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[残骸を見詰める複雑そうな顔付きを、エルザには見られただろうか。
だが彼はふっと息を漏らして]
いえ、笑うだなんて、そんな。
…。
[しかし言葉は続かない。
残骸を見詰めたままだ。]
[くらり]
[ぞっとするような目眩。クレメンスの顔に見覚えがあると思った。それはアーベルの記憶なのだと思った]
[…違う]
[箱庭遊びの童謡を教えて、あたしに歌わせた。あれも確か、神父ではなかったか]
[その顔には、モノクルが…!?]
[5年前。アーベルの行方が分からなくなる事が一度だけあった。
仕事の完了を聞かぬまま行方をくらましたアーベルを、「協会」は必死で追う。
アーベルの隠れ場所として目星をつけた教会があったのだが、その教会のシスターに何度も「協会」の連中は追い払われた。
その後何があったのか、詳しくは知らない。
だが、「協会」に近づきすぎたというある教会を焼いて戻ってきたアーベルは、行方をくらます以前よりもずっと、闇に溶け込んで慎重にかつ狡猾になった。
その時彼は、アーベルの変化を素直に喜んでいた。
彼がアーベルの隠れた教会を見つけた、張本人だったから。
けじめをつけられるようになったのだな、と。]
[しかし、今の言葉。
アーベルはその教会を焼いた事を、悔やんでいたのだ。
…私が、教会を見つけなければ。
アーベルを、狂わせる事は無かったのか?]
[でも。
彼が死して、安堵を得たのなら。
笑うことが出来たのなら。
…決して、自分を正当化できる訳ではないが。
それで、良かった。のだろうか…]
…………。
ありがとう、ございました、エルザ…
[まだ悲しく残骸を見詰め]
[何も言わずにエルザやシスター、イレーネが話すのを聞いていた]
[けれど「死」という言葉には反応して]
[剣に軽く手を掛けてエルザの近くへと寄った]
[彼女を守れる位置に]
[カチャリという微かな音が鳴った]
[ナターリエの微笑みには、何も答えられず無表情なまま。
まだ...は、アーベルのあたまとしゃがんで対峙している姿勢。
その姿勢のまま、オトフリートの方を見上げた]
・・・・・・悲しそう。
[呟く。あぁまた、嫌な気持ち]
[ナターリエをじっと見つめて、反感を隠しきれずに]
平等、ね。あなたの言う平等では、結局、強い者しか生き残れないわ。
[イレーネを振り返り]
ハンスが閉じこもってるからって、疑ってはいけないわ。涸れに危害を加えようと言うなら、やめて。エーリッヒだって…。
[エルザのそばによったミハエルに、微笑を向ける。
その彼女に向かって感謝の言葉を述べているオトフリート。
ああ、彼はアーベルと親しかった。
心配そうな眼差しを向ける。]
[エルザに向かって首を左右に振る]
あたしハンスは、あんまり疑ってない。
だってあの人、すごく、怯えてたもの・・・。
クレメンスにも、そう、言ったわ。
[エーリッヒの名前が出て、眉を顰め。エルザは、あの人も「視た」のだろうか]
[ああ、と唇を噛む。自分が『視た』ものを逆に言えば、きっとミハエルの心は楽になる。
けれど、いいのか。
エーリッヒがただ怯えていただけだということを隠したままで、あたしはいいのか]
ハンスを疑っては、ダメ…。だって…
[声が、震える。あたしに、言えるのか?]
[...はシスターに微笑を返す。
けれどその笑みには温度が無い]
自ら命を絶ってはいけないから。
神様の代わりにその安息を齎そうと言うのですか?
[静かに静かに問いかける。
真っ直ぐにシスターを見詰め返して]
[部屋のドアのほうからも人の気配がしたからだろうか?
こちらをちらりと見、また引っ込んだ怯えた男の目。]
…こわい、の?
[見上げて、少女は微笑む。]
だいじょうぶだよ。
神はすべてのものに、平等に試練を与え、平等に安息を与えているのです。
あなたが何を考えているのかわたくしにはわかりません。
神を信じないのはあなたのご自由ですが、わたくしの神をあなたが貶めることをわたくしには許せません。
[それはその宗教を信じるものとして。]
個々によって試練の内容は違います。
あなたがそのような枠にとらわれている限り、あなたに安息は訪れますまい。
[エルザに躊躇わず、そう言った。
自らの信じるものを否定し、その価値観を押し付けようとする彼女に、...は憤りを隠せなかった。]
[ひらりとスカートの裾を翻し、建物の中へと入ると、
ぱたぱたと階段を駆け上がる。
彼の部屋のバリケードに出来た隙間は、小さな少女がくぐるには十分で。
するり、簡単に中へと入る。]
ミハエルさん。
あなたは賢いと思いましたのに、どうして…
わたくしはそのようなことを一言も申しておりませんよ。
[困ったように微笑んで。]
人の命を無為に奪う所業は、自らの命を断つものとおなじ罪。
生きるために既に罪を重ねているわたくしたちに、何ゆえ人が、ただ殺せましょうか。
安息なんて、欲しく、ない。
クレメンスを止めなくちゃ。ベアトリーチェを止めなくちゃ。
[繰り返しては、いけない。失われてしまった、エーリッヒの心臓の音]
やめて。ハンスは違う。きっと違う。
だって…エーリッヒは、人間だったわ!
ただ、怯えて、元の生活に帰りたいってそれだけを願っていたのよ!
[独り言のようにそう、呟くと。
彼はゆるく首を振った。
どういう過程であれアーベルが安堵を得たのなら、
私がそれで苦しんでいてはいけない、と。
そしてこちらを見る二人の目に気付けば、微笑んだ。]
私は、大丈夫です。
ご心配お掛けしたのなら、すみません。
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