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インサニアはそこから見ておいで。
[そう、陰に隠れていたインサニアの手をとった。]
思い出したくはないだろうが。
見ておくんだ。知って、恐怖を克服しなければ。
[人への恐怖を残していれば、人に負けてしまうから。]
―広間―
[お菓子を食べる手は、そこまで長く続かなかった。
ギルバートとラッセルが戻ってくるころには、食べ散らかしたあとが残る。
おなかいっぱい、と、床にへたっていた。]
─書庫─
[叫ぶように自分の名を口にするヘンリエッタを振り返る。
表情には、微かに苛立ちめいたもの。
その後の言葉は途切れたが唐突な言葉を、セシリアは、そして他の者は訝るか。
どうすべきかの逡巡。
いずれにせよ、女に取れる道は、限られているのだが]
邪魔者、見つけた。
[囁くコエ、内心では楽しそうに思わぬ収穫を得たと。
怖い気持ちはもうなかった。今の状況皆はセシリアを敵視しているから]
大丈夫だよピュエリア、これなら大丈夫。
私も、アグレアスもいるし、キャロルさんもいる。
[人殺しの連鎖、人の情を持つ自分にとっては怖く、人狼としての自分には愉しくて仕方がないと、二つの感情が混ざる。
今増して勝つのは後者であろうか]
[謝罪と共に距離を詰める。
視線を外した直後、養女の唇が動いていたのを見ることはなく。
危機を感じたか後退る少女の手を左手で掴み、強く引き寄せた。
右手には小さな銀の刃を握り]
貴女はもう、客人では無い。
[左胸に押し込むように、深く刺した。
背後で本の落ちる音がする]
うん、見てる。大丈夫だよ。
今は…愉しい?そんな感じ。
[まだ狂気には彩られない、穏やかな目覚めの中。]
怖いけど、それよりも愉しい。
それに二人もいるから。だから私は大丈夫。
[アグレアスに囁いて返すコエはアグレアスを満足させるだろうか?]
―書庫―
[キャロルの表情には申し訳無さが募る。自分で言って置きながら不用意な発言をしてしまった事は自覚出来た]
あ…。
[セシリアが動くよりも早くユージーンが動いた。
丁寧な一礼に続く宣言は静かで深く何処か冷たい。
本の落ちる音が一瞬の静寂に響いた]
─書庫─
……墓守、殿……?
[ヘンリエッタに向けていた視線をセシリアに戻すのと、墓守が動くのはどちらが先だったか。
『客人ではない』──短い宣告の後、押し込まれる銀刃。
本の落ちる音]
…………。
[言葉は、なかった]
人が人を殺す。
[事態の推移を見詰めながら細く囁く]
大丈夫。
アグレアスもインサニアも居る。
キャロルさんも大丈夫。
[自分を落ち着かせる様に繰り返し囁く。
愉しめる迄は至って居ないが冷静さは保って居る様だった]
[客人を装う輩は過去にも居た。
隠した銀刃は、その手から主人を護る為のもの]
[抵抗も無い訳では無い。
刃を握る手首を掴まれ、その力の強さに眉根が寄った。
更に深く銀を押し込む。
少女の動きが完全に止まるまで、墓守もそのままの姿勢を保った]
―広間―
[無為な思索は来客の気配で打ち切られた。広間に入ってきた者達に気付いて、軽く頭を下げる]
ん。
どうしたでござるか、童っぱ。
[ふと気が付けば、あれだけあった茶菓子は全て包み紙だけを残して消えていた。その先には、へたっているトビーの姿]
やれやれ、あれだけあった茶菓子を全て食べてしまったでござるか。
あまり食べ過ぎると腹を壊すゆえ、気を付けるよう。
[苦笑いを彼に向ける。ユージーンが戻ってくれば、他の人のために茶菓子の追加を頼もうかとも考えている]
そうか、それなら安心した。
インサニアもどんどん、人狼らしくなってきたかな?
