたりを見回してみる。見慣れないベッド。テーブルの上におかれた果物と飲み物。
段々と意識が覚醒する。それと共に思い出す、昨日の出来事]
…オト先生…
[獣の毛に覆われた姿。それは間違いなく狼の証]
そっそ。塞ぎこんでたら身体の方もやられちまう。
だから、元気だしてりゃいーんだよ。うん。
[ティルの事を尋ねられれば]
ああ、ティルなら宿の部屋でまだ寝てるんじゃねーかな。寝顔みる限りは少し落ち着いてるみてえだが。
一応…宿の台所から果物と飲み物はもっていってやってるから起きたら適当に食うんじゃねえかな。
あ、金は…ちゃんと払っておいた。うん。
[人狼がまだ居るかもしれない可能性については]
どーだろな。イレーネが見分ける力持ってるんだろ?ならまだ居るならあいつが見つけてくれるかもな…。まあ、もういねえと信じたいが。
あ、そだ。お前さん手が空いてるなら、ティルに飯でも作って…いやなんでもねえ。
先生が…狼…
[信じられない、信じたくないけれど。見てしまったものは、真実。
重い心と身体を引きずるようにベッドから降りれば、テーブルの上の手紙に気がつく]
おっちゃん…
[何も食べたくはないけれど、ハインリヒの気持ちを無駄にはできなくて。ジュースに口をつけた]
-宿-
[自衛団の影が何人か見えたが、宿に入る事自体は問題がないようだった。
主の居ない宿はさながら檻の代わりなんだろうかと、ふと思いながら。
ぎぃと、扉の音を立てて入るが、すぐ中に人の気配は無かった。]
…誰も、居ない?
[ふらりと、中へと入る。
少しだけ、ユリアンとくれば良かったと思ったが後の祭り。
ことりと、何処かから音が聞こえたので、慎重にそちらの方へと向かっていく。
音は、二階の部屋の中からしたようだった。]
んー、……そういうものかも、しれませんね。
よし、じゃあ私元気になります!
……なる、努力はしてみます。
[小さく笑う。]
イレーネさんが、本当に力の持ち主だったら良いんですけど。
[その呟きもまた、小さく]
ああ、宿に泊まってるんですか。でも、その方がいいのかもしれませんね。あの子、家に居ても一人みたいだったし……。
ん、……あんまりショックが大きくないといいんですけど。
[ふ、っと息をついた。
提案には瞬きして。]
ご飯ですか? いえ、それは全然構いませんけど。
そういえば私、あの子に食事に招待するって言ったっきりでしたね。
[数日前、ティルと交わした約束を思い返す。]
[1杯のジュースすら碌に飲みきれずに、半分口にしてテーブルに置いた。
そこへ、こんこんとドアを叩く音がする]
だあれ?おっちゃん?
[部屋の主が戻ってきたのかと思い、入り口の方を向く]
[夏の鋭い日差しが瞼を刺す。
眩しげに眉根を寄せ、陽の光を遮るように手を空中に彷徨わせる。
眠りから目を覚まし、傍らに視線をやると、傍で眠っていたはずのイレーネの姿が無い]
……イレーネ……?
[寝ぼけたような掠れた声で名を呼ぶも、返事はなく。
緩やかに身体を起こし、寝乱れた服を直した。
視線を巡らすと、眠る前には無かった紙切れが一枚置かれているのが目に入り。
手元に引き寄せ、内容に目を通す]
……エーリッヒを、視た……?
え…待てよ、それって……。
[寝起きだった頭がフル回転する。
イレーネの視る力が消えていない。
そこから引き起こされる結論は唯一つ。
慌ててイレーネを追いかけようと思ったが、どこに向かったかまでは書いておらず。
とにかく工房を出て歩き回ることにした]
ん?イレーネが嘘ついてるかもって事か?
そりゃあ、その可能性が無いともいいきれねーけど何のメリットがあるんだ?それ。
[暫く俯いて考え込んだが、続くティルへの食事の事を聞いて慌てたように]
あ、いやいや。ヒマならってんで言ってみただけだ。今はまだ忙しいだろ、色々と。うん。
食事に招待うんぬんは騒ぎが終わってからでもいいじゃねーか。な。
[と、慌てたように取り繕い]
ま、少し元気が出たみたいで良かったぜ。
まだたりねーようならおっさんが分けてやってもいいけどな?
[と、ユーディットの腰の辺りに手を伸ばして軽く撫でた]
ティル?
[中の小さな気配からおそらくと予想はしていたが、声で確認が取れたのでそっと中へと入る。テーブルの手紙には気がついた。]
おはよう。ハインリヒさん、居ないんだ。
…具合、どう?
[昨日憔悴しきっていた少年に、心配そうにそう尋ねる。]
─自室─
[ぱたむ、と音を立てて伝承の書物を閉じる。
緑の瞳には、微か、険しい色彩。
書物はテーブルの上に投げ出し、開け放った窓の窓枠に寄りかかるように腰を下ろした]
……まだ、終わったようには思えん……な、やはり。
終わったんだとしたら……。
[呟きつつ、軽く撫でるのは左腕、傷と痣のある辺り。
そこは、微かな熱を帯びて]
終わっていないなら、俺のやるべき事は決まってるようなもんだが……さて。
問題は……。
[未だ人狼が残るとして、それが誰か、という事。
見極めるものは既になく。
もう一人の力の真偽は読めぬまま。
どうやって捜したものか、と、零れるのは騒動が始まってから数える事も面倒になってきた、ため息]
イレーネ…姉ちゃん…
[自分の名を呼ぶ声に軽く返事を返せば、見慣れた女性が入ってくるのが見えた]
うん。おっちゃん、出かけたみたい…
[大丈夫かと聞かれれば]
うん…多分、大丈夫。姉ちゃんも無理してない?
[言葉とは裏腹に、弱弱しい声で返事をする]
そうです。
[アーベルのことを言ったものかどうか。迷う。
迷った末に、エーリッヒに相談してから、と決める。]
人狼が、ただそういった力を放っておくかな、って疑問があるんです。伝承にも出てくるような力らしいですし、それだったら、対策をとってくるんじゃないか、って。
[曖昧に返して、軽く肩を竦めた。]
忙しいって言っても、そんなでもありませんよ。こうして散歩に出ることもできますし。あ、良かったらハインリヒさんも一緒にいかがですか?
[ハインリヒが慌てる様子には気付かずに笑顔で誘い]
……きゃっ!!
[ハインリヒから飛び退いて離れた。]
もうっ、そういうことはやめてくださいって、前も言ったじゃないですか!
