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月闇竜 オトフリート に 7人が投票した。
大地竜 ザムエル に 1人が投票した。
影輝竜 ノーラ に 1人が投票した。
月闇竜 オトフリート は村人達の手により処刑された。
今日は犠牲者がいないようだ。何かの介入か、それとも……?
現在の生存者は、流水竜 ナターリエ、生命竜 クレメンス、大地竜 ザムエル、精神竜 アーベル、影輝竜 ノーラ、氷破竜 ブリジット、機鋼竜 エーリッヒ、翠樹竜 ベアトリーチェ の 8 名。
[オトフリートをじっと見つめていると、不意に、オトフリートの体が無限の輪に絡めとられて消えていった]
……逃げた!?
いえ……虚竜王の力から逃れることは出来ない。多分、結界内に封じ込まれた、ということか。
もし、逃げたのだとしても、我が水は、オトフリートを捉えた。此方に来るような力は、もう残っていないはず……。
オト…っ!
[首飾りを闇竜殿からしかと受け取った仔は、何処か焦燥に駆られた声を上げる。
受け取った時は、つまり闇竜殿の身に危険が及ぶ時だと理解していた故に。
引きとめようとするも、その姿は直ぐに隣の部屋へと消え失せ仔の視界に入れる事は叶わなかった。]
……、…っ
[追いかけようにも、預かりし首飾りを握り締めたまま動く事はしてはならぬと幼心に思い当たる。
何のために預けられたか、場所を知られず隠す為では無かったか。
仔が成すべき事は、誰にも気付かれず――闇竜殿の真の名を知る者へと渡す事。
暫しの思案の末、幼子は首飾りを闇竜殿がしていた様に自らの首へと掛け、
鎖共々自らの衣服の下へと収める。――此れで傍から見る限り知られる事は無かろうと。]
―東殿・騒動のはるか後方―
[ブリジットの視線には怪訝そうな顔をする。
どうやら自分では何があったか気づいてないようだ。]
あー何かまた出たらしい。アレが。
[アレ、が差すものはそろそろ共通認識にでもなってきたか。
勿論オトフリートがどうとか、ザムエルがどうとかは言わない。まぁ嘘は言っていないし。]
[襲ってきた、混沌のカケラの前に飛び出した機械竜は、一瞬、淡い焔のような光を発した。その焔に焼かれたカケラは攻撃の対象を変え…]
ユル…!
[焼け落ちる混沌のカケラと共に、地に落ちた機械竜を目にして、泣き声のような声をあげた]
―東殿・騒動のはるか後方―
[命竜の寝癖のような髭の癖が気になったが、ふるりと首を振る]
アレが出たって……、
[微かに嫌そうな顔をするも、直ぐにはっとして]
――、リーチェが、部屋に居なかったの。
巻き込まれてたら……、急いで探しにいきましょう?
[微かにあせる様に。騒動の起こっているほうにでも向かおうとするだろうか]
―東殿/回廊―
[大地の竜から腕輪を奪おうとするより先に、心に届いた痛みの気配に意識は加害者であろう流水の竜へと向いた。邪魔者を排除しようと――結界へ送り込もうと目に見えない心の力を伸ばす。
それと同時に傷を負ったオティーリエへと視線を向ける。
目が合ったのは一瞬だった]
――…オティーリエ!
[心の声ではなく唇から零れた名は、彼女の本当の名]
なれば儂ではなく他を手伝うが良い!
[アーベルの言葉に視線は一度動けぬエーリッヒへと。それを助くが良いと言わんばかりに。
精神の力を注がれた腕輪は何かを厭うかのように鳴動す。ノーラの影は壁に阻まれ今一歩のところで届かなかったか。ノーラが抱いた惑いが勢いを弱めたのかは定かではない。
剣の中で属のバランスが偏る。増大した精神の力は剣の力を抑えようと。しかして残る影輝の力が『均衡』せんと渦巻き、抑え込む精神の力とぶつかり合う。二種の力が不安定に、増減しながら周囲に漏れ出た]
何じゃ…!?
落ち着け、神斬剣よ…!
[膨れ上がる腕輪の力を抑えようと、右手で左手を握り込む。果たして己が精神で不安定になったその力を抑えることは出来るのだろうか]
― 東殿・回廊 ―
< 月闇の竜の真名は、他者の口より紡がれた。
絡め取らんとする影の力は弱まり、砂に弾かれる >
――……………、
< 写すものを失くし、訪れる揺らぎ >
―東殿・騒動のはるか後方―
[曲がった髭はさておかれて。]
え、そっち一緒じゃなかったのか。
ってちょ、ま。危ねぇって!
[ベアトリーチェが何処に居るのか。
意図的に、あちら側でも会話に乗らなかったので、何処に居るのか自分も知らないのが。
翠樹の幼竜を探す為と言い切られれば、喧騒の方へ向かう事を止める、良い理由は見当たらず。]
[振り返った先に見えるのは、必至に『力ある剣』の力を押さえ込もうとしているザムエルの姿]
大地の!
[走りより、それを抑えんと力を発動しようとして……流水の力は聖魔剣に属するゆえ、暴走の手助けこそなれ、抑えるには向かないのだと思った]
影!精神!
もし、貴方達が「揺らされていない」のならば、力を貸しなさい!
―東殿・騒動のはるか後方―
貴方のあの探知で、上手く居場所とか分からないの?
ナギさんが付いてるだろうとは言え、心配よ……ほら、急ぐ!
[命竜へと声を張り上げる。
間も無く、小走りで騒動のある方へと向かいだすだろう]]
[流水が呟き、機鋼の仔が顔を上げ、影輝が弱まっても、窓の外――消えた月闇の竜が居た場所に視線を向けた青年は気付かずにいた。
けれど直に名を口にした事など忘れたかのように透明な心の力をナターリエへと伸ばし、絡めとろうとする。
大地の竜の腕輪に手は添えられていたが、ナターリエの呼びかけに応える事は無い]
…っ、…!
[首飾りを身に着けた瞬間、拒絶に近い波動が脳内に直接響く。
今までに無い感覚に、仔はぎゅうと眼を瞑った。
それが何に対する拒絶か、そも首飾り自身が発しているものとは幼子には判らねども
しかし知った所で外すわけにもいかぬ、幼子は決して手放しはせぬだろうが。
其れが収まるのを待って、漸く幼子は食堂を飛び出す。
危険故に留まれと謂われていたものの、闇竜殿の無事を確かめずにはおれぬ。
窓から飛び降りるは、前に地竜殿にダメだと謂われた事を覚えていたか
一寸窓の方を見るも、…暫しの思案の後キチンと扉を開けて回廊へと]
―――!?
[大地の元へ走りよっていく最中、ゾクリとする感覚がナターリエを襲う]
なっ!
[咄嗟に、後ろへ飛びずさり、体全体を泡の盾が覆った]
[顔を上げ、精神の竜の姿を見ていたが故に、その力が伸ばされるのに気付くのも早かった。天青石の光の網が、伸ばされた心の力に逆に絡み付く]
[どちらにも属さない己が力では契約による強制力だけが頼りで。それは酷く精神力を使う]
ぐ、ぬ……。
ここで暴走してしまえば抑えるものがない…!
何としてでも抑えねば……!
[腕輪の力を抑えようとする送り込まれた精神の力、それを均そうと作用する腕輪にある影輝の力。抑えようとする力に反発するかの様に蠢く腕輪に元からある精神の力。揺れ動くそれらの力を制御しようと試みるが、なかなか収まらない。
腕輪に添えられるアーベルの手。それがナターリエの呼びかけとは異なる作用をしているのに気付くはまだ余裕が無いか]
< 眼差しは一時、精神の竜を捉えた。
増大する影輝の属を有す剣の力は本来の安寧なる均衡を齎さず、力を持って力を抑え付けんとするが如き態となる。
流水の竜の声に応じることはなく、その存在は揺らめいた。
影を渡るというより、消え入るように。
影輝の存在が失せた事により、腕輪の中に巡る精神の力は更に勝るだろう >
―東殿・騒動のはるか後方―
残念ながら、心命機竜でもなければ直ぐには難しいな。
[これは事実。
喧騒にはザムエル以下真実を知るものが多く、あまり行かせたくはなかったのだが。
内心舌打ちをしながら、氷竜の後に続くように騒動の方へと向かい。]
おいっ、大丈夫―――
[かと声を投げかけて。
混沌としている場に微か眉を寄せた。
状況が、錯綜してよく分からない。]
ならぬ……。
儂はお誓い申し上げたのじゃ…!
この身滅ぶとも、命尽きるとも剣を護り抜くと…!
[精神の力が増大す。これによりアーベルは手を貸していないと言うことに気付くこととなろうか。添えるアーベルの手を振り払い、その場から離れる]
お主、何を考えておる…!
[ノーラが消えたことには気付いていない。それ故に力の増大はアーベルが送り込んだものであると判じ。額のバンダナが汗で滲む。右手で腕輪を抑え込んだまま、更に強制力を働かせようと念じた]
[伸ばした心の力は流水の竜には届かず、天青石の光の網が逆に絡み付いた。その主の瞳へとレンズの奥の紫紺が流れた刹那、唐突に心の力は消え失せる]
――…仔竜と侮っていたら、そうくるとはね。
[微かに垣間見たのは守ろうとする強い想いと機鋼の一族に連なる何か。恐らくはそれが目に見えず触れえぬはずの心の力を押さえ込んだのだと理解する。
けれど、それ以上動けない様子の仔竜よりも青年がすべき事は]
貴方では抑えるのは無理ですよ。
[押さえ込もうと呻く大地の老竜へと毒のように囁き、添えるのではなく奪う為に両手を腕輪に伸ばす]
[無機の心、無機の命…腐食して崩れかかった左腕を伸ばす…対なるは、有機の心、有機の命]
やめてください、アーベルさん…
[悲しみは、有機の心には伝わらないか?]
― 東殿・回廊の何処か ―
< 荒れる息を吐き出した。
場所は確りと判別出来ないものの、喧騒は遠い。
灯りの傍ら、壁に背を凭れた。
揺らぎは収まらず、薄闇を照らす焔の揺らめきに似る >
[回廊へと出でて直ぐに、仔は闇竜殿の姿を捜すべく視線を巡らせる。]
…、ノーラ?
[回廊を進む先、見覚えのある影の姿にその歩みを速めた。
芽生えた新緑の萎れる速度が前に増して遅くなったのは、首飾りに流水の気を纏いし故か。
成長を促す糧となった其れは、仔の辿りし跡を色濃く残す。]
[ゾクリとする感覚がなんなのかはナターリエには分からなかった。
だが、その後の精神の言葉を聞きつけると]
―――精神!
もしや、貴方がもう一人の―――『揺らされたもの』!?
