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あ……そうだ
[道中、寄り道して、野生の林檎を2つ手に入れ。ふらつきながら施療院へ向かう]
……えっと……多分、ここ、だよね?
[扉を叩き、応対があれば中へと入る]
― →施療院 ―
―回想・深夜―
[リディアの家を出れば、翼を広げ、地をけり、飛び立つ。
月の明るい、しずかな夜だった。銀の月に近づこうとするかのように、翼を鳴らして上昇する。島を一望できる高度まであがれば、黒々とした結界樹が見えて]
……行くか。
[翼を傾ければその身体は下降を始める。びゅう、と風が耳元で鳴った]
まぁな。
しかも、俺の幼馴染二人はどうしてこうも似て揃って自分を責めるしなぁ。
本当、気の休まる暇が無いぜ。
それで俺が「虚」に捕らわれたらどうしてくれるんだ。
[更に軽い口調で、片手を自分の腰紐に引っ掛けながら悪戯っぽく笑顔を見せた。]
―施療院―
[ノックの音に扉を開いたのは、老婆。しわに埋もれた目をさらに細めて少年を見つめる]
『……見ない顔だねえ。まあ、お入りよ』
[人好きのする様子で、少年を迎え入れた。]
……う。
[軽い口調の指摘。言葉が詰まる]
……ごめん。
でも、やっぱり……さ。
止められたはずなのに、って、そう思うと……悔しくて、ね。
[心持ち目を伏せ、視線を逸らしつつ。ぽつり、と小さく呟いて]
[開かれる扉の向こう、初めて会う老婆に、顔には緊張の色が浮かぶ]
うん……
[戸惑いながらも促されるまま、施療院の中へと歩を進め、物珍しそうに院内に視線を巡らす]
まぁ、悔しい気持ちを持つのはいいけどさ。
とりあえずこれから何が出来るか、だよなぁ。
[しつこかったらすまん、と小さく口の中で呟きながらラウルを撫でる指は止めずに。]
無差別に封じるわけにもいかないし。
長老に従うしかないのかな。
―深夜・結界樹―
[下降を緩やかにすれば、水の上に張り出した、結界樹の根の一つに降り立つ。森の中は、静寂。結界樹の緩やかな葉擦れの無数の音が、ひそやかに聞こえる。
つまずいたり落ちたりしないように、翼でバランスを取りながらゆっくりと根を伝い、木の根元へと近寄る。幹に、そっと手を触れさせた。ざらつく木の幹はどこか温かみを感じさせる]
……クローディア。見舞いに来たよ。
―施療院―
[ものめずらしげに院内を見回す少年を、しばらく眺めていたが]
薬師の道具が珍しいのか。
で、どうしたんだい。こんな朝っぱらから。誰か、急病かい。
……アタシが負けず嫌いなのは、アンタも知ってるだろ?
[冗談めかした口調で言って、小さく息を吐く]
これからできる事……か。
確かに、無差別に封じるのも危険さね。
今ある均衡が大きく揺らげば、ローディも結界の維持は難しいだろうし。
……気脈を読める力があるなら、『虚』を抱く者を見出して的確に封じる事もできるだろうが……。
その力を持つ者がいると知れれば、『堕天尸』もそこを狙うはず。出てくるにも、覚悟がいるだろうね。
うん。初めて、見る。
ううん。急病、じゃない……僕、ちょっとふらふら、するから。
……カレンさんが、診てもらうといい、って……言ってた。
[目の前の老婆と目が合えば、少しだけ婆様のことを思い出す]
あぁ、いやって程知ってるよ、この身に染みてね。
[アヤメの言葉には肩を竦めて両手のひらを空へ向けた。]
巫女さん封じられた状態で、護りの陣とかって大丈夫なのかね。
――気脈、か。
…体力勝負で術系はさっぱりな俺には良く分からないが…カレンとか治癒出来るなら読めたりしないのかね?
[先日治療されたばかりの、絆創膏の張られた自らの腕を見下ろして、独り言のように呟く。]
だろ?
[手を空へとむける様子に、微かに笑む。
話しているうちに、気持ちの張り詰めた部分は、多少は緩んだようで]
……あの子の精神力次第……かな。
いずれにしろ、長くは保てないはず。
聖殿に残ってる力を結界まで広げるとか、多少の無茶すれば少しは持つだろうけどね。
[あの場に張られている護りの陣の力。
四翼解放した状態であれば、それに干渉できるであろう事はわかっていたから、軽くこう言って]
……治癒の力で、かぁ。
どうだろうね、それは。『虚』の作用は心に響くもの。
身体の傷に関わる力では、難しいかも知れないねぇ……。
アタシの母上は、気脈を読み、その歪みを見出す力を持ってはいたが。
……生憎と、そっちの力は引き継げなかったからねぇ……。
母上?
