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[それから史人に手伝って貰い、老女と同じように居間まで運ぶ。
この雨では流石に屋敷までは運べまい。]
・・どーも。
[タオルを手に現われた裕樹に頭を下げ、受け取る。]
聡クン?
いえ、オレは・・・こッちを見てて。
[小百合からの問いには首を振って、]
あァ、・・・分かったッス。
お気をつけて。
[頷き、その家を後にした。
帰る道程で彼と出くわすことはなく、やがて旅籠に残っている者には事情を話した後、疲れに負けて*部屋に引っ込むか。*]
[起きた琉璃に微笑を向ける。疲れが取れたような姿に安堵の息を漏らした。服に付いた汚れを指摘されると]
あ…でも、このくらい、なら…。
気にしない、で。
…え。
取りに、行くの…?
一人で、大丈、夫…?
[一緒に、と言いかけたがそれは琉璃に制されて。確かに何かあった時に対処出来る自信は無い。仕方なく、そのまま琉璃を見送ることとなった]
気をつけて、ね…。
[旅籠を出る背中を心配げに見つめ、ぽつりと漏らした]
流石に…この雨音じゃ聞こえないか。
おーい、さっちゃん、さっちゃん、さっちゃーん!
と、この呼び方なら、怒りながら出て来るかと思ったんだが。
[傘をくるりと回し、頭上を見上げる。
酷くなる雨風に、逆の手で髪を押さえた。
空模様と同じように、重い溜息]
…さっきの家、チャイムらしきものなかったぞ。
多分、ノックと呼ぶ声のみだとしたら…出て来てもらえない気がするな。
まあ、今は…聡が見つかればそれでよしとしないか?
[会話しながらの捜索の途中。
小百合の言葉が途切れ、視線が動く。
それにつられて視線を流せば、]
…ん?ああ、それっぽいな。
傘も差さずに…あれは、風邪を引くんじゃないか?
[ぱしゃり、踏み出す足は雨に濡れて重いけれど。
気にすることもなく、小百合と共に角を曲がり]
[薄暗い路地。
だからと言って、眼を凝らさなければ良かった]
……聡?
[認識した瞬間に、胃から酸いものが込み上げる。
口を押さえ、眼を伏せた。
落ちた傘が小さな音を立てたけれど、意識に触れる事はなく。
板壁に手を付き、身体を支えた]
嘘…、なんで、こいつまで。こんな、まだ…だって、ガキで。
しかも村と全然関係ないはずだろ。
それなのに、なんで…っ。
―回想―
[利吉を運んで旅籠に戻ると、利吉の安否と、晴美と涼のことを説明し、利吉を毛布にくるませて長椅子に寝させ、己も濡れた身体を拭き取り、適当な椅子に腰掛けた
孝博の父親のことを静かに聞きながら、それに意識をおけなかった。
嫌な予感。否、確信めいたものが我が身を襲って]
晴美様…
[小さな小さな呟きは誰にも届かなかっただろうか。
その直後、戻ってきた涼の姿を聞いて、聞くまでもなくわかって]
晴美様は…違います。解ります
[皆が晴美についていう中それだけぽつり呟き
玲の説明を聞く。伝承のことは知っているが、それは既にどちらでもいい。
逃げることもできず助けも呼べないなら…その際にやることというのは既に頭にあったから。だから涼の行動も虚実は別にしても、咎めることもできず、むしろ悔いるべきは、あの時二人にしていったことだろうか]
[浅い呼吸と共に声を吐き出して]
……違う、今は……、そうじゃない。
このままじゃ、聡が風邪を引く。まだ、さっきの家の方が近いか。
だから…運ぶ、けど…小百合はどうする。
[眼に入った雨を拭い、小百合を振り返る。
答えがどうあろうとも、まずは聡を板壁に縫いとめているものを引き抜いて、上半身を落とさないように抱える。
雨に晒された身体は酷く、冷えていた]
[―――桜を見ていた。
満開に咲き誇る。
大輪の桜。
何度、桜が咲いているのを見ただろう
―――ああ。そうか。そうだ。
今、ようやく思い出した。
何度も、じゃない。この光景を見たのは一度だけだ。
ただ……過去も未来も無く、一瞬であるはずの現在が永遠に続いているだけだ。
それだけのことでしかない。
自分は何者か。それはまだ分からない。
記憶の一番奥に封じ込められている。
だが、これだけは理解している。
それを思い出したとき。
一瞬の永遠は。
全て。
壊れる]
[旅籠を後にし、雨の降りしきる外を歩きながら]
さてと、誰を…かな。
[獲物を探す魔の者は血塗れた服のまま動くものの少なくなりつつある村をゆく、
前の方に3人組みの姿、外部からきた3人のすがたが見える。
見覚えのある顔、その中でもうしろを乗り気じゃなさそうに歩いている聡の姿が目に入り]
そうだ、今日は彼を。
[気配も、音もなく近寄っていき、
聡の体をとらえ服をつかみ後ろへと引く]
n…
[突然のことに振り向き文句を言おうとするその口を下からあごを叩いてふさぎ、
前の二人は雨のせいもあり気づかずにそのまま行ってしまう。]
―回想―
[その後、現場を見てくる。といって、付き合おうと思ったが
次々表明する中、倒れている人間がいることを考えれば]
私は残ります。動ける人間がこちらにもいたほうがよいでしょうし…任せます
何かあれば
[それ以上は言わずに旅籠を後にする面々を見送った。
雨はまだ止んでくれずに、着替えてくると言って、一旦自室へと入った]
―回想終了―
―――。
[ゆっくりと眼を開けた。
見えるのは知らない天井。
一瞬、何がなんだか分からなかった。
だが、グルリと首を巡らせて見れば]
……旅籠……か?
