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[頭を無造作にかきながら、利吉が旅籠の1階に移動する。
そこには、先程までの利吉同様に所在無さげにあくびをする猫一匹。
それから、覇気のよさそうな主人が一人。
利吉は、猫から伝染されたあくびをもらしながら、主人に近づいた]
ふぁ〜あ。
よー。腹減った。
『……お前なぁ。こっちだって慈善事業じゃねえんだ。
そんな何度も何度も何度も何度も、ただ飯食わせるわけにはいかねえんだよ』
いやまあ、言いたいことは分かるが、俺、金ねえんだ。
『んじゃ、水でも飲んでろ』
それは、実家にいるときによくやってる。
後、小麦粉舐めたりな。
[何故だか可愛そうな人を見つめるような目で見つめられた。
なんとなく、猫からも見下されてる気がする]
『……お前。もうちょいなんとかしたほうがいいぞ?』
なんとか出来るようなもんならなんとかしてるさ。
まあ、男一匹、それなりに生きていけるもんさ。
『生きていけねえから、そんな状態になってるんじゃないか』
それを言われると辛い。
[言いながら、またくしゃくしゃのタバコを一つ取り出して、図々しくもカウンターに座り込んだ]
まあ、んじゃ、希望通り水もらおうかな。
後、塩でいいや。
『……』
[やはり、自分を見る目が哀れみの目に見えるような気がする]
[慌てたように首を振る綾野にクスリと笑う]
そうだよ、父さんも張り切っているんだから。
綾姉の晴れ舞台を自分の細工で盛り立てるんだって。
[人差し指を立てて念を押す。
秒の沈黙の後、二人は顔を見合わせて笑った]
当日、楽しみにしてるからね。
お祭りにって戻ってくる人達も絶対に驚くよ。
それじゃ、またね。
[笑い余韻を残したまま、畳から立ち上がる。
鞄を抱え直し、バイバイ、と手を振って外へ出た]
[村の規模から、泊まりになるようなら最悪野宿を覚悟していたのだが。]
こんな小さな村にも、旅行で来るやつがいるのかね…?
[あっさり見つかった旅籠に、独りごちる。]
[ギィ、と軋むドアを開けて、中へ。]
[薄暗い屋内に、一瞬目を瞬かせる。と、]
…ん?
『ほらよ』
[注文してから出てきたのは、希望通りの水。
それから、野菜屑で作った野菜スープ。それとひとかけらのパンだった]
お。いいのか?
『……うちの宿で餓死されても、評判悪くなるしな。
……ったく。俺もまだまだ甘いな……』
[食うに困らない、とはこういう理由らしい]
悪いね。んじゃ、いただくよ。
[言って、口にくわえたタバコをギュッと握り締めて消すと、粗末ながらも、利吉にとっては豪勢な食事にありついた]
[利吉が、一度二度、目をまたたかせて、その人物を眺めると、パンを飲み干してから口を開いた]
聡……か?
お前、何してんだこんなところまで?
何でも屋の仕事はどうした?
あんたこそ探偵の、
あー、いやあって無いようなもんだよな、あんたに仕事なんて。
俺は…[言葉を濁す。「呼ばれたような気がしたから」なんて馬鹿々々しくて言えない。]
別にいいだろ。
あんたなんでここにいる?
俺はまあ……なんつーんだろうな。
依頼っちゃ依頼かな。
お前も知ってんだろ。
あの警官の兄ちゃん。
ほら、よくお前をしょっぴいてたあいつ。
あいつから、この村で何かが起きる、みたいなこと言われてな。
そんでまあ、特にやることもないし、旅行がてら、な。
[しばらく集中していたが、滑らせていたペンを止め、大きく息を吐いた]
残りは、明日。
[少し疲れたような表情で呟き、道具を仕舞うと自宅へと入る。既に母親が畑仕事から帰っていて、今日採れた野菜を旅籠に届けて欲しいと頼まれた。体調が優れないなら自分が行くからとも付け足して]
ん、持って行くくらいなら大丈夫。
行って来るね。
[部屋に道具を置いてから、持って行く野菜を籠に入れて自宅を出た]
8人目、学生 涼 がやってきました。
あいつのか…
[苦い顔をする。その警官と利吉には何度か煮え湯を飲まされている。]
何かが起きる、ね。ったく、相変わらず暇だなおっさん。
[スタスタとカウンターに寄ると、二人の会話には興味なさ気に新聞を読んでいた主人に声をかける。]
飯をくれ。
『こちらで?』
おっさんの隣じゃ飯が不味くなる。弁当かなんかあるか?
『ちょっとお待ちを。』
[主人は短く言い置いて、奥に下がった。]
あー、もー、サイアクー
お土産とかいうしー……まー仕方ないかー。
[電源切って、ぽいっとバッグにしまう。いちおー持ってきた電源は、かなりムダになったっぽい。地図もプリントしといてよかった。そうじゃなかったらぜったい、迷う!]
えーと、こっちから来たんだしー、
……よく考えたら迷うわけないじゃんああもう!
[その言葉には、少しも気にせずに、利吉が話を続けた]
それにしても、聡。
おめー、またあいつがぼやいてたぜ?
ヤンチャしすぎんなってよ。
俺も、まあ、人のことは言えねえから、なんも言えずに、うむうむ、とか適当に頷いていたがよ。
ま。俺にとっちゃ、お前みたいな若い奴は、少しぐらい無茶するぐらいが丁度よいと思うがね。
死なねえ程度に適当にやってみればいいさ。
[言いながら、野菜スープをズズリ]
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