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書生 ハーヴェイ に 3人が投票した
双子 ウェンディ に 3人が投票した
双子 ウェンディ は村人の手により処刑された……
次の日の朝、見習いメイド ネリー が無残な姿で発見された。
現在の生存者は、書生 ハーヴェイ、学生 メイ、流れ者 ギルバート、お嬢様 ヘンリエッタの4名。
[ 向けられた其れは、同族を殺したのと同じ兇器。]
其れは、好い覚悟ですね。
同族殺しとは……酷く、人間らしくて。
[ 金糸の少女へと微笑を向ける――却って場に沿う程に艶やかな笑みを。]
然れども敵を討ちたいのなら、此の時間に行うべきではなかった。
如何して、神父殿と同じ過ちを犯すのか。
[ 其の言葉に彼女は薔薇色の唇を噛んだだろうか。其の華奢な指は重い引き鉄を引き、存外軽い音と共に銀の銃弾が彼へと向けて放たれる。]
[ 然し少女の小さな体躯に其の反動は大きかったか、銃弾は僅か狙いを逸れ、彼の右腕を掠め緋色が舞うと共に、手にしていた武器と云うには粗末なナイフが絨毯の上へと落ちる。僅か視線をずらせばもう一人の緑髪の少女へ向けては、黄金に煌めく双眸の男が動くか。]
……一度、機会をやったというのに。
[ 感情の見えぬ双眸で酷く残念そうに呟く彼の口許に浮かぶのは、*獣の嗤い。*]
─広間─
[広間で交わされる言葉。
対立するものたち。
そうせねばならない意味が、わからない。
そんな思いを感じつつ、ただ、やり取りを見ていた。
動くつもりも干渉するつもりも、ないはずだった。
そして、以前の彼女であれば、来るべき死の影に脅え、動く事すら叶わなかっただろう。
だけど]
……ダメ、だよ。
[金色の髪の少女の言葉、彼女が手にした『それ』が向けられた先。
それは]
その『死』だけは、視たくないっ……。
[掠れた呟きは、乾いた音に遮られる。
大気を引き裂く、銀。
紅が舞った。
美しく]
……っ……どうしてっ!
[問い、否、答えは『知って』いる。
それでも。
それを容認する事はできず──]
[彼女が動く事は、誰一人、予想し得なかっただろう。
人の死に脅え、ただ、そこから逃れる事だけを望んでいた少女。
それが、動き出すなどと、誰が思おうか]
……あ。
[ふ、と。
目に入った青年の、人ならざる者の笑み]
『ああ。
やっぱり、お月様なんだ』
[頭を過ぎったのは、そんな考え。
そんな事を考えている自分に、くすり、と笑みをもらしつつ]
[床に落ちた小さな銀、弟のように思っていた少年の手にしていたナイフを手にする。
気配と動きに気づいた青年が、こちらを見やる。
その表情には刹那、驚きが掠めたろうか?
彼に、名を呼ばれたかも知れない。
もしかしたら、静止されただろうか?
