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…うん…。
[手を引かれ、椅子の一つに腰掛ける]
気が付いたら見えなくなっていた、の。
涼ちゃんに、言われて。
多分…コエを聞いてしまったから。
聞いてはいけないと、言われてたのに。
揺れてはいけない、と。言われてたのに。
[ゾクリとした。濡れた寒さからか、他の何かからか。
けれど一番怖いのは]
もう、視れない、かもしれない。
まだ、終わっていないのに…!
[赤い色は、水滴に混ざり。
花弁のように、身体から剥がれ落ち。
桜の樹へと還って行く。
――ふつり、ふつり。
花は色づき、また増える。]
ん、わかった。
[蓮実の返事に、ゆっくりと立ち上がる。
桜を刻んだ黒檀の短刀は、今だ右手に。
その時になってようやく、手の強張りに気づいた]
……っと……おかしく捻ったか……?
[ぽつりと呟き、部屋を出る。
蓮実の様子は見なかった。
二人の間に、どんな縁があったか、自分は知らないから。
何も言うべきではない、と思って。
ふらつく足取りで廊下に出て、空いている部屋に転がり込む。
そこでようやく、短刀を離して。刃を拭い、再び内ポケットの鞘へと戻す]
……後悔は、しねぇ……絶対に。
[ベッドの上に座り、壁にもたれるようにしつつ、呟く。
薄暗い室内に、ぼんやりと紫煙が*広がった*]
はい
[足音だけで去っていくのがわかるが]
史人。
私ら昔なじみの中で最年長はあなただ。しっかりしろ
私も少ししたら戻ります
[その声は届いたかどうか。だが別にどちらでも構わないだろう。己のように後悔しないのならば]
[ゆっくりと、立ち上がる。
人影を捉えた。]
アハハッ。
見つかっちまッた。
[愉しげにわらい、涼のほうへ近づいて。
だが立ち止まることは無く、傍を通り過ぎて行こうとする。]
こ、え…?
誘われし者を、判じる、ための…?
[玲の持つ力の詳細は知らない。何がどうなったのかの詳細は理解出来なかったかも知れないが、彼女の様子から探す術が失われたことだけは理解して]
誰が、誘われし者、なのか、探せなく、なっちゃったん、だ。
どうにかして、誘われし者を、探し出さないと、惨劇は、終わら、ない…。
…とにかく、玲ちゃん、は、少し、休もう?
タオル、取ってくる、から。
[きゅ、と一度玲の手を握り締めてから、そっと離す。濡れたままでは拙いと、一旦奥へと向かい、タオルを持ってきた。ふわりと、玲を包むようにタオルをかけてやる]
[一度崩れると一気にあふれ出てきてしまうが]
裕樹。
愚痴りたい。聞いてくれるだろ。付き合え
[返答が帰ってくるはずがないと知っているが構わない。
何かを愚痴るなど不慣れな自分はどうせ結局*押し黙ってしまうわけだから*]
あ、
[桜が煙る。]
たか、ひろ
まって
[何でって、見えないけど、何か、あるのは、わかって]
たかひろっ…!
[通り過ぎようとする手は、握るだけじゃなくて、引いて、引き止めなければ]
コエは。準備の時にも一度だけ聞こえた気がしたの。
さっきのはそれよりもずっと弱くて。だけど気になってしまって。
分からないけど、怖くて。
でも…うん。探さないわけには、いかない。
[榛名の声に、恐慌に陥りかけていた心が少しだけ凪ぐ。
今は現実の視界も閉ざされていて、恐怖は薄れてくれないけれど]
…ごめんなさい。ごめんなさい…!
[タオルに包まれて泣いた。榛名に縋るようにして]
さァね。
見て来れば?
[視線で桜の根元を示す。]
仕方ねーよな。
言うコト聞かなかッたんだから。
[わらいながら、背を向ける。
掴まれた手を振りほどこうと、強く引いた。]
準備の、時──。
[それは、もしかしたら自分も聞いたものでは無かろうか。そうなると考えられるのは、巫女の、声。玲がこのようなことになってしまったのは、それに触れてしまったからなのだろうか]
…謝らなくても、良いんだ、よ。
玲ちゃん、たくさん、頑張った、もの。
私より、ずぅっと、たくさん。
[ふわりと、包み込むように玲をタオルの上から抱きしめた。あやすように、その背中を撫でながら]
蓮実君が、言ってた。
皆が、出来ることを、少しずつ、やってるから、この事態も、もうすぐ、終わるだろう、って。
私には、誰が、どうなってるのか、さっぱり、分からない、けど。
けど、今まで、玲ちゃんが、頑張った、分から、判ることも、あるんじゃ、ない、かな。
[背を撫でる手はゆっくりとリズムを取り。今自分が出来そうなことを、玲を落ち着かせようとその動作を繰り返す]
嫌なら、
何で殺さなかッた。
[離れない手に舌打ち。]
・・・我儘な子は、キライなんだケド。
[もう片方の手で、無理に引き剥がそうとする。]
…っく、うぐっ。
[声に出して泣いたのなど、何時以来だっただろう。
兄たちは外へ。他の幼馴染たちはそれぞれの仕事を。
自分だけが取り残されるような気分になってしまって]
…うん。終わる…終わらせる。
私にできることを、する。
[暖かい手の感触に、次第に涙も収まってくる。
何度かすすりあげ、コクリと頷きながらそう言った]
後で、もう一度、試してみる。
それで分からなくても。…多分。
[蓮実にも聞けば更に狭まる。後は、涼が]
…涼ちゃん。大丈夫かな。
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