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― 宿屋一階 ―
[何やら人の気配がした。
足音、物音も聞こえる。
少女はことりと首を傾げ音のする方へと何気なく足を向けた。
宿の主人が何かしているなら手伝おうとでも思ったのだろう。
ひょっこり覗き込んでその光景が映り込めば
少女は大きく目を見開き、動きを止めた。
ヘルムートが何かを運び集めている>>46
立ち込める鉄さびの匂いと、血の色]
――…っ !?
[咽喉が痙攣し声らしき声は出なかった]
[眸閉じたゲルダの横顔。
ヘルムートが運ぶそれがゲルダであったものだと知る。
一度バラバラに裂かれた四肢は無論繋がることはなく
昨夜見た彼女の姿とは違う無残に見えるものだった。
惨い現実に少女の目には涙がたまる]
……あ、あぁ…っ
[漸く出せた声には悲しみと絶望が入り混じり
言葉らしき言葉とはならない]
…… っ!
[ゲルダさん、と小さな音色が漸く彼女の名を呼んだ]
[何処かで信じたいと思っていた。
彼女は自ら考え名乗り出てくれた占い師だったから
彼女の生が村の為になるのだと何処かで思っていた。
此処で食い止めなきゃ村が滅んでしまう。
御伽噺の中で何の力もない青年が言った台詞が脳裏を過ぎる。
彼には守るべき家族が居たから
被害が広がるのを食い止めねばと思っていたように感じていた。
それは家に母を残してきた少女も何処かで思っていた事。
自衛団長が未曾有の危機だと言ったその時から
御伽噺の中のそれと何処かで重ねていたのかもしれない]
[死の色しか感じられぬゲルダへと一歩、二歩歩み寄り
彼女の傍でぺたんと膝を折り座り込む]
ゲルダ、さん。
……ゲルダさんっ!
[呼びかけるはまるで起きてというかにも似た響き。
悲痛な色を纏う少女の声が静かな宿に響いた]
[エリザベータがヘルムートの手に掛かった次の日は
ゲルダは名乗り出たにも関わらず無事だった。
なのに、今は――。
欠けたままのピースはたくさんあったけれど
それでも感じ取れる何かはあり
幼さの残る少女の頭でも思い至る可能性がいくつか考えられた]
あ、……っ
[御伽噺の通り一日に一人。
ゲルダの亡骸の惨さからそれが人の手でなく
牙もつ者の手に掛かったのだと少女は思ったから
御伽噺の通りであれば他に犠牲者はいないだろうか。
そう思いながらも自らの目で確かめるまでは不安で
少女は顔を上げて、音無くくちびるのみで少年の名を紡ぎ
その姿を翠の双眸が探し彷徨う**]
―前日―
[ヘルムートの進言は>>40、どこで聞いたのやら。
診られるというなら大人しく従っておいた。
面倒だからいい、とでも態度に出そうなら、友人がどう出るかそら恐ろしかったのもある。無駄に傷口広げるほどマゾくはなかった。
見据えた少女の瞳に怯えが見えると、目を逸らした>>47。
腕と顔以外に、少し痛む物を覚えなくはないが、それよりも、その方がいいと安堵する心の方が大きい。骨に染み付いている家業は脅えられてこそだ。血生臭い性分は変えられない。
かといって子供に冷淡になれる性質ではなく。
我ながら、矛盾していると胸中でぼやいた。
それらが全て片付けば、部屋に戻って何とか片手で着替えてベッドに沈んだ。
クロエが血塗れた服を取りに来たなら、持って言ってくれと言わんばかりに、机に脱ぎ捨てた衣服を指差しただろう。]
―前日→翌日・宿二階自室―
[眠りは相変わらず遅い。
夜遅くまで飽きる事なく声を聞こうとしているからだ。
他人の声と、自分の声を。
久しく感じることのなかった聴覚を一時でも取り戻した事は、喜ぶことでもあり。それは至極複雑ではあった。
時折口の端を上げながら、それでもいつかはゆるりと意識は闇に抱かれる。
目覚めが遅いのは、おそらくは傷のせいだ。
目を覚ますと、体が熱を帯びていた。傷のせいだろう。
だるい。
どいつもこいつも、置き土産にロクなもん残しやがらねぇ。
アーベルも、彼女も、と。
毒づきは囁きにも落とさず胸だけに秘めた。
階下が多少騒がしくても、音の無い世界では伝わりは遅く。
またその原因を知るが故に、暫く様子を見に行く事は無かった**]
― 前日・宿 ―
[少女>>36とも離れて大人達を手伝った。困惑していることには気がつけなかった。
修道士>>22が問いかけられて答えた内容は、同じ思いではなかったけれど納得もできてしまった。
それが後ろめたく、加工師の側に居続けることが出来なくて、支えたり休ませたりするのは洗濯女や行商人に頼んだ]
ヘルさん。一緒に運んでくれる?
