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わーーーーーっ!!
[軽く小さな体は煙突から出た所で危ういバランスを崩されて、
ころころと屋根の上を転がり落ちた。
向かいの窓から見ていた太った女将が、目を手で覆う。]
[音は、想像よりずっと鈍かった。
「花祭」と書かれた大きな布が丁度下にピンと張られており、
煙突掃除人はそこに、無事着地した。
ぼよん、と一度弾んだ後、
今度こそどさっと音を立てて地面に落ちた。]
った〜〜――――っ
[大きな布は書かれたペンキを乾かすために張られていたようで
煙突掃除人は文字のまま真黄色のペンキがべったり。
ついでに、落ちた先が花を敷き詰めた大きな籠の中だったから、
まるで半身動く花人形。
たんこぶにまで花がくっ付いているのを見て、
周りの大人は驚いた顔から大爆笑の渦。]
っくそっ 誰だぁ!!
[顔に血を上らせて真赤にして、肩を怒らせた煙突掃除人は
べたべたになった侭、自分が落ちてきた屋根を見上げる。
駆け抜けた人物は知ってか知らずかもうおらず、
煙突掃除人の大きな声と野次馬たちの笑い声が、平和に響いた*]
6人目、人形師 ゲルダ がやってきました。
[薄暗い部屋。その中央に備え付けられたテーブルに置かれたランプのぼぅとした灯りのみが今この部屋を照らす唯一の光
その灯りの下、安楽椅子に腰掛け、この部屋の主であるゲルダは黙々と手を動かす
凄い集中力で絶え間なく手を動かしていたが、パチンという音とともに、ふぅと深く息を吐いて、椅子に凭れ掛かる]
…………よし、これで完成、と
[満足そうにそう呟いた彼女の手で掲げられているのは一体の人形
レースが緻密に縫い込まれた衣装を身に纏い、その表情は穏やかな笑みを浮かべている
よく見てみれば、ランプの光の届く範囲でも指の数を優に超えるほどの人形が鎮座し、そのどれもが優美な衣装で着飾っている]
なんとかお祭りには間に合ったわ
[解れが無いか等といった最終チェックを済ませ、ことりと人形を置くと、ピッとまるで指揮者が指揮棒を振るうように指を振る
────するとどうだろうか
床に、棚に、テーブルに鎮座していた人形たちが一斉に動き出す
メイド服を着た人形たちは忙しなく部屋の中を走り回り、燕尾服とドレスを着た人形たちは、手を取り合ってダンスを踊る
それはさながら、お城で開かれるパーティーのよう]
[その中心、指先のタクトを振るうゲルダの指に填められた指輪
そこからはランプの光を反射して時折キラキラと光る極々細い糸が無数に伸びている
それは人形たちに繋がり、彼らの手足を自在に操っている
これが彼女の生業──『人形幻樂団』]
[そうして人形を巧みに操っていたゲルダだが、最後にスッと手を翻すと、無数に伸びていた糸は消え、人形たちは元の場所で動きを止める]
ん、上々
これなら、お祭りでも御捻りに期待が出k(ぐ〜きゅるきゅるきゅる
……………そう言えば、ご飯食べてなかった
しかも、気にしたら一気に来た…………いたたたたた
[そう呟いて腹を押さえながらピッと指を振ると、テーブルの上に置かれた一回り大きい人形──彼女が「アーニャ」と呼び、とりわけ可愛がっているうちの一体である──がぴょんと彼女の肩に飛び乗る]
うー、ごはんごはん
[そう呟きながら、部屋を後にする
部屋に残された人形たちは、彼女が出て行った扉を硝子の瞳で見つめているので*あった*]
─広場近くの屋根の上─
[駆け抜けた後に起きた騒動やら何やらは知らぬ様子で、澄んだ音色を響かせる。
蒼の髪の上にふわり、風が運んだ花弁が一片舞い落ちた]
……んー、ほんと、いい天気にいい陽気。
この調子で、祭りの間中ずっと晴れてればいいんだけどなぁ。
[一頻り、音色を紡ぎ終えると銀を唇から離し。
空を見上げつつ、呑気な呟きを落とす]
― →広場付近―
[街の一角で起こった笑い声。
それを遠く耳にしながら、白い封筒を片手に目的地へと歩いて行く。
この時代、手紙を投函する以外の手段もあるのだろうが、彼にとっては習慣のようなものだった。
そうして広場に差し掛かる頃、その耳に音色が届く]
やあ。
また抜け出したのかい?
[屋根の上に寝そべる影を見て、彼は眼を細めた。
音が途切れるのを待ち、声を掛ける]
─広場─
[影を追い通路を歩く]
[至る所に作られた花壇、家々の窓辺に置かれた花咲くプランター]
[花祭の賑わいは街全体に及んでいる]
……んな場所よりも、街外れの方が性に合ってそうだなぁ。
[紫煙をくゆらせながらぽつりと呟く]
[隻眸の先に魔法仕掛けの噴水が見えて来て]
[花祭の舞台となる広場が目の前に広がった]
[隻眸は平和な風景をその瞳に映す]
……なんでぇ、特に何にも起きてねぇじゃねぇか。
日常茶飯事なのかね。
[屋根の上を走り回る人物が騒ぎを起こしているかと期待したのだが]
[特に何も無く時が流れていることに軽く舌打ちをした]
……っと。
[呼びかける声に、一つ、瞬き。
ひょい、と身を起こして下を覗き込む]
あ、やっほー。
ん、どうせ俺は祭りの演奏に加われないし。
なら、外でのんびりした方がいいじゃない?