[むう、とハインリヒを睨む。]
[悲鳴を上げて飛びのくユーディットを見て笑いながら]
ワリワリ。おっさんだからすっかり忘れてたわ。
まあ、飯の事はまた今度でいいぜ。
正直今は…あんまり喉とおりそうにねえしな。
[そういってやんわりと笑う]
イリーネの力が本物なら…狼がほっとかない…か。
けど、伝承が本当なら、そういう力を持った奴がいるはずだろ?イリーネが偽だとして、じゃあ本物はどこにいるんだ?
[診療所で現場を見てからは、自宅に戻り、書斎の隅で座り込んでいた。床に置いたノートや周囲の本、窓の外の夜空を時折目に入れつつも、ただ茫然と。
何かと呟く事は普段以上に多々あったが]
……、
[いつの間にか窓から日が差し込んできていた。途中、幾度か転寝もしたかもしれないが、睡眠らしい睡眠はしないままに。
家を後にし、どこへともなく歩き始めた]
そっか、何処いっちゃったんだろうね。
私は……無理は、うん。してないと、思う。
[恐らく顔色は悪いが、少年に心配かけまいと小さく微笑む。
弱い返事には、少し迷ったがそっと頭を撫でた。
かける慰めの言葉は見つからず、これから伝えようとする言葉はあまりに残酷だったから。]
…あのね、ティル。
ハインリヒさんにも…エーリッヒさん達にも伝えるつもりではいるんだけど。
[伝える時は、ハインリヒと一緒の時がよかったが。
もうそんな余裕もきっとない。]
…まだ、人狼は、どこかに居る。
終わってない、の。
[声の震えは、さすがに抑えきることは出来ない。]
さて……どうするかな。
[いつもなら、気晴らしに散歩をするか曲を創るかする所。
しかし、今となっては曲を創る気にはなれなかった。
完成させる意味が、自分の中に既にないから]
……少し、歩く、か……。
[掠れた声で呟いて、部屋を出る。
ユーディットの姿はなく、書置きがあるのみで]
……まだ、落ち着いてないかな。
ま、仕方ないか……。
[小さく呟き、一応玄関には鍵をかけて、ふらりと外へ。
夏の日差しの下、植物の息吹は強く。
しかし、人のそれはあまり感じられないように思えた]
次やったら承知しませんからね!
[冗談ぽく、厳しい表情で言い渡し]
じゃあ、また今度。
ティルも一緒に、是非来てください。
……ちゃんと食べないと元気も出ませんよ?
……ええ、本物は。
[鋭い台詞に、少し、言葉に詰まる。くるくる、と頭が回る。
ここでわからない、などと返して、後で、実はアーベルが、などと言っても到底信じて貰えないような気がした。
腹を括る。]
……実を言うと。
前に二人で話したとき、アーベルも、人狼を見極める力があるんだ、って言ってたんです。
襲われる危険があるから、表立って話しはしませんでしたけど。
アーベルによると、イレーネは人間、だそうです。
昨日、オトフリート先生と……その、あんな形になってたのは、たぶん、先生を視に行ったからなんじゃないか、と思うんですが。
ああ、もうやらねーよ。うんうん。
[にやけた顔のままうなずいて見せ、続く言葉に顔が曇る]
アーベルにも力があったってのか…。で、その力が本当ならイレーネは人間…でも人間なら嘘つく必要もねえだろ。普通に考えるなら力もった奴が二人居たって事なんじゃねえのか…?
それに…もしアーベルが力持ってて、襲われる危険があるから表だって言えないっていってたんなら、なんでわざわざ危険冒して先生さんを単独で見に行って喰われてるんだ?
[頭をボリボリと掻いて顔をしかめる]
あー、くそわかんねーな!
伝承やらなんやらは俺はさっぱりだからなぁ…。
詳しい奴誰かいねーのか。その辺。
……っと。
[家を出て、少し進んだ所で目に入ったのは人影二つ]
あれは、ユーディと……ハインリヒさん、か。
[そこにいるのが誰かを認め、そちらへと歩みを進める]
ある意味、珍しい取り合わせだけど。
和やかに世間話……って感じでは、ないかな?
おっちゃんなら、大丈夫だろ…
[顔色が悪いにもかかわらず、微笑みながら頭をなでるイレーネの姿に、小さく『ありがと』と答える。
そして、続く話を聞いた]
そう…なんだ…
オト先生だけじゃ…なかったんだ…
[『先生』と名を呼ぶ度に、言葉に悲しげな色が混じる]
ハインリヒのおっちゃん、エーリッヒ兄ちゃん、ユーディ姉ちゃん、ユリアン兄ちゃん…
[容疑者の中から、能力者以外の人を思い出す──複数の能力者がいる、ということを知らされていないティルには、イレーネとブリジットを疑う理由はない──]
[みんな親しい人だという事に気がつけば]
……うそだろ……
[愕然として、身体を振るわせる]
それが、人間でも人狼に惹かれて、
[顔を僅かに顰めた。]
それで、人狼の声が聞こえる者もいるんだそうです。
だから、人間だからって完全に信用できるわけでもなくて。
それに……2人も同じ力を持つ人間が出てくるなんて、そんな可能性は、とっても低いと思いませんか。
ない、とは……言い切れませんが。
アーベルがわざわざ独りで行った理由は、わかりませんけど。
視てもバレない、と思ったのかも。
[もしくは。バレたって、死んだって、構わなかった?
ふ、と心の中に暗い考えが浮かんで、振り払う。]
伝承は……んん、エーリッヒ様も詳しいようでしたけど。
[足音に気付き、振り返る。]
あら、噂をすれば。
お、よ、よう。
エーリッヒも家にいたのかよ。
[先ほどセクハラした手前やや気まずい]
[ユーディットに軽く目配せする]
『アーベルの事をエーリッヒは知っているのか?』と。
[ハインリヒの目配せに気付けば、頷いて、声に出して言う。]
大丈夫ですよ。エーリッヒ様にはもう話してあります。
……信じられる人間だ、と推理しましたので。
[にこりと笑った。]
[姿が見えぬイレーネを探し駆ける。
あの書置きがある以上、娼館に戻ると言うことは考えられず。
誰かに結果を伝えに言ったのだろうかと人気を探した]
噂をすれば……って、何かあったのか?
[ユーディットの言葉に、緩く首を傾げ]
……でかける宛も、ありませんしね。
家にいる以外、どこにいればいいのかと。
そちらは、お散歩ですか?
