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―結界内/西殿外―
[座っていた体は意識を失う事により崩れていて、片手を背に回して抱き起こした。痛みと血止めをした足から片手でタイを解く]
………どうして、オティーリエ 貴女は。
[翠の瞳の奥にあった決意。それを知っても、声は零れた。
タイを放して、少しだけ血に染まった手を取る。
その直後に現れたクレメンスに場を譲り、回復にかかる時間に無言で唇を噛んだ]
[封印が終わり、礼を述べようとブリジットへ視線を向けると、床へと倒れ込む姿が目に入った]
っ、ブリジット!
大丈夫か!!
[傍に居たナターリエも、この時ばかりはブリジットを心配したことだろうか。己もだいぶ力は尽きていて、崩れるその身体を支えるまでには至らなかった。ブリジットの傍により、軽く肩を揺らしながら声をかける]
[高さの合う視線に、幼子は真直ぐに相手へと視線を注ぐ。
覚えのある影竜とは異なる肌の色。
幼子は不思議に思えど、それに怯える様子も無ければ問いはしなかった。]
…ねがい?
[幼子は父王に会いたいとばかりであった。
王と共に出そうと闇竜殿に謂われて居たが、其れとは又異なる願いが在ったのであろうか。
仔は考えど判るはずもなく、ただ困惑に眉を寄せた。]
……、ノーラ、
あのね、オトから、あずかってるよ。
リーチェ、もってるの。
[闇竜殿の真の名を知る者が何処か、幼子は知る由も無いが
ただ一人、頼まれた者の中に影竜殿の名が紛れていた事は記憶していた。
衣服の下へと収めた鎖を小さな手で引っ張り出す。]
オトの、ほんとうのなまえをしってるひとか
ノーラに、わたしてって。
―結界内/西殿外―
[あまりにも準備の良かった手際は、まるで虚竜王の不機嫌が向く事を知っていたかのように思えた。剣と彼女の心の奥の力が若焔を送り込んだのを気付かれたのかもしれない。
剣で返した後、影響がなかったかを尋ねなかった事が悔やまれる。
疲れていた青年の心は、声を届けるだけが精一杯で隠されれば気付けなかったとしても]
―結界内・外―
[自分の傷であれば容易く治るだろう傷は、他人のものであれば程度によっては数分はかかる。
傷に触れていたのは2,3分だったろうか。それでも、短いほうではあったが。
ややあって、血に染まっていた箇所を、遠慮なくびりと剥ぐ。
アーベルに何か言われるかもしれなかったが、血塗れの箇所が酷く、他の傷を懸念していたのでとてきとーにあしらった。
貫通した大きな傷意外は、軽度の裂傷が少々といった所だったが。
それらをすぐに癒しきった所で、足を降ろし。アーベルに場所を返した。]
もう、大丈夫だ。後は休めば元に戻る。
[深い傷は同時に体力も奪う。
元の状態に戻るまで暫くかかるだろう、とは経験から。]
そう、願い事。
そのために、剣が必要だったの。
< 不可解な科白と共に幼児の手が引き出したのは、灯りを弾いて微かに煌く鎖。中心に抱く石はまだ見えないが、清浄な輝きと静かな怒りを感じた気がした。
真実の名を知る者。
曖昧な示し方ではあれど、誰であるかを悟るには十分だ >
リーチェは、知っている?
……ほんとうの、なまえ。
―結界内・外―
…で。何があったか、細かい事聞いてもいいか?
そもそも、何でオティーリエは剣を持っていないんだ?
疲れてるようなら後でいいが…。
[触れたからか。彼女がそれを持ちえてない事は分かったが。
何がどうなっているのか。心話だけでは分かりきれなかった。]
―東殿・回廊―
……はぁ、……はぁ……、…………。
[老地竜か、それとも流水竜か。
誰かに声を掛けられた気がしたが、意識は朦朧としていて。
バランスが崩れたための頭痛と、上級の封印式を行った疲労が合わさり。
倒れ伏したまま、"封印"の鍵となる氷の歯車を硬く*握り締めている*]
―結界内/西殿外―
[青年が見たのは数秒で治る姿ばかりだったから、治療を続ける生命竜の背へ向かう視線は思わし気だった。オティーリエの傷の深さと、クレメンスの本性開放からの回復具合の両方の懸念が眼差しに過ぎる]
何を――…あぁ。
[いきなり布を裂く音に背から手元へ視線を向け、理由が判れば視線を逸らした。気を失った女性の肌を直視するものではないから。
全ての治療が終われば譲られた場所へと戻り、膝下にも手を入れて抱き上げた]
……わかりました、休ませておきます。
ありがとうクレメンス。貴方がいてよかった。
[感謝の言葉を告げて、休めそうな場所を求め歩き出す。彼女が結界の外に出れない事は結界に絡む心の繋がりが一部途切れた事で判っていた]
―結界内―
[青年は歩きながら、クレメンスの質問に答えていく]
剣は…ベアトリーチェ殿に渡したようです。
理由は――…はっきりとは。
リーチェ、しってる。
オトが、ないしょって、おしえてくれたの。
…オティーリエって、すっごく、きれいななまえ。
[周囲へと視線を巡らせ、他に人が居ない事を確認しやると
幼子は漸くに首へと通した鎖を解きて、衣服からその石を僅か見せるように引き上げる。
回廊の灯りを僅か弾けば、相手にも判ろうか。、]
――ノーラみたいなわっかじゃなくて、もういっこの方、だけど。
─東殿・回廊─
ぬぅ、いかん……無理をさせてしもうたようじゃ。
早く休ませてやらねば。
クレメンス、お主体力有り余っておるじゃろう。
ブリジットを部屋に……。
…クレメンス?