でも、はっきりとはわからずに。
動きを止めたその横をすり抜け、走る先は、反動でよろめき、座り込んだ金の髪の少女の元]
「メイ……さん?」
[困惑した声が名を呼ぶ。
それも已む無き事だろうか。
この少女の知り得る『知識』では、霊視の力を持つ者は人の味方。
狼に与する事など、あり得ないのだろうから]
……キミは、正しいんだろうね、人として。
でも、ボクにとっては、今のキミは正しくないの。
[何故、と。
震える声が問うたろうか。
正しき力を持つあなたが、と]
……ああ、言ってなかったかな、キミには。
ボクは、人でもなければ獣でもない、狭間のものだから。
人の法にも、獣の掟にも。
従わないし、従えない。
……だから、ね。
[微笑む。幼子のように、無邪気に]
ボクにとっては……ボクのたいせつなものをこわしたもの。
こわそうとするものは。
……ボクがこわさなきゃならないもの、なの。
[例え、それが何者であっても、と。
淡々と告げて。
銀色を振るう。
小さな刃が、少女の胸に吸い込まれて。
伝わる衝撃。
それが。
忌避し続けてきたものを、自らもたらした事を、巫女に認識させる]
[金の髪の少女は、驚きながらも、どこか。
哀れむような瞳を巫女へ向けたろうか。
その唇が、赤毛の少女の名を紡ぐ。
彼女に、自分のペンダントを、と。
かすれた声が、告げた]
……そう。わかった、伝える。
[それに対する呟きは、ごく、簡素なもので。
薄紫の瞳は、静かなまま。
*消え行く生命を見つめていた*]
[背後で青年と少女の会話が流れ]
「でも、私は…神父様の敵を討つためなら…人だって殺せる程に…なってしまったんです」
「前者です、と云いたいですが。……喰らったのだと、貴女は云うのでしょう。
[其れを耳に入れ乍ら][揺らめく焔に魅入られた態で]
[す、と][何気無く][暖炉にくべられた薪に手を伸ばす]
[其の行動は]
[対立する二者と其れに注視する者達][広間を覆う緊迫の空気故に]
[誰にも見咎められる事無く]
「敵を討ちたいのなら、此の時間に行うべきではなかった。
如何して、神父殿と同じ過ちを犯すのか。」
[其の言葉に一拍遅れて銃声。]
[少女の軽い身体が反動で後ろへと]
[青年の右腕から][鮮やかな赤が]
[同時に]
[侍女服の女性が掌中の“物”を]
[投付け様としたのか][手袋の白が閃いた其の瞬間]
[風切る音を立てて][飛来した物体]
[火の点いた薪が]
[其の手を打ち]
[掌から黒い塊が弾かれ落ちる]
[ハッと][驚きに打たれ]
[其れでも脚に手を走らせ][短刀を抜き放ち]
[人為らぬ速度で襲い掛かって来た影に]
[尚も抵抗し、][脚で蹴り付け]
[爪で掻き毟り或いは抉ろうと][手を]
[…然し、][其処迄、だった。]
[──圧し掛かった女の脚を両膝で押さえ付け]
[左手で][女の手首を][骨も砕けそうな力で握り締めて]
[黄金に煌く眸][細い月の形に歪んだ唇に]
[微かな嗤いを浮かべた]
[ 普段の彼ならば気付けただろう。旋律が何時の間にか途切れていた事も、彼女の気配が近付いて来ていた事も。然し人の意識は眼前に、獣の意識は男へと向けていた彼が“其れ”を知った時には全てが遅い。
闇色の双眸が月を宿し掛け、夜の獣が覚醒めようとした瞬間、銀の煌めきは碧の少女の手中に収められ、一驚を喫した彼の瞳から月光が消え理性の光が過る。]
な、……メイ!?
[ 少女の名を呼ぶも、寂寂とした薄紫の双瞳の巫女は留まらずに彼を傷付けた者を狙う。妙に淡々とした、其れでいて何処か稚い子供の如き声が彼の耳を突いた。]
馬鹿、何をして……!!
[ ――何をして? 其れは己に向けられるべき科白だ。“賭けに勝った”以上、其れはもう己が身を獣へと変え、全てを喰らうと決めたのだから。詰まりは碧の少女をも殺すと云う事。彼女が如何しようが、彼には何一つとして関係無い。
其の迷いが彼を其処から動けなくさせていた。其れは幾度目かの事。嗚呼、然うだ、彼女が絡むと何時も斯うだったと今更ながらに思う。]
──包帯を取りに行けば好かったのに。ネリー。
[獣の嗤い]
[睨み付ける女の][激しい瞳を][覗き込み]
[嘲笑い][揶揄する様に][囁く]
然うすれば、少なくとも、今此処で、こんな風に死なずに済んだ。
[然し続いた言葉には、]
[あえかに哀惜の色が滲んでは居なかっただろうか?]
