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僕とて、かの女を殺しはしない。
手加減はしたよ。
……覚醒を促してしまったようだが
[困ったような声。
それから、ふと、気配を感じる。
風の。]
……雷光の蛇王に、問うたら。
どちらの非を重く見るのやら……。
[そんな呟きをもらしつつ、イレーネの傍らに膝をついて、ティルを見やる]
ああ……確かにな。
彼女は律を知らぬ律の繰り手。
その危険性はあっただろう。
とはいうものの……死なれても、困る。
律を知らぬ同族を、放置はできん。
皇の元へ、連れて行かねばならんからな。
ー墓地ー
[走ってきたのではないだろう、しかし飛んできたのでもない。息も切らすことはなく、静かに集まる者を眺める]
どうしたことです?この有様は。
[しばらくの間を置いて、ベアトリーチェはふっと、顔を挙げました。どこかでなにかが起ったのを、感じたかもしれません。誰かの声を、聞いたかもしれません。けれど、ぼうっとしたかおは相かわらずで、立ち上がると、服に附いた砂を払いました。
花の世話をするお爺さんにぺこりと頭を下げ、さようならの挨拶をして、通りをゆっくりと歩いてゆきます。]
―墓地―
[夜目にも真っ赤に染まった地。
倒れているイレーネ。そして――]
――ティル。
[ぼつん、と名を呼ぶ。後は声にならず]
そうだな。
領域を侵すものは罰せられる。
私も同じ事をしただろう。
[ティルへ頷く。冷ややかなままで
樹の一本へ背を預けて、集まった面々を見渡した。]
私が知る限りイレーネから現れる力はとても弱く、微かなものだった。森を侵すことが出来るかどうかも不安な程に。
何があったのか。
まさか、かの女が、覚醒をするなど僕は思わなかった。
[ゆると、時の竜に目を向けて]
竜の封印が甘いのではないか?
[その目は少し、咎める色か。
名を呟く風の子には、困ったように首をかしげ。]
大丈夫だよ、僕は。
[金色の亀裂の走った目で、笑う。]
[クレメンスの声は聞こえるものの、そちらを振り返る事はせず。
歌い続ける白梟をつ、と撫でる]
ヴィンター。
お方様の力、借り受けられるか?
[歌い続ける梟は、僅かに首を傾げるか]
……無理なら、いい。
お前は、歌を届けていろ。
俺が、無茶をすればいいだけだ。
─墓地─
[たどり着いた頃には、人もまばらに集まりだしていて。]
…イレーネ。
[血にまみれたまま、横たわる姿を見つめる。
暴走しかけた力を押さえ込まれて、意識を失い、眠っているようだ。]
封印か……。
[ティルの言葉に、一つ、息を吐いて]
……彼女は、律を知らぬ竜。
即ち、皇竜の刻印は受けてはいないだろう。
どんな形で力を抑えていたかは知らんが……本来のものよりも、それは脆いもののはずだ。
[彼の養母が彼女を気にかけていたのにも。
その点が、含まれていて]
―墓地―
[そこの気配は酷く乱れていて]
なにが、あったの……?
[小さく呟いたけれど、誰も答える余裕はなかっただろう。
それでも目の前の状況から見えることは少なからずあって]
イレーネの力、いつもより不安定?
[そこでティルの言葉が聞こえた。
驚いてそちらを振り返る。どこまでも冷静な魔の姿を]
彼女の封印は…母親が。
…ひとりで子を産み、ひとりでその子の将来を案じて、刻んだものらしい。
[昼間見た、白い背中に刻まれた、つたない呪。
それを思い出して、小さく伝える。]
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