[気まずげな理由はさすがにわからず。問う表情はどこか、きょとり、としたもの]
[ユーディットの言葉に安心したようにため息をつき]
ああ、そうか。それならいいんだけよ。
[と、エーリッヒの方へと向き直り]
最初は散歩程度だったんだけどな。
ユーディットと色々話してるうちに、知らなかった事知っちまってな。頭が混乱しまくってんだが、整理するには…伝承やら何やら知っとく必要があると思ってよ。
昔、新聞社に居た頃に人狼ネタを扱ってるゴシップ部門はあったが…馬鹿にして全く読んでなかったからなあ…。
[ため息と共に宙を見上げる。あの時、古臭い書物に埋もれながらゴシップを書いていた記者の事を思い出していた。確かピーウィーとか言ってたか。]
ハインリヒさんに、アーベルのことを話していたんです。
[首を傾げるエーリッヒに説明する。]
迷ったんですけど……。
でも、アーベルはもう、……居ませんから。
危険はない、ですし。
[ハインリヒの返事と、ユーディットの説明に、ああ、と短く声をあげ]
……なるほど。
確かに、いつまでも情報を止めておいても仕方ない、か。
[呟きつつ、右手で軽く、傷と痣の辺りを押さえる。
熱はまだ、引かない]
伝承に関しては、家に本があるんで、必要ならお貸ししますよ。
俺も、それなりには叩き込まれてますしね、親父殿に。
[ハインリヒに返しつつ。
そんな記事書く連中がいたのかよ、などとふと考えていたり]
[やがて辿り着いたのは、広場。村中がそうだが、起きる前と比べると奇妙な程に閑散としている。宿の方を一瞥しながらも噴水の前で立ち止まり、両手を天に掲げるようにして]
嗚呼。
戒を破りたるには影が落ちよう。
戒とは何か。契約だ。本質として定められし事だ。
影とは何か。――永続だよ!
望まれぬ永続だ!
なんという恐ろしい事だろう。
そう思わないかい。思わないかね。それも……
ああ、それでも、恐ろしい事だ!
[無視をする人物すらいない中、演説を始める。それから暫くの間は、何があってもひたすら喋るのをやめずに。その耳には、朽ちたざわめきばかりが聞こえているの*だろう*]
[ティルに緩く首を振って。]
…私が『視る』力は…時が来るまで使えなくて、でもその"時"が来ている間はずっと使えるの。
昨日はノーラさんを視た。ノーラさんは…うん、人。
…お医者先生だけが人狼だったら、今日はほんとうは視ることは出来なかったと思う。
[オトフリートの名を呼ぶ声に、沈んだ色が入るのを見て少し胸が痛んだ。それでも、続けなければと言葉を紡ぐ。]
だけど、今日はエーリッヒさんが見れた。
…エーリッヒさんは人だった、けど。
視れるっていう事は、まだ終わってないって事、だと思う。
[ティルの中に、狼の可能性のある人は何人いるだろう。
残った人、具体的に誰が、とは流石に言わなかった。―半ば意図的に。
体を振るわせるティルを、抱き寄せ慰めるように背を撫でた。
自身も微かに震えたままで。]
ああ、書籍があるなら貸しといてくれねーか。
それと…情報を隠しとくのは場合によっちゃ得策だが。こういう状況じゃあまり得策とはいえねーな。
疑心暗鬼が渦まいてパニック起こすのは人の常だしな。
それと…ぶっちゃけた話。その伝承とかを知ってる立場として今の状況どう見るよ?
[メモとペンを取り出して、まるで取材のような構えを取る]
[事が起こった現場へ行くだろうか。
そこから宿屋へ向かう可能性は低く考えた。
他に人が集まりそうな場所はどこか考えながら道を駆ける。
途中、頭を付き合わせる3人の姿を見た。
探している姿は無かったが、何か知っているかもとそちらへ駆け寄る]
…っは。
……なぁ、イレーネ、知らないか……?
[上がった息を整えながら、会話するエーリッヒ達へと声をかけた]
[息のあがったユリアンの口からイレーネの名が出て少し顔を曇らせる]
イレーネか…?俺はみてねーけど…。
いないのか?
というか、何かあったのか?
[ユリアンの様子と今までの話の流れから、何かあったのでは…という予感が頭をよぎる]
[エーリッヒ様のお父様が。
と、ちょっと目を丸くして呟いたが、そこにはそれ以上触れず。]
[駆け寄ってきた見慣れた人影に、おや、と振り向く。]
ユリアン。
いえ……見てないけど。一緒じゃないの?
ええ、なら、家に寄ってってください。
まあ、隠しすぎはまずいと思ってたんですが……さすがに、状況が読めなさすぎましてね。
[掠めるのは、苦笑。
それから、投げられた問いにそれを消して]
見極める力を持つと宣した者と、死者の声を聞く者を名乗った人狼が共に倒れた。
ここから推察できるのは、両者が協調関係になかった、という事。
伝承においては大抵、見極める力を持つ者は一人ずつ、とされている所からして、今、残っている者たちの真偽はある程度ははかれますかね。
[ここまで告げた所で駆け寄る気配に、そちらを振り返り]
や……いや、俺は見ていないけど。今さっき、出てきたばっかりだしね。
[息を飲むようにして呼吸を整えてから]
…起きたら、居なくなってた。
書置きは、あったんだけど。
『エーリッヒを視れた』って…。
イレーネの視れる力は、その騒動が終わるまで続くらしいんだ。
昨日の…医者先生が今回の騒動の原因なんだったら、イレーネはもう視れないはずなのに…!
[焦りの色が浮かぶ。
一人にしてはならないと心が警鐘を鳴らす]
俺にはどーしてそうなってるのか…よくわかんないけど…
悲しいことはまだ続くってことなんだね…
そう…昨日はノーラ姉ちゃんで…今日はエーリッヒ兄ちゃん…視てたんだ。
[エーリッヒを疑わなくてよいと言うことはわかったものの。つまりは残りの中に狼がいるということは解り、複雑な表情になる]
[抱き寄せて背中をなでられれば、イレーネが微かに震えているのをを感じる。
何もいわずに、しばらくぎゅっと抱きつき返していたが。
少しだけしっかりした声をだし、イレーネに向かって話しかける]
イレーネ姉ちゃん…これ、みんなに言わないと。
終わってないのなら、終わらせないと、いけないから。
[また悲しい事は起こるのだろう。そんな予感を感じながらも、イレーネを軽く抱きしめた]
[エーリッヒの説明に、オトフリートが(皮肉なことに)死ぬ直前に、自分もブリジットと同じ力を持っていると宣言していたことを思い出した。色々ある中で、すっかり忘れていた。]
ということは、ブリジットさんは信じることができそうですね。
ブリジットさんも人狼なんだったら、わざわざ先生が対抗するように名乗る理由がありません。
イレーネさんのことは、……そうですね。
可能性は低い、ですものね。
[低い可能性。
アーベルは人間だと言っていた。
でも狼の味方をしている可能性は高い。
狼が誰なのかは判らない、しかし……。そうか。
考えたところで、ユリアンの声が耳に入る。]
終わって、ない。
[そうか。]
[駆けて来たユリアンの言葉に、緩く首を傾げる。
自分を視た、というのは少し意外で、同時に僅かに身構えもするのだが、それは出さず]
村からは出れんし……今、行けそうなのは、宿くらいじゃないのか?