[ ハーヴェイの両眼が見開かれ、そして緩やかに瞬かれれば其れは長い前髪に一時隠るる。
金糸の少女の胸から溢れるは消えゆく生命の焔の色。甘い芳香は渇いた獣の欲望を呼び起こす。彼方には男に組み敷かれ呻く護り手の少女。焔は潰えておらねど其れも“未だ”に過ぎない。
……ハ、
[ 歪む口許から零れるのは わらいごえ 。]
[最早耐え切れない、][と云った風情で]
[迸る赫い泉に口を付け]
[一滴も余さず飲み干そうと][貪り続ける]
[黄金の眸は蕩け][陶然と][赫の齎す快楽に揺蕩う]
[ ――緋色の雨が降り注ぐ。
緩やかに卓上に歩み寄った彼が手にしたのは、全てを見詰めていた真白の花。己が血で真紅に染まりし手を其れへと伸ばし、細き花弁に薄い口唇で触れる。
細めた眼に映るのは嘗て人であった者と人成らざる者。死者と生者、彼岸に往きし者と此岸に残りし者。
白の花を其の狭間へと放れば其の色も香りも染まりゆく。其れは手向け花か命を摘み採った証しか、真意を知る者は無い。]
[何時の間にかぐったりと][力を失った女の身体を抱き抱え]
[首に接吻を降らせる様に][忙しなく角度を変え何度も]
[犬歯で創を咬み拡げ][舌を尖らせ其処に]
[ぴちゃ][ぴちゃ][と]
[濡れた音が]
[静まり返った室内に虚しく響く。]
[ネリー][血に染んだ侍女服を纏った女性が]
[生まれたばかりの獣に抱かれ]
[息絶える迄の刹那]
[庇護していた少女を][霞みゆく眸で見詰め]
[弱々しく震える唇で][何か告げようとしていたのを]
[終に彼が知る事は無い。]
[ 歯車は何処から狂い始めたのか、或いは最初から狂っていたのか。広間は生命の証と揺れる焔とで緋く彩られ、其処に在るのは狂気の宴。人間には毒、獣には美酒を思わせる、噎せ返る程の甘い馨り。
護り手の少女の視線の先には、恐怖にか足を竦ませ震える幼子が。然し其の声を聴き留めたのは巫女だけであったろうか。
何時の間にかカーテンの向こうからは零れる月の光。少女へと緩やかに向けられる黒の視線も叉其の色を宿す。]
……武器庫では、どうも?
[ 柔らかに紡がれた科白に、少女は其の意味を理解したろうか。]
[少女の目前では、いくつかのことが同時に起きていたけれど、ヘンリエッタが見ていたのはただ一人。
彼女の姿が、琥珀の目をした男の影に隠れ見えなくなった時、少女は弾かれたように動いた。
唇からもれる叫びはただ、その名のみ。]
[鮮やかな──鮮やかすぎる、真紅。
金の髪の少女はやがて、その動きを完全に止め、頽れる。
その様子を、静かに見つめて。
呟く。
聞き取れないような声で]
[ふる、と首を振れば、意識を掠める声。
……気づかぬ内に。
そう、遠くない場所で、また一つ、人の死]
─…逃げ……─
[短い言葉。
それが向くのは、赤毛の少女だろう。
だが、それを伝えたとして。
当の少女がそれを受け入れるとは思い難く]
……キミの言葉も、届かないかもしれないね。
[或いは、意味をなさないかもしれない、と。
心の奥で呟きつつ。
青年が、少女に呼びかけるのを、ぼんやりと、聞く]
……月……。
[呟く。
それは、望んでも、決して手に出来ぬものの象徴だと。
異能たる巫女の一族にとって、最も遠きモノなのだと。
祖母に言われた言葉を*思い出して*]
[ヘンリエッタの叫びは組伏される少女に聞こえただろうか。
緑の髪の少女の唇が微かに動くのが見えた。
けれど、その声は聞こえない。]
[掴んだ拍子に、蝋燭の一本が倒れ、血に汚れた敷布を朱に染める。
暖かいと思った。
けれど、ヘンリエッタの震えは止まらない。
この震えは寒さでも恐怖でもない。
ヘンリエッタにはもう、恐れるものなどないのだから。
あるのはただ、冷たい殺意。]
[投付けられた燭台]
