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[少女の目から光が消える]
[月が][明るい]
[あつい]
[まだ血をあふれさせる喉を丁寧に舐め取る]
[大切な]
[大切な――何?]
[一瞬戻りかけた理性はすぐに消えてしまう]
[首の血がまだあふれる]
[それでもその肉に歯を立てる]
[やわらかい]
[歯が貫く肉を、噛み切って]
[嚥下する]
[エルザの問いに、ふるふると頭を左右に振る]
[実際、エルザから抱き締められた事は理由が何であれ、胸に喜びを沸き起こさせるものだった]
[ハインリヒの動作は、ソファでぐったりしていた男のソレではない。油断なく辺りにピリと張り詰めた空気が、彼の周りに腰の強い糸が張られてゆくように思えた]
[ハインリヒが立ち上がり、ザムエルに対峙するのを見る]
[二人の間に只ならぬものを感じて]
二人とも、何を……
[それだけ言って止める]
[張り詰めた、気配に押されて]
[早いとこ。それに、頷いて返そうとして]
…エーリッヒ?
[触れている彼の体が一瞬震えたような気がした]
[自身の体は幾分落ち着き、そっと肩から手を離す。
そうして、彼の様子を伺うように、覗き込んで]
[たくたくたくたく]
[鼓動と共に押し出される血液が刹と呼ばれた人狼を濡らす。犬歯はせり上がり、鋭さを増し、肉を切り裂くのに適している。]
[少女の腕が手が上がり、指先が何かを掴もうというように動かされたように思えた。オトフリートと呼ばれた男へと向けられたが、]
[動かない体を、食む]
[暖かい]
[いつしか体は獣のものに]
[黒い][狼]
[足で体を抑え][少女の腹部に噛み付いて]
[そこからもあふれてくる血を受けて]
[思うが侭に貪る][内臓を、食らう]
あ……。
[名を呼ばれ、覗き込まれて、はっと我に返る]
大丈夫だ……ちょっと、目眩がしただけで……。
大丈夫、だから。早く、ベアトリーチェを。
[ふる、と軽く頭を振って。早口にこう告げて]
[内臓特有の匂いが、刹と呼ばれる狼の本能をより刺激する。黒い毛並みに赫として、暫くすればこびりつくであろう、血の雫達。]
[指を食い千切られた断面からは、骨が見える]
[暫く、エーリッヒの様子をじっと見て。
ふい、と穴の方を向く]
…倒れたら姫抱きしてくからそのつもりで。
[微妙な脅しを投げつけて、ベアトリーチェを上着ごと抱き上げる。
自衛団員たちよりも遥かに軽くて、頼りない重み]
[骨などは放置する]
[吐き出して]
[黒い狼は一心不乱に喰う][喰い続ける]
[そして]
[いやな音をたてて腕が落ちる]
[血の海に]
……いや、それは……勘弁してくれ。
[姫抱き、という言葉に思わず引きつりつつ。抱えられた亡骸を見やり]
……急ごう。嫌な予感が……する。
[蒼の花が伝える感覚とはまた違う……胸騒ぎのようなものに急かされて。低く、呟いた]
[水音]
[緋の水溜り]
[食べられ易いように引き千切られた腕は、人間というよりは肉の塊で、家畜を解体するのを見る時に感じさせる、一種の嫌悪間や防衛本能、恐怖のようなものを、第三者が居たら感じさせたかもしれない。]
[しかし]
[ここには捕食者と被捕食者しかいなかった]
[ちなみに倒れられたら本気でやりますこの男]
[急ごう、というのに少し首は傾げたが、異論はなく]
…ああ。
自衛団員たちの隣がいいかな。
[半ば走るようにして集会場の裏手へ向かう。
記憶が確かならスコップの一本はまだ其処にある筈で]
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