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─中央エリア・高層ビル屋上─
[不意に響く、リィィィィ、という唸るよな音。
閉ざされていた深紫がゆるりと開き、音の源である剣を見やる]
……やれ、お前が逸ってどうする、『魂喰い』。
場に満ちる『力』と『気』に当てられたか?
[からかうよに言いながら、剣の柄をす、と撫でる。
しかし、唸りは静まらず。
は、と零れるのは嘆息]
……ふむ。
上手く、『相手』がいればよいが。
過度の期待はするな?
[どこか呆れたよに呟きつつ、無造作に歩き出す。
ビルの内部へ向けて──ではなく。
無空間の方へと]
[そんな内心の動揺とはお構いなしに、絶好のチャンスが目前にあった]
[総帥がビルの屋上から飛び降りるように踏み出し、しかし何事もないように静かにゆっくりと降下していく]
[標的を前に、瞬時に頭が切り替わる]
[懐から仮面を取り出して被ると、総帥の降下予測位置の後方へ、四角を伝って回り込む]
[それは、本当に何気ない動き。
足場のない空間に歩みを進め、そのまま、すとん、と下へ降りる。
高層ビルの屋上から、下の道まで。
その距離は、語るまでもないもの。
それほどの距離を、階段を一段降りるような、そんな当たり前の動きで越えると、そのまま悠然と歩き出す。
近づく気配には気づいているのかいないのか、それは傍目からは読み取れず]
[標的が歩いている、まるで無警戒に]
(狙われているなんて思ってないのか、返り討ちにする自信があるのか…)
(恐らくは後者か。所作から雰囲気まで、なるほど、これが世界最大組織の『総帥』)
(だが、やることは変わらない)
[静かにナイフを抜くと、それを前方、総帥の首めがけ、音も立てずしかし猛烈な勢いで投擲した]
[飛来する刃に気づいているのかいないのか。
黒衣の歩みは止まる事はなく。
刃はそのまま、狙い違わず標的を貫くか──とも見えたが]
……ふむ。
お前が反応したのは、これか、『魂喰い』。
[静かな声が上がったのは、刃が到達する直前。
キン、という甲高い音が響き、飛来した刃は、何かに弾かれたように地に落ちる]
……中々に、良い『気』を持っているようではあるが、な。
[悠然とした口調で言い放ちつつ、ゆっくりと踵を返し、そして]
……して、何用かな?
[投げかけるのは、こんな一言]
[投擲したナイフの柄にはワイヤーが付いている。それを袖の内の装置で巻き取りながら、疾走、総帥に肉薄する]
(どうやって弾いた?どこまでの防御能力だ?接近戦では機能するのか?)
(押して確かめる!)
[投げかけられた言葉に応じるという考えは、はなから持っていない]
[左手に握ったもう一振りのナイフで突きかかる]
[答える事無く、突きかかる様子。
ふ、と掠めるのは楽しむような笑み]
……行動を持って、答えを成す、という所か。
[若いな、という呟きはごく小さく。
それをかき消すように、リィィィ、という音が響く。
突きの一撃は僅かな動きで避けるものの、僅かに及ばず金糸の如き長髪の一部が断たれ、風に散った]
なれば、こちらも相応の対応をさせていただくとしよう……。
[言いつつ、軽く飛びずさる事で距離を取り、腰の剣を抜き放つ]
……喰らうのはならぬぞ、『魂喰い』。
[ぽつり、小さな呟きを漏らしつつ、先に開けた距離を詰め。
下段の構えから、相手の左肩へと抜ける切り上げの一閃を放った]
[切り上げる剣を、スウェーバックしてかわす]
[危うい体勢だが、仮面の下、表情は見えない]
[体勢を整えることなくバク転の要領で後ろに跳び、着地の寸前にワイヤーを放つ]
[狙いは総帥の首、そしてそれを防御するであろう剣。巻きつけて動きを封じる狙い]
3/10
ふむ、身軽な事だ。
[一閃をかわされても、表情に変化はなく。
追撃を仕掛けるでなく、一度剣を引く。
自身から積極的に攻め立てぬのは余裕か、それとも他の意図故か。
緩く弧を描く口元、そこからは読み取る事は叶わない]
……ふむ、そう来るか。
[放たれたワイヤーの軌道に小さく呟き、剣を上げる。
が、切り払うに僅かに先んじて、飛来したそれは真紅の刀身に絡みついた。
剣が不満げに唸りを上げるが、その主の余裕は崩れず]
……容易く、捕えられるとは思わぬ方がよいぞ!