[加われないのは、未だに『見習い』の三文字が取れない──取ろうとしないから、なのだが。
そんな事は気にした様子もなく、軽い口調で問いに答える]
『加われない』ね…
そう思うなら、きちんと稽古を積むことをお勧めするけどね。ぼくは。
[そうは言いながらも、長々と説教を垂れる気はなかった。
話の合間にも降って来る花弁に片手を伸ばし、掌で受け止める]
まあ、折角の花祭。
楽しんだ者勝ちであることは確かだ。
だって、他に上手いのいっぱいいるし。
俺が無理に頑張らなくてもさ?
[問題ないじゃん、と事も無げに言って、笑う。
『他に上手いの』が、青年の身内の事を示すのは親しい者の間では周知の事]
そーそ、せっかくのお祭りなんだし、目いっぱい楽しまないと、ねっ!
[意を得たり、と言わんばかりの楽しげな笑みを浮かべ。
ひょい、と立ち上がると、下に降りるべく軽く、跳んだ]
……ととっ!?
[いつもの調子で跳んだはず、だったのだが。
屋根が濡れてでもいたのか、跳び際、軽く滑った足は体勢を崩させて]
っと、わっ……。
んなろっ!
[空中回転、強引な姿勢制御の後]
……いよっ、と!
[石畳に片手をつき、そこを基点に一回転する事で、どうにか着地を決められた]
[広場の隅にあるベンチにどかりと座り]
[短くなった手巻きタバコを指で摘むと、手の中で跡形もなく燃やし尽くす]
[胸ポケットからセルロースペーパーとスタッドオートマールスムの葉を出すと、補助器具を使ってくるりと新たな手巻きタバコを作り上げた]
[再び手巻きタバコを口に咥え、指を鳴らしその先に火を灯す]
[ひらり舞い落ちた花弁が、巻き添えを食って空中で燃え尽きた]
随分と平和なこって。
にしても何を思って呼び出しやがったんだか…。
まさか祭りの取材してくれ、なんざ言い始めるんじゃねぇだろな。
[態度でかくベンチに座り足を組み、周囲を見回しながら眉根を寄せる]
[周囲に苦みの強い紅茶のような薫りが漂った]
きみも充分上手いと思うよ。
[直後飛び降りてくる様子に眼を円く見開き、手の隙間から花弁が落ちる]
…おお。
いっそのこと、曲芸師でも目指したらいいんじゃないか。
[まさか途中でバランスを崩したとは思わなかったらしい。
のんびりと拍手などしながら、着地した青年を見た。
風で舞い上がった花が再びはらはらと落ちて来る]
[舞い落ちる花弁、それと共に降りてくる翼ある友を差し伸べた手に招いて止まらせる。
ふわり、と周囲を巡るのは、自然のものとしてはやや不自然な風]
んー、そーかなあ?
[上手い、という言葉には、軽く首を傾げ]
あっは……楽団追い出されたら、それもいいかもー。
[拍手とともに向けられた言葉に、屈託なく笑って見せた]
[ふ、と紫煙を吐いた直後]
[視界の隅に屋根から落ちる何かが見えた]
…あン?
[隻眸を細めその様子を見やると、落ちた影──人はバランスを崩していた割に無事着地]
[舞い落ちる花弁の中、空より降りるものに腕を伸ばしている]
…ああ、さっき屋根ん上走り回ってた奴か?
なぁアンタ、あいつぁ何もんだ?
[近くで祭りの準備をしていた者に声をかけ、その正体を探る]
[簡単な答えが返って来ると、短く礼を言って再び隻眸を降り立った青年へと]
楽団の『サボり魔』ね。
茶飯事なんだったら、大したネタにゃならんな。
[特ダネにはならないため、すっかり興味は失せたらしい]
7人目、店員 ベッティ がやってきました。
― 広場 ―
[広場の中心から少し外れた場所。茶色のシートが地面に敷かれ、その上に古ぼけた壷や剣、水晶玉やアクセサリーその他雑多な物が並べられている]
はいはーい。ねね、そこのいけてるオニイサン。ちょこーっと、見て行かない?
[澄んだ明るい声に足を止めた旅人風の男を見て、声の主は商売用の笑顔を作る]
ほら、これこれ、珍しいでしょう?遥か東の島国で掘り出された、二千八百年前の貴重な壷なんだよ。
どうよどうよ。ちょーっと重いかもしれないけど、持ち歩けば無病息災交通安全、おまけに金運アップ間違いなしだよー。今ならうーんとサービスするからさ、買ってってよ。どーんと三割引で、このくらいかなっ。
じゃあじゃあ、おまけにこの錆びたナイフもつけちゃうから。髭剃る時にも肌が切れない逸品だよ。あ、ねえ。ちょっとー。
……ちぇっ。けちんぼー!
[両手を上に上げ、去っていった男に捨て台詞。こちらを向いた男と目が合えばイーッと舌を出した]
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