[主たちはいないけれど、と呟いて]
……ああ、彼女はね。
あの態度というか物言いのお陰で、さっぱりと読めんのがなんなんだが。
[ユーディットの言葉には、一つ頷く]
[わかんない、と言ったティルに、ほんの僅か微笑んだ。]
…私にも、分かんない。
この力は、父さんから受け継いだけど…昔から伝わってるもの、としか聞いてないし。どうしてこんな風な力なのか、なんて。
…うん、続く。続くと、思う。
[終わらせないと、というティルには、こくりと小さく、はっきりと頷いて。]
そうだね、終わらせないと。
[これからどれだけ血が流れるかは分からないが。
それだけは心からの願い。
複雑な表情のティルを撫で続けていたら、逆に励まされるように抱きしめられた。
ミリィの時と同じように、温かいと、思った。]
ティル…ありがとう。
…よかった、ここにティルだけでも居てくれて。
[誰も居なかったら本当に無駄足であった。]
アイツ、一回襲われかけてるんだ…。
一人になんかしたら…!
[うろたえた様子で言葉を紡ぐ。
宿、と聞けば焦る表情に狼狽も乗せて]
…現場には行かないと思ったけど、そうだな。
居るかも、知れない。
[最初に可能性を排除した宿屋へ向かおうと思い立つ]
もし終わっていないなら。
ぐずぐずしては、いられないですよね。
[エーリッヒに向け、問う。]
確かに、イレーネさんは読めません。
でも、可能性が低いなら、そこから当たるべきじゃありませんか。
[ユーディットの問いに逆に驚いたような表情になり]
…自衛団から聞いてないのか?
……娼館の、イレーネの部屋で、娼婦が一人殺されたんだ。
獣の爪痕をいくつもつけられて。
あの時、イレーネは別のところに居たから助かったんだけど…。
その娼婦が、イレーネと間違って襲われたかもしれないんだ。
……襲われかけてる?
[うろたえながらの言葉に不思議そうな声を上げる。
娼館で死者が出た、という話は聞いていなかったから]
ああ、そうだな。
終わっていないなら……終わらせないと。
[ユーディットの言葉に、一つ頷いた。
それが自身が父から受け継いだ役割でもあるから、と。
それは、口にはせぬままに]
……ん。
とりあえず、当たってみるべきかも知れんな。
イレーネとは、ちゃんと話す機会も少なかったし。
いえ、初耳です。
ミリィさんと、ノーラと、エルザさんのことは聞きましたけど。
[ユリアンに首を振ってみせる。
説明を考え込むように、顎に指をつけて聞き。]
……うん、なるほど。でも、
人狼は私たちの中にいるのでしょう?
この、よく見知った者同士の中に。
もしそうならば。
誰かを間違えて襲ったりしますか?
…見知ってるからって、間違えない保証なんてどこにある?
普段生活してたって間違えることは多々あるじゃないか。
[ユーディットが何を言いたいのか意図が分からず、訝しげな表情で見やり、首を傾げる]
[ユリアンの説明と、ユーディットの疑問。
それらを聞きつつ、腕を組んで思案を巡らせる。
娼館での襲撃が何を意味するのか。
考えられる可能性は、幾つかあり]
……警告……あるいは。
何かの、偽装。
[ぽつり、呟く。
イレーネが本当に見極めるものであるならば、それを知った上での警告はあり得るだろう。
そして、彼女が囁きに繋がるものであるならば。
襲われかけた、と見せる事で関わりはない、と思わせようとした可能性も捨てきれず]
……ま、なんにしても。
道端で推論ぶつけあってても仕方ないし、落ち着いた所で話をした方がいいんじゃないか?
[ぐるり、場にいる面々を見回しつつ、提案する。
左の腕は相変わらず、*疼くような熱を帯びていた*]
[僅かながら微笑むイレーネの言葉に]
そっか…姉ちゃんもわからないんだ。不思議だね…
[イレーネがこくりと頷く姿に、『ありがとう』の声に、強張っていた顔が少しずつ緩む]
姉ちゃん…俺の方こそ、ありがとう。
[大きな丸い目がゆっくり細まり、僅かな微笑みが浮かんだ]
落ち込んでる場合じゃないんだよね。終わらせないと。
[一度笑えれば、あとは空元気でも、それなりの表情を浮かべられる]
これからどうしよう…みんなに知らせないといけないんだろうけど、みんなどこにいるんだろ…探しに行くかぁ…
[イレーネに向かい、そっと手を差し出す]
一緒に行く?
確かにそうですが、でもイレーネさんがもし視る者なのだとしたら。
人狼にとっては、「ちょっと間違えて他の人襲っちゃった」じゃ済まないと思いますよ?
普段の生活で間違えるならともかくとして、ね。
もっと注意深くやる筈でしょう。
[エーリッヒの「警告」という呟きには首を傾げた。]
悠長に警告出してるぐらいなら、私が人狼だったらイレーネさん自身を襲撃します。
村が封鎖されてるこの状況じゃ、次どうなるかわかりませんし。
[肩を竦めてみせた。]
ともかく、私もイレーネさんに聞きたいことがあります。
一緒に探しませんか。
偽装って…。
何で、偽装する必要があるんだ?
[エーリッヒが漏らした言葉に疑問を投げかける]
イレーネは見極める力があるんだ。
人狼に襲われる可能性は高い。
警告ならともかく、何で偽装する必要なんか…。
[分からないと言うような表情を向ける。
もう一人視る力を持つ者が居たのを未だ知らぬために。
落ち着いた場所で話し合おう、と告げるエーリッヒの言葉を聞いて]
…それじゃ、宿屋に行って良いか?
イレーネが、居るかもしれない。
[他の者にもそう訊ねかけた]
そんなの、俺には分からねぇよ。
襲われたってのも、その場で見たわけじゃないし。
襲った人狼にしか、そんなこと分からない。
[やはりユーディットの意図は読み取れず。
訝しげな視線ばかりが向かう。
元より人との交流が少ないのも、読み取れない原因となっていたか。
イレーネを探す、との言葉には、素直に頷く。
今一番心配なのは、イレーネの安否]
[訝しげな表情を向けるユリアンに、真っ直ぐに視線を向ける。]
ええ、実際どうなのかは私もわかりません。
でも……何だかおかしい、と、思うんです。
それは、考えるヒントになるでしょう?
