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[アーベルを見て、かすかに笑った。]
迷惑など、考えないで下さい。
わたしの望みもあります。
あなたの望みも。
必要なものが一緒なのですから、負担などは気にしないで下さい。
[己の喉にもある刻印を意識する。人の世に降りる時につけたしるしは、少し苦味を持っているようで。]
わたしが助けられることでしたら、いつでもお助けいたします。
荒事になる前に、お声をかけてください。
[ 一時、その色を移ろわす。]
――触れるな。
[ 光の如く温かくも闇のように冷たくもなく、虚無でもない。月闇竜の手には、何かが蠢く感覚が纏わりついたろう。
それすら許したのは一瞬、影の手を、その手を払わんとさせたが。奧に在る眼は見せはせぬ。]
お邪魔してしまったかな。
[視線を合わせぬように、けれど完全に逸らす事なく青年は近づいていく。影輝の纏う衣装と違い、抑えられた風に黒に近い紺の上衣の裾と広口の袖が揺れた]
あれからどうなったか、話を窺える方を探していたのですが。
ギュンター殿とはあいにく会えず此方に。
[ギュンターの事を聞けば納得したように頷いた]
……失礼。
けれどオト殿、影に踏みいっても、
よいことはありませんよ。
[ 一転した声色は、幼児をたしなめる響きを持つ。]
月と輝き、闇と影は近しくも、
異なる存在なのですから。
申し訳ありません。
[触れた感覚は何なのか。
理解することはなかったが。
それは不快であったのだろうと、頭を垂れて。]
お怪我をなさったのでは、ないのですね……?
[僅か心配げな響きをもった声が零れた。]
[近づききる前に起こった光景に青年の口元に浮かぶ笑みは消え、光を反射するレンズの奥で二人の様子を観察するように紫紺が見つめる。
直に何事もなかったかのように近づき、話しかけたのだが]
異なる存在であるとは、存じております。
[声音に何を思うか、まなざしを伏せ。]
知りたいと、わずかに思ってしまったのです。
無作法をお詫びいたします。
[それから近付いてきた精神の竜に頭を下げ、挨拶を。]
側近殿はお忙しそうでしたから。
[そうして聞いた話を、口にした。]
いいえ、そのようなことは。
此処は皇竜王の居城、
誰かが占有出来るものではありません。
[ 訪れたアーベルに答え、ノーラは首を傾ける。問われる侭に、影の語れる事を述べる。
その黒き瞳は、真なる色を知りはせぬ。]
[影輝の竜がいたから完全に月闇の竜の瞳を見る事はなく、けれど視界の端と心の気配でその笑みはわかった。
ありがとうと温かくなる心を返し、だが手を振り払われる様子に口元の笑みは霧散する]
……怪我は?
[見た限りなく、心の動きに痛みが見られない事を確かめて歩みを戻す。そうして何事も無いよう心話でなく話しかけたが、紺碧の瞳は彼女の指先に向いていた]
[訪問を詫びる言葉に返る竜達の言葉に感謝を込めた会釈を向け、それぞれからギュンターや他に見知った事柄を聞く。
その間、何も尋ねはしないけれど青年の指は月闇の竜の払われた指先に向いていた]
………そうでしたか、ギュンター殿がそのように。
若焔殿とはまた別に手掛かりを求めるべきでしょうね。
難しくはありますが。
竜郷を滅ぼす事が目的なら、十五竜王を封じた時点で逃げてしまった可能性もあるかもしれない。
[今は薄曇の、だが不安定さは隠せない天を見て呟く]
[視線がどこへ向いているのか、理解するとそっと指先を曲げ、伸ばす。
心配してくれているのだろうかと、嬉しくもあり。]
――さすがに滅ぼされるようでしたら、いくら王の方々であれ、面白がりはしないのではないかと思います。
若焔殿?
[何故だろうと尋ねる。
名は知ってはいたし、姿を見てもいたが。]
[じっと、何時から心話を聞いていたのか。
二人の話す声を聞きながら、途切れた所で口を開いた。]
アーベル。
聞き忘れたけどよ、そっちの望みってのは何だ?
[口調は存外軽いものの。
探るようなものは隠さなかった。]
[再び戻した視線は月闇の指先を見て、問題ない様子に流れるように問いを向ける彼女の喉元へ移ろう]
……えぇ。
触媒を使って何か――恐らくは結界からの手掛かりを追っているようでしたから。
[若焔が結界の専門家である事と回廊に漂う香りの説明をする。
そうして結界つながりで影輝竜から内側からの強化の話を聞けば僅かに安堵の気配を滲ませて頷き、眼鏡のブリッジを袖から半ば覗く指先で軽く押し上げた。銀鎖と透明な青玉の付いた封印の指輪が煌きを零す]
何を手掛かりに探すにしても、結局は目的次第かもしれませんね。
[呟きは西殿を向いて、夜の砂漠のように静かに*零された*]
[大丈夫である事を確かめて口元に笑みが戻り、不意に届いた生命竜の心話にも変わらず笑み続ける]
――…自由に。
私の『願い』はただそれだけ――…
[探るような響きにも、心の声はいっそ穏やかなまでに*静かに*]
[ゆらゆらと。
たゆたう水の流れに身を任せるがごとく、当ても無く歩いてみれば、その先には、3人の随行者が集まっているのが目に入る]
……誰も彼も、全員お硬そうな人達ばっかりだねぃ。
これもまた流るる水の導きか。
[呟き、その歩みをゆるめることなく、月、影、精神の属性が集まる場所へと進んでいった]
御機嫌よう。みなさぁん。
そちらのほうで、此の方の原因は突き止めておられます?
触媒ですか。
……なるほど。結界からの。
結界から、読み取れるものがあるのでしょうね。
[知らずに光る腕輪に目は動き、]
そうですね。
[そのまま目を離した。
一度西の方へと、つられて向いて。
そこにいるであろう王の言葉は、今はないけれど、内部の様子を思えばため息が零れるのは仕方の無い話だった。]
―中庭―
[やってくる気配に気付くのは、少し遅く。
声をかけられる直前にそちらを向いて、立ち上がると頭を下げた。]
流水の随行者殿ですか?
原因を何であろう、探ろうという話をしておりました。
[今までの話(それにはギュンターからの情報も含まれる)を、ナターリエへと伝える。]
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