[デザイナー>>40からシーツを受け取って、彫刻家の体を包み込んだ。白が赤に染まる。赤はやがて黒になるだろう。
一人で運ぶのは無理だったから、宿に戻ろうとしていたのに頼んだ。学者も近くにいれば同じように頼んで宿の中まで運んだ]
―前日/外―
[フォルカーがアーベルの亡骸を運ぶ手伝いを申し出たのは聞こえていた。
ライヒアルト>>31の軽い頷きをみやる。
オトフリートに手当てだなんだと言われている様子に苦笑を浮かべて、『ちゃんと養生しなよ』と仕草で告げておいた。
アーベルの方へと近寄る。
ゲルダを支えるのはクロエがしていたようで、というかアーベルの死に納得を見せたあとでゲルダを休ませようとしてもゲルダに拒否されてしまった。
それはしかたのないことだと軽く肩をすくめた。
フォルカーたちがアーベルを宿へと運ぶときに自衛団員が様子を見に来たら、今回はアーベルだったことを告げ。
アーベルを運ぶ人手が足りないようなら自衛団員に手伝うよう頼み、彼らが宿へと向かうのを見送った]
―前日/外―
――嫌な事件だねえ……
[ほんとうに、と深い吐息を零す。
流れた赤は地面に吸われて黒くなっている。
それを眺めてやれやれと首をふった]
すまんね、アーベル。
あたしはアンタを見捨てた。親父さんにはちゃんと怒られてやるさ。
[生きて戻れてもそのときに殺されても仕方無いねえ、などと自己満足でしかない懺悔を呟き。
日が暮れる前には宿へと戻った。
ライヒアルトの怪我の様子などを本人やオトフリートに訊ねた後、『無理しないように』と釘を刺して部屋へと引っ込んだ]
―翌日―
[昨夜部屋に帰った後、そのまま眠りについた。
そして朝、宿に響いた少女の声>>52で叩き起こされる]
――っ、ああ……
[鈍い色の髪をかきあげて一つ吐息を零す。
大雑把に身支度を整えて階下へと降りればヘルムート>>46がゲルダの身体を整えたところで。
バラバラになっていた、とつげる言葉を証明するようなその姿に眉を寄せる]
今日になってゲルダが狙われた、のか……
[それの意味するところは。
伝承がかかれた本は学者先生がカウンターにおいたままだったろうか]
ほんとうに、終わってなかったんだねぇ……
[ライヒアルトの言うとおりかと深い吐息を零し。
騒ぎを聞いてやってきた宿の親父にまたもシーツを持ってきてもらうよう頼んだ**]
― 前日・宿 ―
[自衛団が来る前に頭痛が酷くなってきた。後のことはお願いして、一度部屋に戻って休ませてもらうことにした。
日暮れ時に井戸まで水を汲みに行った。
何人かいた村人は、こっちを見ると慌てて逃げていってしまった。
仕方がないと思いながら、重たい足取りで何度か往復した。
夜になると寂しくなってきて、少女の部屋に泊まったらダメかと父親に聞いてみた。呆れ顔と拳骨が返って来た]
だって、眠れそうに無いんだもん。
[テーブルを片付けながらの会話だった。
薬師が聞いていれば、何か良い方法を教えてくれたかもしれない。
自力でなく落ちた眠りは深かった]
― 翌日・宿一階 ―
[少女>>52の声が響いて目が覚める。
名前はまだ聞き取れていなかった]
寝坊しちゃった。
[窓の外の明るさに目を擦りながら部屋を出る。
とたんにゾクリと背筋が震えた。
顔も洗わないまま、食事スペースに向かった]
アァッ。
[悲鳴は大きな声にならなかった。
デザイナー>>46がパズルを組み立てるようにバラバラの体を揃えている。目がチカチカした。頭がクラクラする。
苦しくなって目を瞑り、忙しない呼吸を繰り返した]
― 翌日・宿一階 ―
な、んで。ゲルダさん。
守られてたんじゃ。
[少女>>53に気がつけたのも少ししてからだった。
じっと見てからようやく無事という単語に結びついて、大きく息を吐いた。その近くまで行くと、存在を確かめるように手に触れる。
フゥッと深い息が落ちた]
僕。自衛団の人に知らせて来る。
[その場から逃げ出すように集まってきた人へ言って走り出した**]
―翌日/宿一階―
[宿の親父に頼んだ後、カウンターへと近づく。
オトフリートが置いた本>>2:354はまだその場にあった。
ぱらり、とページを開いたときにフォルカーがやってきて、ゲルダが守られていた、とか呟くものだから確認するように紙面に瞳をむけ]
――これ、か。
[自衛団を呼んでくると駆け出した少年の声>>62を聞きながら無機質な文字が伝える情報を読み込んだ。
