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…っは、ぁ…。
[少し息が上がる。人を手に掛けたことに対する恐怖などではなく、単純に腕の痛みから来るもの]
……緋色の中の、白。
なん、だ、ハズレ、か。
[倒れたイザベラの周囲に広がる緋色。少女の滅紫の両目には、緋色の花に似た、夢幻の白い華が映し出されていた]
[時は流れ、外が白み始める時間だった]
[獣が緋を散らした地にめぼしい物証を見つけることは出来なかった。持ち込んであった食料を齧り、水代わりに葡萄酒を流し込んで思考に耽る]
番人はともかくとしてなぜあの男がやられた?
隠れ蓑にならない者、目障りな者、脅威になる者、狩りやすい者……どれも中途半端だな。
あ゛ー血の匂いってだけなら何の情報にもなりゃしねえか。
[苛々と髪を乱暴に掻き、ふとその手を止めた。この地に来てから身なりを構わずいた身は鼠と変わりない]
ちっとどうにかしてくるか。
匂いでこっちの動き感づかれちゃやべえしな。
[夜の帳が下りる前に水の出る一室を乗っ取り、慣れた態で水を浴びた。暗い色が並ぶ棚の中からよく似た色の古臭い衣服を拝借して身に着ける]
[目を閉じても浮かぶのは緋――それは、先に見たイザベラの死]
[人が人を殺すことに嫌悪を抱けるものがいるとしたら、それはたいそう恵まれた者なのだろう]
[水差しの中、目を覚ました時に飲もうとし、それが空になっていることに気付いた男は昨日と同じように外へ出た]
[廊下の黒ずみは少し薄く、人の死の臭いも強くは無い]
[だが進むにつれ、臭いが強くなる]
――また誰か死んだか
[そうして、夜と朝の狭間、まだ天秤は夜に傾く頃、男は戸を開けたのだった]
[夜が深まり獣が好む時間の前に浅い眠りを貪り、夜半は刃物を手に息を殺して過ごす。クインジーの企みがどう転ぶにしろ、下手に近づいて巻き込まれるつもりはなかった。ことが起こればそれなりの騒ぎになるだろうと薄く扉を開けた地下室で耳を澄ます]
[書庫の中、倒れたイザベラにかかるブランケットの端で刃に付いた紅を拭き取る。刃をケープの中に隠し直すと、痛みが走る左腕を押さえた]
……この服、気に入ってたのに。
[こぼれ落ちる言葉はその場に似合わぬ暢気なもの。万年筆の黒と自身の紅が混ざり合い、薄い翠色の袖はどす黒く染まっていた]
[ゆるりと顔を上げれば、そこにはクインジーの姿]
…ええ。
彼女も違ったわ。
[促されたことを口にし、視線を男の瞳に合わせる。両の滅紫が男を見つめた]
あ゛ー夜が明けたな。
どうやら命は拾えたようだ。
[雲間から差す光に似た明り取りの窓から廊下に落ちる光を見、もぞもぞと動き出す。毛布から抜け出た夜明け直後の寒さに大きく震えてブランデーを呷り、燃料に変わったところで慎重に廊下へ踏み出した]
野郎の野太い断末魔が聞こえなかったってこたあ、アイツは無事みてえだが…
[どう動くか考えながら階段を上り気配を探る。鼠じみて鼻を動かし感じ取った血の匂いに足を慎重に前に進める。新たな死が生まれた場所に辿り着くのは二人の話が*一段落した頃*]
当たらない、ね。
これでもう人が四人も死んでるのに。
[やや冷めた口調。僅かながら悔しさも乗っていただろうか。怪我には大丈夫と返し、瞳の変化には数度瞬いた]
両目…。
また戻さなきゃ…。
一応、制御は出来るみたいだから。
[しかし今直ぐには出来ないらしく、紅紫に戻る気配はない]
さっさと使者を殺せればいいんだが……
とりあえず、血を流して来い
その後で治療だ
殺しは初めてか? 精神が昂っているんだろう
落ち着いたら目も戻るんじゃないか?
制御が出来るなら、何よりだ
[その色も綺麗だがと、口にするのにためらいもない]
しかし、うまく隠れているんだな、獣は
……あぁ、そうだ
昨日の面々の反応を教えておこうか
イザベラについてはいらないな?
