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[しらずのうちに、きょうだいのような人に、
コエを投げていた。
本当は投げるつもりもなかったけれど。
そして大通りに戻って、たくさんの店を覗いていく。
夕刻、子供を見つければ、
頭に小さなティアラを飾り、
照れくさそうに歩いているだろう。]
[彼は、薄らと、目を開ける]
[――くらい。遠くに細い、月あかり]
……………!?
[勢いよく身を起こして、辺りを見回す。
屋敷よりも質素な、けれど、清潔に保たれた部屋。
意識がはっきりとしてきて、田舎の村にある別荘来ていたのだと、思い出す。
此処には煩い御目付役も厳しい先生も居らず、優しい母がいる]
[ゆっくりと、長く、息を吐く]
[部屋を出ると、イザベラが彼の姿を認めて(ちなみに、転寝してしまった少年を部屋まで運んだのも彼女だ)、機嫌良さそうに、施設の女性が御礼に来た事を伝える]
施設、の?
[覚えが無くて、彼は鸚鵡返しに問う。
けれど、侍女の話の中に、彼がぬいぐるみを渡した少女の名を見つけて、漸く理解した。それから施設の話も、幾らか聞く。彼は初めて、耳にする話]
……。そうか。
[短く答えると、夕餉の準備が出来ていると告げられて、彼は広間に向かった]
[施設の人が来た時には母もその場にいて。
歳の近い子もいるようだから息子と仲良くして欲しいだとか、温泉に一緒に行きませんかだなんて世間話をしていた事は、――彼の知らない話]
[結局大判焼きの行く末はと言えば、あの後残った分の大半が酒場の主人に提供されることになり。某青年程ではないが見掛けに寄らず甘党な彼は結構喜んでいたとか]
[そして]
……ぁふ。
[彼女は欠伸を一つ]
[暖炉の傍のロッキングチェアに腰掛けて、膝掛けの上には本が一冊。夕方帰ってきてから今まで完全に居眠りしていたという構図が出来上がっていた]
[伸びをして、それから小さく首を傾げて]
[先程まで何か夢を見ていた様な気がするのだけれど、視界が開けた瞬間に記憶の隅に追いやられてしまった]
まあ、…良いか。
[釈然とはしなかったけれど]
[気になることは、他にもあったけれど]
[少女の踏みしめる枯れた草の下、一度溶けて再び凍りかけた雪が、シャクシャクと音を立てる。ほう、と白い息を吐いて、少女は夜空に滲む月を見上げた]
やっぱり、閉ざされてしまっているのね。
[腕に提げた籠から、祖父に届けるはずだったマフィンを一つ取って、ぱくりと一口。村の中から出られなくては、森番小屋に帰ることも出来ない。祭りを楽しんでおいでと送り出してくれた祖父は、戻らなくても心配はしないだろうけれど]
でも、これって、村の人がみんな閉じ込められてしまっているってことよねえ?
[困ったわね、と、少女の見上げた林檎の木の枝で、しまりすの子供が小首を傾げた]
[妖精王という言葉は、ヴィント以外の動物や植物達も囁いていた。詳しいことは判らなかったが、多分、これは、他ならぬユリアンをここに閉じ込めるための妖精王の結界、というものなのだろうと少女には予想がついた]
ユリアン…
[物語の中の妖精王は、大抵が、人とは違う考え方と、大きな力を持った存在だ…本物の妖精王も、強い力を持っていることだけは間違い無さそうだと感じて、少女は不安に捕らわれる]
[月が、青白い光を優しく投げかける頃。
厨房では、小さくハミングしながら洗い物をする姿があった。流れる甘いメロディーに、どんな言葉を乗せているのかまでは聞き取れないけれど。]
〜〜、〜〜〜♪
[すっかり馴染みつつある洗い場の片隅には、数輪の小さな花がガラスのコップに飾られている。]
どこに行こう。
[子供は悩む。大通りはちゃんと見た。
お店はいっぱいだった。
そういえば少しおなかもすいてきたなと、
酒場に行こうかと考える。]
[擦れ違う人は皆、楽しそうで、祭りの熱気は少々の不安や懸念など吹き飛ばしてしまいそう。少女の足取りも自然に軽く、踊るようなそれに変わっていく]
Georgie Porgie, pudding and pie…♪
[小さく歌いながら、歩いていく]
んー……。
[あちらこちら、ふらふらしつつ。
結界に抜け道はないか、と色々模索していたものの、それらしきものは中々見つからない]
……っとに……普段からこのくらい、仕事きっちりこなせば、お袋にあそこまで言われなくてすむんだろーに。
何で手ぇ抜くかね。
『……まあ、お気楽が王のイイトコだから』
そんで、引き合いに出されて。
挙句面倒押し付けられちゃ、こっちはかなわねっつーの。
[何かイロイロ、複雑らしい。
が、その複雑さの内容は……どうにもお茶の間・四畳半的な雰囲気だった]
[広場まで着いたところで、少女は小さな金髪の女の子を見つけた。その手には、何故か苺チョコが十本]
こんばんは、ベアトリーチェ。
[思わず声をかけてみる]
[纏う衣は北風を模した青。
立ち上がれば両手足に飾った幾つもの銀の輪がしゃらりと澄んだ音を立てる。
幾重にも重ねた薄い絹を揺らして、全身を伸ばしてほぐす準備体操。
数名の男たちが、時代がかった鎧に身を包み、儀礼用の槍のように装飾を施された長い木の棒を手にとる。
祭壇にささげられた花輪を奪い合いながらの源泉までの追いかけっこ。
舞姫の優雅な踊りと共に、この祭りの中心になっている儀式である。
ちなみに、見物客の乱入もOKで、その花輪を奪って源泉に投げ込んだ男は、想い人を必ず幸せに出来るとの言い伝えもあるとか。]
[――昼間、店を探して歩いている途中で遇った、少女の事を思い出す。]
未来の舞姫に…。
[そう言って渡した小さな花冠は、はにかむ少女にぴったりで。]
[……つい。
『ご主人様にも…似合うかしら…?』
なんて思った事は…ナイショの話、だけれど。]
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