アヤメの母さんか。
そいや、そういう話ってあんまり聞かねぇな。
そっちの力、って事は、親父さんの力は引き継いだって事か?
[きょと、と目を瞬いてアヤメの顔を見て、再びラウルの首筋を指で撫でる。]
何か出来る「力」があるって、良いな。
俺も何かあれば――親父もお袋ももうちょっと楽出来たのかねぇ。
[指に嬉しそうにするだろうラウルを目を細めて見るが、その目線の先はどこか遠く。]
―深夜・結界樹―
[見舞いに来た、と言ってすぐにぺしり、と木の幹を叩いた]
面倒ごとと心配を、ずいぶん残して行ったものだ。今日のアヤメやジョエルの嘆き方、知らないだろう。正直、こんな落ち着かないのは好きじゃない。何とかはしたいところだけれど・・・。
[声が蘇る。ジョエルの言った、守護の将の力の事]
……私には、その力はない。
[樹上を振り仰いだ。改めて捥いで見るまでもなく、知っていた。幼い頃、6枚の羽に憧れ、結界樹の実に触れたことがあったから。実は崩れ、手には何も残らなかった]
……虚に力があるのならば、染まれば、望むものも手に入るのだろうか。……なんて、な。
[清浄な空間にぽつりと呟きを落とし、銀の翼を伸ばせば、空へと舞い上がった]
ああ……ま、アタシの親の話はね。
しても、面白いモンでもないしさ。
[父は生まれて間もなく、母も五つになるかならないかの頃には病に倒れた事もあり。
特に父の事はスティーヴから聞いた程度の事しか知らぬため、話題に乗せる事は余りなかった]
……ああ、母上の話では、ね。
アタシは、そっちの血筋を強く受け継いでるらしい。
……「力」だけあっても、使えなきゃなんの意味もないさ。
それに、アンタはそんな力なんかなくても、十分色々できてるじゃないのさ。
[どこか遠くを見るよな目に。
ラウルは円らな瞳をきょとり、とさせた後、案ずるようにくるる、と鳴いて]
―診療所―
[じっと見つめてくるオーフェンの視線に、にやりと笑う]
急用でなく人を訪ねる時間ではないね。あの子の知り合いかい。あの子は今、水汲みに行ってる。これから朝ご飯にするところだったからね。あんたも何ならここで、食べていくか?
では、まあ診せてごらん。ふらふらはいつから始まったんだい。
[器具を用意すれば、診察に取り掛かる]
[遠くに焦点をあわせた目は、一瞬仄暗く彷徨ったが、ラウルの円らな目と声にはっと意識は戻り。
ふる、と頭を振った。]
すまん、愚痴っぽかったな俺。
でも無いよりはいいんじゃないか?どんな「力」でもさ。
俺は、色々なんて出来てやしねぇよ。
毎日に必死だ。
[苦笑を零した後、再びからりと笑って頭を掻いた]
あぁ、また愚痴っぽかった、すまん。
−岩場の上−
[ささくれ立つ翼と感情。
両方を整える為、いつもの場所で羽の手入れをする。
雲海を臨む岩場は近づくものなく、独り呟くのに向いていた。]
………まったく。情けないものだ。
[思い起こすのは、広場での出来事。]
うん。知り合い……かな。
そっか、いないんだ。
[老婆の言葉に小さく頷いて、朝ご飯と聞けばお腹が鳴る。診療が始まれば、大人しく一つずつ指折り数え、首を傾げる]
んと……みっか、よっかくらい……
ううん、もっと前、だったのかも。
謝りなさんな、って。
アンタは普段、人の愚痴とかはよく聞いてるけどさ。
自分のは滅多に吐かないんだから、出せる時には出しとくのがいいんだよ。
[笑いながらの言葉に追従するよに、ラウルもぴいぱた、羽ばたいて]
ないよりマシ……か。そうかもね。
問題なのは今、それをどう使えばいいのか、アタシ自身が迷ってる事だけどさ。
……毎日必死、か。
でも、そうやって打ち込めるもの、入れ込めるものがあるのは、いい事だと思うよ……?
[最後の部分は、ぽつり、と小さく]
や、長男の俺が愚痴ってる場合じゃないからなー。
力をどう使うか、か。
んー、俺にはそれは…無責任だが、なんともアドバイスしてやれないなぁ。アヤメがやりたいようにやるしか…無いんじゃないか?
大丈夫、誰も文句言わないよ。
[人懐こく目を糸にして笑みながら、ラウルを撫でていた指を少し落としてポンとその肩を叩き]
打ち込める事…つか、俺の場合生活だからなぁ。
何か打ち込んで忘れたい事でもあるのか?…あの軽い男の事とか。
[最後の言葉は勤めて明るく]
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