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[声を掛けながら様子を見るべく近付いて行く。
瞬間、声は一度途切れ]
ぅあああああああああ!!!
[次いで、悲鳴が周囲に響き渡った。
脚の力が抜け、後ろへ倒れるように尻餅をつく]
[翡翠が捉えたのは話を聞こうとして居た自衛団長。
喉を潰され、左胸に穴を空け、血溜まりへと沈んだ変わり果てた姿だったが。
見開いた翡翠は焼き付けるように自演団長を凝視し。
身体はカタカタと震え始める。
悲鳴を聞いて自衛団員が駆け付けたのはその頃だろうか。
周囲が騒がしくなり始めた]
ち、違う! 僕じゃない!!
僕が来た時には、もう───!!
[自衛団員に囲まれ詰め寄られ、震えながら首を横に振る。
責めるような視線、疑いの眼差し。
恐怖を抱き、声が出なくなって来る。
ミハエルを囲む団員の隙間から、他の団員が団長を検分する姿が見える。
その際に見えた左腕が、右腕と違い全く無傷だったのを翡翠は*見た*]
─昨日・湖畔─
[こちらの言葉に、眉根を寄せ哀しげな顔で首を振りながら答えるミハエルに何も言うことは出来なくて。
ただ、自分とは異なる環境の中こんな風に思ってしまうまで頑張ってきたのだろう少年の頭を撫でるだけでいた。
ゲルダが彼の手を取り声をかけている間も、ベッティが打算などないと教える間も。
ゲルダが涙と嗚咽を零す少年を抱きしめようとするなら頭を撫でる手を背にまわし、温もりを伝えて。]
ミハエル君は、いっぱい頑張ってきたんだね。
頑張ったんだね。
私は独りが怖くて、ずっと皆に隠し事してた。
私なんかより、全然すごいよ。
私も、ミハエル君を信じたいって思ってる。
だから、ミハエル君も。
信じたい人のこと、もう一度、考えてみて欲しいな。
[ベッティも彼の頭を撫でるのを見れば、幼馴染達が一緒でよかったと微笑んで。
彼女達と共にミハエルが落ち着くまで只傍にいた。]
ううん、そんなことないよ。
それにね、心配するのは当たり前なんだから。
お礼なんか要らないの。
[しばらくそうしていた後、涙を拭って常に戻った様子のミハエルから恥ずかしそうに礼を言われれば、そういって微笑んだ。
そこに聞こえた声に、え?と驚いて後ろを振り向けばライヒアルトの姿があり。]
ライ兄。どうしたの?って…わぁ、本当。
何時の間に日が落ちちゃったんだろ。
[きょと、と首を傾げたものの続いて言われた言葉にやっと辺りが暗くなっていることに気付いた。
ミハエルを送っていくと言うのなら、自分達もいくよ、と声をかけ。]
[ライヒアルトとミハエルのやり取りを聞けば、自分達が追いかけてきたことも無駄ではなかったかも、と安堵の表情を浮かべ。
けれどライヒアルトから苦言を言われればその通りだと、申し訳なさに眉を下げた。]
ごめんなさい。
ライ兄、心配してきてくれたんだね。
[思えばそんな中を一人で後から探しにきてくれたのだ、ゲルダの謝罪を聞くと余計に申し訳なくて表情を曇らせた。
ゲルダの怪我に気付いた声を聞けば、そうだ、と声をあげて]
ライ兄、さっきゲルダ転んじゃったの。
戻ったら手当てしてあげて?
[大丈夫、というゲルダには手当てしなきゃダメだよ、と強く言って。ベッティもそれには同意しただろう。]
―宿屋/個室―
ん……―――。
[ゆるりと、伏せられていた紅が持ち上がったのは
時刻にしていつ頃だったか。
おそらくは、もう、空が白み始めていた頃合。]
此処、は、私は、嗚呼……―――イレーネ?
[覚醒していく意識の中。
昨夜のことを思い出し、探るのは心配をかけただろう妻の温もり。
傍らに在るのに、安堵の息を吐く。]
運んでくれた人にも、お詫びしなきゃ、ね。
[寝ているだろか、妻の髪を梳く指先の動き。]
ねぇ、私は、ちゃんと君の夫でいられてる?
子どものお父さんになれてる?
[寝落ちる前、謂いかけ消えた語尾をポツリ紡ぐ。]
……私が、なにをどうしたって、それは全部2人の為だから。
それだけは、信じていて。
[今までのように、傍に入れなくとも。
謂わぬ続きを体言するように、指先が妻の身体から離れた。]
ちょっと、出かけてくるね。
[言葉と頬に接吻を置く。念のためメモを枕元に添えて。
向かう先は自衛団の詰所。
何か思いつめたような貌は、
団長に何か相談事があるかのように見えるか。
しかしながら、歩む先に在るのは……―――]
え?何が……―――
ちょっとまって、子どもにそんな無体しちゃ駄目!!
