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― 穂見町東端・烏頭羅山 ―
……あー。
うっせ。日本語で話しやがれ。
[ そうはぼやきつつも、“それ”が実際には、
人間の言う言語で括れるものでないとは理解している。
フードは下ろされて、露になった両の眼。
木々の合間を通る風が髪をさらっていく。
重なる枝の影の下では、金はその輝きを失くしていた ]
ったく。
何もしなきゃ、何もなかっただろうに。
[ 高い樹上に腰を下ろして、片足を立て頬杖を突く。
いかにも物憂げに、溜息を吐きだしてみせた ]
[ 虚空へと、手を伸ばす。
瞬間、風が起こり、大きく枝が撓んだ。
ノイズにも似た耳障りな音を立てて、無数の緑が舞う。
彼の身体は宙に放り出され――或いは自ら飛んだのか、
定かではないが、その中に飲まれる。
何も、見えない。
そして小さな嵐が収まった後には、
何事もなかったの如く、地に在った。
その瞳の色だけを、揺蕩う闇の色に変えて ]
さって――…と。
まずは、 どうしますかね。
[ 呟く様は、先程までと何ら変わりはない。
山を下ろうと無造作に歩を進めながら、
取り出したカメラのレンズ越しに景色を見る。
剣道を止めてから始めて、すっかり趣味になった行為。
なのに、撮るときの彼は、少しも楽しそうではない ]
面白くしないと、ねえ。
[ フィルタを通した世界は、*何とも詰まらなかった* ]
…神宮司さんの?
[からん、と氷が音を立てて崩れる。
サッキーって、ミッくんって誰。とは一瞬思わなくも無かったが、
聞き取り調査の結果、無事生徒会会計の彼女と、
生徒会長の従弟殿を示す渾名と判明した。大変解りにくかった。
…まぁ実際、委員の関係上急遽連絡をとる事もあったし、会計を勤める彼女のものは知ってはいるけれど。
――問題はそれよりも。]
(…さぁて、どうしようか)
[直接知らなくても、意識裏で聞けば自宅ぐらいは判るだろうが。
しかし今、四瑞に――特に彼に意識を向けるのは自分的にも得策じゃない。
遅かれ早かれ接触はするだろうが、…不要な情報を与えるべきか否か。]
…まぁ、神宮司さんの連絡先なら知ってるから、教えましょう。
鳳くん?の方は、…従姉の方の連絡先なら判りますから、あとで聞いておきますね。
[事実に相違は無い。ひとまずははぐらかす事に決めた。
それじゃ携帯取って来ますね、と席を立って、
はた、と思い出した様に振り向いた。
からりと、氷が溶ける。]
――あぁそういえば、璃佳。
貴女は“何か”見たりしてません?
[笑みのまま問う言葉は、あまりに唐突なもの。
直接過ぎる問いだが、気にしない。これが一番判りやすい。
…尤も、質問の意味を聞かれても、*はぐらかすばかりだが*。]
―宝条家―
[ぴーんぽーん]
あ、おったおった。タマキちゃん、ただいまー。
[炎天下でばててたのが、イトコの顔を見るや笑顔になる。
当然のように上がりこみ、冷たい物をねだって後ろを付いていく]
うん、もちいる!
[アイスティーの勧めに頷き、自分用に注がれた分を一息で干した。
二杯目を次いでもらってから、冷房の効いたリビングのソファーをクッション付きで陣取る。
天国ーとご満悦でアイス食べつつ尋問…やのうて質問タイム開始]
[(タマキの)苦労の末、話は大体通じて。
空の皿にスプーンを置き、なにやら思考しているイトコを見守る。
住所録ドコだっけとか考えてるんやろと、裏の顔に気付きもしない]
わ、やっぱりタマキちゃん頼りになるー! よろしゅうな!
しっかしミックんて、んな名前やったっけ?
いっちゃん最初に聞いたきりやから忘れてたわ。
[めんどくさがりの共犯者は、あだ名を諦めるのも早かった。
そんなコトを思い出しながら、申し出に感謝して。よもや従姉=生徒会長とは知るよしもない。携帯を取りに行く姿を手を振って見送り]
えええぇっと、“何か”ってナニかなー?
[タマキの笑みを直視できず、眼鏡の陰で視線がめっちゃ放浪。
小さな頃から、大好きなイトコのお兄さんへの隠し事は下手でした]
いや、あんな。
ちーっと暑すぎて幻覚見たんやも知れへんねん。
やから話半分でええんやないかなーって思うんやけど、
こーんなちっこいサイズのトカゲに髭生えたみたいなん、見えてん。
[まあ、大して時間かからず下呂った訳です]
なんや飴食べよ思って包み剥いたらおってな。
色同じやし、暑いし、見間違いかなー思うてそんまま食べてもうたんやけど……。
あ、味はマンゴーのまんまやったで?
[沈黙はえらい痛く、氷が溶ける音が*よう響きました*]
[確かに絵心に秀でている訳でも無ければ、
仮にも空想上と呼ばれる生物に通じて居る訳でも無いが、
…しかし]
――トカゲに髭。
[……その表現は、微妙な気がするが。
いや、思い当たりが無くは、無い。]
……恐らく、間違ないですね。
璃佳が、“見て”ます。
[数時間前に交わされた会話を肯定するように、ぽつりと]
…。
……食べたの?
