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わたし、ベアトリーチェ エアハルトっていいます。
初めまして。
[もう一度微笑みかける。]
お外で何をしていたの?
─二階・個室─
[閉じていた目が開く。数度、瞬き]
……ぁー……。
[一瞬、捉え損ねる自分の居場所。
それでもすぐに、意識は戻り]
……そう、か……。
[嘆息の後、起き上がる。眠る前に感じた頭痛は、今は鎮まっていた]
痛みを感じる、という事は、つまり。
……嫌な話だ。
[小さな呟き。目覚めた猫が案ずるような視線を向けるのに、頭を撫でる事で応え、窓辺に寄った]
― 二階 ―
[子供は唐突にぱちりと目を開けた。ゆっくりと頭を巡らせ、座ったまま眠っている老婆に視線を止めると、少しだけ眉を寄せる]
ヨハナ………
[昨夜聞かされた名を小さく口にするのは、呼ぶためではなく確かめるためのようだった]
ベアトリーチェさん、ですね。
[釣られるように笑みを作り、]
……ああ、手紙を頼んでいました。
忘れ物をしてしまったので、それを届けて貰えないかと。
[全てが真実ではない言葉。
落ちかけた視線を引き戻し、服の袖を引いた]
[窓の向こうに見えるのは、いつもと変わらない風景。
けれど、そこには微かに張り詰めた空気]
変わらずにあって欲しかったんだがな。
[小さく呟き。
猫を肩に乗せ、部屋を出る]
[起き上がり、ベッドを降りて、脱がされていた靴を履くと、ふらふらと窓の傍に歩み寄る。両の手はぎゅっと胸元を掴むように握りしめられている]
はじまった…また………
んん……。
[名前を呼ばれると、老婆は微かに身じろぎをして、その目を開けた。
そして、目の前の子供が起きているのに気づくと、ゆっくりと笑った]
おお……エーファちゃん。
起きたのかい。
調子はどうだい?
昨日よりは良くなったかい?
─二階・自室─
[幻想のよな雰囲気さえ見せる白い靄の中]
[その奥に垣間見えるもう一人の自分]
[慟哭] [嗚咽] [絶叫]
[それらを繰り返す己のその先]
[白は紅へと変わり]
[横たわる誰かが見えて]
……ゆ、め。
[自室とした部屋の寝台の上]
[開いた瞳は天井を見つめ、ぽつりと呟いた]
[白磁の肌がそれを超えて蒼白を示す]
[封じられた記憶の断片だと言うのは容易に想像出来たか]
…あれは何だ。
…あれは誰だ。
…何も、思い出せない…。
…けど、とても大切な者だった気がする──。
[上体を起こし、壁に背を凭れて]
[眩暈のような感覚に額に手を当てた]
[何故今になってそれを見るようになったのか]
[それは彼にも分からない]
[記憶を呼び起こす何かが傍に居るため、なのだろうか]
あ゛ー……。
安定剤少し飲むかな…。
[呟きつつも今身体を動かすのは億劫で]
[結局事を為すのはもう少し先の話]
ああ、お手紙。
いいね、わたしも書こうかなぁ。
なんだか困ったことになっちゃったもの。
お父さんやお母さんに知らせないと、心配させちゃう。
[どこからか、広間にいい香りが漂ってきて。わたしのお腹が、くーと鳴った。]
…聞こえた?
─ →一階─
[階段を降りると、人の気配。
広間を覗き込むと、金色の髪が目に入った。
それでも、今は人と話す気分にはなれず、そのまま踵を返す。
目指すのは、昨日、倉庫に行った時に見かけた一室]
[自分用のプレートを一皿。スープを一皿。
両手に抱え、広間へと入る]
…あ。
おはよう?
[乏しい表情で、金髪の二人に挨拶を]
それなりに作ったから、食べたいなら、食べて。
あと、あたし。ゲルダ。
[短いながら自己紹介のつもりらしい]
そうかい。
それは良かった。
[前半の言葉には嬉しそうに老婆は微笑んだが、後半の言葉には、目が幾分細まった]
……さて、私には分からないねえ。
なんで、エーファちゃんは、この場所に人狼がいると思ったんだい?
[お互い、まだ自警団長の話は聞いていない。
その中での会話だった]
そう、ですね。
[困ったことに。昨日の話を思い返す。
暖炉の火とは異なる、熱が昇ってくる気がした]
紙とペンでしたら、持っていますから。
書かれるのでしたら――
[と、微かな音が重なり]
……………いいえ。
[聞こえないとの否定の言は、浮かんでしまった笑みが裏切っている]
―二階個室―
…ん…。
[掛布を引き上げ、寝返りを打つ]
ごめん。
[翠は硬く閉ざされた下。小さな呟きが毀れる]
こんなことしか、出来なくて……。
[頬を伝う筋。過去の鎖は夢の中]
おはよう、ゲルダ。
[厨房から出てきた予想通りの顔に挨拶を投げ]
ええ、ありがたく頂くことにします。
[言うなり、厨房へと向かう。
自分のと、少女の分。二人分をよそおうと]
[ウェンデルと名乗った男の人は、聞こえなかった、と言ったけれど。]
[顔がそれは嘘と明らかに告げてる。]
[恥ずかしさで俯いた顔が、耳まで熱い。赤くなってる。自分でも分かる。]
[そこに、おいしそうな匂いのする料理を載せたプレートを抱えて、女の人が入ってきた。]
あ、わ、わたしは、ベアトリーチェ、です。
あの、いただきます。
[わたしはさっきの失態を誤魔化そうと、すばやくその人に挨拶した。]
[ヨハナの答えに、視線を落として、つま先で床板を擦るように蹴る]
分からない…なら、探さなくちゃ。
[続いた問いかけには、顔を上げてひとつ瞬いた]
いるに決まっている。だって、はじまってしまったんだから。
………知らない?
あ、うゎ…ありがとう、ございます。
[ウェンデルさんにわたしの分まで用意されてしまった。]
[そんなにお腹へってそうに見えただろうか…。]
[見えただろうなぁ。]
[顔がまた真っ赤に。心の中でじたばた。]
[奥まった一室。鍵がかけられている様子はなく。
集会場、という事を考えたなら、会議室の類でもあるのだろう、と思いながら扉を開いて中に踏み込み]
…………掃除くらいは定期的にしろ。
[思わずこんな言葉が口をついたのは、家事担当の長さ故か。
埃の薄く積もった部屋は、雑多なものの一時置き場か何からしい。
特に、興味を引くものはないか、と思いながら見回し]
……ピアノ……?
[それに、気づいた]
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