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― 中庭 ―
[挨拶は咽を震わすことはなかった。
浮かべた微笑は頭を垂れる事で隠れる。
再び双眸で彼女を捉えた後、木を見上げる人影に視線をやった]
――…。
[視線が合えば、アナスタシアにしたように頭を垂れて、そちらにゆっくりと近付き]
― 中庭 ―
[木から視線は外れて、こちらに近づいてくるひとへ向いた]
…… えぇと。
[彼の人と会うのは初めてだっただろうか。保護者がいる時は、挨拶も大概そちらに任せていた。
記憶を巡らせつつ、目線には少しばかり緊張も滲ませて]
[相手の表情に気付くと、口元がわずかに苦笑に変わる。
数歩の距離を縮め、口唇を湿らせる。
そっと口を開く。しゃがれた声]
危害は加えない
――君も、呼ばれたのか。
[空気を震わせた時、己の声に僅かに顔をしかめ]
[しかめられた表情の意味は知らない。
ただしわがれた声の意味を解するのには、少しばかり時間を要して]
へぇ。
[ややあって気の抜けたような肯定]
んと、……はじめまして、でよかんべ?
おれ、ロランいいます。
[確認を入れてから、名を告げた]
[初対面を問う声に肯定を返すのは肯くことで。
名乗りに、再び口唇を湿らせる]
――…レイス、だ。
種族は
[続く言葉は恥じるように掠れた]
セイレーン。
……ロラン、は。
レイス、さん。ん。
[名乗られた名前を繰り返して、こくりと頷いた。
種族を問う声には、やや首を傾げて]
おれは、おに……うん、
鬼、って、いわれる。
[何処か曖昧に返しつつ、にへっと笑みを浮かべる]
セイレーン、っつうと、海にいんの?
[問うてみたものの、他種族に関しての知識については保護者からの又聞き程度しかない。
故に、異質な声に疑問を抱くようなこともなかった**]
[当時に詳しいヒトならば、捕らえられ麗しい歌を喪ったセイレーンの噂は聞いたことがあったかもしれない。
ロランの様子に彼が何ら違和感をおぼえていないのを見て取ると、小さく安堵の吐息をこぼした]
おに。
東方、か。
[曖昧な態度のロランから、視線をアナスタシアへ向ける。
彼女は魚に気付いた頃だろうか]
――…北の方の海に。
わたしは光のない深い場所で、暮らしている。
[わたしは。前置きをして微笑んだ。
他にヒトが来るのを認めれば、それはすぐに消え、そっと頭を垂れるのだった**]
― アナスタシアの屋敷・自室 ―
なるほど、と、結構集まってんね。
シアねーちゃんは…中庭かあ、そんじゃ、とりあえず…
[ぱちん、と指を鳴らすと、応じるように観音開きの窓が、音を立てて開く]
いよっと!
[ベッドのスプリングで弾みをつけ、立ち上がると同時に、窓枠を踏んで外へ――――]
[ばさり、と、黒いロングコートが風を孕む。黒い翼のように広がったそれを、血の色の長い髪が広がって追った。風に煽られた髪の下から愉し気に笑う紅い瞳も覗いただろう]
ひゃっほーーーー!!
[飛び降りた場所から、地面までは、そんなに遠くはない筈なのに、まるで高層ビルから飛び降りたかのように、長い時間、コートは風に煽られていた。そうして、漸く地面に足が着いた時、そこはもう中庭の端]
毎度のこったけど、どんな繋ぎ方してんだよ?シアねーちゃん。
面白かったけどさあ。
[笑いながら、木の傍に立つ、屋敷の主に近づいてゆく]
や、どーも!
[先客が目に入ると、にっこり笑顔で片手を挙げ、軽く挨拶を送った**]
― 中庭・泉の上 ―
[フワフワ][空中散歩を楽しみながら話題の木へと移動する]
ハァン、威勢イイのがもう一人。
[赤黒の影が横を通り抜けて、髪とスカートが煽られた][ブワッ]
また賑やかになりそうね、アナスタシア。
ごきげんよう、お久しぶり?
[ホウ][聞きなれた昔の美声と違う声に小さな吐息が漏れる]
[鬼の子は初めて見る顔な気がした]
[恋多き友人の息子は相変わらずのよう]
[他にも集まっている者がいればそちらにもご挨拶][ペコリ]
久しぶりでないのもいるけれど。
[ヒョイ][泉の魚は顔を出していたかどうか]
[風を纏わせた足先で水面を蹴って漣を起こした][パシャリ]
―中庭―
[暖炉の炎を潜り抜けた先は、招待主の待つ中庭でした。
既に幾人か集まっている様子に男は片手を腹に当てて会釈しました。
もう片方には金色のティーポットがしっかと握られています。]
美味しいお菓子とお茶の時間を――…
いや実に楽しみですな
[主役である木を一瞥し、同意を求めて面々を見回します。
その中に見覚えのある姿を認め半分眠っている瞼が珍しく開きました。]
おやまあ…
なかなかに悪運が強かったようで
[独り言じみた言葉はさて何処まで届いたことでしょうか。
パシャリと波立つ音に男の視線は自然と逸れていったのでした。**]
[ある程度ディスプレイをいじって、なんとか理解したあと。
小さく息をついて、ゆっくりと扉を見る]
――しらないひともいるけれど……おねえさまにあわなきゃ。
[招待客の名前は名簿でみたけれど、覚えのない名前もあるからとりあえず置いておいた。
ゆっくりと歩き出して、部屋のドアをあけて廊下に出る。
そのまま歩いていれば気づけば中庭に到着していた]
……
[一度後ろを振り返って、何かに納得したように一つ頷き。
にぎやかな声が聞こえてそちらを見れば、思いがけず沢山の姿]
……どうしよう……
[戸惑いの涙が滲むのは何時ものこと。
少し離れた位置で、どうやって声をかけるか迷っていた]
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