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[鏡に映るのは乱れた赤毛に取り囲まれた不機嫌そうな顔。幼く、不安に怯えた娘。これが、自分だ。
威厳も、勇気もなにもなく、ちっぽけな。
ヘンリエッタは唇を噛み締めると、鏡の中の自分を睨み付けた。
しばらくの後、一つうなずいて無理矢理に笑みを作る。
乱れた髪を結び直そうと、鏡台の上においたはずの櫛を探そうとしたヘンリエッタの目に、何か見慣れないものが映った。]
[嫌う事はない…その言葉がとても嬉しくて。
どう答えようかと考えている間にローズが席を立つのを目で追って。
ドアの外に人の気配を感じて、あ、と思わず頭を掻く]
…良いから入って来いよ。
そんな所じゃ風邪引くぜー?
[照れ隠しからか、少し大きな声で外の面々を呼ぶ]
……まあ、確かに。
[ 同じ事に気付いた様子で溜息を零して云うメイを見遣ると粗同時、扉の内側から聞える女の声。つい視線は揺れて周囲の面々を見回す。]
御気付きになられていたようで。
[ 終わりの言葉はルーサーへと向けたものだが、意識は帰って来ているか否か。]
[全身を震わせるその姿に、手を伸ばして、触れて。支えようと]
「なにかあった」
「むらで」
「こわい」
……むらがっ!?
村がどうしたんですかっ? 何があったんですっ!?
[単語が、形を成して繋がって。
支えようとしたはずの手は、なけなしの力で青年を揺さぶろうと、]
[傍らに駆け寄った少年に]
[一瞬][ぎくり][身体が仰け反ったが]
……だいじょ、ぶ。
こわ、いの、は。
[長い息を吐き][何とか其の侭留まった。]
何だかな。
[ 溜息混じり――“此方”では息等していないのだから、其れも妙な話だが――に呟かれるのは、牧師に向けたのとは叉異なる呆れ聲。]
[最初、ごみかと思った。
乾いて萎びた小さく丸い何か。
ごみ箱に捨てようと手をのばし、その触感に違和感を覚える。
思わずじっと確認すれば、白に縁取られた中心はどこか見覚えのある色で。]
あ………ああああああああ!!
[それが何かを理解した時、手の中の物を放り出すと、少女は悲鳴をあげて部屋を飛び出した。]
[揺さぶろうと伸ばされた手]
[反射的に払い除け][……ようとして]
[途中で止め]
さわる、の、だめ。おさえられ、な、い。
て、言ってたら、中から呼ばれたね。
[中からの呼びかけに、くす、と笑みをこぼす。
その笑みが、どことなく呆れを含んでいたのは何ゆえか。
にこにこするルーサーには、あえて、何も言わないことにした]
[扉の向こうから男女の声が聞こえれば、僅かにバツの悪そうな笑みが少女からも漏れる――
どうやら少女の感は当たっていたらしい]
[しかし少女は素知らぬ振りをしてルーサーの手を握ったまま――]
[かさり――]
[花籠が揺れる…]
[彼女が歩みを進めるのは――神父が歩みを進めてから…]
引き離す…というのもまた一興でしょうかね?
…もしくは疑い合わせるというのも。
[何を、とはいわず、ぽつりと。]
だな。
[ メイに向け苦笑を浮かべつ開かれた扉から広間の中へと入ろうとして、]
……な……?
[上から聞える少女の悲鳴、絨毯の甲斐も無く響き渡る足音。]
[広間の前に溜まっていた面子を迎えようと内側から扉が開いた。
それに気付いて、そちらに歩み出そうとしたが]
…!
[階上からの声にその足は止まった]
[どこからか……多分、上から聞こえてきた、悲鳴。
反射的に、歩みが止まる]
……なに……?
[呟くような声は、僅かに、震えを帯びていたか]
[家族への災禍を思ったか、うっすらと涙を浮かべていたものの、]
「だいじょ、ぶ」
[つたないながらも、そう告げる青年の言葉に、動きを止める。
次いで、告げられた言葉は、よく判らなかったけれど。
ただ、触れられるのは嫌なのだろうと――傷が熱を持って痛むのだろうかと――小さく頷いて。]
……永遠に、だろう。其れは。
[ 否定するでも無く肯定するでも無く、端的に然う付け加える。其処に人間らしい感情は見えはしない。]
未だ、喰う心算なのか?
[ 其れは問い掛けか確認か、或いは――。]
[扉が開いて外にいた人々を迎えようとしたその時
何処か…階上からの悲鳴のような、声]
…何、今度は…?
[思わず立ち上がり扉の方へ、と]
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