[答えを聞くよりも早く、アーベルはザムエルの元へと移動する]
やめ―――
[それと同時に聞こえるのは、クレメンスの言葉。
また厄介なのが登場したと思い、視線をそちらに向け……氷の存在に気づいた]
……氷の!
[叫びながらも、一瞬迷った。
月と生命と一緒にいた氷を信じてよいものか。
だが、月。それから、精神が『揺らされたもの』だとするのならば、昨日あの場にいたとしても、完全にあちら側ではないのかも知れないと思うと、その後の言葉を続ける]
……ブリジット!
『力ある剣』が暴走しようとしています!
もしも、貴方が揺らされていないのならば……その封印の力を持ってして、大地の手助けをお願い!
[大地の老竜の叫びに青年は常より何処か冷たい笑みを返す]
――『願い』を叶えようとしているだけです。
[もう一度、奪う為に伸ばそうとした手は、対なる無機の心と命に引き止められた。心凍らせても届く痛みに感じた哀しみとそれは共振したかのように青年へと響く]
もう、やめられない。
やめられるくらいなら、最初から――…
[レンズの奥の紫紺に何かが過ぎり、けれど言葉と逆に後ろへと下がって――…言い終える事なく*姿を消した*]
リーチェ?
< 名を呼ぶ声すら、軸はなく頼りない。
灯りの下に薄っすら浮かぶのは、少女の姿だけではなく、後に続く草花。会ったばかりの時には枯れていた筈のそれが、一時その生命を永らえているのを見た。
抑えた手の下でも、光が揺らめく >
―東殿・回廊―
……ッ、この力は、一体……!?
[目の前で、目まぐるしい力の渦が、場を支配しているかのようだった。
その元は、老地竜の腕の辺りにあるようで。
命竜は言っていた。ザムエルが剣の主と。それが今、暴走しているのだろうか?]
アーベル……!?
それに、ナターリエ……ッ、一体何がどうなっているのッ!?
[声は力場の所為で、微かに聞こえ辛く成っていたが。
流水竜の叫ぶような声が、心に直接届いたのか。
ブリジットは、弾かれるように老地竜の元へと駆けていった]
喩え無理だとしても……抑えねばなるまい…!
何もせぬは、暴走を許して終わってしまう…!
[アーベルからの毒のごとき囁き。それに怯むことなく返す。削られる己が精神。それが削られ切れば、次に削られるは──生命力。文字通り、命をかけて抑え込むつもりだ]
…『願い』…とは…。
[問いの答え。それははきとした答えのようで、曖昧なもの。訊ぬ声は、強制力の発動の疲れにより途切れ、小さなもので。相手に届いたかまでは定かではない。
ふらり、視界が揺れる。床に座り込むことになったが、腕輪に添えられた右手が外れることは無い]
ノーラ、つかれてる?
…へいき? おみず、もってくる?
[前に見た様子と異なる影竜殿の様子に、仔は困惑に似た色を見せる。
外で騒ぎがあった事は知れど、何が起こったかまでは幼子に知る由は無い。]
…あのね、オト、さがしてるの。
しらない?
[ブリジットに声をかけ、『力ある剣』に関しては何も出来ないだろうと悟ったナターリエが、アーベルへと意識を向けかけたとき―――その姿が消えた]
―――逃げられたか!
『力ある剣』が暴走を始めるならば、近くにいる必要性は無い、ということか!
くっ……こうなると、大地と、氷頼みになってしまうかしらねぃ。
[歯噛みして、それでも、何か役立つことがあればと、ザムエルの近くに移動して、*その安否を伺った*]
―東殿・回廊―
氷破が六花に名を連ねし、ブリジット=S=フルラージュの名の下に――!
[老地竜の腕へ、細い両の手を重ねるように置いて、叫ぶように言葉を紡ぐ]
冷徹なるは氷――、氷がもたらすは、封ッ!
[重ねた両の掌の上で、ひとつの氷の粒が踊るように回り始めた。
徐々にそれは、歯車の形を成して行き――回転速度を上げていく]
乱れし力よ凍て尽きて、暫し眠りに付き給え――!
[氷で出来た歯車は、徐々にその回転速度を落としていく。
回転が緩やかになるに連れ、力の暴走が少しずつ、少しずつ収まっていくだろうか]
[対なる剣の力の乱れにより、腐食は静かに進み、やがて有機と無機のはざまの命をも侵し始める]
[それを知るは、意識を喪い倒れ伏す機鋼の仔、そして彼に繋がる、兄弟達のみではあるが…**]
< 顔に手を当てたまま微かに首を振りかけ、紡がれた名に露な左の瞳が瞬く。
今度はゆっくりと、確り、左右に振る。
「知らない」の意ではなく >
……オトは、いないの。
中に、いっちゃたから。
―東殿・騒動元―
[アーベルが消えたのは分かった。が、その前に居たはずのもう一人が見当たらない。
だが死んだとは思っていない。生命が途切れれば、容易く感知出来るはず。
なら、何処へ。
そうこうしていれば氷竜は大地の元へとかけていき。
軽く、息をつく。
契約、ではないが。約束があった。
第一に己の力を優先的に使うと。
万一二人が傷を負っているなら、そちらに向かわなければならないのだが。
苛立ちを覚え軽く眉を顰める。]
[アーベルが消えたことにより、ほんの少しだけ、腕輪に籠る精神の力が弱まるか。それでも蠢く力は収まることは無く、尚も己が精神力は削られ行く]
……ぐ……。
……ブリ、ジット……?
[傍に駆け寄るブリジットの姿。座っても尚ふらつく視界でどうにかそれを捉え。己が手に添えられし手、紡がれる言葉。封印に呼応するかのように、増大した精神の力は少しずつ弱まり行く]
ぬ、ぅ……。
[僅かばかり、削られる精神力が減った。力んでいた全身から力が抜けて行く]
…、いないの?
[影の言葉に幼子は僅かに眼を見開いた。
想定こそしていたが、其れこそ信じるに足りぬと思っていた故に。
無意識にか、胸元が小さな手にぎゅうと握り締められようか。]
どうして?
――…ととさま、いっしょに出そうって、いったのに。
オトは、じぶんで行ったり、しないよ。
…だれが、とじこめちゃったの?
―東殿・騒動元―
[目の前で繰り広げられる、ザムエルとブリジットの剣を押さえ込もうとするそれと、倒れたエーリッヒ。
どちらも気にかかり、特にエーリッヒの方へは癒しを注ぎ込みたい所だったが。
何度かかけ続けていた声に、声が返った。]
……了解。
[それだけを口にし、その場からゆらと、消える。]
< 見上げる幼児、握り締められる手。
それを認め、腰を落として視線を合わす。覗き込むようにすると、乱れた髪の合間から闇にも似た黒の肌が覗いた >
たぶん、ね。
そう、オトは、リーチェにはそういったんだったね。
< 眼を伏せる >
願いを叶えるために。
< ならば、どうしてあのような強硬手段を。
停止しかけていた思考が巡る。
伝え聞いた、彼女を信用できると言ったものと、真名を呼んだもの >
[徐々に収まる剣の鳴動。しかしそれも完全ではなく。凍結により保つそれは、酷く綱渡り的な安定を作り上げるか]
ぐぬ……。
どう、にか…。
収まりは、したじゃろうか…。
[左手首に据えられた腕輪に視線を落とす。いつものような鈍い光は、今は感じられない]
[氷の歯車は、ややあって回転を停止した。
ゆっくりと、ブリジットの手の甲へと落ちてくる]
……はぁ、はぁ、……はぁ……。
[玉粒のような汗を浮かべながらも、氷の歯車をさらに凍気でコーティングする。
そのまま崩れるように――、床へと倒れこんだ]
[封印が終わり、礼を述べようとブリジットへ視線を向けると、床へと倒れ込む姿が目に入った]
っ、ブリジット!
大丈夫か!!
[傍に居たナターリエも、この時ばかりはブリジットを心配したことだろうか。己もだいぶ力は尽きていて、崩れるその身体を支えるまでには至らなかった。ブリジットの傍により、軽く肩を揺らしながら声をかける]
[高さの合う視線に、幼子は真直ぐに相手へと視線を注ぐ。
覚えのある影竜とは異なる肌の色。
幼子は不思議に思えど、それに怯える様子も無ければ問いはしなかった。]
…ねがい?
[幼子は父王に会いたいとばかりであった。
王と共に出そうと闇竜殿に謂われて居たが、其れとは又異なる願いが在ったのであろうか。
仔は考えど判るはずもなく、ただ困惑に眉を寄せた。]
……、ノーラ、
あのね、オトから、あずかってるよ。
リーチェ、もってるの。
[闇竜殿の真の名を知る者が何処か、幼子は知る由も無いが
ただ一人、頼まれた者の中に影竜殿の名が紛れていた事は記憶していた。
衣服の下へと収めた鎖を小さな手で引っ張り出す。]
オトの、ほんとうのなまえをしってるひとか
ノーラに、わたしてって。
そう、願い事。
そのために、剣が必要だったの。
< 不可解な科白と共に幼児の手が引き出したのは、灯りを弾いて微かに煌く鎖。中心に抱く石はまだ見えないが、清浄な輝きと静かな怒りを感じた気がした。
真実の名を知る者。
曖昧な示し方ではあれど、誰であるかを悟るには十分だ >
リーチェは、知っている?
……ほんとうの、なまえ。
―東殿・回廊―
……はぁ、……はぁ……、…………。
[老地竜か、それとも流水竜か。
誰かに声を掛けられた気がしたが、意識は朦朧としていて。
バランスが崩れたための頭痛と、上級の封印式を行った疲労が合わさり。
倒れ伏したまま、"封印"の鍵となる氷の歯車を硬く*握り締めている*]
リーチェ、しってる。
オトが、ないしょって、おしえてくれたの。
…オティーリエって、すっごく、きれいななまえ。
[周囲へと視線を巡らせ、他に人が居ない事を確認しやると
幼子は漸くに首へと通した鎖を解きて、衣服からその石を僅か見せるように引き上げる。
回廊の灯りを僅か弾けば、相手にも判ろうか。、]
――ノーラみたいなわっかじゃなくて、もういっこの方、だけど。
─東殿・回廊─
ぬぅ、いかん……無理をさせてしもうたようじゃ。
早く休ませてやらねば。
クレメンス、お主体力有り余っておるじゃろう。
ブリジットを部屋に……。
…クレメンス?
