集会場は不信と不安がない交ぜになった奇妙な空気に満たされていた。
人狼なんて本当にいるのだろうか。
もしいるとすれば、あの旅のよそ者か。まさか、以前からの住人であるあいつが……
どうやらこの中には、村人が5人、人狼が2人、占い師が1人含まれているようだ。
[一瞬]
[表情が強張ったことに]
[気付けただろうか]
[ゆるり]
[何気無い様で顔を]
[体ごと背ける]
急がなければならないな。
のんびりしていては出立出来なくなってしまう。
[あからさま過ぎる]
[話題の転換]
[ふと、締め切られていたはずの部屋で冷気を感じる]
[小さく口ずさんでいた歌を止め]
…何だか静か過ぎるわね。
[ポツリと呟いた]
…主。マイルズ様。
[名を呼ぶ声は普段より些か強く。
背ける主に手を伸ばすも宙を彷徨う]
俺は…
貴方の望むように、して頂きたいと願います。
そして、何処まででもそれに付き従おうとも。
[言いたい事は上手く言葉にならずに]
けれど。
…………その眼は。
[拳を握れば、僅かに震えを持つ]
にしても、面倒な。
なんでこう、状況がしっちゃかめっちゃか交錯しやがんだかね、っとにぃ。
[何やら、背後事情がややこしくなってきたらしい。
大げさにため息をついて、頭をがじがじと]
ま……考えても、仕方ねーか。
……主義にあわねえ仕事なら……蹴っ飛ばすのもアリだしな。
[ひとまず、こんな呟きをもらして自己完結した後。
ゆっくり、集会場へと]
[息を吐く]
[背を背けた侭で]
……ああ、お前の察した通りだ。
[其れ以上は何も言わず]
[腕を組み]
[頭を垂れて]
……私の望むように、か。
[望みは]
[最初から唯一つで]
[けれど]
[決して口には出来ぬもの]
[聞こえた声に]
[床に向かう視線が彷徨う]
[其れは背を向けている為に]
[其の場に居る従者には解る筈も無いが]
……全くだ。
[予想外と]
[予定外]
[溜息は其の空間だけに]
…今日は誰も居ないなって思ったら少し寂しくなっちゃって。
[小さな苦笑と共にそう答えて。
寒そうな様子に気が付き、慌てて台所へと。
あまり上手ではないけれど、温かい紅茶を用意しようと]
[ため息を捉えれば、くわえたままだった煙草を灰皿に放り込むのを口実に、外を向いて]
……で。
一体全体、どーなさるおつもりで?
[問いかける声は、どこか楽しげな響きを帯びたか]
[少し濃くなってしまったかもしれないが、どうにか無事に淹れて。
扉の音に気が付けばカップは余分を持った数用意した]
こんばんは、カルロスさん。
紅茶、いかがですか?
[セットの乗った盆を軽く持ち上げて見せた]
[扉を閉めた所で、呼びかけに気づいて振り返り]
お、紅茶?
外、冷えたしな〜。ん、相伴するわ。
[軽く言いつつ、テーブルに近づいて椅子を引き]
……、
[小さく振られる首]
命を賭してでも護ると誓ったのに――
結局、俺は、…無力で。
[下りた腕は身体の傍らに。
血の滲む程、固く握り締め]
何も出来は、しませんでした。
……どう?
どうも何も無い。
[気取られぬ為に]
[身動ぎすらせずに]
明日の内に此処を出る。
お前には其れで充分だろう?
……『迅雷』
[何時か]
[父に聞いた傭兵の名]
[『同族』と]
[『迅雷』。
二つ名で呼ばれれば、僅かに苦笑が掠めるか。
勿論、場に居る女性たちに、それを気取らせはしないけれど]
ま、それが最善だろうな。
俺としちゃ、ここで騒動に起きられると色々と厄介なんで、ね。
『仕事』に差し障るのは、御免被る。