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居る場所までは存じませんが――もしかしたら、欠片と戦っているかもしれませんね。
止めた方が良いとは忠告してあるはずですけれど。
[どこにいるのかと首を振り]
食事の量が少しでは、弱ってしまいますよ?
確かに、わたしの方が気にしているかもしれませんね。
聖魔剣をお持ちなのでしょう?
あなたがそんなにも余裕を持てていないのは、その剣のせいなのでしょうね。
――見せていただけませんか?
憂さ晴らしかもしれませんね。
若いのにつかまってしまった、という。
[小さく笑う。]
大丈夫ですよ、側近殿はお強い方ですから。
食欲、心配されていませんか?
――あなたがお持ちだと、知っているからですよ。
[剣の話に、声は闇を乗せ、響く。]
お分かりなら、とぼけるのは止めた方が良いですよ。
怪我をしたくはないでしょう?
―結界内/会議室前―
[返ったオティーリエの心話に口元の笑みを深めて、青年は迷いの無い足取りで十五竜王を封じた会議場へと向かう。内側からの強化により、結界を構築した青年でもこの部屋だけは解く事が出来ないだろうが、今はその方が都合よかった]
ギュンター殿。
[混沌の欠片の警戒に巡廻しても会議場の前に陣取る事は忘れない、かつての友に声を掛ける]
[『願い』を叶えるのにどれ程の代償がいるかは判らないが、青年は既に一つ支払っていた。目を逸らしながら睨むという器用な事をしてのける皇竜王の側近に、青年はレンズの影に感情を隠し微笑んだ]
一つ、ご報告があります。
養女のエルザ殿が此方にいらっしゃいましたよ。
[それがギュンターの耳に届いた瞬間、青年は封印の眼鏡を外し反射的に向けられた視線を覗き込んだ。紺碧に見えた紫紺が赤紫に変わり、心の奥に抱えた秘密を暴き出す。
――…聖魔剣は、何処に?]
剣の意志など、どうでも良いのですよ。
[身を引く様子に、笑みのままに一歩、近付き。]
わたしは。
わたしたちは、それが欲しいのですから――。
崩壊など。
[浮かべたのは微笑み。]
わたしたちは、それを望んでいるのです。
何があろうとも。
[払われた手の痛みなど、感じてはいないよう。]
渡すことが出来ないと仰るなら、どうなさるおつもりです?
[宙へ浮いた手が己の首元へ。
音を立て解かれたタイは、その腕に振られ、一つの短刀へ変ずる。]
[覗き込んだ心の奥、幾多の中から必要な一つを引きずり出す]
「首飾り――…真珠と土耳古石の」
[オティーリエへ声を投げると同時、鋭い一撃を頬に食らった]
[歳は取っても歴戦を経た竜の一撃は、一瞬の空白を生じさせる。けれど青年は痛みを感じさせない顔で口の端を横に引き、素早く後ろへ飛び退った。
時空竜の一閃も避けた身のこなしはエインシェントのもの。追撃を受ける前に口を開かぬまま、夢渡る]
――…
[追いかける怒鳴り声にも、何も返す事なく]
――っ!
[隙を見逃すほど甘くはないということか]
[振るわれた刃は、短刀を握る手を傷付ける。
切り付けられた手は血に濡れる。
力が入り、それはなお多く。]
[間合いは近い]
[反射的に、腹部目がけて蹴り上げる。]
―結界内/回廊―
[青年が次に姿を現したのは、時空竜の眠る部屋の前。夢かどうかは怪しいが意識の空白を飛び石にして渡った。
他に気配が無いのを確かめてから腫れ始めた頬に掌を当て、口内の血を吐き捨てる]
ぃってー……
[精神の竜が痛みを遮断するのは容易く、殴られた次の瞬間にも消し去っていたけれど、口の端に紅残し歪めた顔は痛みを表していた]
はっ、
[握り、零れる血など気にせず。
続けざまにもう一撃、今度は刃の柄で背を狙う。]
[翠の双眸が、暗闇を帯びて"敵"を見る。]
おしまいですか?
