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「でもさ、使おうとはしてみるんじゃない?
だって…もし俺が、絵師の力を手に入れたら」
[言って両手で示すティム。薄く輝くような、高みを]
「きっと、『空』へ行こうと、する」
そ ら …?
「つられ見上げ。俯いた。
絵師は、描く絵に心を封じ、溜める。
いつか皆で、空へ行くために。
――語り継がれてきたそれは伝説。
眠る前にいつも、祖母の口から聞いた、おはなし]
……そんなの……。勝手なのだ……。
─海水通路─
[広場を離れ、向かったのは都市で最も古い区画。
空気の感触が変わる辺りで足を止め、周囲を見回す。
人影や、人の気配がない事を確かめると、壁の一画に軽く、手を触れる。
ぽう、と灯る蒼い光。
直後に壁が口を開け、薄闇の満ちた空間が先に広がった。
淡い光と薄闇の境界を越え、その奥へと踏み込むと、壁は何事もなかったかのようにその口を閉じた]
[家に帰り、水を浴び、腕についた傷を見る。
困ったなぁという顔をして、それでも沁みる薬を貰うのはいやだから服でかくしてしまう。]
うーん。
なんか絵筆ないらしいよ
[親と会話で口にしたこんなこと。
それからはふとため息ついて、ベッドに頬杖ついて海を思った。]
─氷面鏡の間─
[海水通路の奥に隠された部屋。
表に出る事のない、言わば、都市の『闇』を秘める場所。
ここを訪れるのは、年に数回あるかないかだった]
……んー。
やっぱり、ないか。
なんかの弾みで、ここに戻ってるかと思ったんだがなぁ。
[はあ、と吐き出すため息は白く色づく。
隠された部屋は気温が低く、壁の一部が氷で覆われていた]
ま、取りあえず、『力』は込めとくかぁ。
……おかしな使い方は、せずに済ませたいんだけどなぁ。
[呟きながら、残った『絵筆』を取り出し、氷の壁の前へと置く。右手は、漆黒の持ち手に触れたまま。
蒼い光がふわりと灯り、それは『絵筆』の内へと消えてゆく]
[休息のあとに、外へ向かう。
布工房の方に行ったところで、代金の話をきいて頬をふくらませた。]
じゃあさ、その分、糸つくるからさ。
ユリアンに布おまけしてあげてよ!
安売りだよ安売り!
私が糸を一生懸命作るの、そうないんだからそれでいいでしょー?
「お前はそれが仕事だろう」
だってある程度で良いっていうじゃん。
ある程度はいつもちゃんとやってますぅー
[少女の手が動くと、綿は糸へと変化する。
真剣な表情で、集中は途切れることを知らない。
出来上がった糸はかなり細く、長く、親方たちが感嘆しているのなんて少女は知っているのか。
その集中が遮られたのは、大きな足音と声のせい。
長が封じられたことと、その絵が見つかったことを知らせる人によって*だった*]
……ふう……きっつ……。
[光が消えると同時に、零れ落ちるのはこんな呟き。
冷え込む空間にありながら、額には汗が滲んでいた。
それを拭こうとして、あ、ハンカチ貸したまんまだった、などと暢気に考える]
……さて、戻る……って、あれ?
[ふと、見やった氷の壁。
そこに映る影に、思わず呆けた声が上がった]
……『月』。
昇って……る?
― 水晶花の花畑 ―
[止め処なく流れ落ちる水の音は身体の奥まで響き渡るよう。
体内の水と呼応しているのか、心地好い感覚に満たされる。
荒れた心が、鎮まっていく]
……ふう。
とりあえずは、これくらいでいいか。
[咲き乱れる花のうちの幾輪かを摘み取り、息を吐く]
……そっか。
[ふ、と。
口元を、笑みが掠めた]
これで、いつでも『沈める』って訳か。
[口調に籠もるのは、安堵の響き。
ともあれ、漆黒の『絵筆』を再び内ポケットへと入れて、隠し部屋を出る]
さぁて、んじゃ、じじ様のとこに行くかぁ……。
[常と変わらぬ、暢気な口調で言って。
長の家へと歩き出す]
[――絵師はすごい職業。
多くの者の目が、そういったものであることは知っている。
皆が空へ行くことを夢見ていることも。
いつからか、そのようにして伝えられて来たのだから。
生を守る薬師。死を描く絵師。
彼との、互いの立場の違いも、分かっていた。
それでもお節介を止めなかったのは、
幼い頃から知っている者の見方を変えたくなかったから]
[幾つかの最期を看取り、死を描く絵師を見た。
薬師の子として。
死に対して何も為し得ない、己の無力さを知った。
死者を連れて行く、絵師を呪ったこともあった。
けれど、訪れた死と向き合うことしか出来ない絵師の心中は、
如何なるものであるのかと。
そんなことを考えたのは、何時だったろう]
因果な職業だよな。
[呟き、立ち上がって土を払った。思考を払うように。
摘み取った花の根を包み袋に収め薄く色付いた花畑を後にする。
途中に崩れた道を見、自分の為すべきことをと、*決意を改めて*]
[長の家へと近づくにつれ、ざわめきが大きくなり。
何事か、と訝りながら足を速めてそちらへ向かう]
どーしたの、なんかあった?
[嫌な予感を感じつつ問えば、返るのは長が急に倒れた、との言葉]
……いきなり?
