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大丈夫、エルザ。
私が貴女を守る。
たとえ、神の代理人からでも。
[...は再びシスターを見つめ]
ならば。
何故神父様はベアトリーチェと約束したのですか。
殺して、解放すると。
無為でなければ良いと、そういうこと?
[どこか無邪気に。
けれど何処までも冷ややかに]
[寒い]
[『時』が近づいている。また、死がこの箱庭を包み込む]
ダメよ。繰り返さないで。
[不安に駆られて振り向いた時、ハンスの部屋の窓が割られているのに気づく]
…だめ…。
[壊れた窓から差し込む月明かり。
その中に浮かび上がる、人形のような少女のシルエット。
手の中で鈍く光るは、重い鉄の刃。]
オトフリートさん…
あなたと話しているアーベルさんは、気を許していらっしゃるようにわたくしには見えました。
きっと彼も、安息の中に。
安らいで、いることでしょう…
[男は情けない悲鳴をあげただろうか?
腰が抜けたように這いずって必死に逃げようとしただろうか?]
だいじょうぶだよ。
ちょっとがまんすれば、すぐにおわるから。
もう、いやなこと…ぜんぶ、なくなるよ。
[ひゅうと風を切って振るわれる手斧。
重みに振り回されるように、少女はくるり。]
[エルザの焦る様子に、目を軽く見開き]
エルザ、人がまた、死ぬの?分かるの?
[箱庭が血を欲する刻限、と、彼女は以前言っていた。
怖い。怖い。まさか。まさかクレメンスが。
まだアトリーチェが刃物を持っている姿すら、実際見たことはない]
クレメンス・・・
[声は震え]
[男が逃げて、手元が狂い、手斧が当たった棚の本が裂かれて散らばって。
怯えた目で彼はこちらを見ただろうか?
その目に返すはお日様の笑み。]
[エーリッヒ。
不意にその言葉が耳に入る。
ああ、彼は。
本を愛する青年、だった。
彼はエーリッヒが、恐怖のあまり自己完結して狂った事を知らない。]
…それなら何故、彼、エーリッヒは死んだのですか…?
[エルザの言葉に]
オトフリート。
[名前を呼んで、立ち上がる。
オトフリートの傍に駆け寄り、ほぼ同時に袖をちょんと引っ張った]
・・・・・・。
[眉を顰めて]
生きるために殺す。
それはわたくしたちの罪であり、わたくしたちが人である以上、犯さなければならない罪です。
神が望むのならば、わたくしたちは殺さなければ。
生きたければ、殺さなければ。
――おかしなことでしょうか?
[何よりも神を愛し神を信じる、そして育ての親であり兄であり家族である神父のことを信じる...にとって、そのようなこともあるはずはなく。]
あなたがたも、生きるために殺しているではないですか。
[あとずさり逃げようとする男の肩が触れたのは、ガラスの破れた大きな窓。
窓の向こうには満ち行く月と、月に照らされた花園と森と。]
…やめて。やめさせて。
[屋敷へ戻ろうとするも、激しい頭痛。まるで、迫る死を止めさせまいとするかのような]
お願い、待って…。
[ふらふらとそれでも戻ろうと歩いていく]
[オトフリートの声が聞こえれば...は僅かに目を伏せる]
私が殺しました。
彼はエルザを殺そうとしたから。
[そしてシスターに振り返る]
神が望むから?
[月の少女がハンスの部屋に入ってきた。
鉄の刃をその手に持って。
ハンスは怯えているけれど、
逃れる事は許されない。
それは何故だか分かるかい?
立ち向かう事こそが、
神の試練に勝つ事こそが、
勝利するという事だから。
安息はそれまで訪れない。
契約の神は、逃げる事を許さない。
さあ、神は眺めている。
さあ、駒達よどうするか。]
[不意に袖を引っ張られ、一瞬身体が反応する。
彼の羽織る厚い外套に覆われて、それは殆ど分からなかっただろうが]
…?
[イレーネが近くで眉を顰めれば、此方は軽く首を傾げ]
yes,
これは神の試練なのでしょう?
ならば神の望みどおりにわたくしはなるのです。
神の御許にありますために。
[ミハエルの言葉に、そう告げて、...は微笑む。]
神の御許にあることこそがわたくしの、しあわせです。
そう、神様が望むんだ。
命を断つことを禁じた神様が。
この箱庭を用意して。
……それは矛盾を孕んでいる。
盲目的に従うことなんかできない。
[そこまで言うと、ふらつくエルザを支えて]
駄目だよエルザ。今は動かない方がいい。
[振り下ろされる鉄の刃には、軽いとはいえ、少女の体重が十分乗っていた。
肩から大きく胸へと、その刃は男を切り裂いて。
そのまま、折り重なるように地面へと沈む。]
[オトフリートの僅かな反応は、いきなりの事に驚いたからだろうと、あまり気にせず]
ええと・・・久しぶり。
[昨日も一言くらいは交わしたが。
オトフリートと向き合って話をするのは、そういえば久しぶり。
きちんと向き合って話すのは、...がここに来た最初の夜。
ニョッキを好きですかと訊かれた夜以来]
・・・オトフリートは強い?
[ひそやかに訊く。少し焦っている]
[ひゅーっと音が聞こえるよ。
煌く硝子、残骸綺羅綺羅。
神父は、彼ら落ちてく窓辺に近づき、
下を見つめようとしてみたよ。
夜気の中に綺麗な綺麗な薔薇が咲く。
赤い赤い薔薇の花。幾つも幾つも咲いては落ちた。
少女を彩り、地面に落ちた。]
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