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昨日は任せちゃってたし…、私がいこう、かな?
[ユリアンやナターリエも一緒に来るならば共にいくことになるだろうか]
だって…中途半端に食べる方が余計に……
[若し表情に表れていたならにやっとした笑みを浮かべていただろう様子の聲で]
乾くから……
─ 夕方 ─
[考えている間にも時間は過ぎていく。
与えられた猶予の間に一度教会へと戻り、自室で準備に取り掛かった。
いつも出来上がったレースを入れて運ぶ籠の中に、一振りのナイフを忍び込ませる。
刀身は銀色に輝いているが、そう見せかけているだけで銀で出来たものではない。
銀など不必要だったため、手元にあるわけが無かった]
[ナイフを忍び込ませた籠に布をかけ、深呼吸してから自室を出る。
命を軽んじてはいけないと、カヤに言った矢先の決意。
決して軽んじているつもりはない。
ナターリエには、護るべきものがあるのだから。
生きるために、護るために必要な取り捨て選択をしただけのこと]
─ 夕方/黒珊瑚亭 ─
[自衛団がしていた夕方の時刻にはまだもうしばらく時間がある。
間際にならないように少し早めに移動して、店主にゲルダの部屋がどこかを問うた。
問いに対して疑問を抱かれたなら、「少し頼みごとがありまして」と言いながら腕に下げる籠を示す。
その中に入っているものはいつも限られていたから、然程疑われずに部屋の位置を聞くことが出来た。
近くにユーディットや他の者が居るのであれば、どう思ったか定かではないけれど]
─ 夕方/ゲルダの部屋 ─
[ゲルダのことだから仕事を持ち込んで没頭しているのではと思って部屋を訪ねたところ、実際はどうだったか分からないが、彼女は予想通り部屋に居た。
扉を3度ノックして、返る声にこう切り出す]
あ、あの、ナターリエです。
刺繍について、少し、相談が。
[相手の心中は分からねど、仕事についてのことだったからか、どうにか扉は開けてもらえた]
レースと刺繍を組み合わせられないかと、思いまして。
こんな時なのに、と思われるかも知れませんが、何かしていないと、落ち着かなくて。
[ゲルダの様子を窺いながら、しどろもどろな言い方で説明をして。
仮に渋られても、お願いしますと頭を下げて、部屋の中へと入れてもらう]
すみません、無理を言って。
レースと刺繍って、どちらも糸から出来上がるものですけれど、全く違うものになりますよね。
[謝罪の後に話題作りのための言葉を紡いで、相手の警戒心を減らそうとしてみる]
あら、今お仕事なさっているのですね。
見せてもらっても良いですか?
[縫いかけの刺繍があることに気付けばそう言って、作業を見せて欲しいと頼み込む。
そうして始まった作業を後ろから覗き込みながら、ナターリエは籠の中に手を忍ばせた]
──…ゲルダさん、もう一つ、お願いがあります。
[作業の途中、背後からそっと言葉を紡ぎ、籠の中のナイフを握る]
貴女が人であることは重々承知です。
けれど、私にも、護りたいものがあるのです。
[そこまで紡げばゲルダもナターリエの異変に気付くか。
握ったナイフはそのままに、籠を取り落としてナイフを両手で掴んで]
だから ─────── 死んでください
[躊躇うこともせず、ゲルダへナイフを突きつけた。
一撃目はゲルダが動いたためか狙いが外れ、彼女の腕を抉るに留まる。
悲鳴や呻き声はあっただろうか。
抵抗の動きもあったことだろう。
けれどナターリエはそれに構うことなくナイフを両手で構え、身体ごとゲルダにぶつかろうと繰り返し。
ゲルダの部屋から大きな物音が何度か響き渡った]
っ、くぅ…!
[何度かナイフを繰り出しているうちに、ゲルダへの切り傷は増えていき。
ナターリエもまた抵抗による打撲や肌が露出した部分への引っかき傷が増えていく。
そうして揉み合う内にナイフはゲルダの鼓動の位置を捉え。
押し込んだことでナターリエはゲルダに覆い被さるように倒れ行く。
一瞬にして全ての物音が、停止した]
はっ ぁ、 は ぁ ………
[手に返る肉を穿つ感覚と、ぬるりとした触感。
身体を起こして手を離せば、ナイフは深々とゲルダの左胸に突き刺さり、隙間から赤い液体を滴らせていた]
あ、ああぁあ ああ………
[目の前の状況に言葉にならず、ただ声だけが零れ落ちる。
護りたいものがあるからと為したことではあったが、為したことに対して身体は震えて。
紅く染まった自分の両手を見詰めながら、はらはらと瞳から雫を零していた]
[物音に気付いて駆けつけるものも居ただろう。
声をかけられないうちは、雫を零しその場に座り込んだまま。
黒い修道服は返り血を浴びても色を変えず、顔や手に付いた紅が酷く際立って見えた*]
では今日はロミちゃんが行くのですね。
1人で出来ますか?
[その時はそう訊ねたりもしたが、夕方の出来事もあり、実際は同行せずに聖堂に籠もることになる]
では、任せるよ。
俺はギュンターを喰ったからさほど腹は減ってない。
――…渇き、満たせるよう祈っているよ。
[必要とされるなら手伝うくらいはするだろう。
けれど呼ばれぬ限りは動こうとはしない]
[全ては理不尽に晒される者達を護るため。
ただ、自ら手を下すことに関しては未だ慣れぬ部分があるため、震え涙を零すことは止めることが出来なかった**]
─ 黒珊瑚亭 ─
シスター・ナターリエ。
[揉み合いとなったらしい室内からは、どちらが仕掛けたとも分からず。両手を見つめたまま涙を流し続ける修道女を、どうとも判断し辛かった]
まずは外に出て。
…誰かタオルを、シスターを頼む。
[手を拭わせようとポケットから取り出しかけたチーフには赤黒い跡が残っていて、慌てて仕舞った。これは使えない。
頼むまでなく動いてる者もいたかもしれないが、シスターのことは任せることにして中に踏み込んだ]
子供達が見る前に。
[遅かったかもしれないが。
刺さったナイフは心臓を確実に貫いていると見て、ゲルダの身体の上にベッドからシーツを剥がして掛けた**]
― 墓地 ―
[村から外れた墓地に行くと、祖父と祖母の墓の前に立つ。
祖父母の墓の間に両親の墓がひとつあるが、
中身がからっぽなのは、おそらく大概の村人が知っている事だった。
子供の両親は子供がさらに子供の時に島の外に出て、
それっきり帰ってこず、何年も便りすらよこさなかったので、
祖父が死んだと諦めて、先に死んだ祖母の隣にひとつ墓を作った。
その両親の墓を、ごりごり素手で掘り始める。
中身がカラなので、かけられていた土は薄い。
蓋はすぐに、土の合間から目に入った。]
…スコップもってくればよかった。
[それでも子供の手にあまる作業に、時間はずいぶん経っていく。]
じんろ〜な〜んているわけないさ
おおげさだ〜おおげさだ〜
[穴掘りの歌を歌いながら、
ようやく棺というよりは随分小さな箱が出てくると、
蓋を開けて中にあるものを取り出た。
からっぽのはずの棺の中には、銀の鋏がひとつ。
子供や女が使うような、小さなものだった。]
じーちゃんホントに入れてたんだな…。
ばーちゃん、ちょっと借りるな!
[子供が言う通り祖母のものらしい、
所々錆付いて鈍い光を放つはさみは、
こっそりポケットの中に入れられた。]
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