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[ 呆然としていた瞳に光が戻れば漸く足を緩慢に一歩を先へ、広間へと踏み出す。其処に数日前までの平穏な光景は無く、血塗られた凄惨な姿を曝していた。
視界の端で神父が形式的な聖句を唱え十字を切るのが見えたが、其の祈りは果たして天まで届くか、果たしてナサニエルが望む様に柔らかな微笑を湛えた彼女の元へと逝けたのか。――往く先が天の国であるならば、此れが均衡を喪った人間の本性の表れだと云うのならば、此処は正に地獄と云えようか。]
……同じでは、有りませんよ……。
[ 呟いた言葉には昏き思考の海に呑まれゆく男には届いただろうか。]
[ 然う、異なるのだ。己が為に食を欲して生を喰らった彼と憎悪の感情の果てに生を奪った男とでは。]
……此方の方が余程生産的だ。
[ クスと哂う聲。嗚呼、もっと喰らってやれば良かったか。]
[ 物云わぬ亡骸と成り果てた少年は仄暗いランプの光に照らされ、流れる緋色は敷かれた絨毯にジワリジワリと染み込んでいく。其れは恐怖と狂気が人々の心に沁み込んでいくが如くに。仰向けに横たえられた少年の瞳の濁りを交えた緑玉が未だ薄く覗いているのを見留めれば、そぅと其れを閉じさせる。最期に少年が見たのは憎悪の焔に燃える情景だろうか。]
……メイ?
部屋、戻っとけ。後は、任せて。
[ 永遠の睡りについた少年から薄紫の瞳から涙を零す少女へと視線を移して紡ぐ言葉は、此の様な時でも――或いは、だから――無器用なもので、唯、静かに声を掛ける。*僅かに揺らめきを持つ其の双瞳を彩る色は、何の感情を示すか。*]
[ 夜は人間に睡りの時を齎し獣に覚醒の時を促し、其れは無論人狼たる彼も叉例外ではなく、今宵も天に煌めく月は彼を誘うかの如くに光を零す。
余りにも唐突な死の訪れから暫しして、人々は思い思いに散り館内には静寂が訪れた。疲れた躰を休めようと目を閉じる彼等は一体何を想うのか。或る者は深き闇へと捕らわれ、或る者は深い哀しみを胸に抱き、或る者は瞳に決意を宿して。
――そして今宵も、彼は仄昏い欲望の焔を奔らせる。]
[ 獣の鋭き嗅覚と聴覚とが捉えたのは、血の匂いを僅かに漂わせる黒衣の神父。夜更けに行動するのは危険だと理解していただろうに、先程の事件が情を持った男の判断力を狂わせたか、己を慕う少女も連れずに一人奥まった部屋へと向かっていく。其れは幾度か訪れた筈のアーヴァインの部屋。現場百篇とは云ったものか、己が“推理”と合わせ何か犯人の手懸りを得ようとして来たのだろう。とは云えど流石に警戒は怠らず、扉の開閉音の後に聞えたのは施錠の音だった。
然し彼は気にした風もなく足音を潜ませて扉の前まで歩み立ち止まる。ノブに手を伸ばし僅かに力を籠めて其れを回せば、パキリと妙に軽い音を立てて鍵は玩具の様に砕けるも防音の施された他者の部屋に其の音が届く事は無い。]
[ 警戒の隙も与えず扉が開けば、詰襟のローマン・カラー姿が見えた其の瞬間、彼は即座に其の首に獣の手を伸ばす。本来の『異端審問官』たる男であれば対処も出来ただろうが怪我をした身に其れは些か辛かった様で、獣の力に容易く喉元を締め上げられくぐもった呻きが洩れた。
カーテンは開かれるも吊りランプの灯を燈す間も無かったが故に、室内を照らすのは窓から差し込む月の光ばかり。薄闇の中、彼の薄い口唇に浮かぶ艶然たる笑みと月を宿した金色の双眸が男の視界を埋めた。]
……今晩和、ルーサー神父。
[ 後ろ手に扉を閉めながら挨拶をする彼の声はあくまでも柔らかい。衝撃に黒の丸縁眼鏡が小さな音を立てて落ちるも、腕に抱えた聖書だけは離さなかったのは聖職者の意地かと思われたが、其処に銃が収められているが為だと彼は察していた。幾つもの生を奪った血塗れの拳銃を。だからこそ直ぐ様其れを取り上げようとしたが、男が聖書を持たぬ手を己が首を締める腕を掴むのを見留めれば、装填する暇が無かったのは明白だった。刻まれた笑みが深くなる。]
