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「怖い」
『コワイ...』
[重なる声は、夢の中と同じ]
『コワイ』
『タスケテ』
『ドウシテ?』
「誰...?」
[それはそのまま、自分の心の声だ]
[だから...重なる心に引き寄せられるように、泉へと向かった]
……だあれ?
[感じる気配に問いかける。
それは、助けを求めるような、声
だけど、自分の手は、力は届かない
気が付いていたのだ
自分には感じることは出来ても、それに応えるだけの力はないと言うことには]
どうすればいいの?
[古いお話の、真実をまだ知らなかった少女は、戸惑うように気持ちを揺らす]
[祈り子を眠らせているという、花]
[魔を封じているという、花]
怖い、よね...
[泉のほとりに膝をつき、蓮の花に手を伸ばした時、もうひとつのコエ]
君にも...聞こえるの?
[静かなコエが、問う]
大丈夫、君はまだ、何もしなくても。
僕が、封を解くから。
[そう、封を解くのだ、と、知らないはずの知識を、重なる心が教える]
[その日は起きても何だかすっきりしなかった。
前日根を詰めすぎたのもあるかもしれないけれど、何となく、それだけじゃない気がする]
今日は休暇にしちゃおうかなぁ…。
[スランプは未だ続いていて、筆記帳に色が乗ることも無くなっていた。
こういう時は一旦仕事から離れるに限る、と今日は何も持たずに外へと出る]
うわぁ……もうお昼…。
[随分と寝てしまっていたらしい。
これではクレイグのことを言えないなぁ、と思いながら目を空へと向けた]
[聞こえてきたコエ、聞いたことがあるようなコエに、耳ではなく意識を傾ける]
封を、解く……?
ああ……
[助けを求めているのはそれなのだ、と、何故かすぐに理解できた]
お願い、して、いい?
私には、封は解けないから。
[願いを込めた思いをコエに乗せて、伝えて]
思っていたんだ、ずっと...
僕は...もう、解放されたいって。
「『あの子は、もうイラナイ』」
「父に『人に』」
「棄てられた『追われた』」
『「その時から」』
[手折った蓮の花を手に、聞こえた願いに頷く]
うん、これで...僕達は、解放されるから。
[けれど、同時に目覚めた力と想いが、その願いを阻む]
[それに気付くのは、夜が明けてからのこと**]
― 自宅 ―
[ポラリスと本屋を訪れてから数日
その日は家の大人たちの様子がおかしくて、朝から外には出してもらえなかった]
……つまんなーい。
[退屈そうに窓の外を眺めて、それに気付いた]
……お日様?
[辺りが少しずつ暗くなる、月が太陽を隠していく]
あ……
[陽がすっかり隠れた時、小さな声が零れて落ちた
何故かわからない不安に駆られて窓辺から離れる]
[結局眠れぬまま、夜を越えて]
あ...
[散歩に出かけた泉のほとり、手折られた蓮の花を手に、呆然と立ち尽くしたのは、夜明け直後**]
[「蝕」なんて初めて見たから動揺してるだけ、と自分に言い聞かせる]
…………
[幽かに、震えるような唇は言葉を紡ぐことはなく
だけど、何かとても大事なことを思い出したような気がして
だけど、それは思い出してはいけない事のような気もして、きゅっと目を閉じる]
だいじょう、ぶ
[自分を励ますように、おまじないのようにそう言って
あとで、外に出ても良いと言われたなら、誰かに元気付けてもらおう、と、そう思った**]
……解放?
[それが助けを求める声と「コエ」との想いだと気付いて]
うん、それであなたたちが解放されるなら、私も嬉しいな。
[無事に封が解かれたらしい気配に、僅かに安堵の気配を
それを阻む物がいることは、今は気付いていなかったけれど**]
─ 森の中 ─
[薬草摘みの朝は早い。
と、いうか、早起きな祖父と共に生活していると、自然とそうなる、とも言うのだが]
んじゃ、俺、森に出るねー。
[祖父母と三人での朝食の後、いつものように籠を肩にかけて森へと向かう。
外に出るとすぐ、相棒が肩の定位置へと舞い降りた。
そのまま真っ直ぐ森へと向かい、必要な薬草を選り分けて摘んで。
先日は採取を見送った薬草を摘んだ時、近くの枝に止まっていた相棒が、いつになく甲高い声を上げて、鳴いた]
どした、クレー?
[問いかけながら、相棒の丸い目が見上げる先を見て]
……え?
[いつもとまるで違う空に、少し惚けた声を上げた。**]
うーん……おじいちゃんが確か何か言ってたはず…。
[しばらくうんうん唸っていたけれど、直ぐには思い出すことが出来なかった。
普段なら思い出せないことは直ぐに諦めるのだけれど、今日のこの空は放っておいてはいけないような気がして、頭から全く離れてくれない]
…おじいちゃん、何か書き残してないかしら。
[祖父の遺品は少なからず残っている。
探してみようと考え、ポラリスは出てきたばかりの自宅へとんぼ返り。
それからずっと引っ掛かるものの答えを探し続けていたけれど、解答を見つけたのは探し疲れて寝落ちた後の、翌日の朝のこと*だった*]
─ 午前/診療所 ─
[診療所は今日もたまに患者が来る以外は静かなものだ。
薬の在庫チェックやカルテの整理などがあるから暇ではないが、忙しくも無い時間を過ごす。
そんな中思い返すのは、先日の一日のこと。
頑丈だからちょっとくらいなら平気だという彼女>>8に、「少しでも怪我は怪我だ」と言った後運ばれてきた食事を平らげてすぐにあの場を離れたが彼女はあれから両親の所に顔を出しただろうか。
父の跡を継いでからは診療所に寝泊りする様になった男も自宅には随分顔を出していないが]
どちらが子供か解らんしな。
[息子よりも、彼女が顔を見せる方が余程喜ぶ両親の顔を思い浮かべる。
単純に思ったままを口にしながら、その後寄った屋敷の住人に意識を移し]
─ 午前/診療所 ─
あの家にも、行った方が良いか。
[盲目の女性と、病弱な青年。
二人とも三年前男が父から代替りした際に受け持ちも引き継いだ患者だ。
理由はわからないが体調不良を隠そうとする青年に、その都度「我慢した所で楽にはならん、診せに来るなり俺を呼ぶなりしろ」と言ってきて。
ハーブティーを届けにいくというソーヤの言葉に回診がてら訪れた時も、同じように告げてきた。
すぐさま診察して出来る対処をしてきたが、回復に至っているかどうか気がかりで。
今日は先に回診に出ようと外に出たところで、異変に気付いた]
…?何だ、やけに暗いな。
[今日が『蝕』の起きる日だと気付いていなくて。
空を見上げ、光の源が隠される様>>#0に、何故だか目を離せないまま。
陽が翳っていくと同時、無意識に胸の中、不安が落ちていった**]
─ 『蝕』翌日/自宅 ─
─── あ、ったぁ…!
[夜が明け目が覚めて、下敷きにしていた手帳を読み直して知りたかった部分を見つけた。
口の中で繰り返し読んで、頭の中で整理する]
………って、こと、は。
──大変、見てこなきゃ!
[思い当たった事柄に慌てて椅子から立ち上がり、ぼさぼさになった髪も直さないままに泉へと駆け出した]
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