[カランとナイフが転がるのを、ほんの一時、映した。
口元に笑みが浮かぶ。]
[魔族の血が騒ぐ]
[背を屈め、刃を握らぬ手でその頤を捕らえようと。]
[しばしの沈黙を振り払うように首を振り、青年は目を伏せて眼鏡をかけた。
そうして、行われているであろう月闇と天聖の戦いに意識を凝らす。邪魔をせぬ為に声はかけず、緊迫した心の動きを追う。
月闇の竜が負った傷は夢渡る途中ゆえに気付いていなかった]
[その血が掴もうとした手にまとわりつく。
邪魔をする網を、翠の目が見て。]
残念ですが、
[足にも絡み付けど、笑み。
甘い剣を握る手の拘束を強く振り切り、血を舐めた。]
[闇が色濃く]
渡していただきますよ。
[エルザの口をふさぐため、短刀はタイへ姿を戻す。
闇の力はまとわりついて、望みどおりに動く。]
大人しく、渡しておけばよかったんですよ
[沿った首に動く方の手を近づける。
血塗れた手は撫ぜるよう。]
[指先が首飾りに触れ、じゃらりと音がした。]
見つけた。
[笑み。そして指がそれをすくう――]
ご自由に
[その声に返し、くいと引く、
そのまま、首の後ろに手を回し、指先で金具を外す。]
[彼女の体力に比例してか、拘束は緩んできているようで。
片手が近付いてくるのを見ると、笑った。]
しつこいですよ、エルザ殿。
[首飾りは手のうちに。求める手から引き離す。]
…終わったみたいだな。
[荒事をどこから聞いていたのか。
いつの間にか天と月の傍に現れたクレメンスが、オティーリエの傷ついた箇所を痕跡も残さずに治した。
エルザの傷はその後で。以前交わした優先順位は守られる。
そして天の卵姫には、同時に穏やかな眠りを注ぎ込む。
安眠を誘うそれは、暫く彼女に使命も不安も願いすら忘れさせ、速やかに夢の中へと落ちるだろう。**]
[タイは元に戻り、自分の下へ。
動けるようになった体。彼女から離れる。]
大人しく渡していればよかったのに。
[逆の手に首飾りを移す。
血がついていた。]
せめて安全な場所に運んでさしあげたくはありますけれど。
……いらしたんですか。
[何も抵抗する間もなく、傷痕を癒される。
残ったのは怪我の証拠、赤い血のあと。
エルザを治す様子を見ながら、微笑んだ。]
「これを、どうしましょうか。」
「いえ、大丈夫ですよ。
……外に出られるような場まで、行きます」
[傷は治っている。
クレメンスを見て、その後、意識を戻さないエルザを見る。]
戻りませんか?
[問いかけにクレメンスの答えはどうだったか。
どちらにせよ、一度、エルザに近付いて髪を撫でた。]
[そのまま、後は振り返らずに、回廊を行く。]
[そして向けられたオティーリエの問いに、少し間が空く]
「……それは貴女が持っていて下さい、オティーリエ。
剣は二本同時に持てる代物ではありません。
属性を鑑みれば私が『神斬剣』を持つ方がいいでしょう。」
[『聖魔剣』を身に付けたオティーリアが若焔の干渉を撥ね返す程の力を得る可能性を判断の一つに含め、青年は答える。
迎えが要らない様子には、短く了承の意を返し自分も歩き始めた]
暫くはな。
なーに、今頃いい夢でも見るだろうさ。
[言いながらエルザを抱え上げ、一人は違う方へと足をむけ。]
ああ、言い忘れててたわ。
おめでとう?
[へらと、笑いながら言うその胸中は、混ざりあって精神の竜にはどう伝わるか。
その後、エルザを空き部屋のベットに寝かしつければ外に出て。どこかでアーベルを見つけようものなら、頬の傷を、たとえ断られようが癒すだろう。**]
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