[ケネスが来るのはそのころか]
[能力に興味を持っただろう者、武器に興味を持っただろう者のことを話しはじめる]
[キャロルが使者により翌日に死体で見つかることなど、その時の男は*知る由も無い*]
[それは何処であったろう。
甘い匂いに酔うかれ自身より、
見つけた者こそが知る事だろう。
――唯其処には、花が咲いていた]
[地を這う、幾数もの細い蕊。
糸の如くに絡まり合い、
月の涙を浴びてきらきらと光を散らす。
他と色を違えるはそれと、もう一点のみ。
大輪を広げた花は根本までもあかく染まっていた]
……ねえ、キャロ?
[女の眼に光は差さず、
かれを映せど何も見てはいない。
何時か手折った花と同じく、女の首は裂かれていた。
毒を孕んだ指先の爪は、欠けている]
花はやはり儚いよ。
人もだ。
例え、抗おうと。
でも何故だろう、今まで狩りをして、
虚しいと思ったことなどなかったのに、
リィが殺されたと聞いたときは変な感じがした。
[言葉は虚空に消え、想いはかれの中に燻る]
貴女は、知っている?
[鼻先を寄せれど、触れる頬は、冷たい]
[この色も、次に目にする時、
かれの眼には褪せて映るのだろう。
天を仰ぐ女の眼が何を視るかは分からない]
ギィ、終わったよ。
呆気なかった。詰まらないね。
[声を聲に替え、かれは同胞に告げる。
平時と変わらぬ口調で。
白む空と共に、夜の獣は姿を消す]
[血を流せとの言葉には短く承諾の言葉を返し]
…さぁ?
私がその前にどんなことをしていたかなんて覚えてないもの。
けれど、手にした牙は随分と私の手に馴染むわ。
[使い慣れた感があると告げ、自分の右手を見つめる。手には左腕を押さえた時に付いた血とインクが混ざり合って付着していた]
[昨日の各々の反応を聞く頃、無精髭の男が顔を覗かせた。話に興味が向けば、男も共に聞くことになろうか]
そうね、イザベラの反応は要らないわ。
[クインジーに答えて告げられる言葉を耳に入れる。内容の整理は後にして、まずは怪我の治療をする事になった。水場で傷口を洗い流し綺麗にしてから、大人しく治療を受ける*こととなる*]
馴染むか
案外近くで戦ったことがあったかもしれないな
[シャーロットの言葉を聞き、男はその手を見ながら言った]
[反応の話に興味があるならとケネスにも聞かせる]
[ナサニエルは武器を気にしていたということ]
[見せるつもりはなかったが、キャロルの要望をかなえるために武器を見せたこと]
[ギルバートは"見分ける方法"について、真偽を考えているようだったこと]
刃物で傷付けたというのがわかったのに、それ以上何が必要なのかもわからなかったな
発動のときを見たいとギルバートは言っていた。その目を見られないように注意したほうがいいだろう
[既にケネスは"シャーロットの次に"信頼に足る人物であった]
[理由は簡単で、シャーロットが殺されていないから]
[何か言われたらその説明は軽く語られることとなる]
とりあえずはまずその怪我だ
この体は――暫く置いておいても大丈夫だろうな。また服を駄目にするのも面倒だ
―朝・野外―
[東の方より昇り来る太陽によって夜が駆逐され、空が澄んだ青に変わる頃。]
[男は独り、緋色の原を歩く。]
[目指すは、花に囲まれた泉]
……しかし、なんで泉、なんでしょうかね。
[少しく疑問を含んだ言葉が零れた。]
[シャーロットの怪我を消毒し、包帯を巻き、男は場を離れる]
[何もない顔でキッチンへ行き、水差しに水を入れ――]
[男は回想をやめた]
[あまり特別な事でもなかったからだ]
[緋い髪の少年は無事だろうかと、再び窓の外を見た男は、ぼんやりと*考える*]
[何故犠牲者は夜に泉へ向かったのか?]
[泉の何が惹きつけるのか、]
[そんな取りとめも無いことを考えつつ、森の小道を半ばまで進んだところで]
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