[其れは血の陶酔に溺れる男の背へと]
[然し、幼い少女の力では]
[辛うじて当てるのが精一杯で]
[組み伏した女性を押さえ付ける][脚に当たった物の]
[特に痛痒を覚えた様子も無く]
[変わらず][首筋に口唇を押し当てた儘]
[忘我の境地に]
[投げ付けた燭台は、男を傷つけることなく、床に転がる。
何故、あの武器庫から毒薬を持ってこなかったのかと後悔した。
あの時、暖かく弾んでいたネリーの吐息。
それはもうない。
転がった燭台を再び持ち上げ、今度は男の首筋を狙い、打ち落とす。
びくびくと動くそこが、柔らかそうに見えたから。
武器庫で持ち上げた長剣よりも、毒瓶よりも、燭台は軽く感じられた。]
[殺意]
[間近に迫った気配に][遅まき乍ら獣の本能が覚醒を促し]
[打ち落とされた燭台を掌で受け止め]
[食餌を邪魔された獣の][威嚇の唸りを喉奥から発する]
[男がこちらを振り向いたことに、少しだけ微笑む。
その手がヘンリエッタの大切な人から離れたことにも。
けれど、それは喜びではない。楽しいことは全て、終わってしまった。
燭台を引き、今度は彼の顔面目掛けて打ち下ろそうと下が、少女の力では果たせなかった。両手で引いても、受け止められた燭台はびくともしない。
だから、彼の顔を狙い、噛み付こうと口を寄せる。]
[死んだ女性の躯を放り出し]
[噛み付こうと口を寄せる][少女の顔を掴んで]
[抱き抱えて押さえ付けようとする]
……お、
[気遣う表情で][声を発し掛けて][止め]
[押さえ付けられた顔を懸命に動かし、男を見据えた。
その表情は、殺人者のものにしては頼りなく。彼と言葉を交わしたことを思い出した。
緑の髪の少年のことも。]
何で。
なんでネリーを。
[ネリーは誰も殺してはいないのに。
呟いた声に激情はなく。けれど、瞳には殺意をみなぎらせ。]
[問いかけに、こくり頷く。]
だから、死んで。
あなたは生きていたいの?
[彼が気にかけていた少年のいない、この世界で。]
[ 赤髪の少女は彼も目に入らぬ様子で己が慕う少女を組み敷く男へと其の赤銅の瞳に冷たき憎悪の焔を滾らせ、地に落ちた蝋燭は其の色を敷布に分け与え徐々に揺めきを広げゆく。]
……此れが人の絆、ね。
[ 脆くも崩れた其れらに関心も失せたかの如く緩やかに巫女へと視線を戻せば、月を宿した双眸が移ろうのは映されし朱の所為か其れとも感情の揺らぎか。]
[同族と言われてはじめて、誰が人外であったかを理解した。男の力の訳も。]
あなたには、守るものがまだあるのね。
私にはもう無いのに。
[もう無いのに何故、自分がこの男が憎いのだろう。
殺してもあの少女は戻って来ないのに。
この男を殺したい。]
[視線を向けられ、一つ、瞬く。
わずか、揺らぐような瞳に。
返すのは、不思議そうな視線]
……なに?
[問う様子は、幼子のようでもあり]
[逆に問われ、ああそうかと気づいた。
あれほど恐れていた死は、もう怖くない。
自分はそれを求めている。
けれど、自分で胸を突く気はしない。
突くのは、目の前の男の胸だ。
ヘンリエッタは、力を求めて目だけで辺りを見回した。
蝋燭から零れた赤は少しずつ床に広がり、壁に移りゆく。
先ほどから咽が苦しいのはそのせいかと気づいた。
このまま、この男を放さなければ彼を殺せるだろうか。]
……なに?
[名を呼ぶ声に、僅か首を傾げて、再び問う。
薄紫の瞳は静かなまま。
ただじっと。
そこにいるものを。
彼女にとっては、繋ぎ止める最後の糸を
見つめて]
[ 朱が刻一刻と其の色を広げてゆけば、誰も彼も其れに照らされ同じ色に染まる。一歩、其方へと歩を進めてそぅと伸ばされた手は巫女の頬を掠めるか。伸ばさぬもう片方の腕からはぽたりと緋色の雫伝い床に落ちた。]
……欲しい……?