[共にブリジットと現れたはずのクレメンスの姿が無い。この場に残るは己とナターリエ、倒れ伏すブリジットとエーリッヒのみ]
あやつめ、どこに…。
仕方あるまい。
ナターリエよ、ブリジットを頼む。
エーリッヒは、儂がどうにか運ぶとしよう…。
[ナターリエは対たるブリジットを運ぶことを厭うやもしれぬか。嫌だと言うのであれば己がブリジットを運び、ナターリエにエーリッヒを頼むことになるだろう]
[消耗をおして運んだ先の部屋。ベッドに運んだまでは良いが、極度の疲労により部屋を出ること叶わず、床に倒れ込むことになるだろうか。左手首の腕輪は、未だ危うい均衡を*保ったまま*]
< 幼児の口にする名に、静かに頷く。
教えられていながら、一度として口にした事はなかった。揺らぎゆえに >
……オティーリエは、じぶんでありたかったんだって。
< 謎かけのような言葉は、仔竜には難しいだろうか。
天の光に似た静謐な真白と、深き海を模した不透明な碧の石。
悠久と変化、反しながらも何処か似通った性質を持つもの >
わたしも、わたしでありたい。
< それは、写しか、真意か。
黒曜石に色が映り込む >
エレオノーレでいたい。
< 伸ばした手は幼児の柔らかな金糸を撫ぜたのち、躊躇いを抱きながらも指先は輝きを放つ石へと伸びた >
オトは。
…オトじゃなかった、の?
[影の謎掛けにも似た言葉に仔は首を傾ぐ。
幼子には些か難解であったその願いを、真に捉える事は出来ぬか。
それは、影竜の紡ぐ願いにも同様で在った。
――否、果てはすれば闇竜殿の願いよりも尚難解やも知れぬ。
髪へと触れる手にくすぐったげに仔は僅か眼を細めた。
幼子は、其れが正しいかなど知らぬ。
しかして闇竜殿と交わされた約束に、抵抗などある筈もない。
伸ばされる手へ、仔は躊躇いなく首飾りを*渡した*。]
< 問いかけには、わからないと首を振る。
何を思って仔に首飾りを託したのか。真実は彼女の心に在るのだろう。
首飾りを受け取り、代わりに、己以外に彼女の真名を知る者の名を告げる。恐らく、直ぐに知ることであろうから >
……誰にも願いはあるのだろうね。
わたしは、今は……剣を望む。
リーチェは、リーチェの望むように。
< 協力を要請することはせず、低く囁く。
手にした聖なる気を宿した石は、揺らぎの最中に在るものに警告を発す。
意の理解出来ない声無き声が、脳裏に響き渡るようだった。
旧き記憶を奥底に抱く身は、一介の影が知らぬはずの知識をも得る。揺らすものの意図も、剣の力とその危険性も、起こり得る事柄も。
痛みよりも何よりも、その事実の重みが、酷く堪えた。
* 光も闇も無き今、影は何処へ往こう *>
―東殿・回廊―
[丁度、戻れば爺さまが自分の名前を呼んでいて。
ひょっこり顔をだせばぎょっとされた。
ブリジットまで倒れているのには微かに表情が翳ったが。
傷、ではなかったので、とりあえず先に懸念していたエーリッヒの傷口に手を当てた。
有機と無機が混ざり合い、無機が腐った故に影響を受けた有機。
無機に自分の力が通用しない事は実戦済みで。
思うように回復は進まない。有機は回復しても、いくらか後には再び無機の腐食の手が伸びてくる。
あるいは、本性を解放すれば何とかなったかもしれないが、それはもう使えない。]
む、拙いな。
腐食部分周辺まるごと切り落としてから、癒せばいいんだが。
[それはどんな影響出るか分からないので却下されました。]
―東殿・回廊―
[微かな命の侵食に気づいたのは、命竜故か、あるいは有機部分にある琥珀の光故だろうか。]
…あとは周辺凍らせてれば何とかなるかも、なんだが。
[ちらと氷竜を見るも、目覚める気配はない。
目覚めた所ですぐ力を使えるかどうかは怪しく、また通用するかもわからなかったが。
傷つける以外の方法で現状、腐食を止める手が見つからない。
はーーと盛大に溜息をついてから。]
…わーった。エーリッヒが目ぇ覚ましてから自力で何とかするまで俺がついてるわ。
[それは定期的に侵食近い部分に回復を入れるという事で。]
―東殿・回廊―
[ナターリエは気まぐれにどちらかの手伝いを進み出たようだった。
氷竜はザムエルに任せ、自身と、ナターリエがいるなら水と共に、エーリッヒと落ちた左腕、壊れた機械竜をつれ部屋まで運んで、ベットに降ろす。機械竜と腕はテーブルに置いた。
その後ナターリエがどうしたかは不明瞭だったが。
とりあえず自分はエーリッヒが目を覚ますまで、定期的に傷口に手を当て、有機部分の傷を癒し続けるだろう。]
―東殿・氷竜の部屋―
[ナターリエが居るならば、少しの間水に任せ。
居ないのであればこっそりと一人、一度部屋を抜け出し向かうのは氷竜の部屋。
案の定というか何というか。爺さんは床にぶっ倒れていたので、やーいやーいとかこっそり指は差しておいた。
差しながらも、さてどうしようかと思案する。
正直、爺さまを別の部屋に運ぶのはしんどい。
仕方なく、開いた部屋から余った毛布を引きずりだし、氷竜の部屋に持ち込み爺さまの下に引いてベッドの代わりにする。
ザムエルを運ぶ途中で、黒い腕輪に触れた。
いつかと同じように腕輪の反応は無く。
それは己が受けた揺らすものの影響が薄いからだろうか。]
[或いは、内にある迷いに近い感情を読み取ったのか。
それとも戦うという意志がそもそも命竜に無いからか。
あるいは、反応するだけ無駄だと思われているのか。
真実の程は不明。]
―東殿・氷竜の部屋―
[だがその事を心話では黙して語らぬまま。
腕輪からはそっと、手を放した。
爺さまに毛布をかけた後、ベットの上の氷竜に一度近づき、髪を梳く。
さてところで氷竜殿に真実は知られたんだかどうか。
知られたらどんだけ恐ろしい事がおきるかは、もう未知の世界で予測つきませんが。]
…悪かったな、氷竜殿。
[かけていた毛布を整え、ぽんぽんとその上から肩を叩いて、部屋を後にした。]
―東殿・機竜の部屋―
[そして機竜の子が起きるまで、椅子に腰掛け定期的に傷を癒すように努めた。
明方付近になれば、瞼は重くなり、大きく舟をこぎ始めるかもしれないのだが。**]
―― 私室 ――
[ぱちりと目を開ける。首を巡らせると、舟をこいでいる髭面が見えた]
…ありがとうございます。クレメンスさん。
[彼が癒しを注ぎ続けてくれていたことは感じていて、起こさぬようにと小さな声で礼を言う。それから、もぞもぞと起き上がり、そっとベッドから降りた。僅かに足がふらつくのは、未だ止まらぬ浸食のせいだろう]
[動かぬ機械竜と落ちたメタルの左腕が置かれたテーブルに歩み寄り、そっと機械竜を撫でる]
ごめんよ、ユル。
[囁いてから、腐食した左腕に触れた。青い光が溢れ、接続部が新たに構成される]
……っ!
[枯渇した力では、そこまでが精一杯で、全体を再生させることは出来ない。諦めてそのまま肩へと腕を繋いだ]
………。
[内側で進む浸食が止まらぬ事に、溜め息をつく。未だ剣の怒りが収まらぬということなのだろうか?オトフリートが結界内に取り込まれたなら、中にいる皇竜の側近や、天聖の竜、何より焔竜が剣を取り戻さずには置かないだろうと思ったのだが]
……バランスを崩したものは……竜王方でなければ鎮められない、とかかなあ?
[だとすれば、結界が開くまでこの浸食が止むことはないかもしれない。恐らくは今、あの結界を維持しているのは、精神の竜…その「願い」だろうか?]
どんな願いなのかな?こうまでしないと叶えられない願いって。
[機械竜をまた撫でる。答えるような明滅は、もう返らない]
―東殿・機竜の部屋―
アーベルは『自由』になりたいんだとさ。
[エーリッヒに告げた。椅子に腰掛け、目は閉じたままだったが。]
何から自由になりたいかは知らないけどな。
[予想はしている。が、口にするほど確信はない。]
……!
[ふいに返った「答え」に振り返る]
自由……クレメンスさんは、知っていたんですね?
[驚きは一瞬。先まで思いつかなかった「三人共」という選択肢は、気付いてみればさほど不自然ではなかった]
―東殿・機竜の部屋―
まぁ、な。
[名を呼ばれれば目を開けた。]
悪ぃな。おいさんお前さんは完治出来んっぽいわ。
向こうに帰れば治りそうか?
[向こう、とはエーリッヒの故郷、機鋼の砦の事。]
自由か…でもこんな風にして得た自由は、とても辛そうですね。
[自分より遥かに長く生きてきた精神竜の重荷や心を正確に理解することは出来ないけれど]
[クレメンスの問いには、淡く笑んで首を振る]
これは「力ある剣」のせいですから、多分剣が鎮まるまでは無理だと思います。
オトフリートさんがまだ剣を持ってるなら、気をつけないと…この先もっと酷い影響が出るかもしれない。
剣の持ち主だけじゃなくて、それに触れた者まで、巻き込むような力を…多分アレは持っています。
[この腕が証拠だというように、軽く目の前に持ち上げて]
―東殿・機竜の部屋―
さてねぇ。二人して、願いを手に入れたときの先までは考えてないっぽいしなぁ。
辛くても、欲しいものはあるさね。
生まれたときから檻に入れられて足を鎖で繋がれて。檻の外から自由に動き回る自分と同い年くらいの竜をずっと見続けていたら、自分もそうありたいと、願わずにはいられないようにな。
[アーベルの願い。具体的には知らないが、例えるならそんな所ではないかとの予想があった。]
―東殿・機竜の部屋―
剣の…って。
[微かに顔色が変わる。]
本当か、それ。
[嘘は言ってないだろう、とは思うが。
エーリッヒの腕を見、軽く眉を潜めながら思うのは、現在の一振りの持ち主。
未だノーラの手に渡った事は知らないが。]
先の事は考えていない…最初から、命懸けということなのかな…
[呟く言葉は静かに事象を分析するようで、けれどその響きは哀し気に沈む]
クレメンスさんは、二人の願いを叶えてあげようと思ったんですか?
それがあなた自身の願い?
