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[薄茶猫は幸いにも通じ合わない森番の青年が歩き出したのを見ながら、猫妖精にそうだと鳴く。
人間の小さな子供くらいの大きさだった、としか言えないのだが。なにせ、どれだけその影が美形でも人間とか妖精基準の話なので、薄茶猫からすればただのずんぐりむっくりだ。
ティルも動き出すと薄茶猫も動き出し、結局二人と一匹がてくてく]
[その思惑には気づくことなく、張り切って相手の言葉を待つ。]
………アーベルさんのとこか……。
エーリヒさんが、林檎のお菓子が大好きなんだよね……。
[広場で聞いた言葉を思い出して、ついでに多少の誇張も含んだイメージを思い浮かべ、肩を落とす。
自分の分け前は貰えるのだろうか。]
や、でも、アーベルさんは好きじゃないかもしれないし……うん。
[ぶつぶつと算段をしながら、籠をとりに部屋の奥へ戻ったウェーバーさんを待つ。]
[リディを待たせて、自分用に残しておいた分を紙に包んで追加で籠に入れる。紙の表に鉛筆で薄く『リディ』と書いておけば察しのいい者なら感付くだろうと、籠を埃避けの布で軽く覆って玄関へ戻った。
リディの想像は知らないが、聞いたら笑い転げること確実だ]
すまない、待たせたねェ。
悪いけど早速行ってもらえるかい?
熱々の内が一番だから、よろしくお願いするよ。
[リボンの件については、急に聞かれても何のことやら、といった感じで瞬く。
次にアーベルの名乗る言葉を聞いて、…少し目を逸らし]
…ユリアン=ゲージ。
[告げた名前は何処にでもあるようなものだが、この村では少しばかり意味合いが違ってくる。
故に名字も併せて]
[大声と白い鳥の飛び上がる音に、そちらに視線を戻す。
むしろこっちが驚いた、という風な顔で。
違うのか、と言いたげに首を傾げた]
[薄茶猫はティルの鳴き声に、元気出せとでも言うように尻尾を一度揺らし先立って歩く。
猫の眷属だから約束はわかってるが栗届け終わったらそれで終了なので、その後を気にしているあたり妖精との契約の深い地を縄張りにしているのは伊達ではない。
言い負かして満足そうなエーリッヒの顔を見て、ユリアンに告ぐ危険人物とティムトの小さな脳に刻まれたのは秘密である]
[手渡された籠を受け取ると、まだ暖かいの言葉の通り、熱の籠もった湯気が手を温めた。]
はぁい。
行ってきます。
[返事は先程より少しだけ、元気がなかったけれど、足は元気に駆け出してゆく。
そう言えば、ツィムトはまだ寝ているのだろうか。
空になったミルクの皿が目に入り、薄茶猫の不在に首を傾げた。]
[ニ匹の心境は知ってか知らずか、ともあれ振り向くことはない。
向かう先、老婆の家でされている噂話を知らないのは間違いないが]
……で、本当に、何も分からないわけ?
例えば、村全体に魔法が何かが、かけられている……とか。
[あてずっぽうか、憶測か。
森の入り口まで来たところで不意に問うた。
足を止めることはなく、そのまま村へ続く道に差し掛かる]
[アーベルの声と笑顔に視線を戻し、こくりと頷く。
勝手に付けられた渾名に対しては特に気にした風もなく。
むしろそっちで呼ばれるほうが良いのかも知れないが]
[薄茶猫の懸念は当たらずとも遠からず。さすがにヨハナの家からは無理かもしれないが、帰りに他の家から菓子をくすねる気は満々だ]
それにしてもへんな人間ばかりにゃ。
[昨日の妖精を使う青年だの、箒の魔女だのを思い出し、ぶつぶつぼそり。相手も猫妖精に言われたくはないだろうが、まあ知ったこっちゃない]
はぅぅ……。
[ユリアンの驚いたような表情と、問うような仕種に、はぁ、とため息をついて]
どこからそういう勘違いが出てくるですかぁ、ユーリは……。
いるわけないでしょう、もぉ。
[何となくくったりとしつつ、肩に戻ってきた鳥を撫で]
嫌いではないですよぉ。
色んな色や模様は、見てて綺麗ですし。
でも、自分でつけるのは、また話が別なのです。
[アーベルの問いにはこんな答えを返した]
…はて、少々意地悪しすぎたかねェ。
素直にお使い頼むより面白いかと思ったんだがなァ。
[少しだけ元気の無い声に首を傾げたものの、元気に駆け出して行ったリディの背を見送りキッチンへと戻る。
天板に再び包み終えた生地を並べ、オーブンに入れた。今度は切り分けるナイフを残し、テーブルの上を完全に片付けていく。
本当は熱々を食べるつもりが、上げてしまったのだから仕方ない。
二回目のユリアンへの代金分とミリィへのお詫び分は、やがていい匂いをさせ始めた]
んんん……
女の子ってリボンが好きなんだと思ってた。
つけるのが。
ユー君、ユーリ君の方がいい?
[ミリィの呼び方に、つられて聞いてみた。]
ほうほう。
つまり知らない分からない力無しと。
[弄りネタの一つだったか否かの答えは青年の心の内にしかない。
距離を離したままに道を行き、やがて見えて来るのは広場]
子供と聞こえたから。
[呆れた声や溜息にも悪びれた様子はない。
ところで、子供という言葉に不意に脳裏を過ぎる昨日の影。
ちょっと眉が寄ったかも知れない]
[広場にまだ彼らがいるのを見つけると、籠を抱えたまま走り出した。]
おおーい!
アーベルさーん!
お届けものですよー!
[走りながら叫ぶ声は切れ切れで。
けれど疲れた様子もなく広場で会話するお使い先に駆け寄る。
先程より一人多くなった顔ぶれに、改めて挨拶した。]
馬鹿にするにゃ!力ならあるにゃっ!
[ぷんすかぷん。青年の意図がどこにあるかなぞ、元より考える気は無く、言い返す。「力」が何を指すのかはさすがに判るまいが]
へ?
[いきなり聞こえた大声に、そっちを見てきょとんとした顔]
あれ、リディちゃん。
お届けものって何?
おれにお届け物なんて、そんなにないと思うんだけど。
ええと、でもお疲れ。
ありがとう。
つけるのが好きな人の方が、多いでしょうけどね。
ボクは、そうじゃないのです。
[なんとなく、アーベルに返す口調は投げやりだったかも知れない]
聞こえたからって、飛躍しすぎなのですよぉ。
……あら?
どうか、しました?
[それから、ユリアンに向き直り。
僅かに寄った眉に、きょとり、と一つ瞬いた]
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