[ 男の首にもう片方の手を添え、直ぐには壊さぬよう、貴重な人形を扱うが如く細心の注意を払いながらも逃れられぬようにと力を籠める。]
ああ、そうそう。見ましたよ、“処刑場所”。
彼処で――彼の敬愛する姉の前で殺すだなんて、神父殿も人が悪い。
しかも、肖像画にまで穴を開けて。
死者を穢すだなんて、聖職者のやる事じゃありません。
[ 声の調子は何時もと変わらねど、紡ぐ言葉の裏の潜む毒は云うまでもない。]
お前は唯、神の代行者を騙る醜い人間に過ぎない。
[ 一転して冷徹に放たれた声は、先日広間で会話を交わした際の冷えた視線を思わせる。然し其の内に在るものが獣ではなく人の感情だと、彼自身は気付かない。]
[ 窒息死をさせてしまう前にと、寝台の上へと男の躰を抛り投げた。其処の本来の主は奥の壁に其の躰を凭れかけさせた儘に白い――現在は黒んだ赤に染まった――敷布の下で睡り、共寝をした売女は他の男の部屋に其の肢体を横たえる。
寝台の角に負傷した肩がぶつかったか其の眉が顰められ、漸く呼吸を取り戻し幾度か咳き込みながらも身を起こそうとしたが、寝台に乗れば其の肩を容赦無く体重を掛けて踏みつけた。銀に煌めく爪を顎下に軽く立ててゆっくりとずらせば服が裂け喉には薄らと赤い筋が残り、艶やかな微笑が彼の口許を染める。
己を見下す獣を見詰めながら荒い息の合間洩らした男の声に、彼は目を眇めた。]
復讐? ……違うな。
其の様な下らない事はしない。何せ俺は、人間ではないのだから。
唯、己が生存する為に喰らうだけだ。当然の、本能だよ。
[ 彼の言葉に男は何と答えたか何の様な表情を浮かべたか、其れはよく憶えていない。唯、苦痛に耐えながらも其の手から聖書は離さず、寧ろ己の生が此処迄かと悟れば余計に強く、希望を抱くが如くに両の手で其れを抱え込もうとする。]
……ああ。そうか。
[ 不意に彼の表情が恍惚の笑みから茫としたものに変わる。]
信じているのか?
[ 其れは誰に、何に対しての問い掛けだったかは明白では無い。]
[ 返る言葉も待たず再び口許を歪めれば、其の爪先は喉を掻き切るのではなく、男の両の手を順々に貫く。散る あか が聖書の革表紙を濡らしていく。他を無防備に曝しながらも其れだけは護り続け、矢張り手を離そうとする気配すらない。]
不要な力等持っても、正しく扱えるかは解らないと云うのに。
今日の惨劇を、再び引き起こすかもしれぬと云うのに。
[ 酷く愉しそうに何処か哀しそうにクツクツと零れた嗤い聲は嘲笑か賞賛か。]
……さようなら。“ルーサー神父”。我が同族を殺した男。
[ 別れの言葉を告げれば肩を踏みつけていた足で喉を押さえ、躊躇い無く心臓へと突き立て肉を抉り深く深く穴を穿ち、引き剥がされた敷布の行く末と同じ様に其の寝台をも真紅へと染めていく。周囲に舞い散る花弁だけは、其の色を保って。]
[ 軈て男の意識が朦朧とし始め抵抗する力を完全に失った――尚も聖書は抱くが――のを理解すれば其れは食事の始まりを告げる合図。黒銀の狼と成りし彼は、先ず希望を抱く其の腕へと牙を突き立て、食み、啜る。好きなだけ空腹の癒しを望むだけの喉の潤しを求めて男の躰を喰らっていく。
神の御使いである筈の此の男を救う者は誰もおらず、神の背反者である筈の其の獣を罰する者も誰もいない。唯、獣の所業を見詰める月も叉、其れを咎める事は無い。*ならば、彼を裁くのは誰であろうか。*]
─広間─
[呼びかけに、緩慢に顔を上げてそちらを見る]
う……ん。
[こく、と頷いて、それだけ告げるものの。
不安や、諸々の感情に基く無意識だろうか、手が、伸びて。
縋りつきそうになるけれど]
……っ……。
[それを押し止めるように走る、微かな痛みに、その手は左の胸へと置かれる]
[不自然な動きに気づいてか、訝るように名を呼ぶ青年に、なんでもない、と早口に返し]
……部屋……戻る……。
[呟いて、立ち上がる。今は、自分は独りの方が、いいと。
そう、思えたから。
それでも、立ち去り際]
ハーヴェイ……。
ハーヴェイは……しなない……よね?
