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[蜂蜜香るミルクの乗る盆を手に、回廊をゆく。
雨の音で満ちた場所は、闇が心地よく重い。]
……?
[ふと、窓から中庭が見
え、立ち止まる。
人影があった。
壁よりに置かれた机に盆を乗せ、窓を開ける。]
[遠い影。よくは見えない。
縁にかけた手のうえで、滴が弾けた。]
[身を引いた方向とは別に、混沌の欠片はゆっくり流れていった。
それを見送り、視線を伏せる。レンズに付いた水滴が流れ落ちた]
……退けるのは無理なようですね。
結局は触れないのが一番ですか。
[張り付く邪魔な前髪をかきあげて踵を返す。シャワーと着替えが必要だった]
退けるのは無理、けれど呼び寄せるのは可能かな。
[それは青年の力を囮にしてではあるが、いざという時の為に記憶に刻んでおく]
─東殿・自室─
[落ちていた意識が浮上する。どのくらい休息を取れただろうか。時間を確認すべく窓の外に視線をやる]
……雨、か。
[窓の外では緩やかな雨模様。期待したものは得られそうにない。溜まりかけていた疲れが取れただけ良しとするべきか]
これも、属が崩れし影響じゃろうか。
[結界へと取り込まれた陽光の属を思う。均衡されていたバランスは崩れ、対たる属の者達も影響を受けているのだろうか。目の前には陽が陰りしために現れる闇が広がっていた]
―自室―
雨、か…
[幾重にも重ねられた毛布とタオルケットからようやく這い出して。
多少温もりは戻ったものの、いまだ灯るにはほど遠い。]
…煙草。
[ベッドサイドを手だけを伸ばして漁り、間食用の香煙草を掴む。
薄く開けた窓辺で、だらりと喫煙。]
[窓の向こうに見えたオティーリエの姿に、青年は微かに微笑む]
残念ながら混沌の欠片への影響は微々たるものでした。
触れては危険と皆が知っている以上、当てにしない方がいいかな。
[最終手段には使えるだろう事は心の奥に留め置き、剣に関して交わした言葉を思い起こす]
[雨の匂いに包まれていた青年にも淡く煙草の香りが届く。その薄く開いた窓を見、若焔の部屋かと辺りをつけた。
飛んできた月闇竜の叱責に軽く肩を竦めて微笑む]
峡谷では濡れるのが当たり前ですから。
此方とは違うのを少し忘れ、楽しんでしまいました。すみません。
[峡谷では虹の麓を離れると直に乾いてしまうのだが、今の濡れ鼠の姿では叱責は尤もと謝罪する]
そうですね。
アーベル殿がおそわれては、大変ですし。
[雨に隠れて見えない混沌の欠片をみるよう、目を細め。]
使えないなら使えないなりに、やり方を考えましょう
ダーヴィッド殿。
[声の方に、苦笑して。
それから向くは、雨に濡れた精神の竜。]
たしかに楽しめるものかもしれませんが、体をこわしては元も子もありませんよ。
早く入って下さい。
[促して。
すぐに顔を戻し、火炎の竜に声をかける。]
タオルを運んでいただいてもよろしいですか?
[クレメンスから応じるように返った大地の老竜が持つ腕輪の話。
オティーリエがかつて切れ切れに届けてきた天聖の気配の話。
睨むどころか決して目を合わせようとはしなかったギュンター。
青年が感じた事と重ね合わせれば、見えてくるものは多い]
大地殿は『神斬剣』を、天聖殿は『聖魔剣』をお持ちと見ていいでしょう。
分かたれたとは言え、どちらもとても強き剣。
片方を引き離して奪いにかからねば事を成すのは難しいでしょう。
[オティーリエに同意しクレメンスが成した偽りの芝居に耳を傾ける]
……わかりました。
若焔に一致団結されるより疑いの芽が一つでもある方が有難い。
[ありがとうとは口にせず、代わりに感謝の心だけを伝えた]
[老君へと言うオティーリエには影から青年も行くと宣言しする]
『神斬剣』は精神の属性を持ちます。
心守る為に私の力が必要かもしれませんから。
[翠樹の仔竜の安全と、彼女が老君に付いた場合の危惧も兼ねて囁く。一番の理由はオティーリエだけに荒事の負担をかけたくなかった為だが]
[そして刻まれた記憶は移ろい、現在へと戻る]
襲われても逃げるから。
[後の事を考えなければ逃げるのは容易いと告げ、後半には頷く]
― 東殿・テラス ―
[ 天より落つる滴は地を濡らしてゆく。
弱く弱く、そっと周囲に広がる。
恵みの雨か、災いの源か、其は未だわからねど。
触れるか否かの位置に佇み、闇に親い左の瞳は唯、その情景を映す ]
―東殿―
[顔を出した若焔の声に小さく声を立てて笑い、月闇竜に頷く]
えぇ、そうですね。
そこまでやわでは…雨に弱くは無いつもりですが。
[火炎を司る若焔に失礼にならぬよう言い直して、素直に従って東殿へと入る。そしてバスタオルを持った若焔に目を合わさぬ会釈を向けた]
[ 声は雨音に紛れ、甘い香りは土の匂いに隠れる。
薄布に隔てられたように、周囲の出来事は遠い。
ショールを掻き寄せて腕を組み、右足に体重を傾け壁に身を預けていた。
寒さは感じねど、気怠けさが漂う。雨特有のものか、対の一が欠けし故かは判ぜられぬ。]
[くすくすと軽く笑うのは、隠された言葉を解したためか。]
油断をすると、丈夫でも風邪をひきますよ。
[玄関にはいりゆく姿を見送り、出迎えようとしたけれど。]
……ノーラ殿?
[近しくなった影の名を呼んだ。]
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