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[ウェンデルの言葉が食堂を滑る。
ベアトリーチェの死を伝えられた時よりも
その能力を伝えられた時の方が、
ゲルダの目は、見開かれたのだった。
胸元で手を握る。
落ち着かない様子で視線を泳がせてから、
俯いて、地面を見詰めた。
ぎゅ、と寄せた眉に、想いをすべて閉じこめて。
[やがて部屋へと戻るのは夜も更けた頃。
しんと静まる洞窟内に流れる冷たい空気。
目を閉じて背筋を伸ばし、手元に銀に光る針を携え、
随分と長い時間を過ごしたあと。
ゆらりと上げた手をゆっくりと、下ろす。
糸の波が色とりどりな線を産み面を埋める。
途中少しも手が止まることは、無い。
まるで空気の流れすら織り込むように手を動かし、
終わったときには、ひどく痩せた気が、した]
[出来上がったものをロミとミリィの布の横に並べ。
こほ、かは、と数度、乾いた息を吸って吐いた。
喉元を、手で撫ぜる。
掠れた音が出ただけで。
吐き出した息は、ひどく、重かった*]
─ 宿屋・食堂 ─
ん、じゃ、何か食べたら、って事で。
[カルメン>>33に頷いて返す。
独り言のように漏れる思考には、僅かに思案の色を覗かせて]
……ま、泉に行く途中の道はああだったし……まだ、通れないかも知れないしなぁ。
[そんな予測をぽつりと述べて。
食事の準備ができたと知らされたなら、多少無理してでも、胃に入れた。
食べておかないと持たない、という意識は常になく強かったから]
[ベアトリーチェの死──『処刑』が自衛団から伝えられた>>43のは、その後で。
聞かされた理屈に、翠は瞬くものの何かいう事はなかった──できなかった。
けれど、その後に、ウェンデルからもう一つの知らせ>>50が齎された時は、やや、表情を険しくして]
死を持って、判ずる者がいなくなった……と、なると。
[殺めた相手の真偽は、文字通りの闇の中、という事になる]
……きっついな。
[ぽつり、と呟く。
誰を選ぶか、という二重の選択。
その難易度がまた上がったな、と、息を吐き]
─ 食堂→自室 ─
[ふる、と首を横に振る。
とりあえず、眼前の約束を、と。
意識を強引に、そちらへ向けた]
……俺、部屋に戻ってるから。
都合のいい時に、来るといい。
[カルメンに短くこう声をかけ、部屋へと戻り。
一時、一人になると、は、と短く息を吐いた]
……とっかかりが、なさすぎる。
[全くない、わけじゃない、が。
その要素は、見極めるに足るとは思えない。
ならば、自分の出せる手で要素を増やすべき……では、ある]
賭け、だが。
闇雲に動くよりは、マシ、か。
[小さく呟き、ベッドに腰を下ろして。
手に取るのは、異国の装飾の施された横笛。
自身の気を鎮めるため、そして、鎮魂を願うため。
ゆるり、紡ぎだすのは穏やかな調べ。**]
― 宿屋/食堂 ―
ええ、じゃあ後で。
[ライヒアルトと食後の約束をして腰を浮かせた。
漏れた思考に一瞬動きが止まる。
何処かで考えないようにしていた一件。
ヨハナとギュンターの姿が浮かんで、蒼が揺れた]
そうかもしれないね。
[ぽつ、と返すは独り言のように小さく。
ゆるとした会釈を残して女はカウンターへと移動する]
[食堂のカウンター席で物思いに耽るように
手許で揺れる水面をぼんやりと眺めている。
思い悩むような吐息は微かなれど繰返し溢されて
温度を失いつつある紅茶を静かに飲み干しカップを置いた。
片付けを、と思った矢先、団員からベアトリーチェの事を聞いた]
――…あ、 嗚呼。
[驚きの音に次いで、後悔の音色が漏れる]
そんな……、嘘よ。
ど、して……
[理由もまた紡がれるがふるり女は首を振る]
[戻ってきたウェンデルが
ベアトリーチェの力について話すが聞こえる]
ベアトリーチェが死者を判断する者……
ね……、いつから、知ってたの ?
[ウェンデルへと確かめる声。
其れを知っても仕方ないともわかっていたから
女はゆるり首を振り返事を求めるを止める]
――…っ。
[俯いた女の表情は隠されて
くちびるを噛むのが微かみえるのみ]
[ライヒアルトが部屋に戻る際の声掛けには頷き向けて]
……ええ。
わかったわ。
[彼の部屋が何処か確認をして見送った。
漏れる息は何処か重い。
暫し間をあけてから席を立ち]
部屋で、少し休んでくる。
アーベル、食事の時間に、呼んでくれる?