[顔色の変わったクレメンスに、オトフリートの事を案じているのだろうと思い、頷く]
剣の力がダーヴに届くのを阻もうと触れただけでこうなりましたから、本体を持っていて、それを無理に使おうとしたりすればどんなことになるか判りません。
ほんとに、揺らすものより、ずっと危険物ですね。
[最後が軽い言い方なのは、クレメンスの心配を慮ってか。単に性格の問題かも]
―東殿・機竜の部屋―
命どころか自分所の竜王懸けてるくらいだしなぁ。
[へらり。まぁどっちも命までどうのこうのするつもりはないんだろうが。]
んー?いやいや。俺の願いは別に。
あるにはあるが…まぁ、別に二の次以下でいっかなーとも思ってるしな。
[それが心の底から欲しかった時から、ずいぶん永い時が経ってしまっていて。あの頃の情熱のようなものはもう失せている。
揺らされ鮮やかに思い出したのは、夢を見た後だけ。暫くすれば、再びくすんだ琥珀の世界に変わってしまう。
欲しくないとは思わなかったが。
全てをかけてまで欲しいと思うには、遅すぎた。]
二人に協力してんのは…なんつーか。
切欠にはおいさんも何だかんだで加担しちまってるし。
今更一人知りませんとはいえないし。
何よりまぁ…分からなくないからな。
[長く渇望して、どう足掻いても叶わなかった苦い記憶。
二人を手伝うのはそれがあるからだろうと、自分なりに思っていた。]
―東殿・機竜の部屋―
あー、そっか。
[使う、に関しては若干ほっとしたような。
ベアトリーチェがあれを使う事は多分、ないだろうと…。
それでも結界にポイとかしないだろうかと、一抹の不安はあるが。]
竜王勢もロクなもん預けねぇよなぁ。
[へらり。軽い物言いには反射的に軽く返した。]
―東殿・機竜の部屋―
…さって。目が覚めたならおいさんはちと用事があるんで行くわ。
また暫くすれば戻ってくるが…無理はするなよ。
[機械の腐蝕に関しては手が出ないが。立ち上がり近づいて、手で左腕の根元に触れて、もう一度癒しを注ぎ込む。暫くの間の気休めにはなるだろうと。
そしてベアトリーチェを探しに部屋を出、辺りを探し回ることになる**]
[命竜自身の願いがどんなものなのか、それが気にならないわけではなかったが、無理に聞き出すことでもないだろうと思われた。彼が今優先しているのが、残る二人のことだと判ればそれで十分]
もし、アーベルさんやオトフリートさんと連絡がつくなら、伝えてあげてください。
もしかすると、バランスを欠いた剣は「強い願い」を感じただけで間違った方向に発動するかもしれない。
命も、竜としての在り様まで賭ける願いなら…そして追いつめられてしまった今なら、その危険はある。
[癒しを注ぎ込むクレメンスに、最後にそう告げてから]
ありがとうございます。あなたも無理はしちゃ駄目ですよ?
[僅かな懸念、彼が妙に焦っているような…しかし、それは口に出さずに、笑みを見せて見送った]
[クレメンスの足音が遠くなってから、どさり、とベッドに仰向けに倒れ込んだ]
さすがに、きっつーー
[浸食は進み、命は削られる。けれど本当に辛いのはもっと別の部分]
俺って、ほんとに未熟…
[対なる精神と生命…その願いにも、苦しみにも、少しも気付けなかったことに、深く後悔の息を吐いて]
…て!落ち込んでる場合じゃないってば!
[それでも、次の瞬間勢いをつけて、再び立ち上がる]
ええっと、とりあえずアーベルさんを見つけないと、誰かに相談…わー!誰がいいんだ?!
[なんだか色々混乱しつつ、部屋を出て歩き出す。いつものように駆け出すことは出来ないが、ただ前へ、と**]
― 西殿・結界付近 ―
< 行く処があると告げ、幼児とは別れた。本当は宛てなどなかったが。
首飾りは手の内に、手は黒布の下に。
もう一振りの剣の揺らぎに呼応しているのか、認められぬ者が有しているためか、石よりは静かに脈打つ力の鼓動が感じられる気がした。
固く握り締め、結界に包まれ閉ざされた侭の西殿を仰ぎ見る >
< 主なき剣は真の姿を現さない。
鎖を手首に巻き、宝飾の部分を握り、その手で結界に触れる。
話したい、と。
ただ、それだけ。
ほんの僅かな願いを篭めて。
見えない波紋が広がる感覚。伸ばした手は敢えなく弾かれ、しかし干渉を加えた所為か、振動が伝わってくる。石が熱い。肌がちりついた >
……どうして、
< 焼けつく痛みに目を向けず、結界の彼方に視線を注ぐ >
名など与えてくれなければよかった。
< 王に対しての、小さな恨み言 >
―中庭―
[夢を渡り青年が姿を現したのは中庭だった。外していた連なる腕輪指輪を付け直して西殿の方角を見る]
――…剣を。
[ただそれだけを呟き、青年は東殿へと歩き出した]
―東殿/回廊―
[求めるのは剣、故に青年が向かった先は腕輪――精神の属を感じる方向だった。まだ眠りに落ちている者が多いのか、感じる気配は少ない]
剣は…大地殿は何処に?
[回廊は水の気配が濃い。眉を少し寄せて集中を高める]
―東殿/回廊―
[氷破の封印に抑えられた為か、腕輪の気配は掴み難かった。
真っ先に尋ねた大地の随行者の部屋は空で寝た気配も無く、扉を開けただけで踵を返す]
………。
[回廊に残る破壊の跡に眉を顰め、それでも青年は順に探していく]
―東殿・氷破の部屋―
ん……、うぅ……。
[身をよじり、薄っすらと目を開いていく。
少し辺りを見回すと、己に宛がわれた部屋だろうと言うことに気付いた]
……確か、ザムエルの腕輪が何か暴走していて……
それで、ナターリエに名前呼ばれて、身体が動いて……
[そこまで、整理するように呟いた後。
己の手の内にある氷の歯車に気付いた]
……封印を施した。
[ゆっくりと上半身を起こすと、床に老地竜の姿が見えた。
毛布が敷かれてはいるが、殆ど倒れ伏せたようにも見えて]
一応、暴走見たいなのは落ち着いたの、かしらね。
―東殿/回廊―
[やがて辿り着いたのは氷破の部屋。夢を渡るのは出た先で何が起こっているかわからない以上危険だった為、試してはいない]
――…あぁ、なるほどね。
ブリジット殿が抑えたのかな。
[かつての――仔竜の頃の出来事を思い出し、視線を伏せる。青い睫毛の陰で紫紺の瞳に過ぎるのは懐かしさと苦味。暴走し赤紫に染まった、否、それこそが真実の色である事を恩人である竜は知っている。
首を緩く振り、扉を叩いた。しゃらり瀟洒な音が少し遅れ鳴る]
―東殿・氷破の部屋―
[これからどうしたものかと悩んでいた時、
ノックの音が、部屋へ響いた。思わず普通に反応し]
はい、開いていますよ?
[老地竜を起こさないように、控えめな声でノックに返した]
―東殿/氷破の部屋―
[微かな鎖の音も精神の気配も気付いた様子なく返る声に口元に笑みが浮かぶ。けれど、恩人とて引くつもりは無い。開けた扉からするりと入り込み、後ろ手に鍵を閉めた]
……おはようでしょうか?
お目覚めのところ申し訳ありませんが――…動かないでいただけるとありがたく。
[広口の袖から半ば出た指先が眼鏡をずらし、隙間から赤紫が覗く。体の動きを縛ろうとする心の力が氷破の竜へと伸びる]
―東殿・氷破の部屋―
[心竜の姿が見えた時点で、袖に手を入れていて]
おはよう、かしらね。
正直、時間感覚が狂っているのだけれど……これも虚竜の王の影響かしら。
[息を吐いた所で、袖からとあるものを取り出し、両手で顔へと持っていく]
―東殿・氷破の部屋―
……、皮肉なものね。
貴方の為にと頑張って作ってたものを、こんな形で使うことになるなんて。
[それは、アーベルへと与えた物と同じ形をした眼鏡。
本来赤紫に見えるべき心竜の瞳は、紺碧の色に見えた]
―東殿/氷破の部屋―
[氷破の竜がかけた眼鏡に、青年の笑みが苦笑に変わる]
……迂闊でした。貴女は氷破なのに。
[足元で未だ眠りにある様子の大地の老竜に視線を落し、直にブリジットへと戻す]
時が移り、陽が消え、闇が隠れた。
時の流れなどもはや意味はない――…感傷も。
[完全に眼鏡を外し胸に落す。青玉の銀鎖が眼鏡を支えて揺れた]
―東殿・氷破の部屋―
氷破以前に、私はただのブリジットよ。
[ちらりと紺碧の瞳が老地竜の方へと動いて見えたが、直ぐに戻って]
例え巡る要素が薄れても、まだ命も心もあるわ。
感傷だって、それぞれの記憶。時間は――記憶の積み重ねだもの。
[眼鏡が、胸へと落とされる。刹那、心竜が肉迫し]
―東殿・氷破の部屋―
ッ!
[袖から取り出した、水晶の扇子で手を叩くように、回り弾く。
氷竜の身体能力は他竜と比べて高くない。
老地竜を守りながらの攻防では、明らかに分が悪いだろう]
―東殿/氷破の部屋―
[眼鏡だけを落そうとしたのが甘かったか、青年の手は水晶の扇子に弾かれた。次いで放たれた氷の波を後ろに飛んでかわす。下衣の裾に小さな氷の欠片が散り、動きに合わせ煌く]
――…眠れ!
[智に長けた青年は荒事に向いていない。しかしエインシェントの身体能力は備えていた。袖に手を入れて鱗をむしり、血のついた青を挟む二つの指が空中に陣を描く]
―東殿・氷破の部屋―
[青い光に包まれると、頭に靄が掛かったようになる]
……っ、う……。
[水晶の扇子は床へと落ち、氷破の竜は膝を着く。
眠気を封印しようにも、その思考すら眠気に覆い尽くされて行き――]
―東殿/氷破の部屋―
[包み込む青の光は、静かに氷破の竜を眠りへと導いた。膝をついた華奢な体が倒れきる前に片腕で掬い上げる]
おやすみなさい……今は、夢の中に。
[もう仔竜でない青年は耳元にそっと囁いて、氷破の竜の体を抱き上げてベットへと寝かす。薄い上掛けで体を覆い、眼鏡へと手を伸ばし取り上げた。
そうして、細い銀縁の眼鏡を片手に握り、力を入れる。玲瓏な音を立て、美しい封じの硝子は霧氷のように床へと降り積もった]
― 西殿・結界付近 ―
< 何時しか眠りについていたらしい。
時の移ろいは定かではないが、ゆっくり浮上した意識を外界へと向ける。
首ではなく腕に鎖を絡め、東へ向けて歩を向ける。
進むにつれて、熱を抱く石。
もう一振りの剣と、共鳴しているようだった >
―東殿/氷破の部屋―
[そして青年は静かに歩み寄り、大地の竜の傍らへと膝を付いた。老竜は眉を顰めており浅い眠りにある様子に見えたが、構わずに腕輪へと赤が伝う指を伸ばす]
――…っつ!
