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[夕飯の後、片付けをして退散──と、思ったものの。
来客も絶えた状況では、さすがにそうも行かずに捕まった。
卓を挟んで向き合う父から来るのは、小言と苦言と、そして]
「櫻木も、代が替わる。いい機会だから、お前も戻って葛木を継げ」
[端的で、そして、自分にとっては一番面倒な、言葉。
それに即答はせず、ただ、視線を右の手に落とした]
……家の存続にしろ、技術の継承にしろ……別に、俺でなくても構わんだろーに。
[空白を経て返したのは、こんな言葉]
それに、俺にも都合がある。
仕事だって、そう簡単に投げ出せるものじゃねぇ。
……大体、俺が継ぐのを良しとしてない向きの方が多いんじゃね、里のお歴々には。
とにかく、今すぐ戻れとか家を継げとか言われても、はいわかりました、とは言えねぇよ。
[大学進学を強行した時点でかなりの酷評が下されたのは知っているし、卒業後に向こうで就職した事で今の評価が出ているのも承知している。
勘当されていないのは、ある意味では奇跡だろう、とも思っていた。恐らく、それを仕向ける向きも少なからずあるのだろうし]
「……史人」
……話、それだけか?
だったら、持ち帰りの仕事、片付けにゃならんし、部屋、戻るわ。
[咎めるような口調で名を呼ぶ父に、返したのはこんな言葉。
そのまま、返事も待たずに立ち上がり、自室へと戻る。
居間に残った父がどんな面持ちだったかは、知る由も知る気もなく]
[部屋に戻り、荷物の中からファイルケースを幾つか取り出して机の上に重ねる。
横に置くのは、くわ、と口をあけた蛙を模した陶器の灰皿。
煙草を一本出して火を点け、ファイルの中身を広げて……ふと、見やるのは、右手。
よくよく注意してみたなら、その動きがどこかぎこちない事に気づく事ができるだろう]
……ここまで動くようになっただけでも奇跡だっつーに。
細工できるレベルまでなんて、回復できるわきゃねぇだろうが。
[零れるのは、愚痴めいた言葉。
続けてため息を一つ零すと、ふるり、と軽く頭を振って、*広げた書類に集中し始めた*]
そこまでは言わないけれど。
立ってる者は兄でも使え、ってね?
[冗談めかして笑い、台所へ。
客人を帰した後での態度としてはかなり珍しかったかもしれない]
あ、そっちのお皿取って…。
[手伝ってくれる兄の手の動き。
何度か見ているうちに、フッと声が流れた]
…うん、それ。ありがとう。
[見なかった振りで鍋から器に盛り付けてゆく。
蕗の煮物に、豌豆の炒め物。簡素な、村らしい料理。
肉じゃがの皿はそれとなく史人の前に置かれるだろうか]
…洗物は全部やるから。行って。
[夕食後。父が兄を呼ぶ声に、下げてもらった皿を取り上げた。持っている手が以前と違うことに、小さな溜息を押し殺しながら]
[カチャカチャと音を立てる食器。
洗剤は使わず、貯めておいた米研汁を使って油を落としてゆく]
………。
[会話は全部ではないが聞こえてくる。
代替わり。それは村全体の昨今の雰囲気でもある。
晴美はまだ少し若い。だが兄は綾野よりも年嵩なのだ]
…兄さん、だもの。
[ポツリ呟いた]
「……史人」
[兄の立ち去る足音。溜息交じりの父の声。
聞かなかった振りで洗い終わった皿を拭いてゆく]
「…玲。後で重ねの漆を」
はい、持って行きます。
[苦虫を噛み潰したような表情の父に、手を拭きながら答えた。
使う道具を運ぶ程度の手伝いは、今回でも問題ない。
…今回は、それしか手伝えない]
[頼まれた物を運んだり、届け物をしたり。
家を出たり入ったりしながら夜は過ぎていった]
……。
[一段落してから自室に入ると、机の上に置かれた道具箱をじっと見た。けれどそれには手を伸ばさずに、取り出したのは棚に仕舞ってあった別の箱]
…綾姉の役に立てるなら。
私はそっちでいいんだもの。
[呟き開いた箱の中には。
細工の施された小振りの*管が一つ*]
[そうして、桜の木の下をあとにして訪れたのは村人たちが祀りの準備をしている場所。
へこへこと挨拶をしてくる古老どもを無視し、テントの奥−綾野の休んでいる場所−へ。]
綾野。
[そう声を掛け、ジッとその顔を凝視していたが、ふん、と目を伏せると]
三年前の事故を忘れろとは言わん。だが、今年からは貴様が宮司だ。
努々そのことを忘れることないようにな。
[一見冷たい言葉だが、長い付き合いである綾野はその中の気遣いの音を感じ取るか。]
[そして、目を開いてチラリと他の村人の不在を確認すると]
……それに。
綾野も家督を継いだなら口伝について聞き及んでいるだろう。
今年は、外からの者も多い。
