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…我がないと言い続ければ、それはそなたの真になろうか。
それとも、心見えぬであれば、あろうとなかろうと変わらぬか。
[己に問うよに零した後で、はたと琥珀に光が戻る。
慌てふるると首振れば、髪から雫が飛び散るや。]
此方は其方の望むがままに。
それが此方の在る意味なのだから。
心なくば唯のひとがたに過ぎぬ、
心あるとは即ちいきる事。
全ては何を望むか、それだけよ。
[謎かけのような言の葉に真意は見え難い]
来たいと望むも、居とうないと逃げるも。
理通じぬこの地では、さても変わりはせぬじゃろか。
なれば理知るは天狗のみ。
やれ、用も意味も消えし神巫に問わねばわからぬか…。
[謎かけのよに紡がれし声に、出した答えは正か誤か。
傘掲げられれば、眉しかめ急ぎ立ち上がり。
そなたがが濡れると手を重ね押し戻せば、相合傘となるだろか。]
[囁くよな声は白の君の耳には聞こえまい、
いやいや届かぬと知るからこそだろか。
望みにこたえし異形の女はさて何をおもう。]
さぁて、
目的は違えど手段は同じ、
それを異なると見るや否や、
ただここにて何をおもうかが大切かな。
[手に手を重ねれば捕らえるように]
ゆきましょうか、かえりましょうか。
――おっと、今は戻るしか出来ますまいか。
[謎かけ深く噛み締める。
考え込みつ返す言の葉は、波紋を生むか、惑いとなるか。]
心無くば悩みもなかろうに。
されど、それこそが生きると言うか。
なれば、そなたもそなたたれ。
…我になど在る意味あずけてはならぬよ。
[最後の一つは苦笑と共に。]
…そうじゃな、此処にあるは変わらぬか。
さてさて、何をおもうも我は迷いしばかりよ。
そが天狗の目的たれば、さぞかし歯痒う思われようて。
[捕らえられれば、琥珀を細め、]
ああ、ゆくもかえるもまだ出来ぬ。
なれば戻りてゆくもよかろ。
[朱唇震うに誤解して、はよ館へと促すか。]
さてなはてな、
此方は此方、其方は其方。
ひとりはさみしけれども、
ふたりはこいしきものね。
[くすくすと、声はわらうようでなくようで]
迷うもまたいきるがゆえにて、
せいぜい道を選びしその時まで、
今のままでおありなさいませな。
ひとりはさみし…
ふたりはこいし…
…我でも寂しさ埋められようか。
[それはどちらの寂しさか。
ふたりであればどちらもか。
わらうようななくような声に、琥珀は惑いゆら揺れる。]
ああ、我は我以外にはなれぬ。
それもまた……じゃな。
[紫黒と朱色弓なれば、僅か唇綻ばせよう。]
空は素直だね、
なきたいときになく。
[重ねていた片手を離して]
埋められようよ、きっと。
左様に望むのであれば。
[傘はそのままに歩み出す]
……素直になるは、あな難しいや。
[誰に言うでもなく呟いて、琥珀を伏せる。
離れぬように、衣触れて濡らさぬように、歩みを揃え戻りゆく。]
〔雨にますます白にけぶる野をゆきて、
二輪の花が並びて館へと戻り着けば、
童子ら笑みを浮かべつつ迎えよう。
傘を畳み差出される布を手に取るも、
深紫の髪にも藍墨茶の衣にも滴なく、
けれど尚も女は顔にそれを当てる。〕
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