[ 其れは問い掛けか自問か。双眸は緩やかに眇められて矢張り僅かに揺らぐ。]
[投げられた言葉の意味を、しばし、捉えきれず。
それから、ようやく理解して。
……理解できたから。
瞳が、揺らいだ]
……寄せて、くれるの?
ハーヴェイの、いる方、に?
[問いかける声は、震えて。
その様子は、巫女となる以前の少女の不安の示し方とほぼ同じにも見えるか]
[ 揺らめく月の双眸は何処か遠く感情は見えずに唯、少女の薄紫を見詰める。]
……でも。
[ 伸ばされた手は緩やかに宙を彷徨って、]
俺は……、メイを、喰らうよ。
今でなくとも、何時か。
[口許には薄らと人とも獣とも取れぬ笑みめいたものが浮かぶか。]
[喰らう、と言われて。
ほんの僅か、首を傾げる。
それでも]
……かまわない、よ?
それなら、それで。
ボクが消えるのが先なら。
……その方が、いいから……。
[ふわり、と。
笑んだ。
泣き笑いの微笑。
それは巫女ではなく、少女の笑い方だったやも知れず]
[ヘンリエッタの顔を抑えた手に、問いかけた唇に、滴る赤い血。これは彼女のものだ。
ぬるりと光るその血が、ヘンリエッタの頬を染めた。
むせ返る煙の匂いのなかに、それよりも濃く錆の匂い。
あの晩、頬に触れた手を思った。
あの夜に、時が止まってしまったのなら良かったのに。]
[目を見開き、琥珀の瞳を見据える。
死ねない、は生きたいではないことを、少女は知っていたけれど。]
死んで。
[煙に詰まる咽からもれるのは殺意のみ。]
散々お前が厭がる事して来たんだから、其れくらいは聞かないとな……。
[ 黒曜石の双瞳は緩やかに細められ、クスクスと薄く笑う彼も叉、獣ではなく人としての青年のものだったろうか。然れどももう彼の時は還らないと知っていて、其れは全て己が所為だとも解っている。伸ばされた手は、少女の頬を撫ぜるか。
ぽたり。叉一つ、床には緋い染みが広がり朱い焔は全てを覆っていく。]
好いよ。
俺が死ぬ前に、――お前を殺す。
[ 其れはハーヴェイの、恐らくは最初で最期の約束。]
……ほんとだよね。
怖がってるの、わかってて、あれなんだから……。
[笑いながら、返す。
やり取りは、以前と変わらない。
けれど。
そこにどんな変化があったとしても、今となってはどうでもいい事なのかも知れなくて。
頬に触れる感触に、僅か、目を細める]
うん……約束、だよ?
[呟いて。その約束を。自身の中に。しっかりと刻み込む]
……忘れたら……怒るから、ね?
止められてたら、とっくに止めて……、
[ 言葉の途中で喉を押さえたのは徐々に部屋を包んでいく朱の所為か、其れとも喉の渇きの所為か。双瞳が再び揺らぎを持てば月の光も叉宿り掛け、二、三度瞬けば触れていた手を離して、]
……情けな……。
[ 浮かぶのは自嘲の笑みか。]
[既に広間は]
[燃え広がった焔に包まれつつあり]
[充満した白煙が喉を焼く。]
[此の中に在っては]
[仮令強靭な生命力を持つ人狼と雖も無事に済む筈も無い。]
[此の儘留まり続けるのも][そろそろ限界に近い。]
……いいよ。
止められるものじゃないのは、わかるから……。
[途切れた言葉に呟くようにこう言って。
それから、心配そうな瞳をじっと向ける]
……大丈夫?
