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[廊下の向こう、聞こえた声に視線を向ける]
ゼルギウス………
[その目を子供は知っている。ひとごろしの目。人狼とは別の、壊れた人の目]
ナターリエの残した…?
教会関係のものか。
[ゲルダの応えに箱に叩きつけられる箱に視線がいく。
それはきっと特別な意味を持ったものなのだろう]
…俺のものにはなってないよ。
だって、イラナイものになったから。
イラナイものは コワサなきゃ
[問われた言葉に首を傾げるようにしながら答える]
[その間も、浮かぶ笑みは狂気に彩られていた]
[子供は、無意識に、ウェンデルの袖を掴もうと、手を伸ばす]
だめ………
[近づいてはいけない、人狼ではない男に対するそれは、青い花の警告ではなく]
[ゆっくりと。
歩み寄る所作は、傍目には酷く無防備だ。
遠目では、既に乾いた跡が見えていたわけではないだろう]
ならば。
何故、要らないものを大切に抱くのか。
棄てればいいのに。
そして。
何故、泣くのか。
[主を失った箱は、いとも簡単に、音を立てて木片となる。
中には随分と古ぼけた紙と、十字架と鎌の装飾の為された聖銀が一つ]
…。
[紙を広げて目を通せば、「場」のシステムのこと、それぞれの異能についての記述]
……花?
[今更ながらに、その存在を知った異能もある]
[金が歩み来る様子]
[青灰が金を止めようとする様子]
[それらを見ても、彼はその場から動かなかった]
婆ちゃんの所に置いたままじゃ、婆ちゃんが気味悪がるかと思って。
だから、退かしただけだよ。
…泣く?
どうして、俺が、泣かなきゃ、ならない?
[不思議そうな表情]
[先程自分が雫を零したことには全く気付いていないような雰囲気で首を傾げた]
俺も、見せてもらっていいかな。
[ゲルダの傍に寄り、広げられた紙を覗き込む。
一抹の不安。けれどそれよりも今は知識の方が欲しい。
できるなら最悪を選ばずに済めばと]
人と、場所と、時…。
[能力者のそれぞれも、ここで正確なものを知る。
知っているままだったものも、知らなかったものも含めて]
…。
[息を吐く]
そう思ったから。
自分なら、そうだろうと。
それだけの話。
[壊してしまったものは、戻らない。
自分だって既に、壊れているのだろうと思う]
[ゲルダの横から紙に目を通しながら、
場のシステムについては]
ライヒアルトが言ってたな。
[花というつぶやきにエーリッヒに視線を向けて]
ウェンデルとエーファのことか?
[以前に見たことあるウェンデルの手の朱花と、
エーファに対するエーリッヒの言葉合わさり二人が合致する]
[子供の手は、振り払わずにいる。
それとも、振り払えないのか。
捕まれているのは、左の袖。
朱い花は供物に満足したのか、今は眠っている]
壊したのは、私ですから。
[目的の為なら、気にする事もない。
先の自分であれば、そう思っていたかもしれない]
そう。
[返された言葉には短い返答]
[興味の薄い、軽いもの]
俺、着替えなきゃならないから、失礼するよ。
[歩みは出て来た部屋の隣へと]
[今は彼らをどうこうするつもりは無いようだ]
壊した………
[ウェンデルの言葉に、子供は目を伏せる。けれど手は離さぬまま]
みんな、壊れる。
ウェンデル、だけのせいじゃない。
[言ってから、自分の言葉に驚いたように、子供は目を瞬かせる]
うん。
あたしだけが読んでも、分からないこともあるかもしれないし。
[紙の角度を傾けて、エーリッヒが覗きやすいようにと。
ウェンデルと、エーファ。
マテウスの疑問を、鸚鵡返しで口にして]
…花の二人が動いてるってことは。
終わってない、ってこと?
[部屋の中を見回して、ぽつりと呟く]
ああ、そうだよ。
[質問よりは確認に近い問いとして聞こえた。
だから素直に自分の知る事実を口にした]
朱花抱くウェンデル。
蒼花抱くエーファ。
だからあの二人は、間違いなく人間なんだ。
ここにある通りにね。
[そうした「人」が集まる。能力を持った者達。
闇の血を引く、者達。
……者、ではなく]
そういうこと、みたいだね。
[ゲルダの声に、深い溜息を吐く。
寝台の方に視線を移す。未だ眠る老婆]
……最悪だ。
[口に出すつもりは無かった。
けれど低く小さく囁くよに、それは零れ落ちる]
[ゲルダの言葉に]
人狼が二人以上いるか…ベアトリーチェが違うってことか?
[そのいずれにせよ先のことは考えたくなかった、
そしてふと疑問に思ったことをひとつ]
牙を守るものって…誰なんだ?
エーリッヒ。
貴方も、間違いなく人間でしょう?
イヴァンが、そう言っていたし。
ナターリエが、裏付けていたし。
[裏付けは、実際には幾分曖昧なものになっているが。
その事実を理解してか否か、首を傾げて問いかける]
…重ねていたのは、僕じゃないか。
勝手な事を、思っていたのだって。
[自嘲。
奥底では理解していた事を、言葉にする]
[立ち去る男から視線を外して、目を瞬かす子供を見下ろした]
………。
珍しい事を言う。
[終わるから、大丈夫。
そう、子供は言うのかと思っていた]
[振り返ること無く自室の扉を開け、その中へと足を踏み入れる]
[扉がぎぃと軋みながら廊下と部屋を遮断した]
─二階廊下→自室─
[寝台の横に立ち、紅で汚れた上着を脱ぐ]
[最初鮮やかだった紅は、もうどす黒くなり始めていた]
[上着を脱ぎ終えると迷うことなくそれを暖炉へと投げ入れる]
[そしてそれを火種にして火を灯した]
[あの服には刃に塗った致死性の毒も付着している]
[自分がそれに触れて命を落とさぬための処置だった]
[しばらくはパチパチと爆ぜる薪を眺め、刻を過ごす]
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