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……?
[―――と。
歩みの先から怒号の声。
同時に派手な打撃音。
レナーテが音の正体を探るべく足を速めると、何のことは無い。
男が二人対峙して、罵声を浴びせあって、顔に青あざを作ってる最中だった]
お。
ケンカかい。
活気があっていいね。
[ぴゅう♪と口笛を吹くと近くで開いている店の親父さんから串に刺さった味噌田楽を一本買い、それをほおばりながら、のんびりと見物]
―大通り―
…やれやれ。
ぼくもそれ程裕福じゃないんだがね。
[その割に壺を買った件はさておいて。
露店から離れ孤児院へと向かう最中、息を吐いた]
さて、誰だろうな。
ヨハンか、トニーか…
[孤児院の子供の仕業かと見当をつけた故の支払い。
大人がわざわざ盗むものとも思えないし、親がいるなら親にねだれば良い話だからだ。
所謂問題児の名前を指折り挙げて考えるも、まさか『元』孤児院出身が犯人だとは思い至らないようだが]
えー……強制ってなんですか、強制ってー。
[ぶつぶつと文句は言うものの、逆らう様子はなく。
その後の練習にも、真面目に参加していた。
奔放な風を思わせるハーモニカの演奏の時とは異なり。
銀のフルートから零れる音色は水の流れを思わせる。
音色は連なり、多種のそれが絡んで旋律となる。
音の創り出す一体感は、不意の報せに破られて]
……何だ、それ?
なんか、不都合でもあったん?
[疑問の呟きは、周囲のざわめきに飲まれ。
ともあれ、この件については協議の上で、という団長の言葉により、ひとまず場は静まった]
─広場隅・ベンチ─
[観察していた者達は散って行き]
[己を避けて戻ろうとする行商人にはニヤニヤと笑みを浮かべて視線を向ける]
[これ以上面白そうなことがないと判ずると]
[組んで居た脚を戻して徐に立ち上がった]
…別の騒ぎが起きそうだな。
巻き込まれる前に退散だ。
[露店の一角で上がった声に状況を察し]
[近付かぬようにしながら移動を始めた]
[そうして、アーベルが連行されカヤが走り去っていくと、別所で上がった怒声もあってか辺りにいた人は散っていく
ふぅ、とひとつ溜息をつくと]
……じゃあ私たちも一度部屋に帰ろうか
「ダナー」
[そう言って部屋に帰っていった。──ここまでが昼の出来事]
[周りで人垣が出来て、思い思いにレナーテと同じく楽しいことが起きたとばかりにはやし立てる。
そんな中当人達は]
『ちっくしょー!お前の母ちゃんでーべーそー!』
『なんだとー!?お前こそでーべーそー!』
『て、てめえ!親の悪口はいいが、俺の悪口を言うな!』
[……なんだか、非常に低レベルな口げんかを繰り広げている]
あっはっは。
先に言ったほうが言い負かされてるんじゃねーぞー!
[三本目の味噌田楽をほおばりながら、適当に野次を飛ばしておいた]
― 孤児院 ―
[りんごの差し入れを届け、院長と子供達に久しぶりの時間を過ごす。苛々した気分も晴れた所]
あ、いっけなーい。もう戻らなくちゃ。
……ほら、そんな顔しない。お祭りが終わるまではいると思う。また来るからー。
[小さな子供たちの頭を撫で、元気いっぱい]
師匠、心配してるかも。急げー
[孤児院を出ると、とたんに駆け足。人と人の間をすり抜けながら、風のように広場へと戻っていく]
[再び起こる怒声。
瞬き、途中で道を逸れそちらに向かう]
ああ、喧嘩か。
専門外だな。
[しかし音の正体を知ると、あっさりそう結論付けた。
野次馬の横を通り抜けて行こうとし]
おや。
[少し前広場(の噴水内)で見かけた女性の姿を眼に止めた]
─大通り─
[相変わらず手巻きタバコを咥え、両手をジーンズのポケットに突っ込み]
[ゆったりとした歩みで通りを歩く]
……こっちでも騒ぎか。
[前方に見えた人だかりにそんな呟きが漏れる]
[喧嘩のようだが、周囲の野次の方が賑やかだ]
[少し足を止めて喧噪を耳に入れる]
……アホらし。
[聞こえて来たのは低レベルな口喧嘩だった]
[とはいえ、ざわめいた状態での練習は長くは続かず、早めに打ち切られ]
んじゃ、居残りしてくから。
あー、夕飯は何とかするよ。
遅くなるようなら、そのまま世話になってくるからさ。
[解散の後、姉にこう告げた。
こう言って帰宅した試しはほぼ皆無のため、いい顔はされないだろうが。
何か言われる前に、最初に飛び出してきた三階の練習室へと逃亡する]
あー、もー、にしても。
……本番、かぁ……。
[人気のない練習室に駆け込み、零れた呟き。
長く伸ばした前髪の陰の表情は、薄暗さもあって窺い知れず。
しばしの沈黙を経て、ふる、と首を振った後、譜面台に向き合いフルートを構える。
紡がれる音色は、やはり、水の流れの如く静かなもの]
[音色紡ぐ事数刻、さすがに疲れを感じた所で居残り分は切り上げる。
片付けの後、残っていた楽団長に挨拶をして、外へ]