守る力を持つ存在のことを。
アーベルが死んだ翌朝になくなったゲルダを思う。
一年に半月程度しか滞在していなくても、何度も訪れているから二人の仲が良いのは知っていた]
アーベルが守れる人だったとしたらゲルダを守る、だろうなあ……
[わかりやすかった青年を思い。
見極めるものだと名乗り出たゲルダのことを素直に信じそうでもあったアーベルがそんな力を持っていて、本当にゲルダが見極めるものなら……昨日殺されず今日殺されたことの理由はつきそうで。
ただ、それが証明されたわけではないから、考えすぎとも思えるのだった]
─ 前日/外 ─
[返された答え>>22に、大きく息を吐く。
気持ちがわからない、とは言わない、言えない。
ひとつ欠けたとはいえ、殺したくないものは自分にもまだいる。
ただ、それが理由になるか、となると、また、別問題で。
ゲルダやアーベルにとっては理不尽でしかないのは、問うて確かめるまでもないこと]
……ったぁく……。
[怪我した箇所を示されると、はあ、とため息ひとつ。
理由にも突っ込みは入れたい所だが、この場でそれを問うのは躊躇われて]
……自業自得だ、無茶しいめ。
[その場は、痛ぇ、とぼやく唇の動き>>39にさっくりと突っ込みを入れるに留めておいた]
ん、ああ。
……この人手不足の状況で、何もしないわけにはいかないし、ね。
[フォルカーに助力を求められ>>56、頷きを返す]
そこの無茶しいは、ちゃんとリーゼ嬢に診てもらえよ?
……面倒、とかいうのは、却下ね。
[ヘルムートの言葉>>40を受け、友にはきっちり釘を刺しておく。
深緑の瞳が笑っていない、即ち、いろいろと感情が混濁しているのは、説明するまでもなく伝わるはず]
─ 前日/宿・二階角部屋 ─
[亡骸の安置やら何やらが一段落すると、角部屋へと戻り。
各自の名を書き連ねた紙に、自分が把握している新たな状況を追加して]
……あれ、は。
どう、見るべきかなあ。
[はっきりと見て確認したわけではない、が。
何かしら、力の一端らしきものが見えたフォルカーの様子。
手にしたペンをくるり、と回して、しばし、思案の素振りを見せる]
……同じ力を持つ者が同時に現れた、ってケースは、確か、ない。
例外が発生しているのでなければ……。
[どちらかは、とは、声には出さず、代わりに深く、息を吐いて。
そのまましばし、まとまらない思考に沈み込んだ]
─ 翌日/宿・一階 ─
[翌日の目覚めを呼び込んだのは、悼みの響きを帯びた声>>52。
呼ばれた名が名だけに、嫌な予感を感じて、階下へと急ぎ]
……っ!?
[目に入った光景>>46に、言葉が失せた]
……じょーだん……きっつ……!
[思わず零れた言葉、それを抑えるように口元に手を当てる]
……二度も、見たくねぇよ、こんなの……やってらんね……。
[は、とひとつ息を吐いて、近くの壁にもたれかかる。
きちんと括っていなかった髪がばさ、と広がり、顔色が隠れたのは、個人的にはありがたかった]
─ 翌日/宿屋 一階 ─
[昨日フォルカーに頼まれ>>56アーベルを運ぶ時、重さに負けてふらついたりして手伝わせたのを後悔させたかも知れないのは僕の中ではさて置いて。
ゲルダの身体を整えている時にベアトリーチェ>>50と、やや後にフォルカー>>61がやって来た]
ベアトリーチェ、あまり近付かない方が良いよ。
君まで汚れてしまう。
[ゲルダの傍で座り込む様子にそれだけ声をかけ。
その後はフォルカーに任せようとする。
が、彼の呟き>>62を聞いて、はたりと虚ろな瞳を瞬かせた]
……ああ、そう言えば。
昨日は、誰も襲われていないんだっけ。
[誰に言うでもない呟き。
直結するのはおかしい話だったかもしれないけれど。
ゲルダが力持つ者であるならば、護られている可能性は高かったため、彼女が護られたのか、と思考が働いた]
[その前後にはイレーネも来ていた>>59ようで、やや後に要請を受けた宿屋の主がシーツを持って来る。
それを受け取ると、フォルカー>>62が自衛団へ知らせに宿屋を出て行った]
うん、気を付けて。
[何に、と言えば自衛団に、と言う事になる。
未だ人狼が居ると分かった以上、何を言われ、何をされるかは分かったものではない。
それを見送って僕はシーツをゲルダの横へと広げた]
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