[まさか、と。
零れたのは、掠れた呟き]
で、じじ様は、どこにっ!?
[今は私室で寝かせている、という言葉に、慌ててそちらへと走る。
心配そうな家人への挨拶もそこそこに、長の様子を見る]
……これ……は。
[医術の心得はないため、具体的な状態の判断はつかないが。
一つだけ、理解が及ぶ事があった]
……『絵筆』の……『力』。
[自身に取っては馴染み深い力。
その干渉の残滓が、微かに感じられた]
……とにかく、誰か、薬師殿を呼んで来て。
俺じゃ、じじ様の状態は判断つかん。
それと……。
[続く言葉は、やや言い難く。
それでも、言わねばならない、と言葉を続けた]
俺の考えが正しければ、都市のどこかに、じじ様の姿絵があるはずだ。
急いで、探して来てくれ。
[告げる言葉は、何処か、冷えて聞こえたかも知れない。
普段、軽く振舞う『絵師』とはかけ離れた様子に周囲は戸惑ったようだが、それに構っている暇はなかった]
[ひとまず、長の私室を離れ、応接室へと移動する。
それから、どれほど時間が過ぎたのか。
持ち込まれたのは、長を描いた一枚の絵]
……最悪、過ぎだ。
[それを見るなり、低い呟きが*口をついた*]
[浮遊感を消す形で、少女は目を覚ます。
鞄を手にし、何時もと同じように家を出て、少女は綿毛畑へと向った。]
ごきげんよぅ、こんにちはぁ!
[居る人々に何時もと同じ調子で挨拶をすれば
絵筆の事件のせいか、気分もすぐれないのだろう、
大人たちは露骨に眉を顰めて少女を見た。
少女は気にせず前を通り過ぎ、白いふわふわした畑へと入っていく。]
それは三番棚の薬液に着けておいてくれ。
水晶花のほうは……
[「実験」のために一度摘んだ花を置きに診療所へと戻り、
助手にてきぱきと指示を出す。
ミルドレッド自身は残りの往診へ向かおうと支度をしていると、
急いた様子のノックの音が続き、返答の間もなく扉が開かれた]
なんだ、騒々しい――
……長殿が?
[丁度その時だった。
彼女が紡ぐ歌が途切れたのは、大人の大きな声。
長が、という声と共に何人かの荒々しい男達が綿毛畑へと入り込んでくる。]
どうしたの…?
[少し面食らいながらも見ていると、
絵筆を探せ、ここにあったら見付かりにくい、などといいながら、男達はこの綿毛畑の綿毛草を引っこ抜いたり倒したり踏みつけたりしながら、畑の中へと足を踏み入れる。
生活に必要なものだから、それほど全て荒々しくなぎ倒す事は無いにせよ、踏まれ折られ、白い綿毛は幾度も散った。]
― 長の家 ―
[息急き切って室内に入れば詳しくは絵師にと言われ、
まずはと応接室に通される]
エーリッヒ、何があった!
[問うた直後に運ばれて来るのは、一枚の絵。
それを見るなり聞こえた低い呟きに振り返り、目を瞬かせた]
―布織り工房―
長様が?
[少女の手には、糸が絡み、アンバーの目がぱちぱちと瞬いた。
それから、つくり途中だった綿を手早く細い糸へ変え、立ち上がる。]
絵師様大丈夫かなぁ。
……だって、昨日も変な様子だったし。
ミリィせんせーとうまくいってないのかな。
[は? って顔で男達が少女を見た。]
え、違うの?
本当は絵師様とミリィせんせーがらぶらぶで。
オトせんせーと絵師様の間でミリィせんせーが揺れる乙女心だと思ったんだけど。
「今問題になってんのはそんなことかよ」
ううん、今は絵だよね。
長様の絵が見つかったんだっけ?
[窓の向こう側を見て、しばらくは声を聞き流す。
たまに、絵師がとか言う声も聞こえたが、少女は心ここにあらずだった。]
─長の家─
……俺も、できればこういう展開は見たくなかったんだけどねぇ……。
[悪態に続いて、零れ落ちたのはこんな呟き。
立ち上がり、運ばれてきた絵に軽く、手を触れる]
……間違いなく、『封じの絵』だ。
『絵筆』を持ち出したヤツが、その『力』を生者に……じじ様に向けたらしい。
[絵に向かうエーリッヒに場を譲り、横に立って見詰める。
鞄を持つ手に自然、力が篭った]
……馬鹿な。
心無い肉体は、唯の抜け殻に過ぎん。
死の訪れたものならばともかく、生者であれば何れ――
[目にしていないがために、確信はないが。
紡ぎかけた言葉に背筋に薄ら寒いものを感じて、口を噤む]
こういうときはさ、もいっかい海に潜って、げんをかつぐのが良いよね!
ってことでいってきまーす!
あ、でも長様ってどうなってるの?
いったら邪魔かなぁ
[明確な答えは返らない。
少女は少し考え、それから一度家により、長の家に向かった。
中にはミリィが入ったあとのようで、入ることは出来なかったけれど、外の人たちと話してどういう状態かは知ることが出来た。]
そっか。
絵が描かれるとそんな風になっちゃうんだ。
[実物を見ていないからか、現実感は伴わないことば。
少女は中を見るようにして、それから海へ向かう。
絵を見た人たちが、青色の話をしていたのを聞いたけれど、心は海を*望んでいた*]
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