[ワイヤーの絡みついたままの剣、それを上へと振り上げようと力を込める]
―回想/食堂―
それでしたら先にこちらをどうぞ。
[エルザの求めに応じてカップを渡すと、同じように食堂まで来ていた青年から「俺にも」と短く声が掛った]
はい、すぐにお持ちします。
[追加分を用意して戻る。
渡す時にまたじっと見られて小首を傾げた。瞳に紫黒が混じる。
何かを探られている気がして、内心では警戒を高めていた]
─回想/中央ビル四階・食堂─
[先に食堂に居た者には微笑みと共に軽い会釈を。ユーディットにより用意された珈琲に礼を言うと、優雅な手つきでそれを口にした]
……ん、機械で淹れたものよりは格段に美味しいですわね。
[満足げに口許の朱が弧を描く。どこか捻くれたような感想は、「夢見る魚」のマスターの珈琲を知るが故。珈琲の消費はゆっくりと。食事を摂ることはせずに、ただその一杯だけを口にする。その間、他の者から何かを訊ねられたなら、答えられる範囲で返答したことだろう]
御馳走様でしたわ。
お先に失礼致しますわね。
[珈琲を飲み終えると、歓談の輪から外れ食堂を後にする。会釈をするとイヤリングが揺れ、チリリ、と音を奏でた]
[『楽しませる』ため、そう皮肉られた言葉には笑む気配。事実、『遊戯』はある方を『楽しませる』ものに違いない]
よろしくお願い致しますわね。
隔離エリアには転送装置を起動させて頂ければ向かえますわ。
何かあればいつでも連絡して下さいまし。
[そう告げると、通信は一度切れる]
─現在/中央ビル一階・モニタールーム─
[次いで現れたのはビルの一階にあるモニタールーム。全てのエリアを移動して見て回るのは疲れるだけと判断し、映し出されるモニターで様子を見ることにした]
────あら。
愚かな方がいらっしゃるようね。
[目に留めたのは中央エリアの一角が移されたモニター。交差する者達がそこに在った]
お邪魔するは無粋、ですわね。
折角楽しまれているのですもの。
[クスリと笑みが掠める。様子を見詰めながら右手の指がイヤリングへと伸びる。指がチリン、と澄んだ音色を生み出した]
[剣を振り上げようとするのを、力づくで押さえつける]
[ワイヤーを直接握っているこちらと、長得物に巻きつかれている相手、単純な力学的関係は悪くない]
[一拍の膠着]
[ワイヤーを握る右手に力を込め、一瞬ナイフを握る左手を自由に。最小の予備動作で投擲]
(これはかわせる体勢ではない)
(先刻と同じやり方で弾くにせよ、一瞬でも剣の方の力が抜ければ剣を奪う)
(少なくとも、見極める!)
─中央ビル・二階個室─
[二階に用意された個室、その一つに落ち着いて、は、と一つ息を吐く]
……ってと。
どこから動いて行きますか、ね、と。
[呟きながら、確認するのは端末のデータ]
……ま、結果的にとは言え、『漆黒』には世話んなった訳だし。
お楽しみに付き合うのは、かまやしねぇんだけどな。
[呟く刹那、常磐緑の異眸は冥い。
しかし、その色はすぐに、失せて。
傍目、無機質ともいえる色を瞳に織り成すと、端末のデータを入念にチェックして行った]
─地下・隔離エリア─
[敗者を集めることになっている隔離エリア。そこに影が一つ、持ち上がる]
………。
[影が形作ったのはオクタヴィアの姿。本体は地上に在るため言葉を発すことは無いが、見るものがあれば見間違うことだろう。寸分違わぬそれは隔離エリアをゆるりと見回す]
……………。
[目に映るのはジメジメとした洞窟。ところどころに苔やキノコが生えていたり、気味の悪い虫が駆け回っていたり。奥の方からはクリーチャーらしき不気味な声が聞こえたりもしていた]
-長居はしたくないものね。
[その呟きは本体のもの。通信は介さずに洞窟内のみに響く]
-まぁ良いですわ。
-頻繁に足を運ぶ必要はありませんし。
-どなたかがいらしてからでも構いませんわね。
[足元に近付く気味の悪い虫。それに一発銃弾を撃ち込み沈黙させると、影は形を崩し、消えて行った]
[振り上げを阻もうとするかのようにかかる、力。
僅かな空白に放たれる刃。
それに対し、向けたのは、微かな笑み。
す、と、自由な左の手が上がり、飛来する刃へと翳される。
右手の剣は未だ膠着を続けたまま、しかし、ぶれた様子もなく。
翳した左の掌を貫く、という形で、投げつけられたナイフを受け止めた]
……それで、終いか?
[紅い色を零しつつも、動じた様子などは微塵もなく。
右の手に、より一層の力を込めて、ワイヤーを振り払おうと試みた]
――中央ビル・4階食堂――
[先客――エルザと挨拶を交わし食堂の内部へ。
自分たちから少し遅れて、青い髪の青年も食堂内へと入って来る。
珈琲を一杯飲み干していなくなった彼の事は、その場ではほとんど記憶に留めぬまま]
いっただっきまーす!
[自分の前に運ばれてきたココアに口を付ける]
お、美味しいだよ!
[一口飲めば、瞳を輝かせてそんな感想を。
コクのあるカカオの香り、ミルクや砂糖の配分。
どれも申し分ないもので、思わず表情も笑顔になった]
ぷは、ご馳走さ――まっ!?
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