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[咲き誇る、季節外れの、薄紅色の花。]
…っ、なん………
[眼差しは、ほんの一時、誰かの影を捉えたか。
しかし遠目では少女であるとの視認までは出来ず、
瞬きの後には、その姿はもうなかった。]
……………なんだ、コレ。
[ぱちくり。
幾度かの瞬きの後、自らの頬を抓る。
痛い。
ついでに、雨上がりの空気は多少冷えているとは言え、
それは春には程遠く、夏のもの。
夢ではない、らしかった。]
[相変わらずのお節介なマコトの言葉にタオルの下の目は益々細められ。ケンの名前に僅かにピクリと反応するものの]
…………余計なお世話
[乱暴にそれだけを言い残すと、マコトに髪の水分を少し吸い取ったタオルを投げ付け、サヤカの存在には気付きつつも声を掛けることなく寮の中へ
すれ違うその目に不機嫌な色が宿っていたのはおそらく髪に隠れて誰にも見えなかっただろうか
もちろん制服は濡れたままなのだから、廊下には点々とした水溜り]
5人目……?流行……?
[天野へと小首を傾げ、そうして普段の彼女よりもどこか楽しげな口調で。]
傘を持ってない人が雨に降られてしまった、単にそれだけの話では?
[腕が、落ちた。]
……?
[離れるのではなく、近づいて。
何か声が聞こえたかもしれないけれど、それすらわからなかった。
だって綺麗な、花が咲いていたから。]
[やって来たサヤカに気づいて一礼し、ヒサタカのぼやくような呟きに、それは違うんじゃ、と言おうとした矢先、濡れたタオルが投げつけられ]
って……ウミ!?
[不機嫌な声と、走り去る様子に、思わず声を上げる]
……何なんだよ、もう……。
大きなお世話って、心配するのは……。
[当たり前じゃないか、と。
小さな声で呟いて、軽く、唇をかみ締めて]
亘……?
[どこか遠い。すべてが遠い。
テレビの声も、窓の外の雨も。
自分の体にも咲いた赤い花も。
義兄の背が視界に入る。
崩れたその背には大輪が。]
[名前を呼んでいるのに、訂正の声もなかった。
何、か、が。
あたたかい赤に指が触れる。
あたたかい。あつい。
ああ、あついんだ。
まっかであつくてあたたかくてあまそうでああなんだろうこれはどうしてこれがあらわになっているんだろうだってこれはほんとうはこんなところにあるはずのものじゃなくてだってたいせつなものだからかくさなきゃいけないんじゃないのそれはいのちの]
わ、たる……?
……え?
[ここから、桜は見えないのに]
なに……。
[桜の方から、何かが伝わってきたような、そんな気がして]
……何か……起きて……る?
[零れ落ちる、呟き。俯いていた視線が、校庭の方へと向けられる]
まあ…そうだな。
[サヤカの言葉には、頷いて]
君も、風邪をひかないうちに…
[着替えた方が、と、言いかけて…]
…………?
[ざわめいた桜の葉音が聞こえたか、それとも風に微かに混じる血の匂いに気付いたか、不審気に眉が顰められる]
……………すっげー。
[たっぷり数十秒、否、分単位の沈黙の後、呟きを零す]
怪談、マジであったんかなー?
…あ、ハルヒにも教えてやろ。
[濡れないようポーチに入れておいた黒携帯を取り出して、
登録していた短縮ダイヤルを押す。
けれど、数コールを終えて返って来たのは、機械的な音声]
――電波の届かないところにあるか、電源を…
[まだ練習中なのだろうか、と思う。
熱心なあの後輩の事だ、ひとりででも残って練習しているだろう]
約束忘れてねぇだろうなー?
[眉を寄せて、拗ねたような声。
携帯を切ってポーチにしまって、再び、桜を見上げる]
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