もしものこともある。警戒は怠るなよ。
[それだけ言い残し、じゃあなとテントをあとにした。]
そーかそーか。
よかったなァ親父。
[蓮実から泊まる旨を聞けば、へらと笑って主人を見た。お前も手伝えとの切り返しには肩を竦めるだけ。
それから2、3言話しただろうか。
客がそれぞれに解散するのに倣い、自分の部屋へと引っ込んだ。]
[さすがに昨夜のやり取りは気まずいものがあったのか。
日が変わり、朝食を済ませるとすぐ、散歩してくる、と家を出ていた。
祭の準備で慌しい合間を縫い、ふらり、歩いて行く]
……さすがに、力はいってるねぇ……。
[軒先に掛けられた飾り紐が風に揺れるのを眺めつつ、ぽつり、呟いた]
[丘の上の木の下。その根元に座り込みペンを滑らせる]
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若葉が茂る季節。村では数年に一度行われる祭りの準備に大忙しだった。
祭りと言っても、その内容は魂鎮めの儀式であって、とても厳かに執り行われる。村ではその祭りを取り仕切る家があり、代々祭りの中心となり儀式を進めて来た。
今年は宮司の代替わりがあり、取り仕切る宮司は初めて中心に立つこととなるため、祭りの準備はいつもより慎重をきして行われていた。
そんな慌しい村に、普段ではあまり無い外からの訪問者が何名か現れる。
探偵を名乗る男、主より暇を貰い羽を伸ばしに来た女中、古民家を見て回っている建築家の見習い。他にも祖母の家に遊びに来た少女や、誰かと待ち合わせをしているらしい青年も居た。
外部からの訪問者は滅多に現れない閉鎖的な村。このように何人も現れたのは祭りのためかと思われた。その割には人数が多いとも言えるのだが。
そして、村から出て行った者も数名、祭りに合わせ帰郷した。呼び出された者や目的あって戻って来た者など、理由は様々だった。
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……こっちに、変えよう、かな。
折角だし、ね。
[それは今書いている小説の出だしの文節。今回の祭りで集落にやって来た外部からの者、彼らも作品に登場させることにしたようだ。尤も、細かい描写は書かれることは無いかもしれないが]
[翌日。]
よし、ッと。
[今日は雑炊らしい。
自分の分だけ取り分けて、軽く食事を済ませた。]
んじゃ、行ってくるわ。
飯食う人いたら適当に出しといてなァ。
[奥の主人に声を掛け、旅籠を後にする。
カウンターの上に寝そべるコダマが欠伸で応えた。]
―宿屋の一室―
[朝の気配。ほのかで柔らかい朝日がカーテン越しに降り注ぎ
身じろぎを一つ二つ。寝ぼけ眼でぼんやり起き上がり、寝癖を軽く手ぐしで整え起き上がり、しばし身支度をしたなら、食事を取ろうと部屋を出る]
[孝博とすれ違ったなら、軽く挨拶の一つでもしただろう。
そして主人に食事を頼み。適当な席…につこうとして、カウンターに猫が寝そべっているのを見て、近くに座る
目を合わせないようにしながらもそっと撫でた…撫でた…撫でた…ちょっとご機嫌になった]
では…いただきます
[運ばれてきた料理…雑炊を食べ始める。その間主人は時間もあったのもあったのか。久しぶりにと会話をする。だがそれは近況を聞くだけでもなく]
いえ…まだ西行院家には顔を出していません。
綾野さんが宮司になるというのは聞きましたが…
[前者は当然として後者もこれまた微妙なものがある]
これからですか……どうしましょうかね…
[それは自分で決めること。という主人の言葉に頷いた
そして口うるさく言うわけでもなく忠告のようにいう主人に感謝をしながらも食事を終える]
さて……どうするか。
墓参りに行くにしても、手ぶらじゃなんだし、な……。
[道の分岐で立ち止まり、首を傾げて思案顔。
ぐるり、周囲を見回せば、目に入るのは、準備の進む桜の丘]
…………。
[ふと思い返すのは、昨日、桜の下で交わした言葉]
桜の……巫女と、魔、ねぇ。
[伝承については、一応一通り教えられている。
いずれ家を継ぐ者として、必要な知識だから、と]
別に、なんかおかしいとも、思えんのだが……。
ま、俺も事故ってから、色々と鈍ったっていうかなんていうかだし。
わからんでも無理、ないか……。
[出る前に蓮実が降りて来るのが見え、軽く手を上げて。]
・・・どっから行こッかねェ。
[矢張り無計画だったらしい。
祭りの準備の合間をふらふらと進む。
まるで余所者を見るような目の者も皆無ではなく、軽く肩を竦めた。]
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