[思わず、問いがこぼれて。
でも、答えを聞くのは何故か怖くて。
逃げるように二階へと駆け上がり、部屋に飛び込むと、感情の赴くままに、しばし、泣きじゃくって。
そのまま、いつか、眠りに落ちていた]
─二階・自室─
[そして。
翌朝]
……ん……。
[弱々しい朝の光。
それが眠りを破って目覚めを呼び込む。
前夜の一件の疲れが残るためだろうか、目を開く時に警戒心はなくて]
…………あ。
[開いた目。
異能の視界。
そこに映るのは]
神……父……様?
[掠れた、声が、こぼれる]
[視えたもの。
それは四肢を損ないつつ、それでも、聖書を抱えた姿で]
─『聖書』を。貴方に託します─
[聴こえた声は誰に向けられたのか。
彼と共にいる事を好んでいた少女だろうか]
……ねえ。
ボクは……どうすれば?
[問いは、何者に向けて投げられたのか。
少なくとも、今、視えるものではないだろうけど]
……もう、誰も…………なくしたくない……よ。
[呟きの後、目が閉じられ。
開いた時には、視界はいつもと変わらないものに]
…………。
[しばしの、沈黙を経て。
準備を整えて、下へ。
重苦しい静寂の漂う館内を歩いて、*浴場へと向かう*]
-広間-
[開かれたままの扉から、室内へと。
彼女が騒ぎの現場にたどり着いた時には、既に少年は動いていなかった。
床に投げ出された小さなナイフ。血にまみれた少年を抱く男。
状況についていけず、目を瞬く。]
もう、誰も死なないって……
[人狼は死んだ。
では何故、少年は血に濡れて動かないのか。
”俺が殺した”
そう言った男を食い入るように*見つめた*。]
[気が付けば、]
[あの少年][トビーと言った][の泊まっていた客室に居た。]
[ぼんやりと寝台に腰掛け]
[あの少年が飛び出して行った時の儘の]
[寝乱れたシーツ][乱雑に捲くれ上がった上掛け]
[見開いた目で]
[宙空を虚ろに見つめる。]
[ 穢れた体躯を拭く物は幾らでもあったし、昼のうちに屋敷内の構造――通風孔の存在を含め――は熟知していたから、脱出自体は然う難しくは無かった。然し緋色を洗い流す作業までは矢張り少々骨が折れ、同族はよく此の様な事を幾度もしていたものだと、妙な処で感心する。然れど其の危険性を含め、狩りは愉しいのだが。]
―ニ階・客室―
[ 目覚めは変わらず、余り快適ではない。朝早くに風呂を済ませれば薄手のタートルネックとジャケットに着替え、広間に出向くでもなく、客室の寝台に腰掛け昨日同様煙草を吹かす。揺らめく薄い白を見詰める黒曜石の双瞳も叉揺らぎを持つか、煙と共に吐き出される深い息。]
死なないよね、か……。
[ 昨晩、メイの口唇から零れた問い掛け。青年が答えを紡ぐ前に彼女は逃げる様に其の場を去っていったけれども、若し回答を待たれたならば自分は何と答えたか。死なない、と断言出来ただろうか――此の館において、死は身近だった。
数日前、ピアノの旋律を聴いた事が遠い昔の様に思える。麓からの救援は、未だ期待出来そうに無かった。]
其れが何を意味するか、解っていないんだろうな。彼奴は。
[ 彼は死なない事は即ち、悪夢の終焉は訪れないのだと云う事を。
零れる聲は誰に聴かせる為のものでもなく、唯、獣としての彼が思考する際には此の方が何故だか落ち着いた。“ハーヴェイ”が分離されるかの如き感覚。其れでも何方の彼も、自身には変わりなかったが。]
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