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[震える羽根には手を伸ばさずに、ゆるり頭をやさしくなでて]
他には。
さて、あると思いたければあると思えばいい。
ないと思いたければ――そうすればいい
[わらった]
嘘は。
それを信じるかどうかも、お前が決めれば良いさ。
[村の中もまた、多くの噂が飛び交うようになっていて、昨日の広場で起きた事も風に乗り、耳に届く。
赤髪の少年が封印された事、銀の異形の翼の少女が力持つものと名乗り出たこと]
…ああ、これは……広場に居なかったのは正解、かな。
[自身の身にその情報が入ったと、主に知られれば動かざるを得なくなるかも知れず。
重い顔のまま、周囲に立つ人間にラスの家を尋ね、示されたその家の敷居を跨ぐ]
……そんなに怯えるな。後で言っておいてやる。
[体を丸める様子に呟き、小さな四足の進む方へ付いて行く。
扉のひとつに止まる姿を褒めてやり、中へ入った。
小さく質素な部屋を見回し、起こさぬ様に布団に下ろす。]
……このままだと布団が湿気るな。
着替えさせる方がいいか。
[服の籠があるのに気付き、躊躇いつつも手を伸ばす。]
[目の前の玄関は、何故か不用意にも開け放たれていて首を傾げる]
お?ノックをしたら美人だと言う妹さんが出てきてくれるなんて夢のパターンはあっさりと崩れたなぁ。
[軽口を紡ぎ、カツリ、靴音を立て玄関の内へと入る]
おじゃ……
[言いかけた声は、犬の鳴き声に機を失い]
ワウ!
[疾風はスティーヴの足元に纏わりつつ、その足元を前足でテシテシと叩いては玄関に向けて吠える、を繰り返す。
スティーヴが玄関へと向かうまで、それは続けられる。]
……私には人の心は視えない。
思いたいように思うしかないものかな。
真実は、あって、ないもの。
[独り言のような、ことば。
手を邪険にすることなく、眼を細め、
ちいさく吐息を零した]
私には、信じることは、難しい。
信じても、それは、とてもか細い糸だから。
疾風、静かにしろ。起きるぞ。
[懸命に侵入者を知らせる子犬に低く命令し、ラスに布団を掛けて玄関へ出る。
そこにあった意外な顔に、片眉を上げた。]
……驚いたな。どうした、何か用か。
そういうものだろう。
誰の目にもあきらかな真実もない。
お前はお前のしたいようにすればいい。
[手を離す。]
あァ、そうだ
お前は、世界のことわりとは、何だと思う?
[犬の泣き声が止むのと共に、聞こえてくる足音。
呼び鈴代わりの便利さに軽く感心していれば、出てきたのは明らかに、そこの家人ではなく]
いや、まあ…こっちも驚いてるんだけど。
何かって、一応お見舞いのつもりでね。昨日、少し具合悪そうなトコに、更に負担かけたから…果物の一つでも差し入れようかと。
[果物籠を持ち上げ、示す]
そっちは、どうしたの?
クゥ!
[言われた事が分かるのか、疾風は大人しく嬉しそうにスティーヴの後をついて歩く。
カルロスの姿を見ると、クゥ?と高い声を出して首を傾けた。]
[首を傾げる疾風を見れば、膝を折り、視線を下げる]
お前、ここんちのか?賢そうで何よりだ。
育ての親の躾が良いのかね?
[小さいものの扱いが得手そうなラスを思い出し、頷く。
数日前に、犬の賢さに関する話で不機嫌になっていた事を思い出せば、非常に複雑な表情を浮かべたかもしれないが]
……そうか。
負担をかけたなら当然だな。部屋にでも置いてやれ。
[カルロスの示す籠を見、頷いた。出所など知らない。]
俺は睡眠不足で倒れた馬鹿を寝かせていただけだ。
………どいつもこいつも。
[低く呟き、カルロスを見る。]
流石にね…普段だったら女の子の見舞い以外は行かないんだが。
まあ、俺にだって、罪悪感の一つくらいはあるのさ。
部屋に…って、断り無く上がっていいもんなの?
[既に玄関に入っているのは、置いておき]
そもそも、ラス本人は――…って、そう言うことか。
一応聞きたいこともあったんだが、止めとくか。…全く、虚がもう普通の人間にも影響しだしてるなんてことは無いんだよな?
[ひとりごちるように呟き。スティーヴの視線に気づけば、静かに見返した]
…何?この村にそういったバカと強情張りが多いのは非常に同意したいところだけど。
顔を見ずに帰る見舞いがあるか。
……お前がそれでいいなら代わりに置いてくるが。
他にも病人がいるんだ。早くしろ。
[鼻を鳴らし、一歩身をずらす。
顎をしゃくって部屋の方を示した。
掴み上げた疾風は腕に抱き、軽く背を撫でて宥める。]
普通の人間に、か。
…………わからん。
[嫌な想像に苦渋の顔になる。
同意には知らぬふりをし、先立って歩き出した。]
……前言撤回。客を追い出すような奴に、この果物はやらん。
[睨むような視線と、大人気ない言葉。
悪戯を仕返そうと伸ばした手。
けれどスティーヴが疾風を持ち上げるのに、空振る。
誤魔化す様に、靴の埃を払い立ち上がった]
…なんだ。アンタでも、そんな風に笑うことがあるんだな。
そこまでは知らないが……
最近きいたばかりでね。
[肩を抑える様子をみる。
何を気にしているのかは、すぐにわかった]
……一体、なにを意味するものか、お前にも聞いておこうと思っただけさ。
[宙を掻く四足に浮かべた笑みを指摘され、への字口になる。]
………いいからさっさと行け。
[結局、返した答えは愛想のない促し。]
他に…病人?まあ、この騒ぎだし、心労で倒れた人が居てもおかしくはないか。
[ラスの家の事情を知らず、適当な一人合点。
部屋を示され、頷きを返し、そのまま家へ上がりこむ。
疾風を宥める様子には、驚いたように軽く眼を見開く]
俺にも、分からないけどさ…少し、昨日ラスの羽根に影が差したみたいに見えたのが、気になって。
…神経過敏にでもなってんのかね。やだやだ。
[愛想の無い促しには、含み笑いを浮かべた]
[一人合点するカルロスの言葉は、否定も肯定もしない。
黙って部屋の扉に手をかける。
その背に届いた言葉の内容に、目を見開き振り返る。]
……影、だと。
―――それは確かなのか?
[先程、上空から感じた違和感。
あれほど懐いていた疾風が怯えている様子。
嫌な符号だけが組み合わさる。
無意識に力を入れた扉が小さな音を立て、微かに開いた。]
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