[ギュンターの遺体を発見した少年が自衛団に囲まれている様で。
ミハエルを庇うように、囲う隙間から少年の身体に手を伸ばした。
そして、叶うならそのまま抱き寄せて、
叶わないならばその傍らに寄り、
翡翠の視線の先を紅も追い、ギュンターの死に様を映すのだった*]
―詰所近く―
─昨夜/宿屋─
[空いている部屋の鍵を開け、中の備品を確かめる。
飛び出す前は、毎日当たり前にやっていて。
外に飛び出してからも、食い扶持に困った時はよくやっていた仕事]
……さて、と。
やり難い状況だが、動かねぇ訳にはいかねぇし。
どこから、『視ていく』べき、かね。
[作業を進めつつ、巡らせるのは思考。
近しい所から『視る』のは容易い。
けれど、それは人からは守れたとしても、牙からは守れない。
思考の根底にあるのは、かつて遭遇した『事件』での経験]
……敵に回るにしろ、味方になるにしろ。
俺からカードを切り易い……ってなると、やっぱり、あいつかね。
[浮かべるのは、『外』での自分を知る者。
敵であるなら早めに動くに越した事はなく。
人であるなら、情報という名のカードを増やす事で、最も上手く生かせそう、と思える者]
……ん、落ち着いたら『視て』みっか。
え…ブリジットも一緒だったの?
[そうして皆で一緒にミハエルを送る道すがら、ブリジットのことをゲルダから聞けば彼女も追いかけてきたことは知らなかったから驚いて。
ライヒアルトの返答を聞けば、大丈夫だろうか、と心配して落ち着きがなくなり。
宿に戻っているかも、という二人の話を聞くもやはり気はそぞろになった。
ミハエルを家に送り届けた後、雑貨屋以外は何処にも寄らず宿屋へと戻り。
そこでブリジットの姿が見えればほっとしたものの。]
ブリジット、その人どうしたの!?
大丈夫?ブリジット、怪我とかしてない?
[彼女が赤毛の男性を引き摺っているのが見え、驚きと心配で駆け寄った。
まさかブリジットが男性を気絶させたとは思わなくて、誰かに襲われでもしたのではないかと。
ブリジットの返答を聞けば、その表情は安堵に代わるか、もしくはあんまり危ないことしちゃダメだよ?と注意するかになっただろう。]
[思考と作業が一段落した所で再び階下へ戻る。
丁度、目に入ったのはゼルギウスが倒れ伏す所で]
って……大丈夫か、兄貴?
[さすがに表情が険しさを帯びるものの。
ライヒアルトの診断にそれは緩んで]
ああ、これはさすがに休ませねぇとな。
[イレーネの申し出に頷き、先に立って部屋へと案内する]
ん、気にすんな。
……お前も、無理すんなよ?
[出際にイレーネから向けられた言葉には笑って。
迎えに行く、というライヒアルトを、頼む、と言いつつ見送った]
[それから、出かけて行った者が戻るまでに。
蒼鷹に餌を食べさせたり、手遊びにカードを弄ったりしながら時間を潰して]
……やぁっと、帰ってきたか……。
ったく、あんまり周り、はらはらさせんじゃねーぞ。
[飛び出して行った者たちには、やや大げさなため息と共にこんな言葉を。
疲れきった様子のライヒアルトには、お疲れさん、と声をかけて。
食事とその片づけが終わると、自室へと引っ込んだ]
……って、と。
[自室に戻ると、表情は険しさを帯びる。
窓際に寄せた小さな机、その前の椅子に座り。
瑠璃のダイスを出して、机の上に並べ。
荷物袋の中から愛用の短剣を出すと、その刃を手首に掠らせ、ダイスの上に滴を落とした]
……我が身に流れし血の盟約に基きて。
我は求む。
彼の者の真実の姿、示されん事。
[低く呟くのは呪いの言葉。
父の家に、代々伝わっているという、血と瑠璃を媒介にした呪術。
盟約が何と交わされているか、何故そんな力があるのか、までは知らぬけれど。
以前も、そして今も、それを使う事を躊躇う理由はなかった]
……ん。
当たりなんだか、ハズレなんだか。
[『視えた』色は、白。
白は、人を示すいろ、と父は教えてくれた]
ま、ある程度とはいえ、手の内知られてる相手だからな……敵じゃねぇのは、助かる、か。
[短剣を掠らせた所には軽い手当てを施し、瑠璃のダイスの滴を拭ってポケットへ]
とはいえ……人だから、ってんで、油断もできんわけだが……ま、ここは言っても始まらん、か。
後は、どのタイミングで、このカードを切るか、かね。
[そんな呟きを漏らしつつ、ベッドに倒れこむ。
傍目、簡単に見える呪いだが、身体にかかる負担は大きく。
そのまま、意識は眠りの闇へと堕ちて行った]
[ゲルダがライヒアルトの手当てを受けているのを見守っていたところで、くらりと視界が揺らいだ。]
あ、れ?
[ミハエルも無事みつけられたし、幼馴染の姿も確認できて安心したのだろう。
昨日から一睡もしていなかった身体は急激に睡眠を欲して。
ただでさえ今日は色んなことがあり、心も体もいっぱいいっぱいだったことも大きいだろうか。]
ごめ、ベッティ…
へや、どこでもいいから、貸してくれ、る?