[アーベルに頼みごとをして食堂を後にする。
カップと蓋の開かないジャムの瓶はカウンターに残されたまま]
―宿屋/個室―
[他の部屋と中はさほど変わらない。
違っているところといえば他より机が少し大きい事。
机の引出しの中に彫刻用の道具がいくつか残されている事。
此処でお世話になった時にこの宿で作った翡翠の一輪挿し。
一輪挿しには月下美人の華が彫刻されている]
――…。
[口を開けば弱音が零れそうになる。
滅入りそうになる言葉を避ければ吐息しか残らない]
[ベアトリーチェが描かれたスケッチブックを見詰め
女はその紙をそっと、撫でる。
ふるり、また首を振るい、新たなページを開いた。
深い呼吸を繰返し、お守りの玉を握る。
とくり、とくり。
規則正しい鼓動は生きている証。
覚悟を決めたように、スケッチブックに向かいペンをとる。
其処に描くのは6年前に知り合った美術商の伴侶。
白い紙に描かれた彼女の姿は普段と変わらぬ姿。
動かぬのが不思議とも思えるその絵に余計なものは一つも無い]
――…は、
[張り詰めていた糸が切れる。
抱いた思いは複雑に絡み合い自身にも把握しきれない]
覚悟、を
[決めなくてはいけない。
ライヒアルトやエーリッヒの言葉が思い起こされて
覚悟をと思いながらも未だ迷う心]
……、っ
[こわい、とくちびるのみで綴り置いたペン。
女は顔を両手で覆い、肩を震わせた**]
生き残る、術。
[ウェンデルの囁きを鸚鵡返しに紡ぐ聲]
ウェンとシンが生き残る術は――…
[生かす為に偽る覚悟。
嘘を吐く事に酷く抵抗があるけれど
見定める者の一人は残っていて
何れ見つけられてしまうのでは、と思う。
だから、自分が庇う事を考えて]
[食事は胃にも優しく、体を温めるスープを作り振舞って。
団員や、ウェンデルからベアトリーチェの話を聞けば、
青年にしては珍しく、壁を叩いて苛立ちを示した。
その後、ゲルダを伴って部屋の掃除>>36へと向かい。
聞かされた事>>37に頭痛を覚えた。]
……ねぇ、ゲルダさん?
ほいほい自分の能力言っちゃっていいの?
もし俺が人狼だったらゲルダさんが真っ先に狙われるけど、それでもいいの?
[少し困ったように告げて。**]
それでもいいなら、手伝って?
[と、手を伸ばした。]
先を越された、なんて。
[部屋に戻ろうか考え始めた頃、ウェンの囁きが聞こえた。
繰り返した囁きには驚きを通り越して呆れの響きが宿る]
分かったわ。私も大人しくしている。
[声に滲む怒りを煽るのはよくないと思えるくらいまでは落ち着いてきていたので、食堂で共有する情報として渡されるまで詳細を問いはしなかった]
[アーベルが振舞うスープは予め少なめに装ってもらい
気持ちばかり口にする。
食べなくては体がもたない。
わかっていたが結局必要と思われる半分も食べられなかった。
声かけを願うは掃除がはじまる前。
夕餉までには食堂に戻る心算だったが
それまでに心を決められるか否かは自身にもわからない]
[ウェンデルの報告も受けると、衝動は更に高まった。
注視している者がいたら、手で隠しきれない唇の端が少し震えているのも見えただろう]
そう、それで。いいえ、でもおかしいわね。
自衛団の方はそれも知っていらっしゃったのかと思ったのに。
団長さんのお話があった日、ベアトリーチェさんとよくお話していらっしゃったから。でもそれなら選ばれませんわよね。
[聞き耳を立てていたのか、見張り役の団員が窓の外で居心地悪そうに身動いだ。団の総意ではないと言いたかったのかもしれない]
どちらにしても、今日はもう誰かを選ばなくても良くなってしまったのですわね。
アーベルさん、湯を使わせていただいていいかしら。
身体が冷えてしまっているようなので。
[掃除に向かう前のアーベルに風呂を借りたいと頼んだ。
芯から温まれば不調も消えるかと思ったが、そう楽にはいかなかった。身の内深く、毒のように回るものはすぐには消えない]
― 宿屋/個室 ―
[笛の音が何処からともなく響いていた。
穏やかな音色に手が緩む。
暫らくその旋律に耳傾けていれば
肩の力がゆっくりと、抜けてゆく]
勿体なくも愚かなことね。
危険が減ったのはありがたいけれど。
[甘く響く欲の色に、身体がゾクゾクとする。
欲しい。けれど今すぐ口にしたら止まれない。本能のどこかが囁く]
ええ。ええ。次こそは。
[熱の篭った声で囁きながら、気分を変えようと席を立つ]
[常に鍵をかけていては、何かがあると暗に告げるようなものだ。
鞄には別に鍵がかかるようになっているから、中の空気が凝らないように窓すら少し透かしてあった。
部屋の床には一本だけ、黒い髪も落ちている。
淡茶の髪も当然のように幾本か見つけられるだろうけれど**]
カルメン?
[内と外から暖を取って息をつく]
また忘れているわ。あなたもね。
[その覚悟を推し量れるまで復調はしておらず。
名前が抜けたのは自分たちのことを案じるあまりだと受け取った]
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