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―朝:亘の部屋―
[目を閉じては開けて、眠りには落ちられず。
鋭い朝日に、目を細めた。
どこか落ち着いたのか、ベッドを振り返り……]
おはよう、おにいちゃん
[何もいない空間に、*嬉しそうに笑いかけた*]
…した、って、なんだよ。
んなん、やってねーよ!
[仔犬を抱きかかえて立ち上がり、
つい、返したのはそんな言葉]
………オレが知りてぇよ。
[声音の様子は日頃と違っていても、ショウの声に、
フユは校舎の影から踏み出して、
腕の中に子犬を抱えたショウに厳しい視線を向ける。]
本当にアンタじゃないの。
…フユっち。
[現れた人影を認め、緩く瞬く。
僅かばかり、困惑の色を滲ませて]
違う。
オレじゃない。
…ワケ、わかんねーよ。
どーやったら出来るんだよ、
あんなの。
…あんなの、
[―――人間に出来るワケがない。
そう言おうとして、今更ながらに、ぞっとした。
じゃあ、“何が居るというのか。”
問いかけに我に返り、聞かれた事を理解すると、
一瞬、視線が彷徨う。
仔犬がまた、小さく鳴いた。]
も、ってコトは。
…そっちも、か?
……まあ、ね。
それから、他にも。
マイコとか、マコト君とか、ウミとか、ヨウスケ君とか
ヒサタカさんとか、サヤカさんとか、
その辺りは、昨日の夜に会ったり、見たりしたけど。
[フユは子犬の鳴き声に小さく身を震わせた。
それから続く言葉は震えていた。]
もしかしたら
そのうちにきっと私たちも。
……。
[涙は流れなかった。
代わりに、汗が伝い落ちた。]
………っけんな。
なんで、
…昨日まで、何にもなかったのに。
[声は、低く、小さい。
はっと顔を上げて、首を振った。]
…悪ィ。
フユっちに言っても、仕方ないよな。
しっかり、しないと。
[腕の中の仔犬をそっと撫でる。
黒い眼が、細められた]
さあ。
何でかな。
分からない。
[低い、唸るようなショウの声に
フユはただ短く答える事しか出来無い。
誰か答えることの出来るものは、説明をすることの出来るものは居るだろうか。]
…………………。
別に。
構わない。
[フユは、あたたかそうな子犬に少しだけ目を向けた。
子犬の仕草に、視線の険しさが緩んで
その後ろにあった警戒と、更にその奥にあった怯えが滲む。]
……じゃ。
こんな人気のないところに
アンタと居るのも、ぞっとしない。
…どーゆー意味だよ。
オレもずっとココにいるワケいかないし、
そろそろ移動するけどさ。
[アレが人の仕業と思えない―――
そして昨晩の話を聞いていないショウには、意味がよく取れず]
………ああ。
寮、戻んないと。
服、気持ち悪。
[また肌に張り付こうとするシャツを引っ張って、風を送る。
涼しいというよりは、生温かった。
フユよりも先に、裏庭を後にしようと歩み出す]
昨日。
沢山人が死んだあと
桜の樹からお化けみたいな女の子が現れて。
……はん。
こんな事言ったら私の頭がおかしくなったとでも思う?
でもその女の子は言った。
「始まりも終わりも全て、導くのはひとの子ら。」
だったっけ。こんな事をね。始まりも終わりも。
惨劇を起こしたのも、終わらせるのも。
お化けの言う事信じるのも馬鹿らしいけど。
[フユはその場に立ったまま、ショウと擦れ違う時に、
すい、と身を引いて距離を取って]
だけど、いつ自分がああやって死ぬか分からない。
そして自分を殺すかも知れない相手がもしかしたら目の前のアンタかも知れないって考えるのは間違ってるの?
[そのまま歩み去ろうとして、足が止まる。
終わりの言葉は、背中越しに聞いた。]
…なんだよ、ソレ。
[―――馬鹿らしい。
そう、一笑する事は出来なかった。
目の前で季節外れの桜が咲くのを見て、
前触れもなく人が殺されるのを見て、
視えない何かに遮られて外に出られず。
今。
ありえない、なんて。
ありえるのだろうか。
仔犬を抱く手に、力が籠もった。]
間違ってるかどうかなんて、知らねぇよ。
ただ、オレは違うし、…誰かがやったなんて、思いたくない。
―寮・自室―
[あの後、独り部屋に戻り、倒れこむように眠った。朝目が覚めれば、悪夢が跡形もなく消えている事を祈りながら。]
[目覚めれば、夏の陽射しがいつもの様に色濃い影を作っている。彼女はベッドから抜け出し、ベランダへと出、学園の方へと目を向ける。そこには、季節外れの薄紅が咲き誇っていて。]
……まだ、夢?
それとも………。
[言いながら足元に視線を落とせば、泥で薄汚れた素足。部屋に戻り鏡を覗き込めば、頬にうっすらと残る赤み。思わず、昨日から何度繰り返したかわからない言葉を吐き捨てた。]
だから……何なのよ。
こんなのって…………ありっこないじゃない。
[自分が今、どんな顔をしているか、わからなかった。
俯くと、前髪が顔に影を作る。]
…っかんねえよ。
今まで知り合いだったヤツが、
殺人犯かもしんねえなんて、
[―――ハルヒを殺したかもしれないと、]
そんな風に、すぐには、思えねえ。
オレは、フユっちみたいには考えられない。
能天気って、言われようとも。
んなの、
解決にならないって、わかってるケド。
疑うんなら、他の可能性がないってわかってからにする。
[単なる後回しだと、自分でも理解している。
けれどそんなに簡単に、頭は切り替えられなかった]
でも、もし―――…
[ふるり、頭を振った。]
なんでもない。
んじゃ。
[*急ぎ足に、寮への道を、辿る。*]
[人気の絶えた裏庭。]
(一部はアレだが
どいつもこいつも『信じない』、か。)
(やはり、
目の前で誰かが
”誰か”に殺されるくらいの事が無いと駄目なものか。)
[*腕組みをする*。]
[結局、夜明けまで眠ることは出来なかった。明るくなってから、漸くいくらかうつらうつらしたものの、妙にはっきりとした夢ばかりを見て、熟睡にはほど遠く…諦めて身を起こした時には、すっかり身体は怠さに支配されていた]
…………
[何度も見た夢は「全てが夢だった」という夢…それは、以前にも経験したことで、現実逃避の一種なのだと、嫌になるほど理解している。窓の外に咲き誇る桜が、それを冷たく肯定していた]
…確かめないと…
[昨夜から着たきりだったTシャツを新しいものに着替え、階下に降りる。しん、と静まり返った共有スペースの端に置かれた電話に歩み寄り、昨夜と同じように受話器を取った]
………
[沈黙…半ば予想通りの展開に、吐息をついて受話器を戻す。そして、そのまま、寮を出ると校門の方へと向かった]
[校門に手をかけて、開けようと試みる。彼は知らなかったが、昨夜ショウが試みたのと同じように]
………ダメか。
[そして、ショウと同じようにその鉄の扉が開かないことを知り、試すように、腕を格子の隙間に差し入れる]
………!
[見えない空気の壁に突き当たるような感覚…そして、弾き返すような反発]
………出られない、か。
[それも又、驚くべき事とは思えなかった。軽く腕をさすり、桜の木を振り返る]
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