そして考えたことは確かめに行かないと。
私には何も視えませんから。
それじゃ行きましょうか。
[言って、共に宿屋へと*歩き出す。*]
[徐々に穏やかさを取り戻すティルに、微かに笑んで。
終わらせないとというティルに、こくと頷く。]
そう、だね。
何処なんだろう。みんな、家なのかな…?
[エーリッヒらとブリジットには生家がある。
そこから出てはいないんだろうかと思いながら。
どこかまだ、何時もとは違い力ない表情を浮かべるティルから、差し出された手を、ぎゅっと握って。]
…うん、行こうか。
[そう、どこか嬉しそうに微笑んだ。
震えは段々と、収まっていた*ようだった。*]
…考えるヒントにはなるかも知れないけど。
他人の思うことすら分からないのに、相手の考えを推測して、間違ってたら…。
確かめて真実が掴めたら良いけど、分からないままで正しい道から逸れちまったら…?
[不安げに瞳が揺れる。
はっきりと物を言うユーディットに、何故か逆に不安を覚えた。
分からないことだらけなのに、何故こうも真っ直ぐに居られるのだろう、と。
イレーネを心配するのもあって、ゆらゆらと心が揺れる。
行こうと言うユーディットに頷き、皆と共に*宿屋へと*]
そうだね。家かなぁ…
[考えていれば、ぎゅっと握り締められた手の感触を感じる。
微笑むイレーネの顔をみて、ゆっくりと*微笑み返した*]
[広場まで来ると、ブリジットが何やら演説をしているのが目に入った。小さく会釈をして、その横を通り過ぎる。
酒場の前に立つ。ちょうど扉を開けて、中からイレーネが出てくるところだった。一緒にティルも連れている。
口火を切ったのはユーディット。]
良かった。ここに居たんですね。
あの、少しお話したいことがあるんですが。あと、聞きたいことも。
――ここでは何ですから、中で?
[ちらと酒場の中を見遣った。]
-宿-
[ティルと共に、宿を丁度出ようとした所でユーディットらと出くわした。
突然、しかも都合よく現れた人に少し驚きと―少しだけ不安げな表情を浮かべたが、後ろに他の人らも居たのを見て、軽く会釈する。ユリアンを見かければ、表情は和らいだ。]
あ、よかった。
ティルと二人で、みんな探しに行こうと思ってたんです。
聞きたい…あ、はい。
私も言わないといけない事が。
[聞きたいことは、おそらく視た事についてだろうかと察し。]
…はい。
[神妙にこくりと頷いて、再び中へと戻った。]
[中に入れば、イレーネに椅子を勧め、その正面に自分も座る。
その表情はあくまで、柔らかなもの。]
なんだか……こうやって、イレーネさんときちんと話すのがすごく、久しぶりな気がします。大丈夫、ですか。
[それは様々なことを含んだ質問で。]
ユリアンから聞きました。まだ、終わってないそうですね。
エーリッヒ様を視た、とか――
……結果は、いかがでしたか。
[たどり着いた宿からは、丁度捜していた相手が出てくる所。
中に入ると、主を亡くした空間は、どこかがらん、としているように思えた]
……ん、そいや。
あいつは、どこ行ったんだろな。
[ふと思い出すのは、不思議な白猫の事。宿にいるかと思ったが、その姿はどこにも見えなかった。
ともあれ、今はカウンターの側により。
懐に隠したものの存在を確かめつつ、イレーネの方を見る。
ユーディットが彼女に向けた問いは、自身にとっては最も興味のあるところでもあったから]
そう、ですね。
前話したのは何時だったかな…。
[ユーディットの柔らかな気配にも、こちらは僅かな緊張を崩さなかった。彼女はまだ『視ていない』からだ。]
ええと…。はい、それと昨日…
[エーリッヒとハインリヒ、そしてユリアンが居るのを見てから、ゆっくりと口を開く。]
昨日、視たひとはノーラさんでした。
ノーラさんは…人でした。
…言わなくても、分かる結果になってしまったんですけど。
今日はエーリッヒさんを見ました。
エーリッヒさんも、人、です。
[ぽつと、小さな声で告げる。
そしてこれで、自分が『視て』いない人は4人だ。そのうち一人は心から、信じているのだが。
この4人…むしろ自分の中では3人と思っている、中に人狼がいる。その事実に、少し震えた。]
[広場で一人演説するブリジットにはちらりと視線を向けるだけに留め。
エーリッヒ達と共に宿屋へと辿り着く。
そこには丁度宿屋から出てきたイレーネとティルの姿。
イレーネの無事な姿を見て、焦りの色が安堵の色へと変わる。
声をかけようとして、先にユーディットが口火を切った。
中へと促す様子に、連れ立って自分も宿屋の中へと。
彼女らが椅子に座ると、自分はイレーネの傍へと]
ああ、ノーラさんを……。ん、でも、仕方ないですね。それは。
[エーリッヒが人間だという結果を聞けば]
そうですか。良かったです。
[ほっとしたように笑った。]
そうそう、朗報があるんです。イレーネさん。
ブリジットさんは人間です。
というのも。オトフリート先生が、亡くなる直前に「自分はブリジットさんと同じ、死者の声を聞く力を持っている」と私に話していたんです。
私だけじゃなく、エーリッヒ様もそれを聞いてらしたみたいで。
[ですよね、とカウンター傍の主人に確認し。]
同じ場所に、同種の力を持つ人が現れるというケースは殆どないそうです。
恐らくオトフリート先生は、その伝承を利用して、ブリジットさんの信用を落とそうとしてたんでしょう。
ブリジットさんが狼でオトフリート先生の仲間なら、勿論そうやって対抗する意味はありませんし。
ブリジットさんは人間の可能性がとても高い。
[滔々と話す。
周りに口を挟ませないような、そんな雰囲気を纏わせながら。]
これで、イレーネさん視点で……私視点でも、ですが……
狼候補はかなり絞れたはずです。
……ひとつ、お聞きしたいんですが。
[少し間を置く]
もし、人狼を見つけたら。
貴女は、どうしますか。
[自分の事を人、と告げる少女に向ける緑の瞳は静かなまま]
ああ、確かにそう聞いた。
……ま、その真偽は周知の通り、だけれどね。
[ユーディットの確認に、頷いて答える]
そして、過去伝承に関してもその通り。
少なくとも、俺の知る限り、見極めるものは同時に二人現れる事はほとんどなかった。
[補足するように、告げて。
ユーディットが投げかけた問いに、改めてイレーネを見やった]
え…そう、なんですか?