[不安げに問うた直後に、自身も軽く、咳き込んで]
[少女の首に回した腕を解き]
[殆ど][優しいと言っても良い手付きで]
[投げ出された儘転がる][緑の髪の女性の傍に]
[少女を寝かせる。]
[……軽く咳き込む。]
[二人寄り添う様に][横たわる姿を]
[暫しの間見ていたが]
[少し離れた所で][向かい合う青年と少女の二人に向かって]
[振り向いた時には既に]
[其の表情には][一欠片の感傷も窺えず]
大、丈夫……つったら嘘になる、が。
[ 存外素直に其の言葉を口にして、右腕から零れる緋色の雫を舐め取る。其の程度で渇きが収まる筈も無いが暢気に“食事”を取っている訳にも行かずに。]
そうも云ってられない、だろう。
[ 端目で永遠に目覚めぬ睡りについた少女を見遣り、其れから服を裂いて自らの右腕を縛る。]
……うん。
[こく、と頷いて。
それから、呼びかけてきた声の方を振り返り。
横たわる、二人の少女の姿に、瞳は僅か、揺らいで]
……あの言葉を聞いたら。
キミは……それに従った?
[問いは、赤毛の少女に向けて。
勿論、答えは返らないのだけれど]
否。
[未だ聲を持たぬ][人ならぬ人][獣ならぬ獣は]
[実声で応える。]
俺は…彼の人と一緒に行けなかったが。
彼女は行くと言って呉れたのだろう?
……って、ちょっ!
[唐突に抱き上げられ、声が上擦る。
更に似合いと言われ。
焦り]
あ、え……と……。
[だからと言って、逆らう理由もなく。
そのまま、身を預け]
ならば。
其の日まで一緒に居ると好い。
[然うして][今度は碧の髪の少女に顔を向け]
離すな、最期の日迄。
[祝福する様に、][鮮やかな笑みを。]
……る・せ・え、つってんだろう。
[ 男に云い返しつつ半眼に成る其の青年の双瞳には、現在は獣の輝きは無い。其れは束の間の事であるのかもしれないが。然し其の後の言葉には瞳は瞬かれ、]
……………、……然様で……。
[何処と無くバツの悪そうな表情をしながらも、然う呟く。]
こっちのが、早いんだ。文句云うな。
[ 人の姿をしては居れど、其の力は矢張り獣の其れを有す。軽々と少女の躰を抱えれば扉の外へと駆け、人には在らざる速さで外へと向かう。]
解ってる、ての。
[ 数日前迄の平穏だった館の姿は何処にも無く、全てが焔の朱に包まれて燃え落ちるのは、最早時間の問題と思われた。――幾つもの死を包み込んで。]
別に、文句言ってるわけじゃ……。
[掠れた声でぽそぽそと返しつつ。
しっかりと、しがみつくようにして]
……あ。
[燃え落ちる館に、ふと、思う。
残っていた、もう一筋の、糸──ピアノの事を]
……ありがと……。
[小さく呟いた言葉は何に向けられたのか、それを知るのは、少女のみで]
[──でも今は。]
[少なくとも、彼の人が]
[仮令何時か、自分を殺してしまうかも知れないと分かっていても、]
[其れでも一緒に行きたかった][生きたかった]
[のだと]
[知る事が出来たのだから。]
……あ゛ー、本……勿体ねぇ。
[ 少女を抱えた儘に燃え落ちていく館を見上げながら僅かに冗談めかしてぼやきつつも、青年が想うのは部屋に置いて来た一冊の手帳。雨に濡れ粗用途を為さなくなった物ながらも、其処に書き残した、唯、一文――忌避し逃れ続けても、何れは訪れる時なのだろうが。]
……命を奪い続けた者の咎、然う容易には死すらも赦されはしない、だろうな。
[ 小さく呟きを落とす。]
[轟音に包まれ、燃え落ちて行く館。]
[湧き上がる黒煙]
[夜空をも焦がす様に][赫々と燃える焔は]
[雪の様に舞い散る火の粉を散らして]
[ ――朱く朱く、天までをも染め上げていく焔。
軈て赤き雨は降り止み館で起こりし惨劇は終わりを告げれども、生きとし生ける者が其処に在り続ける限り悪夢は決して終わらず、犯した所業も失せる訳ではなく、閑かに閑かに重く重く降り積もっていく。]
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