[奪い取ろうとした手を拒んだのは腕輪の契約――ではなく覚えのある氷破の力。
痺れを残す指先の赤を舌で舐め取り辺りを探すと、眠りに落ちた際に零れ落ちた氷の歯車があった。手に取り、赤に染まらぬ封の鍵を握りつぶそうした――その時]
―――回想
[ザムエルにブリジットを運んでくれとのお願いは、少しだけ顔を歪ませて了承した。
氷が嫌いなわけではない。ただ苦手なだけだ]
……力仕事には向いてないのだけれどねぃ。
[ぼやき、ブリジットの腕を肩に回して、ふんぬらば!とザムエルと共に力を合わせて、ブリジットを部屋に運ぶ]
[―――ぴき……ぴき……]
[運ぶ最中に鳴る音は、二人には聞こえただろうか。
水が、氷の如く低温に触れたらどうなるか……答えは簡単だ。
腕が、体が、凍っていく。
それは、「変化」を生業とするナターリエにとっては、たまらないほどの苦痛でしかなかったが、それでも、『力ある剣』の暴走を止めるためにやってくれたことだ。
文句を言えるはずもない。
―――ややして、ブリジットを部屋に連れ込み、ベッドに寝かしつけると、はぁ……と大きな息を吐いて、自室へと戻っていった。
力を消耗し、凍らされるところだったのだ。
体力は、いちじるしく低下している。
それを回復するためにも、ナターリエは深い眠りに就いた]
―――回想終了―――
―東殿/氷破の部屋―
[機鋼の仔竜の力は既に知っていた。封を解き精神の力を流し込み腕輪の抵抗を押さえ奪うには時間が足りない]
――…鍵を貴方に。
[代わりにもう一度はがした鱗で大地の老竜へと術をかける。
眠りの奥の深層意識へ『抑えられない』という*言霊を――…*]
……。
[ゆらり、目を覚ました。
もしも、眠りの間に襲われていたのならば、太刀打ちできようもなかったが、どうやらそれはなかったようで、一先ず、ナターリエが、ほう……と息をついた]
やれ……少しは回復したかねぃ。
[確かめるかのように、右手を上げてみたが、その動きは鈍く―――]
氷の影響が、まだ抜け切れていないようねぃ。
[くすりと苦笑した]
まあ良いわぁ。
まだ、行動できる分だけましですものねぃ。
さて、と。
氷の様子でも見に行きますかねぃ。
色々と……聞きたいこともあることですし。
[少しだけギクシャクする体を起き上がらせて、歩みは扉の向こうへ……行った後に、すぐに戻ってきた]
[服を着込み、氷の部屋の扉を遠慮もなく開ける。
ぎしぎしあんあんとかあっても、むしろ、望むところである。
しかし、そういうこともなく、昨晩と変わらずに眠り続ける氷の姿と―――]
……大地の。
ここで倒れてたのですかぁ?
[呆れた声で、床に寝そべるザムエルの姿を見つけた]
─東殿・ブリジットの部屋─
[途切れた意識は途中で浮上することなく深く落ちたままだった。倒れ伏した後にクレメンスが小馬鹿にした後にきちんと寝かせてくれたことなど気付くはずもなく。もちろん、腕輪──剣に触れられたことについても]
[摩耗した精神は相当のものだったのか、周囲で騒ぎが起きても目を覚ますまでには至らなかった。自己の回復を優先したそれは、結果言霊の侵入を許すこととなる。
表情が険しくなったのは、その直後のことだった]
剣……抑えられ……
…否…抑え…ば…らぬ……
[うわ言のように言葉を繰り返す。倒れた時にはずれてしまったのだろう、額にはバンダナは無く、変わりに汗が浮かんでいる。額には、大小の菱型が螺旋状に並んだ刻印が中央に現れていた]
[何度も突かれ、それに気付き瞳を開いたのは、はたして何回目のことだったか]
あ。起きた。
[ナターリエに起こそうという思いは、全く無かった。
ひたすら、つんつんつついて楽しんでいただけである]
何、女の子の部屋で、うめき声を上げて、険しい顔しながら寝てるのよザムエル。
……なんか変態趣味でもあるんじゃなぁい?
[ひどい言い様である]
[しばしぼぅとした様子で天井を見つめて。傍でかけられる言葉の意味を理解するのに少しの時間を要した]
……阿呆なことを言うな。
…倒れておったのか…。
[言葉を理解すると魘されていたのとは別の意味で眉根を寄せ。上半身を起こす]
[ローブの袖で額の汗を拭う]
剣……。
[訊ねられ、腕輪に視線を落とす。それを注視するようにして動きが止まった]
……抑えられぬ……。
いや、抑えてみせる…。
……違う、そうじゃ、抑えねばならんのじゃ。
[小さな呟きを漏らす。最初の二つはどこか無機質な声色。続く言葉は意識を取り戻したかのように力が籠ったものだった]
ブリジットのお陰か、今は落ち着いて居るようじゃ。
多少の力の揺らぎはあるが、儂で抑えられる程度のものじゃな。
[ナターリエに視線を戻す頃には普段の様子に戻っていて。己が呟いた言葉には気付いて居ない様子で、問われたことに返答す]
ご立派。
その調子で抑えてくれていると助かるわぁ。こんなもののために、世界を無くすなんてことにはなってほしくないですからねぃ。
―――ま。オトフリートが結界内に囚われたことにより、もうその剣の力を使う必要もなさそうだしねぃ。
[こともなげに、笑いながら言い、直後の言葉に、顔が真剣になった]
―――大地の。
このような場所で言うのもなんですけれども……。
[一度、視線はブリジットに向き、眠っていることを確認すると、視線を戻し、小さく囁いた]
ブリジットのこと……どう思います?
[オトフリートが結界に入ったために。その言葉に賛同するように頷く。確かにもう一つの剣の共鳴は感じられない。オトフリートと共に結界内に飛ばされたと考えるのが自然だろう。しかし気になることが一つ]
じゃが、再び剣を持ち出してくる可能性は否めまい。
オトフリートは、結界内でエルザの持つ剣を奪ったようじゃからの。
連中は自由に出入り出来ると考えた方が良い。
そうなれば、揺らされたもう一人……アーベルが使ってくるとも考え得る。
[この予測は間違ってはいないだろう。間違っているとすれば、剣は結界には入らず、今だこの場所に留まっていることと、現状剣自体はアーベルの下には無いと言うこと。
この場にあるはずなのに感じられぬ剣の共鳴。その理由が己が持つ剣が安定せぬ故とは、今は知るよしもない]
……ブリジット、か?
[訊ねられ、視線をブリジットへと向ける。未だ眠る氷の竜、しばし観察するように見つめてから、ナターリエへと視線を戻す]
…何とも言えんの。
剣の封を手伝うてくれたはどちらとも取れるしのぅ。
ただ、アーベルの行動と比べ見るのであれば、揺らされてはおらぬようには見える。
[アーベルは神斬剣を奪うべく手を出してきた。ブリジットはそれを抑える手助けをしてくれた。同じ揺らされし者であるならば、相反する行動を取るだろうか]
[ザムエルの言葉に、わずかにうつむいて思案した]
……ふむ。
そうか。そうねぃ。確かに、また持ち出されてくる可能性は否めない、か。
ただ、その可能性を否定するわけじゃないのですけど、精神のには、聖魔剣を使うのは難しいとは思いますねぃ。
大地のは、剣を預かっているのを仮契約者、と言いましたねぃ?
ならば、他の者が剣を使うのは、仮の契約者でもないものが無理やり持っているということ。その時点では、力を使いにくいとは言え、オトフリートのように使うことも可能でしょう。
けれども、彼の者の属性は「精神」
私が、大地のが持っている剣に嫌われるのと同様に、精神のも聖魔剣は、かなり使いにくいんじゃないでしょうかねぃ。
……確証は無いのでなんとも言えないですけどねぃ。
[ブリジットのことに話が移れば、やはりまた思案して]
……まあ、そうねぃ。
手伝ってくれたから、全面的に信用できる、とは思ってないですわぁ。
そして、精神と比べるならば、揺らされているようには見えないのも同様ですわぁ。
ま。それを確かめるために、此処に来たのですけれどねぃ。
……いや、まさか、大地のが夜這いに失敗して眠りこけているとは思いもしませんでしたけれどねぃ。
[最後は冗談交じりに、笑い出す]
―東殿・氷破の部屋―
……っ、く……。
[眠りの言霊の威力が弱まったのか、もともと強く掛けた訳ではなかったのか。
深い眠りの淵から、何とか戻ることが出来たようだ。薄っすらと、瞳が開く]
うむ、真なる契約者は竜王様達となるが、それもままならぬ状態。
故に仮初の契約を交わし、所持出来るようにしておる。
これらの剣は契約者を選ぶ。
故に契約をして居らぬ者が使うはかなり難しいじゃろう。
……なるほどの。
お主がこの剣に厭われるのであれば、その可能性は高いやも知れん。
[ナターリエの説明に腕輪へと視線を向ける。腕輪は未だ不安定な状態のまま。
ブリジットの話については頷き返し。しかし続く言葉にはじと目で返した]
そんなはずがなかろうが。
お主がさっさと戻った後に戻ろうとしたんじゃが、そこから記憶がない。
戻ろうとして倒れてしもうたらしい。
[冗談には心外とでも言うように真面目に返した。この手の冗談はあんまり通じないっぽい]
―東殿・回廊―
[ベアトリーチェを捜し歩き、見つけた翠樹の小さな気配に違和感を覚える。
剣の気配がしない。
おそらく誰かの手にもう渡されたのか。それに微か安堵と、では何処にという疑問が頭を過ぎる。
がりと頭を描いて。
暫く考えた後、一旦壁によりかかった。]
『アーベル。』
[心に声を落とす。]
[ブリジットが身じろぎする気配を察すれば、そちらへと視線を移し]
おや。
噂をすれば、かねぃ。
良かったわねぃ。大地の。
もし、私がいなければ、いらぬ誤解を受けていたかもしれないですわよ?
[真面目に返されたというのに、冗談は止めない。それがナターリエという存在だから]
― 東殿・回廊 ―
< 剣の仄かな共鳴に従って進むも、複数の気配を感じて歩みを留めた。
何をするにしても、自分の立ち位置は酷く不安定だと知っている。
脈動を続ける天聖と流水の力を持った石を、そっと影で覆い、巻きつけた腕は黒布の下に隠す。
神聖なる光は、何れは影も打ち消すだろうが、その場凌ぎにはなるだろう >
―東殿・氷破の部屋―
流水の……、
[頭を抑え、軽く振るった。
少しだけ、妙な靄が頭に掛かったままだったが、直ぐにはっとして]
ザムエル!
剣は……、剣は無事ですか――!?
[目が覚めたらしき、老地竜へと、半ば叫ぶように声を掛けた]
ぬ、起きたか。
[身体を起こすブリジットに気付くと、己も上半身を起こした状態のままそちらへと視線を向ける。尚もナターリエが冗談を告げると]
…お主が居た方が吹聴されるような気がするのは気のせいかの。
[やはりじと目で返した]
剣?
