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[もちろん彼女では彼を運んだりはできるはずもなく。
困って顔を上げたらハーヴェイと目が合った]
……よろしくおねがいします。
[頼んでしまっていいのだろうかとは思いつつも。
でもきっとそれが一番いいとも思った]
うん、おやすみなさい。
[イレーネたちの会話を耳に入れながら。
静かに階段を上って部屋へと戻って*いった*]
[無言でハインリヒに少し首を傾げた。]
…そう。
なら、北の遺跡、入って東側に警備団の詰め所が。
私は、そこで会った。
[淡々と言い、また目をコーヒーに落とした。]
「……ああ。
彼に大した力はないようだから、
早々に悟られる事はないと思いますが……。」
[微妙に酷い扱いかもしれない。でも、きっと真実]
「……解りました、ありがとう。」
[それから、声は一旦*途切れる*]
[殆どの人がいなくなった店内で、そっと目を瞑る。
少し、背中がかゆくなった。
ふと窓の外を見ると、一瞬強い風が吹いて桜の花びらがまるで雪のように舞っていた。
思わずそっと手を伸ばして窓ガラスにつき、その演舞を眺めていた。
ひらり、くるり、ふわり。
そこに生命は感じないが、心地悪いものではなかった。]
…寝る。
[カタンと音を立てて立ち上がると、階段を上がって自室に入り、相変わらず鍵もかけずにベッドに*倒れこんだ*]
−鍵の書が消えた夜・街の通り−
[アマンダは、ミハエルの後に付いて歩く。
その足取りがゆっくりなのは、疲れているせいか、いつも通りか]
ん、そうだね。ゴメン。
ほら、千花も。急に飛ぶから、ね?
「チ…チチッ」
[アマンダは、千花の鳴き声が微妙に不満げなのも気にしない。
ついでに、開いていくその距離にも]
参ったなぁ…。
[燃え尽きた薬煙草を焼き消して、小さく嘆息。
封印の確認の方法と、万が一破られた時の再封の方法は教わったし、
その為の道具も持たされてはいるわけだが…。
実際、奪われたのははじめてだし、よりによって最大級のをやられるとは。]
…ま、なんとかせにゃ…。
[うだうだ考えてもしょうがない…と、
窓を閉めて、*寝台に横になる。*]
−翌日/中央部・教会−
[きらめくお日さまの光を浴びながら、ベアトリーチェはいつものようにお祈りをすませると、顔をあげました。昨日の『鍵の書』のことと、エーリヒから聞いた話を思い出しながら、ひとりごとのように云います。
そのそばにはもしかすると、あの黒猫が居たのかもしれませんが、気が附くことはありませんでした。]
ほんとうの世界は、どんなふうなのだろう。
神さまはどうして世界をお創りになったのだろう。
[誰かが聞いていたのかもしれませんが、応える声はありませんでした。]
[問いかけられた言葉に、目を丸くする。
けれど直に「私に依る」と言っていたのはそういう意味かと納得し]
そう…ブリジが。あの子なら…仕方ないか。
「ジッ! アンアンッ」
[夜空を仰いで、どう言ったものかと悩むと、千花が鋭く抗議の声を上げた。小動物呼ばわりが気に入らなかったらしい。
アマンダは宥めるように首輪を白い指先で撫でながら、言葉を選ぶ]
この子は、千花(ミルフィオリ)、小動物じゃ、ないよ?
千花は、私の…大切な存在(もの)。大切な相方。
分かたれてしまった、私の…
[「…欠片」という言の葉は、開いた距離と夜風にかき消される。
それとも。
未だ冷たい夜風は彼の味方で、その耳へと届けただろうか?]
[ベアトリーチェは立ち上がりますと、くるりと方向を変えて、教会の外に出ます。そのまま広場を抜けて、東の通りを進んでゆきました。
たくさんの家、とりどりの屋根が立ち並ぶ道は、他と比べるとずっとしずかです。時おりすれ違うひとも、見知った顔ばかりでした。その裏手のあたりには、豊かな緑の森が広がっています。踏み入って大きく息を吸い込むと、すきとおった空気にからだぜんたいが満たされてゆく気がしました。]
[アマンダは、振り返ったミハエルの表情に気付かない。
ただ、いつの間にかかなり開いた距離に、その場に立ったまま待っている彼へと、ゆっくり近づいていく]
お待たせ? …行こうか。
[追いついても足は止めず、そのままゆっくりと行き過ぎる。
すぐに、隣へと追いつく気配に小さく笑う。
さほど距離を残さぬ家へと着くまで、それ以上*言葉が交わされることはなかった*]
−北東部・墓地−
[冷いいろの石の立ち並ぶその場所は、しぃんとしずまり返っておりました。人の声ひとつなくて、聞えるのは風に揺れる木の葉の音と鳥の囀りばかりです。彫られているのは、没くなった人の名前や時間、それからその人へと捧げる言葉。]
どんな世界だったのだろうか。
[ここに睡っているのは、この世界から去っていった人たちです。だからベアトリーチェは、訊ねてみました。けれども、応える声はありません。いいえ、あったのかもしれませんが、この世界に居るベアトリーチェには聞えません。]
−翌朝→西の桜の大樹−
[ミハエルと別れ、ベットで千花と共にしばらく横になる。
しかし、夜が明けるや否や、アマンダは工房を後にした。
いつもなら落ち着く遺跡は、鍵を失った不安定さで近寄りがたく、最も大地の力が強い場所へと、惹かれるままに歩いていく]
[やがて辿り着いたのは、西の桜の大樹。
早朝で人影のないその根元へと座り、太い根元へと頭を預ける]
うん、ごめんね?
少しだけ…眠らせて…
[アマンダは桜の根を枕に、しばらくおやすみ。
春の訪れに我先にと開いた花の欠片が降り積もるのも気にせずに]
-翌朝 Kirschbaum-
[厨房からの良いにおいで目が覚めた。
あくびをしながら体を起こし、伸びをひとつ。
熱いシャワーでさっぱりすると、着替えを済ませて階下へ降りる。]
…おはよう。
[店主の挨拶に挨拶を返し、隅の席に座る。
いつものようにコーヒーを頼んで卵を食べる。]
…今朝は、誰もまだ?
[店主に問うと、一番の客だ、と教えてくれた。]
[天の運命によって。
少女もまた、睡る筈だった。
深い深い土の下に、世界を知らずに]
[――彼女はそれに、抗った]
[ 彼女は主君より離れた。
彼女は人の身に宿った。
彼女は少女を、生かした。]
[何一つとして、恥じる事も、悔いる事もない。
後戻りなどもう出来ないのだと、疾うに知っていた。
だから、もう、迷いも揺らぎも、赦されはしないのだ]
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