[ブリジットの事を詳しく聞いてはおらず、紡がれる事実に目を瞬かせた。
そして同種の力を持つ人が現れるケースの少なさにも。
ただ、そうだったんだと。
だが―手が止まる。ぎくりと。
だとしたら疑わしいのは、自分の中では二人。
狼が分かりかけているのは喜ばしい事ではあったが。
どちらかが人でない事に、微か青ざめた。
脳裏には、優しかったオトフリートの、恐ろしい死に顔が思い出される。]
狼を見つけたら。
………ころし、ます。
[青ざめながら、ユーディットに告げた。
誰かを殺さなければならない事実が、空恐ろしかった。だが。]
…終わらせないと、いけないんです。
そう、終わらせないと。
[それは少し前、ティルと交わした言葉でもあった。]
[エーリッヒの補足に、ありがとうございます、と礼を述べて、もう一度少女を見る。]
……そうですか。
ええ。そうですよね。
私も、そう思います。人狼は、あんな生き物は、許しちゃいけない。
例え、身近な誰かだとしても。
[すっと一瞬俯き、顔を上げる。]
もうひとつ、朗報があります。
朗報だと、私は思うのですが。
……恐らく、イレーネさんにもそう信じて貰えると思います。
[目を閉じる。大丈夫。そう自分に言い聞かせた。
目を開け、緊張した様子のイレーネを安心させるよう笑いかける。]
亡くなったアーベルも、貴女と同じ力を持っていたんです。
二人きりのときに、アーベルが教えてくれました。
皆に話すと人狼に襲われるかもしれないから、ってずっと黙っていましたが。
たぶん……あんな形でアーベルが死んだのは、狼だった先生を視ようとしたからなんでしょうね。
もし、アーベルが狼に味方する人間だったなら、あんな風には死なないと思います。
アーベルも、貴女と同じように本物でしょう。
さて、その占い結果なのですが。
[と言って、座っていた椅子から立ち上がる。
ゆっくりと、怯えさせないようにイレーネに近付いた。
一瞬、エーリッヒとハインリヒに視線を走らせる。]
[ユーディットから向けられた視線に、ほんの一瞬、瞬く。
何をするつもりか、と。
ただ、いつでも動けるように、僅か、カウンターからは身体を離して]
[伝えられる話を一つ一つ時間をかけながら整理し。
アーベルも力持つ者と聞き、受け入れかけて一時停止]
……待てよ。
さっき同じ場所に同種の力を持つ者が現れるケースはほとんど無い、って言ったよな?
何で、アーベルまで同じ力を持ってるんだよ。
おかしいじゃねぇか。
[眉根を寄せ、考え込むような表情。
そんな言葉を投げかける頃にはユーディットはイレーネへと近付いていて。
人狼の可能性があるその相手に、警戒の色を示す。
叶うなら、イレーネを護るように腕をイレーネの前へと投げ出して]
[言いかけて。疑問を投げかけるユリアンに、視線を移す。]
そうです。でも、ゼロではありません。
それとも、貴方はアーベルが偽者だと思いますか?
[アーベルが死んだあの状況で? と静かに尋ねる。
投げ出された腕には一瞥をくれたが、その目はすぐイレーネを捉える。]
アーベルが本物だということは、納得していただけますか?
…俺は、イレーネが真に力を持っていることを信じている。
でもアーベルが偽者だと言う証拠は持ってない。
ゼロじゃないんだったら、視る力を持つ者が二人居たっておかしくはない…。
それは否定しない、けど。
[何かが引っかかる。
何故だかさっきからユーディットに対して不安しか巻き起こってこない]
…ユーディットさんは、私が偽者だと言いたいんですか?
[見上げるその表情は青い。
答えを聞く前に、アーベルについては俯いて。]
アーベルさんが本物かどうかは………わかりません。
そもそも、同じ力があるって、今聞いて。でもその人はもう亡くなっていて……。
それなのに、信じろと言われても、私には。
[それは至極真っ当な答えだった。]
…お医者先生に殺されたから、人だったとは思います、けれど。
そもそも、どうしてアーベルさん、お医者先生を見に、一人で行ったんですか…?
見分ける力を持つものは、迂闊に一人でいてはいけないんじゃなかったんですか…?
なのに、そんな危険な事。
[一緒に宿を出ようとした所で、やってきた人たちと顔をあわせる。
ユリアンも居ることを確認すれば、イレーネの隣の位置をさっと譲る。
そのまま聞こえてくる話は、能力者の人数の話。
アーベルも能力を持つという話は、初めて聞いた。
ユーディットの語気の強さに、なんとなく口を挟めなくて、話を聞いている。
途中、『許しちゃいけない』の言葉に、軽く青ざめて。
悲しそうに目を伏せた]
[ユリアンの言葉は無視して、ただ真っ直ぐイレーネを見る。]
いいえ、そうは言ってません。
貴女も本物だろう、と私は考えていますよ。
まあ推理の詳細を述べると幾ら時間が合っても足りないので、今この場では控えますが。
アーベルが一人で先生を視に行った理由。
それは、判りません。
視ても相手には判らないと踏んだのか……。
あと、アーベルのお姉さん方が亡くなった後でしたからね。
多少混乱はしていたと思います。
それに、危険なこと、と言うなら、イレーネさんも皆の前で名乗り出たのは、危険だったんじゃありませんか?
人間ですから……
理性では判っていても、ということもあるでしょうし。
……例え、一人であっても、それと知られていなければ襲われる対象にはならんだろうね。
名乗り出たとしても、守り手の信を得られない限り──自身の安全ははかれんのだし。
まして、あいつはああいう性格。
他者の信を得る事よりも、自分の思うように動いた結果があれ、としか思えん。
[イレーネの疑問に、ため息混じりにぽつりと呟いて]
ええ、危険です。名乗り出るのはとても怖かった。
でも、占い師であればそれを明かし、狼を見分ける役割をこなす事は、自身にとって当然の事だと、そう伝えられてきたし、私も、そう思いましたから。
[あの時も震えていた。その事を思い出す。]
名乗り出ない方がよかったですか?
手探りで、人同士が殺しあった方がよかったですか…?