俺は、なんでこんなところに……っつ!
[頭が痛む。
割れそうなほどの痛みに、思わず顔をしかめて、頭をおさえた。
そして、少しずつ記憶が蘇っていく]
……そうだ!涼!涼は!?
[慌てたように周りを見渡し、利吉のすぐそばで眠っているのが眼に入り、安堵の息を漏らした]
あははは、聡、喜んでよ。
今日はボクが君を選んであげるよ。
[魔の気配を宿した琉璃の姿に困惑しながらもあごを押さえる手を必死にはずそうと聡がもがく、そんな姿がひどくこっけいでおかしく口の端に笑みが浮かぶ]
君には榛名のことの礼もあるしね、たっぷりと楽しもうよ、ボクとの時間を…大丈夫、なるべく長く生かしてあげるから…。
[しばらくのち、雨がすべてを洗い流し、
唯一つ変わり果てた姿の聡だけが板壁と床に残された、
まるで標本のように。]
良かった……。
この野郎。心配かけさせやがって。
[少しだけ笑みを浮かべて、軽く涼の頭をこづいた]
しかし、なんだって、俺はこんなところに?
……何があった?
[そのまま起き上がり、旅籠の中を見渡すと、榛名の姿が眼に入ったので、利吉が躊躇することなく近づいた]
よう。おはよう。お嬢さん。
えっと、悪い。
何も覚えていないんだが、俺が飛び出してから、何があった?
[頭の痛みはすでに薄れ消えた。
まるで、最初から何も無かったかのように]
ああ、心配すんな。
[気をつけて、という言葉に軽めに答えて旅籠を出る。
その瞬間、表情は険しくなり、何事か考えていると伺わせるものへと変わった。
ともあれ、雨の中を心当たりの家へと向かう。
家の主である老女の弔いは小百合と裕樹に任せ、孝博と共に晴美を居間へと運んだ]
……にしても……。
[ちらり、視線を向けるのは老女の亡骸]
……綾と、ほとんど同じ……か。
[身体の内側を失している、という老女。
心臓を失っていた従妹。二つが結びつくのは容易だった]
[聡を探す、という二人と別れ、旅籠へと。
途中、ふと足が止まった。
どうかしたのか、と怪訝な顔で問われれば、ふと、視線を遠くへと投げ]
……孝坊、先、行ってくれ。
俺……ちょっと、寄り道してから行く。
ああ……大した事じゃない、すぐに戻るから。
[心配いらねぇ、と短く返して、走り出す。
向かうのは、榛名の家]
さっきは、急いでたから、なんもできんかったけど……。
[せめて、簡単な弔いを、と。
そんな思いに急かされつつ、道を駆け。
先に訪れた家へと向かい、奥の仏間へと入る。
立ち込めるにおいに微かな眩暈めいたものを覚えるものの、それは押さえ込んで。
仏壇に縋るように倒れる女性を丁寧に寝かせ、その身体を見つけてきた毛布で包んで、黙祷を捧げた]
……さて。
急いで戻るか。
[小さく呟き、外に出て。
もと来た道を急いで辿る]
……あとで、櫻木の方にもいかねぇと。
っとに、忙しいっちゃねぇぜ……。
[外に出た者をただただ待ちわびる。他の村人はどうなったのか、出て行った者達は無事なのか、疑問は多々あれど、今は待つより他は無く。それを体現するかのように視線をずっと旅籠の出入り口へと向けていたが、かけられた声に振り向いた]
あ…利吉、さん。
目が、覚めたんです、ね。
[そこには起き上がった利吉の姿。安堵するような表情になる]
利吉さんが、飛び出してから…は…。
[視線を落とし少し言い淀んでから、再び利吉を見上げて]
ええと、利吉さん、涼ちゃん追いかけた、後、倒れた、みたいで、蓮実君、が、運んできたの。
その後、起きたこと、は……野崎のおじさん…この旅籠の主人が、寝室、で、死んでた、のと…。
………。
[一つ口にして、言葉が出なくなる。涼がしたことを、どう言えば良いのか。利吉は涼と親しかった。彼女が人を殺してしまったなど、すんなり言葉には出せなかった]
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