未だ不安定ではあるが、ここにあるぞぃ。
[左腕を掲げてブリジットに見せる。その左手首には黒き腕輪]
どうしたと言うのじゃ、その慌てようは。
―東殿・回廊―
[ふと感じた気配に顔を上げた。
僅かな違和感や違いに気づけるほど感覚は鋭敏ではない。
姿をみればそれは知った竜の気配だったかと、覆い隠されたものには気づかない。]
よ。
[目が合えば、ノーラにひらりと手を振った。]
何してんだこんな所で。
[それは自分もだが。まぁ気にしない。]
[ブリジットの様子に軽く眉を潜めた]
……氷の?
何かあったんですの?
[慎重に、聞き返してみる。
が。
ザムエルには一転軽く]
もちろん。吹聴しますわぁ。
ま。お互い無事に終われたら、という条件付ですけどねぃ。
―東殿・氷破の部屋―
[剣が無事な様子を見て、安堵の溜息を吐く]
よかった……。
[偽りも陰りも無く、心底ほっとした様子であったが。
老地竜から不思議そうに尋ねられると]
……まだ貴方が倒れている時、アーベルがこの部屋に来たの。
抵抗したんだけれど、眠らされてしまって……。
狙いはきっとそれ……、
[そこまで呟いたところで、違和感を感じた。何故、取っていかなかったのだろうか、と]
―東殿・氷破の部屋―
[どこか慎重に聞き返してきた流水の者には]
……今言ったとおり、なんだけれど。
部屋に来る間に、あの仔を……アーベルを、見なかった?
[どこか悔やむように、心配するように、ナターリエへと尋ねた]
― 東殿・回廊 ―
……クレメンス。
< 視線が合う。振られた手は見ず、その目を見詰めていた。
翠樹の仔竜から直接名こそ得られなかったものの、随行者に選ばれた面子を考えれば、推測はついた >
ブリジットを騙そうとしたのは、なんでだ?
お前も、願いがあるのか。
< 唐突な問い。
いつか交わした、短い言葉を思い出した。
願うだけでは変わらない、と >
─東殿・ブリジットの部屋─
せんで良いわっ!
[ナターリエの言葉には一喝。お互い無事に、と言う言葉には同意せざるを得ないが。
溜息の後に視線はブリジットへと向かう。見えたのは、真に安堵する姿。しかし続く言葉に驚き目を見開く]
なぬ、アーベルが…!?
何と言うことじゃ…全く気付けぬとは。
[目覚めることが出来なかった己に苛立ちが募る。しかし浮かぶ疑問はやはり]
狙ってきたのじゃったら、何故奪って行かんのじゃ。
目覚めぬ儂から奪うは容易かろうに…。
―東殿・氷破の部屋―
……多分、だけれど。
私が施した"封印"が作用していたからじゃないかしら。
[少しだけ悩ましげに呟く]
ただ、上級封印式とはいえ……
力ある竜なら、時間が掛かったとしても無理やり解けるだろうから。
時間が無かったのか、それとも……。
[唸るように考え込む。そこで、再度ハッとして、辺りを見回した]
―東殿・回廊―
[ノーラがどこまでこちら側…つまりは揺らされたものの事を知っているか、知りはしなかったが。
オティーリエが引き込めるかもと、以前言っていた事は覚えている。
そのあたりから事情は知れたのかと、朧気に予想し、へらり笑い返した。]
あんまり皆でダーヴィットを信じてたもんだから、一石投じておいたのさ。
疑われるならそれもまた良し。
俺の口から出る嘘で混乱でもしてくれればと思ってたんだが。
……思った以上に信頼されて、俺のほうが驚いたわ。
竜がいいというか何と言うか。
他言されなかったのは、ちと想定外だったな。
[笑みには呆れ、というよりは苦笑のようなものが混じる。なかなか上手くいかないもんだね、と。]
…俺の願いか。何だと思う?
[常の軽薄な笑みを湛え、ノーラを見据える。]
……いいえ。私もついさっき起きたばっかりですから、見かけてはいないですわねぃ。
[そんな言葉を返しながらも、頭の中ではめまぐるしく思考が動いた]
(―――言葉通りに受け取るのならば、アーベルとブリジットは仲間ではない。つまり、ブリジットは揺らされているわけではないということ。
けども、口裏を合わせて、こちらの隙をうかがっているということも考えられるかしらねぃ。
……どちらも考えられなくも無い、か。
しかし、ブリジットがそうならば、精神、影、生命、氷。
こちらは、水、大地……後は、機鋼くらいかしら。翠に期待できない以上、どうしようもできない。
……ふぅ。駄目元ですわぁ。言葉通り信じるしかなさそうですわねぃ)
―――ふむ。
つまりは、ブリジットはアーベルの味方ではない、ということですわねぃ。
……氷のを眠らせたときの余波が、大地のにも来たせいじゃないのかしらぁ?
大分、疲れていたようですしねぃ。
[ザムエルが目覚めなかったことの訳を、ナターリエなりに解釈してみた]
……輪転が遠いと言っていた。
< 話を聞き終え、ぽつりと呟いた >
それと関係があるのかとは思うが。
確証は、ないな。
永きを生きるのに飽いたか?
< 飾りを持たない左手で己の髪を梳いて、視線を落とす >
知れば知るほどに躊躇いは生まれるのにな。
知らなければ、単純に、お前らを悪とすることが出来た。
……願うことをしようとも思わなかった。
―東殿・氷破の部屋―
そう……。
[ナターリエの言葉に、微かに肩を落としながら。
目まぐるしく動く思考は読み取れるはずも無く]
……あの仔……アーベルの支えや助けにはなりたいと思ったことはあるけれど。
それは、あの瞳に関してのこと。
[赤紫の瞳を思い出しながら、ぽつりと呟く]
……思いか、心かは分からないけれど、"揺らされて"いたのに……
全く気付かなかったなんて、情けないわ、ね。
[伏せ目がちに、息を零した]
…奪われぬはブリジットのお陰か。
助けられてばかりじゃな。
儂がいつ目覚めるか、と言うのもあったやもしれんが、封印かかりし故に、と言うのは大いにある。
[僅か安堵の息を漏らす。相手方に渡らなかったのは僥倖だったろうか]
……ぬ?
ブリジット、何を探して居る?
[辺りを見回すブリジットを不思議そうに見やった。
ナターリエの見解を聞けば確かに納得出来ようか]
周囲へもかかるものであれば、可能性はある、か…。
―裏庭―
[その頃、青年は裏庭の闇の中で氷の歯車を弄んでいた。掌の血は既に止まっており、純白の氷は赤に染まる事は無い]
『――…あぁ、クレメンス』
[意識の一部は心話で届いた生命竜の声に向いていた]
―東殿・回廊―
近いな、とても。
[笑みを湛えたまま、ゆっくりと近づく。
剣の事は知らないまま。
近づけば周囲を、琥珀の粒子がちらり舞いはじめる。]
何故俺が、永遠に近い生を得たか。
エインシェント種だからじゃねぇ。
エインシェントであれ、外側からの攻撃には死ぬ事もある。
俺が生きて……いや、生かされてるのはこの琥珀の粒のせいだ。
数多の生命の中に溶け。俺を生かしつづけ、なのに二度と俺とは交わることもなくなった。
俺の片翼の成れの果て。
[ぽつりと、呟く顔に浮かぶ笑みは、軽薄よりもさらに薄い。]
―東殿・氷破の部屋―
[毛布をひっくり返したり、辺りを見回していたが]
……ザムエル、ナターリエ。
そのあたりに、氷で出来た歯車が落ちていないかしら……?
[ゆっくりと、ベッドから降りて、二人へと尋ねた]
[ブリジットの言葉に、少しだけ安堵の息を漏らした。
だが、口から漏れ出るのは、いつもの皮肉気な口調で]
今更、嘆いたところでしょうがないわぁ。
「今」という時間は、絶えず「変化」をもたらすものなのですからねぃ。
重要なのは、「これから」
何をすればいいのかということ。
ブリジット。
貴方が、騒動に協力していないというのならば、私達に協力して頂戴。
精神のを止めるために。
何をすればいいのかは……自分の中で答えは出ているでしょう?
氷で出来た歯車?
[ブリジットの問いに疑問で答える]
……少なくとも、私がこの部屋に来たときには見ていないですわよ?
むしろ、そんなの触りたくもないですしねぃ。
氷で出来た歯車じゃと?
[ブリジットに言われ己の周辺を探し始める。果ては下に敷いていた毛布の下をも探すが、それらしきものは見つからず]
ぬぅ?
そのようなものは無いようじゃが…。
何か大事なものなのかの?
あーもう、足に来てるし…
[壁に縋って、ひょこりと立ち上がる]
まずいなあ…見つけるまで保たないかも。
[ためいき]
それに、怒られそーだし。
[ええ、各方面に]
―東殿・氷破の部屋―
そう、ね……。それは、大丈夫。
辛いからって、今を封じ止めて、過去に浸ろうとは思わないから。
そう、これから。これからが、大切……。
[胸の辺りに手を置いて、呟く]
もちろん。
アーベルの事に気付けなかった事もあるけれど……
きちんと、お仕置きしないといけませんから。
[ナターリエを見据え、呟いた]
―東殿・氷破の部屋―
[流水竜と老地竜、二人から見当たらないと言われれば、顔を曇らせて]
ザムエルのそれを封じている、鍵のようなものなんだけれど……
……やられたわ。アーベルに、持っていかれたみたい。
[口元に手を当てて、眉を顰めた]
片翼の。
< 縮まる距離。
顔を上げ、舞う粒子を視界に納めた。
少し、螢火に似ている >
剣を用いれば、その願いは叶うのか。
世界の理を壊して?
< 手を握ると、微かに鎖の音が鳴る。
黒布の上から触れた粒子にか、石が揺らめいた >
……彼女の事も彼の事も、多くは知らないな。
オティーリエの願いと、その覚悟は聞いたが。
それを写して、願いを抱いた。
影輝王はその事を見越していたのかもしれない。
だから、剣をこちらには渡さなかった。
だが、ならどうして、連れて来たんだろうな。
何かが起こる事は予想出来ていただろうに。
< 何を願ったか。そう問われ、眼を伏せる >
一時は、影であることを願った。
一時は、己であることを願った。
今は――…
[ブリジットの威勢良い答えを聞けば]
おお。怖。
[と、おどけたように首をすくめた。
だが、続く言葉には、少しだけ表情が真剣になった]
なるほどねぃ。
短時間で封印を解けぬならば、鍵を持ち出して、ゆっくりと解く、か。
……大地の。
いつ封印が解けても良いための心構えをしておいたほうがよさそうですわよ?