[ユーディットに向ける視線は、『どうしてそんな事を言うのだろうか』という困惑でしかない。]
…アーベルさんが、ノーラさんたちの死を知って…っていうのなら、一人でお医者先生の所に行った理由として納得はできますけれど。
[ユーディットの説明の、その一点には納得がいったようだった。
エーリッヒの言葉には、無言のまま。]
[困惑したイレーネの表情に、優しく言い聞かせる。]
ええ、貴女がそう考えて名乗ったのだろう、ということは判りますよ。
でもまた、アーベルのような遣り方もあるわけで……
[エーリッヒの言葉に頷いて]
まあ、性格の問題でしょうね。
さて、納得して頂けたら、アーベルが視た結果を……
……彼に代わって、伝えたいと思うんですけれど。
良いですか?
ありがとうございます。では、話の続きにいきましょう。
アーベルは……まず、私を視たそうです。結果は人間。
当たり前ですけどね。
この結果を得て、アーベルは私に自分が視る者だと明かしてくれたんです。
次に、ハインリヒさんを視たそうです。
視た理由は教えて貰えませんでした。まあ……アーベルですから。
[ちょっとだけ肩を竦めてみせ]
結果は、人間でした。
つまり。貴方の視た結果と合わせると。
[目の前に伸ばされたユリアンの腕を素早く掴み、どう見ても無理だろうという方向に曲げてその体を抑えた。]
ユリアンが、人狼なんです。
[その顔に、先ほどまでの柔らかさはない。
厳しさを湛えた瞳で、イレーネを見つめる。]
さあ、イレーネさん、ユリアンを、人狼を殺してください!
今すぐ!!
[一瞬空いた手で、小さな短剣を放って寄越した。]
私が抑えているうちに!
[腕に置かれるイレーネの手に自分の手を重ね。
ユーディットが告げようとしている内容に耳を傾ける]
[しかし次に感じたのは腕への痛み。
あり得ぬ方向へと捻られたそれに苦悶の表情が浮かぶ]
ぐあ!
ユー、ディット、何を──!
俺は、人狼なんかじゃない!
って、ユーディ!?
[唐突な行動。
一瞬、その意味を捉えあぐねる。
アーベルが視た、と言っていたのはイレーネのはず……と思い。
ふと、思い当たったのは]
(……はったり、か!?)
[ならば、余計なことは言うまい、と困惑した風のまま、動きを止める。
勿論、何かあればすぐに動くつもりで。
これ以上、身近なものを死なす気はなかったし、ユーディットが違うのはこれまでで感じているから。
『力』の行使も躊躇うつもりはなかった]
―――ユリアン!
[ユーディットの傍らに抑えつけられているユリアンの傍らに膝をつき、ユーディットを見上げる。]
どうして!?
……ユーディットさん、私は、貴女の言う事が信じられない…。
[呆然と、ユーディットを見た。
―――その両手には銀の短剣。]
[ぎっ、とユーディットを睨むように視線を向けて]
消去法で俺が人狼だと!?
お前が言ってることが正しいと言う証拠はどこにある!
アーベル本人から聞いたわけじゃない。
聞いたのはお前だけだ!
[押さえつける腕を振り払おうとするも、上手く力が入らず動けない。
女の身でこんな力が出せるのか──?]
[暴れようとするユリアンを押さえつける。
ただ普通の女性、というには鮮やかすぎる手腕で。]
信じられない?
信じられませんか?
アーベルが偽でなければ、ユリアンは人狼ですよ?
そして貴女はアーベルが本物だと認めましたね?
ユリアンは人狼です。
貴女が偽者でない限りは!!
[向けられる視線。
緑は感情を抑えたまま、それを見返して]
ああ。
確かに俺も、アーベルの占いの結果は聞いた。
本人から、直接。
[結果には触れず、それだけを告げる。そこに、偽りはないから]
っ……。
[エーリッヒの言葉に息を飲む]
…そんなの、嘘だ。
だったら、お前らアーベルに騙されてんだ!
アイツが力を持ってることが、嘘なんだ!
俺は…違う…。
人狼なんかじゃ…ない…。
[身の潔白をしようにも、言葉だけでは足りず。
悔しげに、声が徐々に小さくくぐもったものへと変わっていく]
ちがう、違うっ!
私が信じられないのは、貴女です!
[ユーディットの言葉を肯定したエーリッヒの――だがその以前、困惑した様子は見逃さなかった。
何か違うと、警鐘が鳴っていた。]
うそを、つかないでください。
[それはエーリッヒにも向けられた言葉か。]
アーベルさんが私と同じ力をもっていたかどうか、それすら私には分からない。その可能性があったとしか、もう分からないのに。
それにアーベルさんが死ぬまでの間、そんなに何人もの人間を見分けることが出来るはず無い。
この力は、占いという力は、絶対じゃない。
例えその力の元が違ったとしても、一日に一人が限界のはずです。
まずユーディットさんを視たんですよね、次に、ハインリヒさんを。
だったら、どうしてハインリヒさんを視た日に、お医者先生を視に行くような真似をしたんですか?
その日は占う事は出来ない。なら、見に行くのはその次の日じゃないといけないはずです。勘でお医者先生を追及しに行った?そんなこと、占い師ならまずやらない。視えることができるというのに。
[滅多に見せる事の無い怒りを露にした後で、急に萎むように項垂れた。]
…どうして、そんな事を言うんですか。
どうして、嘘なんかつくんですか?
おねがい、ユリアンを、離して…。
[俯きからは、嗚咽が漏れた。]
……力がある、と偽るのであれば、尚更、隠しておく意味はないだろ。
それこそ、見える場所で伝え、疑惑を撒くものだ。
……先生が、死者の声が聞こえる、と唐突に言い出したようにな。
[息を飲んだユリアンの叫び。それに返す言葉も、淡々として]
嘘は、ついていないよ。
聞いたのは確かな事だ。
[イレーネに返す様子も冷静なまま]
[叫ぶイレーネを静かな眼差しで見つめる。]
うそはついてません。
エーリッヒ様も、うそはつきません。
貴女が視たのでしょう。エーリッヒ様は、人間だと。
判らない、で止まるんですか。逃げるんですか。
考える頭があるでしょう、貴女には。
何故――視てもいないのに、ユリアンが人狼でないと、そう言い切れるんですか。
そこにどんな証拠があるんですか。
色んな人がいるんです。
力に多少の差異が生じることもあるでしょう。
何故、自分が視た者の言葉を信じようとしないのです?
占いの力は、確かに万能じゃない。
そして、いつまで使えるかもわからない。
なら、それにのみ頼り切らずに動くのもまた、力あるものの姿のはず。
アーベルがどう思ったかはわからんが。
それは、占い師として、間違った行いとは言えないんじゃないかな?
[イレーネに向ける問いは、どこまでも静かなもの]
貴方が視る者なら、結論はひとつです。
ユリアンが人狼!
