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坊より長く生きているからね、
物知りにもなろうと言うものさ。
[かんらかんら、口許押えて笑ってみせる]
空の君、
左様に言うものではないよ。
[細める紫黒の眼に浮かぶは羨望の色か]
出来ぬ者から見れば、
出来る者というのは素晴らしい。
此方は左様な機会を持たなかったものだから。
[小兄の問いに、こくり。]
[頭をたてに動かして]
でも、寝ちゃ、あかんのじゃぁ……
みて、まうも……
[小さな小さな声は、届くか届かぬか]
[童子たちの笑い声に、かき消えてしまうやもしれず]
眠いのに、無理はいけないのだよ?
[頷く様に、僅か眉をよせつ。
ついだ言葉は、届くや否や。
ただ、眠りを拒否す、それは確りと伝わって]
眠らないのは、よくないよ。
[ただ、そう繰り返す]
眠りの時は誰にしも来るよ、臙脂の子。
佳き夢を見られるのならば好いのだが。
左様な術は知らぬから、さて、困りもの。
[半ば独り言ちるように言の葉を紡いで]
ああ、そうだね。
きっと、なれるだろうよ。
じゃけん……
いや、なん……
[小兄の言葉に、ふるふると首を振って]
きらわれてまうも……
[ちいさくちいさく]
[口の中で転げて]
……おまもりも、あらんけ……
[困ったようなあやめねえさまの言葉]
[不思議そうな小兄の言葉]
[どちらも聞けたか、聞こえざるか]
じゃって……
おらぁ……
[小さく口唇は何かの形に動き]
……みんな、一緒が、良いもの……
[その言葉は音になったか]
[*ふらり*]
[体が傾いだ]
[さてもあやめの言う通り、ゆくもかえるも出来はせぬ。
いつしか眠る森の奥、緑の香りに包まれて。]
[時は移れど星は出ぬ、眠りを覚ますはなにゆえか。]
う……。
…なんじゃ、これは。
[ゆらり琥珀が映すは膝の上、水飴ひとつ鎮座して。
かさりかさかさ小さき獣、さてさていずれの置き土産。]
……ねいろ?
[紡がれた言葉は、わからぬものの。
ついだ呟きは、かろうじて聞き取れたか。
紅緋は、刹那、苦しげな光を浮かべ]
……あ。
[傾ぐその身を止めようと、手を伸ばす。
ころり、手から逃れた鞠が転がりて]
[人ならざらぬ身にはその声も好く聞こゆ。]
一緒かえ。
ひとりはさみし、
ふたりはこいし――
[言の葉続かず途絶えれば紫黒は何を思ふ。]
おやまあ。
[暢気な声を上げきょとりと眼を瞬かせて]
余程に眠かったのだろうかね。
[転がる鞠は代わりに白い手の内に収まる]
おやおや、ねいろ坊、今日は御酒も呑んでいないというのにねえ。
[倒れるように眠りに落ちる子供の姿を目に止めて、酒杯を置いて歩み寄る]
[朱が走れど誰も見ず。
はくと水飴口にして、緑の天蓋見上げたる。]
[天狗が隠す「ほしまつり」
されど此処にも星はない。]
はてさて、何処にあるのじゃろ…
[咥えたままに立ち上がり、白き夜を流離おうか。]
[音彩が烏に抱き上げられる様子に、ほ、と息を漏らしつつ]
……一緒がよいのだと思う、風漣も。
[見やる紅緋は、やや、不安げか]
[やがて敷かれた布団の上に、そっと小さな身体を横たえ、ふうと小さな吐息を零す]
何がそんなに怖いやら。
ねいろ坊は、怖いものから逃げて、こちらへ来たのかねえ。
[リーン…リーン…鈴が鳴る。此処へ戻れというように。]
どうせ逃れは出来ぬなら、好きにさせても良かろうに…。
[天邪鬼に呟いて、鈴に逆らい歩み往く。
甘露がのうなってしまうまで、あてもなく白き野を踏み分けて、]
[ぽつり、白に落つ色に伸ばす。]
おや、これは…?
さてさて、そなた迷い子か。
[白の袂に差し入れて、ゆらり琥珀は振り返る。
見やるは遠く水車小屋、その傍にある館かな。]
川の字になってでも寝ようかい。
この人数だと河にでもなりそうかな。
逃げて来たか、はてさて。
ここが逃げ場となるのなら好いのだけれども。
安らぎの地となるのならば幸いだけれども。
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