何と…。
[封印の鍵。それが見当たらないと言う]
それを壊されてしまえばかけた封が解かれてしまうと言うことか?
安定欠く今それをされてしもうたらちぃと拙いかの…。
[考え込むように顎鬚を撫でる。封が解けたならば、己はその抑制に力を注がざるを得ない。それを意味する言葉だったのだが、その奥には自分でも気付かぬ操作がなされていた]
[封を解かれてしまったら「抑えられぬ」と言う植えつけられた意識が]
―東殿・回廊―
……、…?
[幼子がぱたりと立ち止った。其の後ろで新緑がさわりと萎れていく。
不思議そうなその表情の先に何を捉えたか、
変わらず腕にしがみ付いたままの私は同じように視線を向け、漸く其れに気付いた。
ひょこりと拙い歩みで先を進むのは機竜殿ではなかったか。
同じ仔であれど脚の長さは仔と機竜殿では遥か違う。
しかしコンパスこそ違えど今の様子では幼子の脚でも悠に追いつく事は可能であった。]
…エーリ?
[僅か問いの響で名を呼ぶは、何処を目指すかそれともその様子は如何したか。
どちらを問う為かは、その限りではわからねども。]
―東殿・氷破の部屋―
[おどけたように首をすくめる流水には、くすりと微笑み。
氷の歯車を無くしてしまった事には、ゆるりと首を振るって]
同じ対象に、続けて封印術式を施すのはあまり良くないの。
下手したら、その周り……たとえば、ザムエルの身体にまで影響が出かねないから。
しかも、上級封印式ともなれば……。下手したら冬眠ね。
[苦虫を噛み潰したかのように、苦い顔で]
え?ああ…ベアトリーチェ。
[幼い声に振り返り、微笑む]
良かった、無事だったんだね。
[昨夜から姿を見ていないことで心配はしていた。結界内に囚われはしていないだろうとは予想していたが]
―東殿・回廊―
[ノーラの問いに、薄かった笑みは一転して、快活なそれへと変わる。]
あはははは!さぁて、ね。
俺を裏切って、勝手なことしやがった片翼を元に戻したかった。
あるいは、元の居場所……片翼や、沢山の仲間が居た、遥か遠い過去に戻りたかった。
だが…正直、俺の願いは二の次でいい。
片翼を戻しても、過去に帰っても…俺は満たされはしないだろうさ。
[ノーラを見下ろす顔は少しだけ、泣きそうにも見えただろうか。]
?
眼鏡を外すって……どういうこと?
[名簿を詳しく見ていなかったナターリエにはその言葉の意味がいまいち理解できなかった]
それでも、約束がある。
俺が失ったものを持つ二竜が、まだ手が届く範囲で足掻いてやがる。
それを手伝うのが、ある意味今の本当の願い、なのかもな。
[ちらと、琥珀が黒布に触れた。
その奥にある聖と水の気配に、薄ぼんやりと光は揺れる。]
ああ、そうだ。あの時俺は確かに、願いが叶うなら世界の理なんざどうでもいいと思っていたんだから。
[へらり、笑う。
琥珀の粒子から伝えられた朧気な感覚に。]
リーチェは、へいき。
……でも、エーリが、だいじょうぶじゃ、なさそう。
[笑みを向けられ、何時もなれば同じように仔も顔を綻ばせたろう。
しかし流石に相手の様子は尋常では無い事など、幼子ですら安易に予想付く。
僅かに眉を寄せたまま、僅か左に首を傾いだ。]
…どっか、いたい?
[冬眠。その言葉を聞くと少し嫌そうな表情になり]
霜柱が立つような事態にはなりたくはないのぅ。
そうなれば、封を破られた場合は己が力のみで抑えることになろうか。
[どこか自信なさげな声色となる。続く言葉には不思議そうにブリジットを見やり]
…眼鏡を、じゃと?
眼鏡……目、か?
何か特殊な力でもあるのか。
…うん、俺はまだ大丈夫。だけど…
[ふと思い出すのは、幼子が機械竜に向けた笑み。ゆっくりと膝を折り屈み込む]
でも、ユルがね、壊れてしまったんだ。
[彼女とユルは友達だと、言ったから。そう伝えた]
アーベルは自由に。
オティーリエは二つに分かれたいんだったな。
さぁて、王には王の深い考えが、って奴かね?
ザム爺に神斬剣が。エルザに聖魔剣が渡ったのだって、その辺に居たから適当に押し付けたんかもしれないぜ?
[へらり、笑いは常のものに戻る。]
どちらもお前さん、って結論じゃ収まらないんだろうな。
…さて、今は?
そいつを使って叶う願いか?
[一歩、近づく。距離は大分近い。]
―東殿・氷破の部屋―
一応、あまり干渉が大きくない術式で、フォローはするけれど……
今の封術式よりも、効果は薄れると思っておいて。
霜柱でも良いなら、もう一度掛けるけど。
[ザムエルにはそう答え、今度は二竜へ改めて見向かい]
あの仔……アーベルの瞳は、"こころ"を覗き見るの。
それを抑えるために、私が封印のレンズを作って、彼に与えたのだけれど……
眼鏡を掛けていない状態……赤紫の瞳を見つめたら最後。
彼の精神術――例えば、動くなとか、眠れとか。
精神に直接作用する術を掛けてくるだろうから。
[困ったように、精神竜の目に関する情報を伝えた]
―東殿/氷破の部屋―
[それは誰かの、または何かの瞬きの瞬間だった。夢とも言えぬ一瞬の意識の空白を渡り、青年は氷破の部屋へと現れる]
――…動くな!
[窓を背に、既に赤紫の瞳が室内の三竜を見つめる]
まだ?
でも、だいじょうぶじゃ、なくなっちゃう?
…だめだよ?
[心配げな様子を隠す事無く、
眼の高さが近しくなった機竜殿へと真直ぐに視線を向ける。]
――ユル、こわれちゃったの?
…どうして?
[告げられた言葉に、幼子の眼が僅か驚愕に見開いた。
短期間と謂えど幼子にとって、あの小さな機械竜が友で在ったのは事実。
元々変化に乏しい筈の仔の表情は、機竜殿の言葉によって間違いなく消沈していた。]
…また、やすんだら、げんきになる?
いや、霜柱は勘弁してくれぃ。
老体に冷えは聊か辛い。
[ブリジットの言葉にゆると横に首を振る。僅か苦笑が漏れた。続くアーベルの力についてを聞くと、難しい表情となる]
”こころ”を見るとな?
…流石は精神の竜と言うことかの。
かなり厄介じゃのぅ、それは…。
赤紫の瞳を見ねば良いのじゃろうが…。
[相手が見せようとしてくるのならば、難しい話であろう]
……泣きゃいいのに。
泣けるんなら。
吐き出さなけりゃ、いつか、崩れちまう。
< 乱雑な口調とは裏腹に、仔を愛しむ母に似た、
しかし寂しさを帯びた様子で微笑を浮かべる。
紡がれる言葉に眼差しは揺らいだ >
影は、影。
丘の螢火より生まれ、旧き記憶の覆いとなるだけのもの。
それに己はないのだから二つの願いは同時に叶う筈もない。
己が在ると識らなければ、願わずにいられたんだろうに。
< 其処で一度、言葉を切る >
―東殿・氷破の部屋―
――!
[その刹那。咄嗟に眼前へ、氷の壁のようなものを作り上げる。
封印のレンズと同じ理論で作り上げるが、いかんせん急ごしらえなそれは。
完全に赤紫の瞳を遮断することは出来ないだろう。
三竜を覆うように氷壁を作り上げるも、あとはそれぞれの、それこそ"精神"次第か]
[突如として響く声。反射的にそちらを見るは幸か不幸か]
アーベル…!
[現れた人物を察し、次いで思い出す今までの会話。極力視線を合わせぬようにずらし相対せんとす]
「こころ」をねぇ……。
[ブリジットの説明に、ナターリエが思いっきり不快な表情をあらわにした]
まるで、服を着てるものの下の裸を覗くようなもんじゃない。
盗撮とかその手の類ねぃ。
いやはや。
変態趣味では、一歩負けましたねぃ、大地の。
[おどけた顔で、思いっきりバカなことをザムエルに言った]
―――ま。それはともかく。
[そして、すぐに真剣な表情に戻ると]
ブリジット。
見つめられたら、なのねぃ?
こちらが、相手の目を覗き込む必要性すら、無いと。
うん、ごめんね。ユルは俺を守ろうとして壊れちゃったんだ。
[詳しい話はしない。けれど嘘もつかない。沈んでしまった幼子の頭を生身の右手で撫でる]
治してやれたらいいんだけど…駄目かもしれない。
[ぼろり、と腐食したメタルの欠片が床に落ちた]
[はたして、先ほどあげた疑問は、答えを聞くよりも早く、結果を知ることが出来た]
[―――ぴき]
[それは、アーベルの力のせいなのか、それとも、ブリジットの力の余波か。
ナターリエの体が、凍らされたように重くなる]
……まずったかな。
今は、ただ。知りたい。
影で在りたいと思ったのは、属に縛られていたからか。
己で在りたいと思ったのは、彼女を写していたからか。
己が分からない。
< 近付く生命の竜へ、鎖を巻いた手を差し伸べる。
奪うならあっさりと奪えよう >
……いっそ、剣など壊れてしまえばいい。
そうすれば、きっと、理も乱れ、この影から解放されるのだから。
< 何時しか、口調は写しとは異なるものになる。
歪な願いを受けた聖魔の石が、軋むような高い音を鳴らした。
それはまた、神斬の石にも届こうか >
……エーリが、あやまることじゃ、ないよ?
ユル、えらかったんだね。
エーリが、だいじょうぶなら、ユルもよかったんだよ。
[頭へと触れる手を拒む事無く、仔の視線は真直ぐに機竜殿へと注がれたまま
告げられた言葉にはふると一度小さく首を振った。
友のした事が間違っている等と思わぬ、況してや機械竜にとって大事な者の危機で在ったのだろう事を思えば尚更。]
…だめ、なの?
[落ちた欠片に気を取られたか、視線が床へと下る。
何事かと機竜殿を再度見上げ――仔は何を思ったか、欠片を拾おうとしゃがみ込んだ。]
―東殿/氷破の部屋―
[封印を司り、青年の目を押さえるレンズを作っていた氷破の部屋。彼女が目覚めていたならば一筋縄ではいかないのはわかっている。
だからこそ、力そのものを押さえる腕輪と、一定の力の操作をする指輪を外してきたのだから]
――…っ!
[氷壁へと隠していた鱗を投げつける。青い光は同質の氷となり、高く澄んだ音を立ててぶつかり合った]
…んで…剣は…結界の中じゃ?