……ん。
[外に出るとすぐ、待っていたらしい隼が肩へと舞い降りてきた]
さぁて、と。
メシ食いにいくか。
[翼ある友を軽く撫ぜた後、大通りへと向かって歩き出す]
[―――低レベルな口げんかだった。
低レベルな殴り合いだった。
だが、周りを人で囲まれ、ヒートアップしてくる当人達はそれだけでは終わらなかった]
『―――てめえ……!!』
『ああ!?やるのか、コラ!!』
[何処に隠して持っていたのか、ケンカしている二人が同時に懐からナイフを取り出し、相手めがけて切りつける]
『―――ヒッ!?』
[野次馬から、息を呑む声が聞こえてきた]
[―――しかし、その行為は途中で止められた]
……おいおい。
ケンカで刃を抜くのは、感心しねえなあ。
[いつの間にかレナーテが二人の間に立って、二人のナイフを同時に受け止めていた]
[立ち去ろうとして聞こえて来る、野次馬からの息を飲む声]
……抜いたか。
[何が起きたかは察しがついた]
[再び隻眸は人垣へと向き、その合間から喧嘩の当人達を見やる]
[血を見るかとも思ったが、それがなされることは無かった]
…ほぅ。
腕が立つのが居たか。
……ん、ああ。
あの時噴水に飛び込んでた。
[甲冑は着て居なかったが見覚えはある]
[右手をポケットから出し、咥えていた手巻きタバコを摘んで]
[口の端から紫煙を吐き出した]
─大通り─
に、しても、何なんだろなあ……。
[通りを歩きつつ、呟くのは先ほどの報せの事。
一体何が起きたのか、その辺りははっきりとは聞けなかったら、少しだけ気にかかり]
ま、それより何より、俺の方が問題、か……はぁ。
[先ほどの決定事項に、やや大袈裟なため息をつく。
騒ぎが耳に入ったのは、それと前後する頃]
あれ、なになになに?
[気持ちを切り換えるためか、それともいつも発揮する子供っぽい好奇心故か。
歩みは自然、人の集まる騒ぎの場へと]
[近くにいるらしき友人の姿には未だ気付かない。
不意に、女性が騒ぎの中心に向け動くのが見え]
…おお。
[見事な所作に感嘆を洩らした。
すっかり周りの野次馬と同化している]
何かしら、あれ。
[露店に戻る途中、人だかりが目に止まる。中心からはいくつかの怒号]
[駆ける足を止めて、騒ぎの中心へと視線を投げつつ]
ねね、何か面白い出し物?
[近くにいた、野次馬らしき男性に話しかける]
……って、うわ。
[人垣の向こう、見えたのは先ほど噴水で話した剣士]
へぇ……すっげ……。
[瞬き一つ、上がるのは、純粋な感嘆の声]
『ああ!?なんだてめえ!』
『人のケンカに手出してんじゃねえぞ!』
[こんな時だけ息がピッタリな二人に、レナーテが笑いかけると]
……そりゃ、アタイに言ってんのかい?
よーし。このケンカ……買った!
[笑みを浮かべたまま、レナーテは二人を瞬く間に殴り飛ばし、人傷沙汰にもなりそうなケンカを強引に止めた]
『お、覚えてろこのデカ女〜!!』
『次会った時は、容赦しねえからな、この巨娘!!』
[殴られた衝撃で吹き飛んだ二人が、同時に言葉を発し、全く正反対の方向へと走って消えていった]
かっかっか。
いつでも来なさい。
[最後に快活に笑うと、周りの野次馬からは拍手喝采が巻き起こった]
『姉ちゃん、いいぞ〜!』
『かっこいいじゃねえか〜!』
『うちの息子の嫁になってくれ〜!』
『いや、むしろわしの嫁になってくれ〜!』
[周りの野次馬の賞賛の声に、レナーテは照れたように手を挙げ]
や、どもども。
サンキューサンキュー。
嫁に関してはノーサンキュー。
[とか言いながら、野次馬の中に戻りつつ、6本目の味噌田楽をかぶりついた。
ちなみにそれは、店の親父さんが、ありがとよ、とか言いながら、無料でくれた]
[事も済んだしと再び立ち去ろうとして]
……ライヒ、何してんだお前。
[見つけた友人の姿に声をかける]
[専門外の騒ぎの野次馬と化している様子に小さな嘆息]
[それを隠すかのように離した手巻きタバコを口元へと戻した]
……おねーさん、中々やるねぇ。
[野次馬の中に戻って来たレナーテに、感心を交えた声で呼びかける。
隼も、同意するように一つ、羽ばたいた。
ちなみに嫁云々の歓声に関しては、それって苦労しそうじゃね? なんて失礼な思考もちょっと巡っていたりする]
え、…ああ、なんだ。
[声の方向を見遣り、友人の姿を眼にする。
同時に自分の姿を顧みたか、やや気まずそうな笑みを見せた]
いやあ、自警団を呼ぶつもりだったんだけどね。
あまりに見事な仲裁だったものだから。
[一度部屋に戻ったあと、カリカリと劇の脚本を書いていたが、ふぅと息をつき目元を解すと外を見やり]
……ん、もうこんな時間か
…………ご飯食べないと
[そう呟くと、外套を纏い、肩にアーニャを乗せて部屋をあとにした]
─部屋→大通り─
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