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[空手をやっているために戦い慣れはして居り、身体が勝手に反応する部分がある。今回はそれに助けられた形になっただろうか]
っつー…。
打撃系は骨にくるんだよなぁ。
篭手越しだったから何とかなったがよ。
[ぷらりと鉄球を受け流した腕を何度か振り、その痺れを取る。その腕の振りの最中にカシュ、と言うスライド音が鳴った]
おい、九尾の陰の心。
さっさと久鷹を明け渡してもらおうか。
そいつを待ってる奴が居るんで、なっ!
[両脇に降ろした腕を上へと跳ね上げる。瞬間、手から飛び出す円盤が、二つ。シュルル、と言う風を切る音を纏いながら、離れた位置に居る久鷹へと左右から迫った。同時に間合いを詰めようと前方、久鷹の居る場所へとツーステップほど踏み出す]
[爪がその首を庇う腕に触れてその属性を知る。
直後、背中に連続する衝撃。紅の霧が舞った。
悲鳴も上げずにその衝撃に耐える。耐え切れたわけでもないが]
――似金行剋木行!
[投げられる直前、腹から声を出す。両手の爪が消え、手首の金属の輪が光り、不完全に術が発動する。
ホンの僅か相手の力を削ぐだけの、最後の悪あがき]
グッ。
[地面に叩きつけられ、息が詰まる。
限界などとっくに越えてしまっている。力なく伏せていることしか出来なかった]
――…………、
[ 力を持った、ことば。眉を寄せる。
先に放った輪が戻り来るのを風を調整して掴み取るも、
感じるは不快――留め切れず、刃は霧散して流れの一と化す ]
ち、
[ 止めを刺し損ねた事に、舌打ちをする。
然程、力の扱いに慣れている訳でもない。
一度集中が途切れてしまえば、再度操るのは難しかった。
かしり、頭を掻く ]
仕方ないか。
煩いのが来る前に、退散しますかね。
……そうそ。
一つ、言っとくと。
鵬谷と違って、俺は、選んだ側。
ありきたりな言い方すれば、
悪魔との契約、ってとこかね。
[ 明かしたのは、気紛れか。
地に伏せたケイコにそれ以上の追撃は加えず、
されど冷えた黒の眼差しを向け、事も無げに言った ]
ど、して…?
[普通に声に出すのも辛かった。喉は熱く、口の中には鉄の味が広がっていて。
それでも言われた言葉は衝撃が大きかった。
どこかぼやける視界に苛立ちながらもアズマを見上げる]
[サキの手から放たれた円盤に、流星錐を手元で再構成して迎撃させる]
!
まさか遠距離だと!?
[カシュ。という音が聞こえた時、接近戦に持ち込み相手に打撃を与えると同時に爆発を生むか、もしくは打撃速度を上げるための機能が備わっていると予測したが、まさか円盤を打ち出すとは思っていなかった。
円盤を打ち落とした時に飛び散った破片が頬を切り裂く。その他の破片を回避するため一歩後退した時、ステップの音が耳朶を打つ]
く!
[元々、九尾の力は三分割されてしまっていて、しかもソレが得意とする力は別の地方へと飛ばされてしまっている。残っているのは雷を使う力と、知能だけ]
ならば次だ!
[流星錐を手元に戻すや、地面に向けて撃ちはなった。アスファルトが裂け、土砂が舞い上がる。その一瞬の目晦ましの間に、再度自分の複製を作り出すと、後ろに位置していたT字路を互いに逆方向へと走り出した]
……さて。
大した理由なんて、ないんじゃね。
そこにあったから、掴んだ。その程度。
[ 声色は平坦で、真意は窺わせない。
靴先が土を抉り、ざり、と不快な音を鳴らす。
眼を伏せつつゆるりと背を向けると、
気怠けそうに片手を挙げて、ひらりと振った ]
あんまり喋ると体力使うぞ。
どうせ、お迎え来んだろ。大人しくしとけ。
[あと一息で足──蹴りが届くと言うところで土砂が舞い上がった]
はっ!
[気にせず回し蹴りを放ち、土砂を蹴りの勢いで礫にし蹴り出すも、相手に届くことは無く。見ればまた複製を作ったらしく、二人の久鷹が先のT字路を二手に分かれ走り行く]
あれこれ小細工ばっかしやがって。
男なら拳で来やがれ!!
[叫び、その後を追いかける。分かれ道、どちらへ行くか迷っている時間は無い。手元に戻って来た円盤を篭手に装着し直しながら、直感を頼りに追いかけたのは──左の通路]
そん…!
[感情の読めない声に反駁しかけて。
ケホ、と咳をした。痛い痛い痛い。
そもそも本格的に武道をやっていたわけでもない人間が、知識と本能だけで戦っていたわけで。身体はしっかりそっちのツケも払えと主張し始めていた]
…バカ。
[小さく呟いたのは意地なのか、それとも。
最後の部分には反論もせず、遠ざかる背中から目を離し、瞑った]
−住宅街−
[家に到着。
自電車を止めて、玄関をくぐり、靴を脱ごうとしたところで感じる、不快な空気。
家から、それほど遠くない]
……?
[微かに首をかしげる。
おかえりー、と中から声が聞こえたのだけど]
…忘れもん、とってくるわ。
[リビングから顔を出した下の姉にそう告げて、急いで家を出る。
彼女はと言えば、不思議そうに首を傾げていたが]
…ったく、時はともかく、場所を選べ、場所を…!!
[明らかに苛立ちの混じった声で、気配のするほうへと走り出す。
しばらくすれば、そこに見えたのは右に曲がった一方の奇術師]
[サキに追われている方の久鷹は、肩越しに背後の様子を見て、ほくそ笑んだ。二つに一つの博打であったが、賭けに勝ったらしい。
・・・・・・・・・・・・・・・
――本物の久鷹に向かってきてくれたのだから。
ソレを確認すると、左目だけを複製に飛ばした。
複製は、右へと曲がった先にある廃工場脇に準備してあった、片腕がすっぽりと入る大きな鉄管を腕にはめると、そこに電子を磁石状に変化させて固めた釘の固まった玉を入れ、自分自身を発射エネルギーへと変換させた。
目標は廃工場前から一直になっているサキ――]
ハハ! 馬鹿力を持つものは、腕力だけではなくて頭まで力でしか解決を見ないよう思考を固めるらしいな! 返せと言われて返すと思うか!
[流星錐を一発サキの足元へと向けて打ち込むと同時に、右手にあった壁を三角飛びの要領で駆け上がった。
それが合図!
釘の玉が鉄管から発射された]
それで結構。
[ 耳聡く拾って、律儀にも答えを返す。
けれど振り返ることはなく、
石段をくだり、土のない地に立つ。
夜の帳は既に下りて、天には幾数もの星。
アスファルトの路から、熱は失われていた ]
……つーまんね。
[ 冷めてしまえば、そんなもの。
右腕の痺れが今更のように蘇り、
全身へと懈さが広がっていくような気がした。
途切れかけの街灯が、煩くちらついている ]
あっちは、どうなったかねえ。
[ 未だ黒に染まった眼と同じ、闇の奥へと*足を向けた* ]
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