[…黄龍を? とまでは聞けないが。聞けやしないが。
うっかり口に出してしまいそうな位には衝撃的だった。
見たどころか、どうやら口にしているとは。
物理的なものでは無いのだし、流石に食中りなどは起こさない…と、思う。思いたいが。]
――…璃佳。
[たっぷりと時間を空けて、漸くの沈黙を破って出た言葉は、
浮かべたままの笑みも相俟って、さぞ痛かったに*違いない*]
…仮にもトカゲに見えたものを、口に入れるのは止めなさい。
[階段駆け下り、昇降口から外へ。
そのまま校外に出よう……としたら、後ろからどつかれた。
振り返った先には、目の笑っていないいいエガオ]
あー、ええと。
[逃げ損ねた。
そんな風に思ったのは一瞬。
まあ、逃げられるものではないのだが]
[それから、家に帰りつくまでの間の延々のお説教は。
もしかしたら、応龍には聞こえていたかも知れない。
接触を開いていたのなら、恐らくは霊亀にも]
─瑞雲神社─
[そんなこんなで、小言を聞かされながらも従姉と共に帰途につき。
石段の下で、別れる事となったわけだが]
「……ところで、光那」
……なんだよ?
「『五神』がは傷ついた場合や、『天魔』を捕えた時に、『隔離の陣』の中に置くのはよいのだけれど」
ああ。
「……建前上は、どうするつもり?
私たちの事情を説明して、世間一般が納得できるわけ、ないでしょう? 警察沙汰になる可能性は、理解していて?」
……あ。
[忘れてたようです]
[惚けた反応は予想通りだったのか、従姉は深く、ふかくため息をついた]
「そんな事だと思ったわ……手配をしておいて、正解ね」
手配?
「学校の方に、生徒会主催の特別合宿を行う、という申請を出してあります。
『隔離の陣』に送った人は、建前上は、それに参加している、という事にして通しましょう。
ある程度までなら、情報操作もできるし……」
あー……悪い。叔父貴にも、迷惑かける。
「そう思うんなら、お父様の期待に少しでも応えて差し上げてね?」
……それとこれとは、話が別だろーが……。
[こっくり。
そんな音が聞こえそうな仕草で頷いて。冷や汗流し固まる事しばし。
たっぷりの時間を空けて耳に届いた言葉は、大変痛うございました]
以後、気をつけますデス。ハイ。
[保身のあまり標準語もどきが出た。いやだって笑顔が!怖いよ!]
[思わずジト目になりながら言った言葉に、従姉はくすくすと楽しげに笑い。
一頻り笑ってから、真面目な面持ちになって]
「とにかく、今は休んで。
……念のため、翠麟をお目付けに置いておきますけど、ちゃんと回復をはかるように、ね」
……置いてかんでいいってのに……。
[文句は届きませんでした。いつの間にか現れた翠のちま麒麟は楽しげな足取りで石段を登り。
紅鴛もそれと一緒にぱたぱたと。
それらを見送ると、従姉はじゃあね、と言って帰って行く]
……ったく。
お節介が。
[ぶつぶつと文句を言いつつ、その背を見送って。
それから、気合を入れなおして、*石段を登って行った*]
えぇーと、したら連絡先よろしゅう?
うちはクラスの連絡網とってくるわ!
[とりあえず逃げ出したくて席を立つ。
ちょっと待てば携帯からの連絡先もらえるのに、二度手間だとかは頭から抜けていた。
かくして、寮から持ち出した連絡網とタマキちゃんの情報で皆に連絡しようと試みる。電話代は宝条家持ちで。
通じたり通じなかったり、そも自宅の連絡番号しか判らなかったり。それ以前に、涼しい時間って何時やねんとか、ちゃんと神社に集まるのかは*はなはだ怪しいですが*]
[マリーとの会話は楽しい。
正直に言えば、出会った当初はあまりの突拍子もなさにそれこそビックリ箱だと思ったくらいだ。それがいつの間にか楽しいものになり、気づいた時には隣にいつも存在するようになったのだから、人生というのは変わったものだと思う。
尤もだからと言って、このようなモノと知り合いになるとは微塵も思っていなかった]
……それじゃ、旅行の話はこのまま進めておく。壁が消えたら一緒に行こう。
[そう締めくくり、本当は用事はないのだが、用事があると嘘をついてマリーと別れた。別に一般人に見えるものではないと教えられているが、それでも万が一彼女を驚かすのは忍びないと思ってからだ。
彼女の背中が見えなくなるまで喫茶店の前で見送ってから、小さく息を付く]
……気にしなくてもいい。時間はあるのだし、電話でもするさ。
[と、そう唐突に言葉を口にして、彼が振り返ると、喫茶店と隣の建物の間に深遠というべき闇がたゆたっていた。そして闇には顔というべき部分が存在していた。
――まるでピエロと能面を足して2で割ったような丸い仮面。
仮面はくるくると回転しながら、どこか申し訳なさそうに彼を見つめていた]
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