今一度、聞きます。
貴女は、本当に、人と狼を見極める力があるのですか?
……アーベルが本当に力を持ってるんだったら。
俺にはお前らが事実を捻じ曲げているとしか思えない!
何で俺なんだよ!
調べたわけでもないのに!
アーベルの行動だけでお前らはそれを信じるのか!
それがアイツの作戦だったらどうするんだよ!!
普段から平気な顔して嘯くような奴の言ったことを鵜呑みにするってのか!
[錯乱したかのように叫び続ける。
その瞳には信じてもらえない悔しさからか、少しずつ雫が溜まり始めていた]
ユリアン。
[押えつけながら、耳元で囁く。]
私はともかく、エーリッヒ様が嘘をつく必要はないはずです。
作戦って、何ですか。
アーベルが嘘つきなら、何故彼は殺されたんです?
ユリアン。貴方がもし人狼でないなら、答えはひとつですよ。
違う違う、そうじゃない!
力に差違?それもアーベルさんが言っていたんですか?
自分の勝手で動いたアーベルさんも、ユーディットさんも、私には信用できない。二人のやり取りを全く知らないんだから当たり前です。
そうです、エーリッヒさんは人です、それだけは分かってます。でもそれだけです。あなたがさっき何か驚いたのも見ました。
私は人が嘘をつかない生物だとは思っていません。
[冷静に返すユーディットに、伏せたまま淡々と返す。]
…私は、最後まで信じられる人は信じぬく。
それが、ミリィが残してくれた遺言だから。
ユリアンは人だと信じています。
だから。
今私に分かっているのは、貴女が、貴方たちが信用出来ないという事です!
[顔を上げ、ユーディットを睨んだ。]
そんなの知るかよ!
人狼の仲間内で何かあったんじゃねぇのか!
[囁きには叫びで返す]
アーベルが偽者だったらてめぇの正体は知れねぇ。
てめぇがついた嘘に、てめぇを信じきってるエーリッヒがただ言葉尻に乗っただけかもしれねぇじゃねぇか!
俺はエーリッヒから、アーベルが誰を調べたかなんて聞いてねぇし!
さっき、アーベルは本物だと認めてたじゃないですか。
今は、信じられないんですか?
エーリッヒ様のことも信じないと。
では貴女は何も信じないんですね。
……そのユリアンが人狼なのに!
[目を、す、と細めた。]
質問に答えてください。
貴女は、人と人狼を見極める力を持っているんですか?
イエスというなら、私は貴女を信じるだけです。
[ユリアンには、たった一言。
「本当に、『その可能性』が判らないんですか?」と、尋ねた。]
そもそも、私はアーベルさんを占い師として認めた、とは言っていませんよ。わからないと、そうしか答えていません。
答えを歪曲しないでください。
[ユーディットを睨み続ける。]
そうです、私は人と狼を見極める力を持っています。
[そう、自分は本当に占い師なのだから。
少なくとも、表に居る自分は、心の底からその役割を演じていた。
欠片も綻びを出さぬよう。
矛盾を生み疑いをかけられないよう。
震える占い師として振舞った。
それが、彼女が受け継いだ、口伝であり、力であり、血であった。。
容易に偽りを口にし、混沌の種を撒き。
決してその心を奥底にある真を見せない
―――――――――狂える信徒の為せる業。]
[可能性が何かなぞ、考えている余裕は無い。
埒が明かぬ状況に、苛つきが頂点へと達する]
……もう、面倒、だ。
[ぽつりと小さく漏らし、押さえつけられている腕に力を込める。
ゆっくり、しかし確実にユーディットの腕を押し返して行った]
……こんなところで……俺は死ねぬ……。
全てに復讐するまでは!!
[尋常ならぬ力でユーディットを弾き飛ばし。
俊敏なる動きで起き上がると、そのままユーディットへと襲い掛かる。
その腕は爪を携えた白銀の毛並みへと変貌し、苛立ちの元となっている女に対し、下から切り上げるように揮われた]
……なっ!?
[二人の問答の様子。
その行方を見守っていた矢先の動きに、対策が遅れた]
……ユーディっ!
[とっさ、抜き放つのは懐の短剣。
間に合うか。
そんな思いを抱えつつ]
納得した、と言ったのに?
[肩を竦めた。]
そうですか、貴女が本物で、けれど私を信じられないなら。
その勇気を持てないなら。
私が――
[イレーネの持つ短剣を取ろうと腕を伸ばしかけ――]
……ぐっ!?
[ばん、と物凄い力で弾き飛ばされる。
何も判らないまま、――――]
[――――視界が朱で染まる。]
私が納得したのは、アーベルさんがノーラさんが殺された後に取ったの行動だけ―――
[そう言いかけて、目を見開いた。]
――――!!!
[青ざめる、目の前で起こった出来事に。]
[ふ、と口元が斜めに上がった。]
本当に、あなたが。
おおかみ、だったんだ。
[熱。痛み。苦痛。それから、すべて。]
エーリッヒ様――
[朦朧と]
逃げて――
[舞う紅。
それが示すものは容易に知れて。
過ぎるのは、『間に合わなかった』という思い。
それに急かされるよに、ユーディットへと駆け寄った]
ユーディ!
ユーディット、しっかりしろ!
[逃げて、という言葉は聞こえていたが。
それには答えず。
振り返る緑が見やるは、今、紅を散らしたもの]
……そういう、事かよ……!
[先程まで己を強く押さえつけていた女が容易く朱に染まる]
くははははははは!!
何もかも喰らってくれる!
我が力、とくと思い知れ!!
[白銀を朱に染め、その場で高らかに笑い声を上げる。
その瞳は鳶色から紅へと変わり、顔にはいつもの無表情ではなく、惨劇を望み愉しむ歪んだ笑みが張り付いていた]
[響く、笑い声。
左の腕が疼く]
……てめぇ……俺のいる場所で、そんな真似ができると思うなっ!
[宣する手、握られた銀を飾る紅は鮮やかに燃えて]
ユリアン…っ!
[猛り狂うユリアンを呆然と見ながら。]
ユリアン、ああ――――――。
[顔色は、蒼白。
それは信じていた人が狼だったという事ではなく、守られていた秘密が露呈してしまった事への恐怖。]
[渇きがそこにあった。耐え難い渇きが襲ってくる。]
この、じんろう、がっ……!!
[憎しみが瞬間的にユーディットに力を与える。
ポケットから、震える手が突き出された。]
[イレーネに渡したのはただの短剣、しかしこの手にあるのは――アーベルの。]
死ねええええええええッ!!
[狼の右眼に向け、銀の短剣は突き出される。
自分の名前を呼ぶ声が、遠い。]
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