[それもまた、共鳴と呼べるのか?剣の力を負の方向に受ける身体が、床に崩れる]
ベアトリーチェ…離れ、て…
[触れること能わぬ力ある剣の呪いに等しい波動、傍にあるだけでも幼い竜を害するかもしれない、と]
…っ!
[機竜殿の声にか、びくりと肩が跳ねる。
苦痛げな声に対する困惑と、心配が入り混じる眼で幼子は相手を見やった。]
――エーリ、だいじょうぶ?
だれか、よんでくる?
[霞む視界に、翠樹の仔が、崩れた欠片に触れようとするのが見えた]
触っちゃ、駄目だっ!
[声は弱った者とは思えぬほど大きく、空気を震わせた]
……まだ、少しは時間あるかねぃ。
[体はうまく動かない。
だが、まだ少しは力を使う余力もありそうだ。
それに、アーベルが氷の壁を崩すまでの余裕も]
よいしょ……と。
[ブリジットを真似るように、氷の壁の裏側に、水鏡の壁を生み出した。
少なくともこれで、視線はさえぎることは出来よう。
うまくいくならば、跳ね返すことすら出来るだろうが、そこまで望むのは高望み過ぎるだろう]
[離れた場所で鳴りし高い音。それは耳ではなく意識へと届く]
──っ!
何じゃ、今の、は。
[悲鳴にも似た音。突如なる腕輪の共鳴。対たる剣が、軋む音]
何が起きておる…!
[先程まで感じられなかった対たる剣の共鳴を感じる。未だ腕輪が不安定であるのは変わらぬが、あちらからの劈きに腕輪が反応した。アーベルを前にして、視線が惑うように移ろう]
[―――どうにか、間に合ったかな?
そのような思いを抱いて、ナターリエの体が、眠りを欲して、崩れ落ちる。
元々、オトフリートとの戦闘で、ほとんどの力は使い果たしている。
少しは弾除けや、囮になれたのなら儲けものだ]
……後は、任せるわよー……。
…けん?
――…くびかざりの?
[機竜殿の言葉に、幼子が何かへと反応したかの様に顔を上げる。
ポツリと呟いた言葉はしかし其れも一寸の事、床に倒れた姿を見やれば
幼子の表情は、今度こそ困惑が狼狽へと変わる。]
…っ、エーリ!
えーり、…
[触れるなと謂われれば、硬直するしかなく。
幼子にはどうすれば良いのか判らぬ、ただ眉を歪めた]
―東殿・氷破の部屋―
[丁度、心竜の話を出し、対策を思案中だったのが幸いしたのか。
氷破の竜は、立て続けに術式を放っていく]
一枚じゃ防ぎきれないのは、分かってる!
[両の手の内から、凍気が溢れる様に毀れ出る。
ナターリエが、水鏡の壁を氷壁の内側に張るのを見て]
二枚目――、
[二竜を少し下がらせた後、再度、氷壁を広げる。
より硬く、広げるようにして。
一枚目の氷壁は、音を立てて崩れようとするだろうか]
三枚――!
[三枚目の氷の壁を生み出した所で、その場に膝を着く]
ザムエル……、もう、これ以上は持たない……ッ、
退いて……ッ!
…くびかざり…?
[痛みに意識を奪われそうになりながら、しかし無機の半身はまだ崩れ切ってはおらず、幼竜の声を性格に認識する]
ベアトリーチェ…きみ、剣を、知ってる、の?
[不安が頭をもたげる、もしや、何かの間違いで、この幼竜の手に剣が?]
あれは、とても、危ないんだ…ユル、は、そのせいで…だから…持ってるなら…
[言葉は途切れ途切れに、幼竜に意味は伝わるか]
[移ろう視線は丁度倒れるナターリエの姿を映しだす。意識が現状へと引き戻された]
ぐぬぅ…!
聖魔剣の様子も気になるが…こちらを疎かにするわけにも行かんか。
[気を取り直したところにブリジットの声]
ブリジット!
…仕方あるまい…!
[アーベルが立つは窓際。なれば、と部屋の出入り口より回廊へと飛び出す。背には砂の翼。回廊内を滑るように駆けだした]
─東殿・ブリジットの部屋→回廊─
―東殿/氷破の部屋―
[眠れと命じたのと流水の竜の水鏡のどちらが早かったか。
跳ね返されるより前に膨れ上がる精神と影輝の力に赤紫の瞳はザムエルへと向かう]
――…貴方には『抑えられない』――…!
[赤紫は老竜の惑い移ろう視線を見つめ、青年の手は氷の歯車を、
ぱきん!
氷柱が割れるような高い音が響き、氷破の封が解ける]
―東殿・回廊―
泣くのにゃもう飽きたさ。
叫んで暴れて喉が枯れて。
今の俺になるまで、どれくらいかかったろうな。
…その顔は、少しうちの姐さんに似てるな。
[慈悲ににたノーラの微笑みに、微か笑んだ。何処か懐かしい、とも思うし、この笑みをみていたら、翠樹や陽光が近づいていたのも分かる気がした。]
俺からしてみりゃ、お前さんは会う人毎の口真似してちっと俺にゃ辛辣な、面白い影輝竜、って認識だったんだがな。
[分からないというノーラに軽く告げて。
その手に触れ、撒かれていた鎖を―――そっと取った。
軋むような高い音が耳を突き、流石に眉根を寄せ顔をゆがめるが。
鎖を落とす事はしなかった。]
…さて、どうなるんだろうな。願いを叶えたら壊れるのかね?
[それは、自らも未だ知らぬ所。]
けん、って。
くびかざりと、ノーラみたいな、わっか。
…そのふたつだって、リーチェ、知ってる。
[機竜の様子に困惑を滲ませながら、しかし投げられた問いには真直ぐに言葉を返す。
教えてもらったとは謂わぬ。それは闇竜殿と交わした約束を破る事に成るが故に。
尤も私はその事を知らぬ。首飾りが存在すとは初耳で在った。]
…ユルがこわれちゃったの、――けんのせい、なの?
でも、だって。
あぶなくないって、 きいたから。
[わたしちゃった。と。
機竜殿の言葉は拾えども逆にその事実を認知してか最後の言の葉は音に成らぬ。]
―東殿/回廊―
[眠る流水と膝を突く氷破を部屋に残し、青年は砂の翼を追う]
――…眠れ!
[赤紫の瞳の命令に、生まれ出る夢を渡り、大地の老竜の元へと]
そう。
泣くというのは、どういう気分だろう。
< 鎖が取られる間際、音に目を瞑った。
それから少し背伸びをして、生命の竜に手を伸ばす。
撫でるに及ぶかまでは分からないが、どちらにせよ、場に似つかわしくはない行為ではあった。
曖昧な微笑をつくり、そっと離れる >
……神斬剣に会いたい。
< 言った刹那、視線を転じる。影がざわめいた >
あぶないんだ、剣は、とても…
[すでに言葉はうわごとのように]
だから…渡して、俺に…持っているなら。
[手に入れたいとも、敢えて触れたいとも思わない剣ではあれど、すでにそれによって朽ちようとしている身ならば、却って安全かと口にする]
――――――――!
[酷く頭痛がした。
直前に触れていた、ノーラの起こした影響か。
剣が暴れるように、叫ぶように。
高い高い音をあげて。
周囲を舞う琥珀の粒子が、ゆらりゆらりと数を増やす。
痛みを和らげようと、怒りを抑えようと。
押さえ込もうと、鎖を潰す勢いで手は握り締められたが。
それは、ノーラが頭を撫でることによって、ふぃと和らいだ。
はっとするように、ノーラの微笑を見下ろす。
視線は、すでに別な方向に転じられていた。]
[鎖はそのまま、服の裏側に入れる。
すぐさま、約束の場所へと運ぶ事も考えたが、暫し足は止めたまま。]
…自分が解らない、って奴は、他人を頼ってみるのも悪かねぇぜ?
お前さんにゃ、翠樹の嬢ちゃんも居たろう。
他人から与えられる心は、自分を作る物の材料になる。
今の迷ってるあんたも、あんたらしいと思うんだけどね。
[何より自分を写さない口調は、それを物語っているようで。]
…会いたいなら、会いにいけばいいさ。
会えるところにいるんなら、尚の事な。
……。
[まだ、少しだけ意識はあった。
だけど、それで知ることが出来るのはごく僅か]
[―――ぱき……ぱき]
[体にまだ少し根付いていた氷の根っこが、部屋一面に溢れた氷の力により活性化して、動けないナターリエの体に広がっていく]
……あー。
本気でやばいかも。
[声は声になってない。
かすれた声すら出ず、ただそれは思うばかりか]
……だから、氷は苦手なのよ。
…、ない、の。
わたしてって、やくそくしてたから。
[二振りが揃えば確かに危険なのだと、幼子は闇竜殿から聞き及んでいた。
しかし闇竜殿は試して見なければ判らないのだと云っていた為に、
事が深刻なのだと――仔は深く理解出来ていなかったが実状。
しかし、どうか。眼の前の機竜殿を危険に晒したはその剣だという。
はて闇竜殿は知らなかったのやも知れぬと幼子はそう思う。
――真実は判らねども。]
……、…ラに、
[名を告げるは、約束を違える事になるやも知れぬ。
もしかすればそれ所では無い、…責められもするかも知れぬが。]
…ノーラに、わたした。
―東殿/回廊―
[大地の老竜へと手を伸ばし、赤の残る手で腕輪を奪おうと引く]
『剣』をこの手に――…
[そうして、剣の加護を失くし結界の中へと送り込もうと――…]
─東殿・回廊─
[知らずのうちにかち合っていた赤紫の瞳。滑り込む呪を乗せた言葉。破られる氷の封。
対たる剣の歪みし共鳴で揺らぎかけていた力が、解放される]
ぬあ…!
[抑えられていた二種の力─主に精神の力─が大きく蠢き出す。剣の力を抑えようと、その力を均そうと。それはまるで剣自体が暴れるような感覚]
落ち着くんじゃ、神斬剣…!
力を抑え──……。
[左手首を右手で掴む。強制力を働かせようとして、その力は止まる]
─ 抑 え ら れ な い ─
[意識深くに刻まれた言葉]
─抑えられぬ─
─いや、抑えてみせる─
─無理なのか…─
─抑えなければならぬのだ─
[意識の錯綜。視線は腕輪へと向かい、傍に現れたアーベルには向かって居ない。
相反する意識が錯綜する中、腕輪の力は未だ抑えられずに蠢きまわる]
[─抑えられる?抑えられぬ?─]
[腕輪を握り込んだまま、一瞬意識が飛ぶ。
己がすべきは一体何なりや──]
……与えられる。
写すしか出来ないと、思っていた。
< 手は右の頬に、邪魔な髪を逸らす。
其処には人を模した肌も、刻まれた刻印すらもなく、ただ薄い闇が広がり、眼の在るべき部分には仄かな光が浮かぶ >
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