[インサニアの返事には、十分に満足し。
出来る事なら、傍に引き寄せ撫でていただろう。それは今は適わないが。]
ああ手は離さずにおくよ。
[代わりに触れるのは僅かな部位。
おそらくそれは自然でもあるから。]
─広間─
[新しい紅茶と残っていた焼き菓子と。
それらを口にしながら時を過ごす。
トビーは満足したのか床にへたり込んで居て、ギルバートはマンジローに対して作物を厨房に置いておいたことを話していた。
ラッセルは聞かれない限りは何を言うでもなく、ギルバートの傍で静かに話す様子を見ていた]
[書庫での騒ぎは広間にも伝わっただろうか。
ラッセルは詳細を知らされぬまま、ギルバートによって部屋に戻された。
傍に居てやるから、と諭され、ベッドに潜り込む。
手を握られ、その温もりに安堵を覚えながら、意識は闇へと落ちて行った。
眠った後にギルバートは仔細を聞きに行ったかも知れない。
それさえ気付かずに、深い眠りへとついた]
─翌朝・自室─
[眼が覚めると傍にギルバートの姿は無かった。
何かを取りに行ったのだろうか、と眼を擦りながら考える]
……ギル……どこ……?
[不安になり、名を呼びながら部屋の扉へと近付く。
何も警戒せず、いつも通りに扉を開けた]
っ!? …なに…?
[廊下に出ようとした途端、何かに躓きよろけてしまう。
未だ睡魔の残る眼を何気なく下に落とした]
……────っ!!
[視界に広がる水溜りのような紅。
その中にうつ伏せの状態で倒れ込んで居る人物。
見覚えのある背中、幻視する白いひつじ。
理解したくない、信じたくない。
けれど、眼に映るのは、真実]
う、あ、あああぁぁあああああぁあああ!!!
[それがギルバートであると知り、ラッセルは叫び声をあげた。
膝をつき、彼の亡骸に縋りつく]
や、やだよ、ギル、傍に、居なくならないって、何で…。
[紡ぎたい言葉も纏まらず、大粒の涙を零し。
服が血に濡れるも構わず縋りついて泣き続けた]
[ギルバートの身体には獣の爪痕。
今は床に隠れている部分を確認したなら、喉が掻き切られ、アーヴァインと同じように肉や、内臓が欠けていたりするのだろう。
倒れ伏した手には抵抗したのか、力無くナイフが握られていた]
…にーちゃ、おなじ……ギル、死ん……。
僕……また……!
[信じた者を作り、護ると言われ、そして喪った。
かつてと同じことを、また繰り返してしまった]
僕が……また……死なせ……!
…おおかみ、探して、殺さなきゃ…終わらない……!
信じた人が、死んじゃう。
信じちゃ、ダメ……信じたら、また、誰か、死んじゃう…!
[亡骸の傍らで震えながら呟いていた。
その時にはもう他の誰かが駆けつけていただろうか。
誰が来たとしても、ラッセルは泣きながらギルバートに縋りつき、泣き続けていた]
[ハーヴェイの影に隠れながら、セシリアがユージーンに刺されるのを見ていた。
とめることなどもちろんしない、手は自然とハーヴェイの服をぎゅっと握る、不安げに。]
……
[微かに体が震えていたのは恐怖からか、それとも…]
[礼を取ったりと、殺しなどからは縁遠そうに思っていたユージーンが動くのに、気づくのが遅れたのはセシリアを見ていたからか。]
っ、ジーン!
[待てと、口に昇った時にはすでに遅く。銀はセシリアの胸の奥へと突き立てられていた。]
っ……。
[止められなかった、それとも止めなかった?
止める事をしなかったのは、セシリアの狂気を自身も危険と思っていたからだろうか?
血を流しゆくセシリアを、ただ今はじっと見ていた。]
―書庫―
[セシリアの抵抗は生を望むなら当然だろう。
変わらない。変わらないのに。
否。変わらないからこそ恐ろしかった。
其れでも悲鳴は上げない。未だ小さく震えて居るが必死に自制を働かそうとして居る様にも見えた]
御免なさい…。
[二つの影が動かなく成る頃に小さく呟いた]
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