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……え?
今の……なに?
[唐突な悲鳴に、びくり、と身体が震えるのがわかった。
嫌な予感。
だけど。
確かめに行くには、足に力が入らなくて]
[悲鳴に、おもわず自分の体を抱き締めた。
銀の髪の男がそれに反応し、広間を出ていく。]
な、なに?
[尋常ではない空気に怯えつつも、玄関の方が気になって。]
[悲鳴を上げて逃げ出す使用人が残したものを見て、絶句]
……足?人の…旦那様、って、まさか…。
アーヴァインさんの部屋は何処だ?
[ 余りの悲鳴に数瞬呆然としていたが、ハッと目を見開き卓上に手を突いて立ち上がる。幾人かが駆けて行くのは見えはしたものの、彼自身は其の場に縫い止められたかの如くに固まり追う事はしなかった。開かれた扉の向こうから悲痛な使用人の声が聞こえ、軈て先程よりも慌てバタバタと駆け去っていく足音に眉を顰める。]
[ 目にはせずとも、女の声だけで何が在ったかは大体察する事が出来た。]
態々、凝った事を……。
[ アーヴァインの部屋に向かうべきか――理性と欲望とが交錯する。]
[悲鳴。
その声は幾度かきいていたもの
わたしは部屋の扉を見る。
なんのおと?]
…………なにが
[少し考えて、扉に向かう。
それを後悔するなんて思わずに]
[投げ捨てられた足に視線。特にこれといった表情の変化は伺えず。]
ああ、この足はアーヴァインさんのものですね。
間違いありません。
彼の部屋なら知っていますが、一緒に来られます?
[広間を出ていくものと、留まるもの。
相互を見比べて迷った後、広間を出たのは好奇心から。
それでもやはり何かを感じたのか、大人から離れないように小走りでついていく。]
[ルーサーがその足を確認して主のもの、と。
部屋を知っているから来るか、との言葉に]
あぁ、行こう…
女性と子供はそこで待っていて。
[そういってルーサーについてアーヴァインの部屋へと]
[青ざめたまま牧師の声にこくりとうなずくも、やや不審の目を向ける。
…この状態で、何故この人はこんなに冷静でいられるのだろう。]
[アーヴァインは明かりがついたままの自室奥の壁に寄りかかっている。
ドアを開ければ咽返る吐瀉物のような匂いと、肉の焦げた匂い。
まず真っ先に目に入るのは、床に広げられた腸。
胃が破られて、胃液で腹の中が溶けかけている。
腹は臍から胸まで裂かれ、ご丁寧にも骨を外してむき出しになった心臓はそれでもまだ、鼓動を打ち続けている。
右肘が捻り折られ、左腕は肩から引き千切られている。
片足の太腿部はほぼ食い尽くされ、膝から下が無いが、もう片足は手をつけられた形跡が無い。
片目は抉り取られ、半笑いの形に緩んだ口元からは涎と息の漏れる音だけが。喉はどうやら潰されているらしい。
暖炉に立てかけられている火かき棒は熱く、これだけの状態で出血が驚くほど少ないのは、傷口をご丁寧にも焼き固めてあるからで。
気を失うことも、鼓動を止めることも許されず、この状態でまだ生きている。]
……これはどう見ても手遅れですね。
一応、生きてはいるようですが。
[ ややして呪縛から解けたように首を小さく振り、唇を噛んで自らも追うべきかと迷いはするものの、動けぬ様子のメイや残る者を見遣れば矢張り其の場に留まる。]
……。
[ 大丈夫か等と容易に問う事も出来ず――無言で椅子に腰掛けなおせば沈黙ばかりが下りる。]
[妙に冷静な牧師の言葉に、それ、と目指れたものを見る。
それが、何であるのか最初わからなかった。人形か何かのように思ったから、じっと見てしまった。
それを目に焼きつけてはじめて、少女の口から悲鳴がもれる。]
[牧師の広い背の後ろから、室内を覗き込んでその目を見開く。
内臓を引きずり出され、手足を引き千切られ、貪り食われているその肉塊。
だが、その中心で、心臓は未だに鼓動を続けている。]
…義兄ぃ…さん……。
[見開かれた片目だけの目と目が合う。そのまま動けない。]
[数人が広間の外へ向かう中。
どうしても、動けなくて、その背を見送る。
部屋は暖かいのに、震えが止まらない]
……やだ……よ。
ボクは、視たくないんだから。
[呟いて。左胸の辺りを右手でぎゅ、と押さえつける]
視たくない……聴きたくない……。
[掠れた呟きの後、その場にがく、と座り込んで。
そのままぎゅ、と目を閉じる]
[ルーサーについて部屋へと入る]
…な……っ…
[目の前に居る…いや、あるのは辛うじて人と判るもの。
それでも心臓が…むき出しの心臓は命を刻んで]
何で、こんな事が…
[あちこち旅をして、危険な目にも遭ってきたけれど。
こんなものは見たことが無く、ただ立ち尽くす]
[悲鳴。
それを認識した瞬間、…いや、それより前に駆け出していたかもしれない。
そして。
旦那様が、と呻く使用人。
目の前に転がる物体。それは何かに似ていた。
通常では、決してそれ単体では存在し得ない筈の――]
……足?
[理解するのに遅れて、錆びた鉄のような濃い臭いが鼻の奥を刺激する]
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