[そう言う声も、語尾は眠気に濁されて。
部屋に案内されればかろうじてベッドに倒れこんだものの、そのまま眠り伏した。**]
[獣の姿は、床に付く時には人のものへと変わっていた。
空が白くなり始めた頃、まだ半分は夢の世界に踏み行っていた時に夫の声を聞いた。
まどろみの中、それはむこうなのかこっちなのかは分らない。]
ゼル……?
[だからぼやけて、向こうの名前をこちらで読んだ。
聞こえた問いかけはどこか、遠い。
切なる響きだけが、霧の中から届いて伝わり]
あなたは、私の―――……
[応えるように紡いだ言葉の端は、夢の中に掠れて消えた。]
―昨夜・宿屋自室―
ライさんが捜しに行くなら俺は残る。入れ違うかもしれないし。
荷物少し片付けたら食堂に行くよ。
[借りた部屋に持って戻った荷はそのままベッドの脇に。
それとは別に取り出したのはイレーネが持ってきた革箱と少し似た、けれどもっと古い箱だった。
中から出てきたのは黒く変色した短剣。波打ったような刃が特徴的で深く細い溝が刻まれている]
っとに。俺は使ったこと無いっての。
どうすんだよ。
[暫く眺めてから箱の中に戻す。
尖った気分を振り払うように、ライヒアルトから貰ったワインを開けると一口飲んだ]
……手伝い行かないとな。
[浅い眠り、動かぬ身体。
過去そうであったように、闇の中、遠く近く聴こえる聲を聴く。
それは光のある方角から聴こえるのに、
けれど直ぐ外の音とは違うことを幼い日、不思議に想っていた。
いつからか聴こえていた2つの聲。
けれど、聲を返すことは、暫くの間なかった。
聲の発し方を識らなかったから。
そんな時代に戻ったかのように、唯、夢現2つの聲を聴いていた。]
んっ……―――
[ようやっと、聲を発することを思い出したかのように
吐息を此方側に乗せたのは、獣の鼻先、濡れた感触を頬に感じた時。
少年時代、聲を正確に会話に乗せることを識らず、
けれど、交わされる会話に笑い声や吐息を我知らず乗せていた時。
その発信源を見つけ、一番にゼルギウスに触れたのがグラォシルヴだった。
灰銀の温もりと、その傍らにあった光に触れたことで
ゼルギウスは聲の発し方を識り、また白銀として外に出れた。]
ごめん。寝落ちちゃったみたいだね。
[ゆるやかに聲を紡いだのは、妻が人の姿に転じ寝てしまった後。]
狩りは上手くいったみたいで、安心したよ。
ありがとう。
[だから、零す聲は、起きているかは判らぬリヒトに向けたものになるか*]
─翌朝/宿屋・食堂─
[呪いの疲れは重いものの、夜明けが近づけば目が覚めるのは、恐らくは習慣で。
起き出したなら蒼鷹を伴い、動き出す。
調理場の支度は既に始まっていたか、否か。
いずれにせよ、それはベッティに任せて自分は掃除やら何やらに手をつける]
……あれ、ゼルの兄貴、でかけんの?
[その最中、外へと向かうゼルギウスに問いを投げはしたものの、思いつめた様子の彼には果たして届いたか。
ともあれ、その背を見送って。
騒々しい来訪者が訪れたのは、それが一段落した頃]
……ん? 自衛団の……なんよ?
まだ寝てる奴らもいるんだから、静かにしてくんない?
[派手な音を立てて扉を開いた団員に、向けるのは、突き放すような口調の言葉]
―昨夜・宿屋食堂―
[カルメンがまだ居て家に戻るなら送っただろうか。
アーベルもいたならそっちに任せたりしたかもしれない。
野暮じゃないですからと笑って]
ラヴクラフトさんだけ?
ってまた面倒なのが……これ先に片付けた方がいいんじゃないか。
[連れて来られた赤毛の男は冷たい目で見た。
ミハエルを送った者達が戻って来たら、首を振って雰囲気を変え迎えただろう。疲れている者が休むのを見届けて、食事も終わればまた部屋に戻ってベッドに入った]
―翌朝・宿屋厩舎→食堂―
まったく参ったよ。
親父は選ぶ時どうしてたんだろな。
野郎より娘さんの方が楽しい、なんて話じゃないし。
[ブラッシングをしながら相方に相談する。
呆れたように尻尾を揺らすナーセルの身仕度を整えると、後で散歩でもしようと思いながら食堂に顔を出し]
……どうしたんだ。
[アーベルに挨拶するより先に扉が派手に開いて動きを止めた]
[リヒトから応えはあったか、なかったか。
時間が時間だけに、なくとも気にした様子なく、
表で零すのは独白。
しかしその独白に、此方で夢現に妻が応えれば、少し驚いた貌をする。じっとそのかんばせを見詰めていたが、最後まで聴けぬ言葉に紅を細め
そして、接吻けを頬に落とすと、そっとその場を離れた。]
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