[共にブリジットと現れたはずのクレメンスの姿が無い。この場に残るは己とナターリエ、倒れ伏すブリジットとエーリッヒのみ]
あやつめ、どこに…。
仕方あるまい。
ナターリエよ、ブリジットを頼む。
エーリッヒは、儂がどうにか運ぶとしよう…。
[ナターリエは対たるブリジットを運ぶことを厭うやもしれぬか。嫌だと言うのであれば己がブリジットを運び、ナターリエにエーリッヒを頼むことになるだろう]
[消耗をおして運んだ先の部屋。ベッドに運んだまでは良いが、極度の疲労により部屋を出ること叶わず、床に倒れ込むことになるだろうか。左手首の腕輪は、未だ危うい均衡を*保ったまま*]
< 幼児の口にする名に、静かに頷く。
教えられていながら、一度として口にした事はなかった。揺らぎゆえに >
……オティーリエは、じぶんでありたかったんだって。
< 謎かけのような言葉は、仔竜には難しいだろうか。
天の光に似た静謐な真白と、深き海を模した不透明な碧の石。
悠久と変化、反しながらも何処か似通った性質を持つもの >
わたしも、わたしでありたい。
< それは、写しか、真意か。
黒曜石に色が映り込む >
エレオノーレでいたい。
< 伸ばした手は幼児の柔らかな金糸を撫ぜたのち、躊躇いを抱きながらも指先は輝きを放つ石へと伸びた >
―結界内―
[回復が遅いのは、おそらくはアーベルが懸念している所が原因だろうとは、自分でも少しだけ思っていたり。
琥珀粒子が治療中見える事など、以前だったらありえない。
完全に元の状態に戻るにはやはりもう暫くはかかりそうだった。
さっきの自分の回復に使った分も合わせれば、疲労がまた少し蓄積されたのを感じ、ふぅと息をついて。
アーベルの口に出された礼にはゆると首を振った。]
気にするな。約束だけは守りたいんだ。
おいさん口約束破られて、超悲しい思いした事があるもんでな。
[へらり、少しだけ苦く笑った。]
ん、任せた。
…俺はちょっとあっちの様子見てくるわ。
[すでに向こう側には敵対認識はされているだろうが。
それでも向かうのは、気にかかる竜が多かった為。]
―結界内・外―
[消える前に届いた言葉には、軽く眉を潜めた。]
げ、翠樹のにか…。
[幼竜がアレを持つ事には些かどころか大分不安があるわけだが。
下手にあれもって結界にぽいとかしないでくれるといいな、とかはまぁ杞憂っぽいが。
緩く首を振り、今度こそそこから消えて。]
オトは。
…オトじゃなかった、の?
[影の謎掛けにも似た言葉に仔は首を傾ぐ。
幼子には些か難解であったその願いを、真に捉える事は出来ぬか。
それは、影竜の紡ぐ願いにも同様で在った。
――否、果てはすれば闇竜殿の願いよりも尚難解やも知れぬ。
髪へと触れる手にくすぐったげに仔は僅か眼を細めた。
幼子は、其れが正しいかなど知らぬ。
しかして闇竜殿と交わされた約束に、抵抗などある筈もない。
伸ばされる手へ、仔は躊躇いなく首飾りを*渡した*。]
―結界内―
[口約束を重んじると告げるクレメンスに青年はただ頷きを返した。その決意は確かに受け取っているから。
心を覗き込んでないから、破られた口約束を知る事はないけれど]
……えぇ、貴方も気をつけて。
出来れば翠樹の仔の様子も、どうか。
[確かに任されたと視線を逸らさずに返して、消える姿を見送る]
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